石畳の道は真っ直ぐ湯本館へと続いている。
昨日迷って、湯本館の手前を直角に左折したら国道に戻ってしまったが、確かによく見ると、直角に曲がる道だけでなく斜め左前方にもう一本細い道が伸びている。
先ほど地元の方が教えて下さったのはここのことだろう。
曲がって直ぐにお宮のような建物があり、湯宿温泉薬師瑠璃光如来が祀られていた。
薬師如来の先で道はカーブしていて、そこを曲がると直ぐに
窪湯が見えた。
私は知らなかったが、HIROさんはここが湯宿で一番有名な共同浴場だと言った。
男湯のドアが薄く開いたままになっている。
それを見たHIROさんは、男湯は鍵が無くても入れそうだし、自分は窪湯に入ったら宿に戻るからと私に鍵を渡してくれた。
女湯は鍵が掛かっている。
この鍵が無いと開けられないようだ。
私は鍵穴に、今HIROさんから譲ってもらったばかりの鍵を差し込みそっと窪湯のドアを開けてみた。
思った通り誰もいない。
窪湯の印象は、その堂々とした湯小屋の造りといい、石造りの浴槽といい、昨日の
竹の湯とよく似ていた。
ただ浴槽の形は異なる。長方形の角をひとつ欠いた形になっていて、少し高いところから音を立てて湯が落ちていた。
お湯は猛烈に熱い。
昨日の松の湯はおろか、かなり熱めだった竹の湯とも比較にならないくらい。
イメージ的には
草津の時間湯とか、早朝の
飯坂温泉共同浴場とか、そのくらい。
これが本物の湯宿の温度かと思うほど、きりきりとたぎっていた。
何度も掛け湯をして、入っては直ぐに出てを繰り返した。
ふくらはぎが痛くてゆっくり入っていられない。
軽いきしつきと甘い石の臭い。
湯の花は見あたらず、どこまでも透明。
流石の私でも熱すぎて、ゆっくりと入る気持ちにはならなかった。