◆◇桜の古都巡り◇◆
奈良観光旅行記

3.高速バス乗り場が見つからない

　荷物はコンパクトにまとめることを最重視した。
　車の旅行じゃないだけでなく、極力コインロッカーを活用するにしても山の辺の道に行くときには荷物を持って歩かなきゃならない可能性大だし、それ以外でも到着日と翌日は移動が多い。最終日は宿から宅急便で送ってしまうとしても。
　衣料品を減らしてもカメラが重いんだよなぁ。特にズームレンズ。これは仕方ないけど。

　何だか夜の出発は慣れないのでドキドキするやら不安やら。
　朝起きて、昼過ぎて夕方までは普通の生活。
　早めの夕ご飯を食べたらパパが会社から帰ってきた。入れ違いに私たちが出発。高速バスの乗り場は「新宿南」。
　一応早めに家は出たんだよ。集合場所で30分位は余裕があるようにって。

　先に書いておくが私は新宿をよく知らないわけではない。
　結婚前は数年間に渡って新宿駅を乗換駅として、会社帰りにはほぼ毎日ミロードやルミネでウィンドーショッピングしていた。
　住んでいる場所が小田急沿線だったので、中学生のころから最もよく行く身近な繁華街が新宿だった。

　がしかし、ここ15年ほどはたまに乗り換えに使うだけで駅から外に出たことはほとんどない。
　再開発で様変わりして以降の新宿の貌をよく知らない。
　何となく土地勘があるという半端な自信と、駅周辺の複雑さを知っているだけにおぼえた不安とないまぜになった曖昧な感情は悪い予感を感じさせた。
　でもまあ、今はスマホもあるし。
　スマホでマップも調べられるし。
　自分を納得させて、とりあえず予約時に送られてきたメールで指示された地図をスマホのスクリーンショットで保存して、それを頼りに歩くことにした。

　地図ではサザンテラス口という出口が一番近いように見えた。
　まずこの「サザンテラス」という出口を知らないんだが。
　だいたいなんで「サザン」なんだよ。「南」って日本語にしてよ。まあ南も既に「南口」と「新南口」とあってややこしいけど。

　駅のホームから「サザンテラス口」と書かれている改札方向に歩き出す。
　ところが表示に従って歩いていたのに出てみるとその改札は「南口」だった。この段階で頭の中がぐちゃぐちゃになる。

　改札を出ると目の前に甲州街道が走っている。これは知っている場所だ。しかし景色は見覚えが無い。既に自分が知っている昔の南口の甲州街道の景色とはまったく違ってしまっている。

　甲州街道を渡る信号が青になり、大勢の通行客が道を渡り始めた。
　カナが甲州街道の道向かいを指差し、向かいにある出口状の場所に「サザンテラス口」と書いてあると言った。どうやら今いる場所は南口で、目の前の甲州街道を渡った向かいがサザンテラス口らしい。それは判ったが、手持ちの地図は立体を無理やり平面に表しているのでこのシンプルな事実すら、その地図からはよく読み取れない。よって、この先どっちに向かって歩けばいいのかいきなり混乱した。

　左方向にJRの高速バス乗り場があるという看板を見つけたので、しばらくそちらに歩いた。南口を出て左に進み、大きなビルの基礎工事をしている工事現場の先で右に曲がる。この簡単な作業すら、立体の新宿駅前ではスロープを下ったり階段を下りたりする必要がある。JR高速バスの看板に従ったのは、以前使ったことのある西口の高速バス乗り場のようにいろいろな会社の高速バスが使っている大きなターミナルのようなものをイメージしていたからだ。

　しかししばらく歩くとそのJR高速バス乗り場は代々木駅近くまで歩かなくてはいけないことがわかった。それは変だ。新宿駅より代々木駅の方が近いなら、最初から地図にそう書いてあるはずだ。

　一度振り出しに戻る。南口に戻ってきた。
　スマホを起動してグーグルマップを開いた。最終手段だ。
　ところが先日スマホを壊して機種変更した私はこのスマホでグーグルマップを開くのが実は初めてで、いきなり登録画面が出た。何をどう登録しろと？　今、こんなことしている暇は無いよ。地図だけ出してくれればいいのに。なんでこんなことに。

　ここで私がなけなしの土地勘から出口から右へ歩いてみようと提案するが、それだと地図とルミネの位置があわないと子供たちの意見があり、何しろ自分にも全然自信が無かったもので、今度は左に歩いた後、曲がらずに直進してみた。
　どんどん景色は大きなビルの立ち並ぶ整然とした都会から、何やら薄暗い場末の様相を帯びてくる。

　不安になって見つけたコンビニに飛び込んだ。そろそろ集合時間まで10分を切っている。間に合わなくなる危険性が高まってきた。