17.鍵のかかったひしや入口
渋温泉は浴衣で歩く石畳の通りが有名だが、実はその一本道だけでなく周囲の細い道もやはりあちこち石畳で舗装され、しかもその中には人ひとり通り抜けるのがやっとのような狭い通りや、古い木造の宿と宿がそれぞれ二階の窓から手を伸ばせば届きそうな距離でみっしりと立ち並ぶ通りなどが建物の裏に隠されている。
素敵なのはそれら宿の建物がどれも年代がかっていい味を出していることだ。
板塀や漆喰や屋根や窓枠の意匠。
宝探しのようでわくわくする。
今作ったらきっとずっと合理的なものになってしまうであろうそれらは、ひとつひとつ昔こだわって手作りされたものなのではないかと思う。
ただ、活気は無かった。
日曜日の昼下がり。
裏通りにひと気が無いだけでなく、さっきの川沿いの車道もそしてすぐ近くにあるはずのメインストリートも、何となく賑わっている様子が無い。
裏通りを進むと曲がり角に
ひしや寅蔵の看板があったのでその通り曲がると立派な正面玄関に出た。
そこは確かにメインストリートに面してはいなかったが、本当に渋温泉街の中心地で、ひしや寅蔵のすぐ隣が渋温泉外湯の
渋大湯だった。
これは思ったよりずっと良い立地だ。
まだ緑の楓に縁どられた玄関は華美では無くも高級感のある和風造りで、期待に胸を膨らませながらドアを開けようとしたら・・・
ガタガタッ
あれ?
ガタガタッ
あれれ?
思いだすのは2003年に群馬のとあるキャンプ場を予約した時のこと。
さあ泊まろうと現地に着いたら入口が閉鎖されていた。
管理者に電話したら予約日を間違えていて、しかも本人は鍵を持ったまま東京に来ているとの事。もちろんキャンプ場は使えない。
結局その時はキャンプ場の管理者が責任を感じてキャンプ場料金で近くの旅館を世話してくれた。
その時泊まった
片品温泉うめやはとっても良い温泉宿だったし今では笑い話になっているけど、キャンプ場のゲートが封鎖されているのを見た時は本当に焦った。
他に現地に行く前に入れたはずの予約が入っていなかったことが判明したこともある。
泊まって気に入ってその場で次回の予約を入れたのに、宿の主が予約帳に記載するのを忘れたらしい。
ちなみに長野の
松川渓谷温泉滝の湯だ。
旅行じゃなくて出張でそれも随分昔の話だけど、沖縄の慶良間諸島で待てど暮らせど予約した業者が姿を現さなかったこともある。
こちらも連絡したら、家族経営で病人が出たのでその朝沖縄本島に渡ってしまったと言われた。
大変だったのは判るが、せめて伝言を残すなりしてほしかった。
この時は結局その場で急遽別の業者にお願いしてきてもらった。
来てくれた業者に愚痴ったら、沖縄の感覚なのでしょうがないと言われてしまった。
あちこち旅行しているとたまぁにこんな事件に出くわす。
だから今回もあらぬことを考えて心配になった。
まさか本当にひしや寅蔵、泊まれないってことないよね?