◆◇草津温泉と渋温泉◇◆
真夏の外湯巡り

10.地蔵の湯を引くゆ宿大蔵

　あっという間に女神様は去ってしまった。
　躑躅の湯に入れなかったのは残念だったが、お祭りをやっているなんて知らなかったのでむしろ嬉しい。わくわくする。

　躑躅の湯に入れなかったので、他の外湯に行くことも無くそのままとりあえず宿に向かうことにした。
　今夜の予約を入れたのは、ゆ宿大蔵という旅館。
　地蔵の湯を引いているのと言うので、多分外湯の地蔵乃湯の近くだろう。
　カーナビに電話番号を入れるとすぐに出てきた。
　その指示に従って草津温泉中心部近くの細い道に入ると立て替えて立派になった地蔵乃湯の横を過ぎ、急な坂道の途中にゆ宿大蔵を見つけた。
　提灯の下がる瓦屋根の入り口は瀟洒な和風宿といった雰囲気だが、下部になまこ壁を配した建物本体は少しくたびれている。
　何より廃業した余所の旅館なのか手前の建物がボロボロで、壁が崩れたり障子が破れたりしているのが印象を悪くしている。これは決してゆ宿大蔵の責任では無いと思うが。

　駐車場は急坂の下だった。
　そこに停めてよいか聞いてきてと言うので私だけ車を降りて旅館の玄関に入った。
　まだチェックイン時刻には早すぎるので灯りが消えている。
　むろん帳場も無人で、御用の方は押してくださいというボタンを押したところ、人当たりは悪くないが愛想もあまり無い女将さんと思しき女性が出てきた。
　駐車場について聞くと使って良いという返事だったが、やはりまだ午後1時20分だったのでチェックインはできないとのこと。湯畑あたりをぶらぶらして3時を待つことにした。
　ついで先ほどの草津温泉感謝祭についても聞くと、自分はあまり詳しくないと言いつつもリーフレットを持ってきてくれて、夜に湯畑周辺でイベントをやるのではないかと教えてくれた。

　リーフレットを読むと、草津温泉感謝祭は今年で六十九回目。
　今年は昨日と今日の二日に渡って開催され、流れとしては昨日の夜に女神様が草津山光泉寺に降臨し、白根山湯釜、万代、西の河原、湯畑の四つの源泉を汲み祈りを捧げ、巫女と白丁を従えて地蔵乃湯に献湯。今日は昼過ぎから各地区の外湯及び一部の宿泊施設に順繰りに献湯し、夜には湯畑前の白旗乃湯、熱の湯、千代の湯に検討してラストに昇天して終了するというものらしい。

　スケジュールによると今日の献湯は午後1時に躑躅の湯からスタートで、先ほど私たちが出会った女神様は、まさに今日一番最初のお勤めを果たしに来たところだった。