海とビーチと
*子連れ沖縄旅行記*

13.店に流れる沖縄時間

　その店は、間口こそ狭くは無いけれど、古めかしくどこか目立たない印象があった。店の外にも営業中の看板があるし、厨房用品、業務用食器、ギフトなどと書かれた幟も置いてあるのでオープンしていることは間違いない。
　ただ人けは無かった。
　とりあえず、てんでに絵はがきを持った子どもたちを連れて薄暗い店の中に入ってみた。
　パパは路上に車を停めて待っている。
　当然普通に切手を買って、店の前にあるポストに葉書を投函して、所要時間3分と踏んでいた。
　ところが・・・

　店内には客はおろか従業員の姿も無い。
　まるで倉庫然とした棚には無造作に業務用の鍋やボウルが積み上げてあり、段ボールも置いてある。
　無人のカウンターには「年賀状あります」。
　・・・年賀状って・・・今、夏だよっ。
　「すみませーん」
　大きな声で呼びながら、さらに店の奥に足を踏み入れると、並んでいる棚の隣に出入り口が見えた。その奥は本物の倉庫のようだ。電気もついていない部屋に在庫品が積み上げてある。
　「はーい」
　無人と思われたが、倉庫の奥から返事があった。
　返事があると言うことは、店の人がいるということだ。
　そう思って待っていたが、2分経っても3分経ってもその人は姿を現さない。
　業を煮やした頃、ようやく小柄な女性が出てきた。
　「はい、何でしょう」
　「50円切手が二枚ほしいのですが」
　「はいはい、切手ですね」
　そう言って女性はまた暗い倉庫の奥に引っ込んでしまい、またまた3分、4分・・・結局5分近くも戻ってこなかった。
　「ごめんなさい、これしか無いんだけどいいかしら」
　見せてくれたのは50円切手ではなく、30円切手と10円切手。
　た、確かに三枚組み合わせれば50円になるけれど。
　「どうでしょう?」
　「・・・はい、それでいいです」
　何だか可笑しくなってしまった。
　この店で切手を買う人はいないんだろうか。
　少なくとも半年はいなかったんだろうな。
　いやいや一年以上かも。
　売り物の切手を倉庫の奥深くしまい込んで、ようやく見つけてみれば50円切手がなかった。
　商売っけがないというか、なんというか。
　絵はがきの狭いスペースに無理矢理三枚の切手を貼った。左上に収まらなくてもしょうがない。住所を書いた面に額面通りの切手が貼ってあれば郵便局は届けてくれるだろう。
　赤いポストに投函して、車に戻ればパパは渋面。
　たかが切手を買って葉書を投函するだけの作業が、3分の予定が10分になっても、それは沖縄時間というもの。誰も責められない。