晩秋の草津旅行記

2.朝寝の油断

　さて、ここの旅館は安いけどちゃんと布団の上げ下ろしをしてくれる。
　昨夜、消しゴムさんが朝食後も一休みしようと部屋に戻ったらもう布団がすっかり上げられてしまいショックだったことがあるという体験を話してくれたのだが、そのときはふーんと聞き流していた。
　だってそのときはまさかパパが同じ轍を踏もうとは思ってもいなかったので・・・。

　いつもなら旅先で早寝早起きのパパも、昨夜は何故か絶好調。結局夜中の屋台ラーメンまでこなしたこともあって、今朝は明らかに寝不足だった。
　だから朝ご飯はいらないと布団の中から呟いていた。
　仕方なく子どもたちを連れて食堂に降りた私だが、食べ始めてしばらくすると、何故かパパがあらわれた。
　「どうしたの?　まだ寝ているんじゃなかったっけ」
　「・・・布団を片づけられてしまった」
　「・・・?」
　「ちょっとトイレに行った隙に片づけられちゃったんだ。部屋に戻ってみたらもう無かった」
　子どもたち、大笑い。

　朝食を終えた後は、軽く荷物の片づけをして、9時の回の時間湯に間に合うように宿を出た。
　パパは行かないと言うので紺碧七さんと二人だ。
　大通りに出るとさっと影が追い抜いていった。オレンジ色っぽいウェアを着たスポーツ選手のようだ。
　「ザスパ草津の選手かな」と紺碧七さん。
　トレーニング中らしいスポーツウェアの後ろ姿はあっと言う間に湯畑の方に走り去ってしまった。