西川温泉 西川集会所

ありし日の西川集会所の思い出

  • 注) 西川温泉西川集会所は2005年8月末で閉鎖されており、現在は入浴できません
  • 所在地 栃木県塩谷郡栗山村西川
  • 泉質 アルカリ性単純温泉
  • 設備等 男女別内湯、休憩室
  • 入浴料 一般 500円、幼児無料


[2005年6月のデータ]

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  • 温度★★★★★  泉質 ★★★★★  お湯は適温、泉質も刺激なし
  • 設備★★☆☆☆  雰囲気★★★☆☆ 

西川温泉 西川集会所 体験レポート

 これは今はもう入ることの叶わなくなった、ある温泉の話だ。
 一期一会。
 新しい施設を建設するということだが、あのとき入ったあの場所での、同じお湯にはもう、きっと会えないのだと思う。

 川治温泉から湯西川温泉へ向かう途中、野岩鉄道湯西川温泉駅を過ぎたところに上野という新しいトンネルができている。
 まだ一般開通はされていないが、工事車両が頻繁に行き来していた。
 五十里ダムで作られた人工の五十里湖は、深いエメラルドグリーンで、ぐにゃぐにゃとしたY字型をしている。
 五十里湖に流れ込む湯西川沿いに西川地区はあるのだが、ここはまもなくダム湖の下に沈むことが決まっているという。
 トンネルの下に通じている現在の県道も水に沈むのだろう。
 その県道沿いにそれこそ知らない人は絶対に辿り着けないような西川温泉がひっそりと湯煙を上げていた。

西川温泉西川集会所の外観 中に入って初めて「温泉浴場」の文字

 一般民家のような建物で、外側には本当に「西川集会所」としか書かれていない。
 恐る恐る玄関を開け、靴を脱ぐ。
 本当に中もただの民家のようだが、入って直ぐ目に付くところに「受付 料金500円」と更に手書きで「温泉浴場↑」と書かれていた。

 左手の襖が開いていて、中からテレビの音がする。
 「失礼しまーす」
 中でお茶菓子を摘みながらテレビを見ていたのは二人のおばちゃんだった。
 「温泉に入らせていただきたいのですが」
 「ああ、どうぞどうぞ」
 「ええと・・・」
 「ここは初めて? そこの廊下を真っ直ぐ行くとお風呂だから。女湯は奥ね。ゆっくり入っていってよ」

女湯・・・男湯も源泉蛇口が左右対称の他は同じ 床にざぶざぶ掛け流されているようすが判ると思う

 ドキドキしながら誰もいない浴室のドアを開けると、もう嬉しくなるくらいざあざあざぶざぶとお湯が出ている。
 ニ、三人入れるかどうかという四角い木の浴槽には全開になった源泉蛇口からこれでもかという勢いでお湯が出ている。
 狭い洗い場にある蛇口もまた全開になっていて、そこからも置かれた洗面器に向かって勢いよくお湯が出ていた。すくってみたらそれも源泉だった。
 そしてその二ヶ所から出るお湯は排水も間に合わず、洗い場の床はおよそ5センチほど、常に温泉の洪水状態だった。
 ・・・脱衣所に「お尻をよく洗ってから入りましょう」といった張り紙があったが、うん、ただ洗い場に座っているだけで十分お尻は綺麗になると思う。

 先ほどの川治の湯と違い、こちらはゆで卵の臭いがする。お湯からはさほど感じないが、肌には鉄臭も残るような感じ。
 色は無色透明。すっきりと綺麗なお湯。
 ごく柔らかい肌触りで、ぬれたまま腕をこするとオイリーなぬるぬるすべすべ感を感じる。
 窓を開ければ目に鮮やかな新緑。
 こんなに良い場所がまもなくダムに沈むなんて・・・もったいなさすぎる。

力強い源泉 こちらからも常に勢いよく溢れている

 湯上がり、「なんだよう、旦那さんもお子さんもいるならみんな連れておいでよう、子供料金は取らないんだからさ、家族みんなで入っていきなよ」と受け付けてくれたおばちゃんたちが口々に言ってくれた。

 ダムの水位が上がり、全部沈んだらどうなるか、二、三日のうちに会合が開かれ決定されるのだそうだ。
 既におばちゃんたちの自宅や主な建物は、みんなもっと高い場所にある池の側に移転したのだそうだ。
 この集会所もあと二、三ヶ月のうちには引き払うのだそうだ。

 でもまた新しく同じような施設を作る予定があるというが。
 「新しい施設でも、奥さんがたは受付をされますか?」
 「さあ、それはどうだかねぇ」

 やはり今のこれがこのままずっとあるわけではないのだ。
 おばちゃんたちがいてこその西川温泉。
 「あと二ヶ月は大丈夫だから、またおいでね」と手みやげに煎餅の袋をくれた。
 食べかけなのだが、お子さんたちの分もと、卓上に出してあった分まで袋に戻して持たせてくれた。
 何だか哀しいような、寂しいような。
 でもやっぱり嬉しかった。
 ダムの水底に沈む前に、西川温泉を訪ねることができて。

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