9.最終日でもぎりぎりまで楽しもう
今朝も私は朝早くから蝶を追いかけていた。
なきじん海辺の自然学校の玄関前にはアカバナーとナハキハギが咲いていて、よく蝶が遊びに来ているのだ。
今朝はオオゴマダラが撮れた。ナガサキアゲハも。
オオゴマダラは日本最大の蝶。
初めて見たのは名護の
OKINAWAフルーツランド。ここの蝶ゾーンで
飼育されているオオゴマダラにたかられた。
オオゴマダラは自然学校周辺でもよく見られる。
着いたその日の夕方にも海辺で飛んでいるのを見たし、カメラを手に蝶を追いかけている私にあっきーさんも「オオゴマダラ見ました? この辺でよく見られるんですよ、大きい蝶です」と教えてくれた。
オオゴマダラを観察した後、そのまま散歩がてらビーチに降りてみた。
一昨日はシーカヤックを出し、昨日はナイトツアーでも使ったあのビーチだ。
ビーチには大量のオカヤドカリがいた。
大量としか言いようがない。昨夜、懐中電灯で照らしたときには、夜だからこんなに出てきているのかと思ったが、朝になっても減るどころか、朝だから隅々まで見える流木やゴミが打ち上げられた一角には、そらおそろしいほどの数のオカヤドカリがうごめていていた。
正直いってこんなにいると怖い。
後で子どもたちにも見せてあげよう。
なきじん海辺の自然学校も、沖縄の自然も、エメラルド色の海も全て今日でお別れだ。
最終日 2007年7月28日(土) |
朝ご飯の卵はスクランブルエッグで、食後のデザートはバナナだった。
二晩掛けて作り上げた紙粘土シーサーをどうやって持ち帰るか悩んだ私たちだったが、naruさんたちは台になりそうな段ボールの切れっぱしなど集めてくれた。
カナとレナは朝食の後、動物たちに別れを告げに言った。
大人しい犬のルナ、むじゃきなヤギのメエー、気まぐれな猫のウメ、みんなにバイバイと言いにいった。
それからヤドカリが沢山いたという私の話を聞いてビーチに降りていった。
早朝よりは少し少なくなっていたかもしれないが、相変わらずビーチはオカヤドカリの集合住宅だった。
チェックアウトの時、駄目元でフリーペーパーの楽島を見せたら広子さんはちゃんと宿泊料を割り引いてくれた。
この楽島は確か那覇空港かレンタカー営業所かどちらかで手に入れたもので、本来は予約時に割り引き特典を受けることを伝えなくてはいけないのかもしれない。
最後にみんなの写真を撮りたいと頼んでみたら、その場にいたnaruさんもきよしさんもありさんも快くうちの家族と並んでくれた。
あっ、でもヨーコさんとあっきーさんがいない。
そのことを口に出すと、みんなめいめいに「すぐ呼んできますよー」と探しに行ってくれた。
「えっ、私も撮ってくれるんですか?」
まあっという顔でヨーコさんがフレームに収まった。
あっきーさんは両手でポーズ。鉢巻き姿が似合いすぎ。
なきじん海辺の自然学校での滞在。ヘルパーさんたちの存在無くしてはこんなに楽しい思い出が作れなかった。
そしてポイントポイントでいろんなアドバイスをくれたnaruさんと広子さんにも大感謝。
最後に広子さんにもご挨拶をしたが、なんとなく忙しそうだった広子さんには「写真撮らせて下さい」ってお願いできなかったのが心残りだった。
私たちは海沿いの未舗装路を直進した。
なんとかという石灰肥料会社のところを曲がらずに、ドラゴンフルーツ農場へ。
実は実家への土産にドラゴンフルーツを買おうと思って。
去年と違って今年は良いマンゴーが手に入らなかったけど、泊まった自然学校の隣で日本一の美味しいドラゴンフルーツを作っていると聞いて、これは買わなくちゃと思ったもの。もちろんこのドラゴンフルーツが昨日の朝食のデザートに出たやつで、私もそのときに随分と美味しいドラゴンフルーツだと思った。
ドラゴンフルーツそのものは沖縄県内なら道の駅でも空港でもどこでも手に入るが、去年の大宜味のマンゴーに匹敵するフルーツを探しているのだから、絶対美味しいと評判の農場のものを手に入れたい。
そうでなくてもドラゴンフルーツは、見た目の割にあっさりとした品の良い味なので、初めて食べる人はだいたい外見負けして期待はずれに終わることが多いのだ。
白茶けた未舗装路を走るとすぐにドラゴンフルーツ農場に着いた。
昨日、ナイトツアーで中に入っているから、手前にプレハブの小屋があって作業所になっていることを知っていた。
「こんにちはー」
卓上の黄色いコンテナの中に無造作にドラゴンフルーツが詰め込まれている。
挨拶をするとプレハブの中から作業中のおじさんとおばさんが顔を出してくれた。
「なきじん海辺の自然学校で聞いてきたんですが、ドラゴンフルーツを送りたいんですが・・・」
おじさんたちはちょっと困ったような顔をした。
「実はね、今日の出荷分はもう箱詰めして出しちゃったんだ。ここには残っていないんだよ」
どうやらコンテナに残っているのははじかれた規格外のドラゴンフルーツばかりのようだった。
たぶん引っかかったのは大きさの問題だけだと思うから、私としては別に構わないのだが(スーパーなんかではこのサイズのドラゴンフルーツもよく売っている)、農場の方たちからすると、箱詰めで発送するレベルではないようだ。
昨日のナイトツアーの時naruさんに教えてもらったが、ドラゴンフルーツの花は月の満ち欠け潮の満ち引きと関係があって、大潮の晩に一斉に開花する。だから結実するのも同時で、それ以外の時期にはぱらぱらとしか花も咲かないし実も生らない。確かに昨日も一昨日も花も実も少ししか見かけなかった。
そんなわけで出荷できるドラゴンフルーツも限られていたんだろう。どうしようか・・・。
おばさんがふと思いついたようにプレハブの中から籠を持ってきた。
「そうだ、これでも良ければなんとかなるかも」
通常、箱には大玉のドラゴンフルーツを四つ詰める。
ところがたまたま端数が三つ出てしまって、今、農場にはその端数が残っていた。
「赤玉は三つしかないんだけど、たまたま白いので良ければもうひとつあるのよ」
ドラゴンフルーツの果肉は赤と白とある。あと黄色いのもあるようだがこちらは一般的ではないのか私はまだ見たことがない。
赤玉の方が甘みが強いので人気がある。でもうちの子どもたちなどはどちらかというと白い方が好きだ。
ところがこの二つ、外観からは見分けがつかない。だいたい売っているときに「赤」とか「白」とか明記されているが、書いていなければ切ってみるまでどちらがでるか素人には判らない。
もちろん箱詰めして売るときには、普通は赤なら赤、白なら白だけを詰めて売る。だから全部で四つ余っていても今回は出荷できなかったようだ。
「混ざっていて構いません。ぜひ売って下さい」
これでようやく私たちは念願の大井農場のドラゴンフルーツを手に入れることができた。
送り先である実家には「四つのうちひとつだけ切ると色が違うと思うけどびっくりしないで」とメールしておいた。
「良かったらこれ、持っていってね。車の中ででも食べたらいいから」
おばさんはコンテナの中に転がっていた規格外のドラゴンフルーツを袋に入れてくれた。
「こんなに!!」
後で数えたら14個も入っていた。小振りだけど味は保証付きだ。
買った大玉のドラゴンフルーツを箱に詰めながら、おじさんが言った。
「今日はこれからどうするの?」
「もう帰る日なんですよ。帰りたくないけど」とパパ。
「そりゃ残念だ」
「この辺でお勧めの観光地とかありますか?」
「ウッパマビーチがお勧めだよ」
「昨日行きました。とっても良かったですよ」
そうだろうそうだろうとおじさんは肯き、今度は今帰仁村出身の有名人を知っているかと聞いてきた。
「えーと・・・えーと・・・」
「嘉陽宗嗣って知らない? ボクサーなんだよ。それからマジシャンのセロ」
パパは最近セロの出ているテレビを見たと言った。
おじさんの言葉の端々に、この今帰仁村で暮らす誇りが見える。
自分の住む場所を誇れるということは素晴らしい。私には今自分が住んでいる場所を誇ることができるだろうか。
農場の目の前を流れる大井川の対岸に真っ白なサギが羽を休めていた。
ドラゴンフルーツは箱に詰めてもらったが、発送は自分たちで行わなくてはならない。
私たちは今帰仁の中心地で何度か横を通った郵便局を思い出した。
ところが行ってみると今日は土曜日。残念ながら宅配便の受付は行っていなかった。
次に私たちが向かったのは今帰仁の駅そ〜れ。
三日前にも立ち寄った今帰仁村の道の駅的な施設。村の特産品のひとつスイカの形をした建物で、中には農産物や土産物などが所狭しと並んでいる。
ここで私たちは宅急便の受付をしてくれるか聞いてみた。
「ここで買った商品でなくても送ってもらえます?」
「大丈夫ですよ」
今帰仁の駅そ〜れで扱っているのはゆうパックだった。
ついでにパパは会社宛にここでマンゴーも買って発送した。
送り状に住所を記載している私の横を郵便局の職員が行ったり来たりしながら箱を運んでいる。思わず心配そうにそれを見ていた私に、受付のおばさんは「今日はすぐにもう一回荷物を受け取りに来るから心配ないわよ。今日の午前中の発送で行けるから」と教えてくれた。
ちなみに何故かここで同時に受付をしたはずの私のドラゴンフルーツとパパのマンゴーは丸一日ずれて到着した。両方とも発送先は東京で、しかもどちらかというと郊外に送ったドラゴンフルーツの方が早く着いた。
意外だった。
今日は帰る日であるのだから、これからどこか立ち寄るにしても南へ南へ移動していかなくてはならない。
那覇を発つANA136便は、今日の夜8時発。
逆算して6時には空港について夕食を取りたい。
レンタカー返却は5時半を目指そう。
ということは、5時ぐらいまでは自由時間ということだ。まだまだ最後の最後まで沖縄を楽しもう。
次に立ち寄った場所はやんばる亜熱帯園だった。
場所はちょうど本部半島を四つに分断する二本の県道が交差する辺り。
住所はぎりぎり名護市だが、今帰仁村と本部町の境界線とも近い。
やんばる亜熱帯園という名前から、私は植物園を想像していた。沖縄は亜熱帯だから、本州なら温室の中で育てられるような植物が広い園の屋外で見られる、そんな施設だと。
ところが駐車場に立つ看板はどことなく寂れている。なんとなくB級の臭いがする。
夏休みの土曜日だというのに駐車場もがらがら。
「どうする?」
「・・・」
何でも面白がる私でも、躊躇する雰囲気があった。でもせっかくだから・・・。
「一応、入ってみようか?」
ちょうど通りがかりだったしと思って入ってみることにした。
えーと、確かどこかにやんばる亜熱帯園の割引券があったような、と、鞄をひっくり返してみると、10パーセント割引のものがひとつだけ見つかった。
でもそれを一瞥したパパは「一昨年のレンタカー会社のじゃない。もう使えないよ」と返してよこした。
そういえばそうだった。観光の参考資料にと持ってきたが、流石に二年前のしかも他社のクーポンじゃ無理か。
割引は使えないと思ったが、何故か受付で入園料を払おうとすると、「大人600円のところ400円、子供400円のところ300円です」と言われた。
「?」
しかも渡されたチケットにも料金のところがマジックでぬりつぶされて訂正してある。
なんで割り引いているんだろう。
施設はまずどことなく薄暗い土産物店の中を通過するようになっていて、それから外へと続いている。
土産物屋の片隅にクワガタコーナーがあった。
カナもレナも昆虫には興味がない。ムシキングブームから、二人のクラスでも昆虫は男の子たちに大人気だったが、女の子たちで虫が好きなのはごく一部だ。
私も沖縄や
ケアンズで大きな蝶を見つけるとせっせと写真を撮って回ったが、捕まえることや飼うことにはいたって興味がない。
だから入園料を払うときにも、クワガタ虫取りを体験される方は別料金になりますと言われたが、申し込まなかった。
そんな私たちだったが、ここに並んでいるニジイロクワガタを見たときは目が丸くなった。
緑色の宝石みたいにぎらぎら光っている。こんなクワガタがいるんだね。
試食用パイナップルを少しつまんでから、順路に従って外へ出た。
「これより先は入園圏をお買い求め下さい 支配人」のボロボロの看板。
錆びかけた鉄製の階段。手すりがついていてここからの見晴らしがとても良い。
B級っぽい佇まいだったけど、なかなか良さそうじゃないと私は思った。
十重二十重にやんばるの山と森が広がる。どこまでがやんばる亜熱帯園の敷地なんだろう。
ところが感激したのもつかのま、ここから先は落胆続きだった。
やんぱる亜熱帯園の見所といえば、たぶんヘゴの原生林、アンセリウム、そしてクワガタ虫取り。
さっきも書いたように私たちはクワガタ虫取りは申し込まなかったから、ヘゴやアンセリウムなどの亜熱帯植物を見ながら敷地を散策することになると思う。
植物園として整えられているか、庭として気持ちの良い散策路があるかと思っていたが、現実はまるで荒れ果てていた。
ヘゴは木なのでまあなんとか。
いわゆる羊歯が椰子の木のように大きくなったもので、幹には小判型の斑点が無数にある。この小判をさすると大金持ちになるとか幸運になるとか言われているらしい。
しかしもうひとつの目玉であるアンセリウムは酷かった。
アンセリウムというのはサトイモ科の植物で別名をベニウチワと言う。和名そのままつややかな紅色のうちわのような形の花(正確には苞と呼ぶ)を咲かせ観賞用に人気がある。
このやんばる亜熱帯園にはアンセリウムの小径と呼ばれるコーナーがあり、そこに一面にアンセリウムが植えられているのだが、無傷のものはほとんどなく、大半が枯れたり破れたりしている。
たぶん台風の時に被害を受けたのではないかと思われるが、それにしてもその後一週間以上、手入れもせず放置しているように見えたのはいただけない。一般家庭の庭ならいざしらず、入園料を取るのだから、もう少し見苦しくないようにしてもらいたいと思う。
アンセリウムの小径を抜けて少し歩くと道が二手に分かれた。
右はどこへ続いているのか判らないが左は帰り道のようだ。パパはもう子どもたちを連れてさっさと帰ろうとしている。
でもせっかく入園料を払ってこれではあまりにも詰まらないのではないかと思って私は右の道へ行ってみようよと誘った。
パパは嫌がったがレナはついてきた。レナがついてくるとカナもついてきた。
道は今までも整備されているとは言い難かったが、右に曲がってからはもうしばらく誰も通っていないんじゃないかと思うくらいに荒れてきた。
足下は枯れ葉や木の枝が歩くのに邪魔なくらいに落ちていて、見捨てられた通路のようだった。
道は下り坂で、やがて下に建物が見えてきた。
子どもたちとあそこの建物まで行けば何かあるかもしれないと歩いたが、途中から倒れた木の幹などに邪魔されてついに進めなくなった。見下ろす建物ももう使われていない作業小屋か何かのようで、不気味な廃屋となっていた。
おまけにこの行程であちこち蚊に刺されてしまった。
虫除けはつけていたが気休め程度にしか効かなかった。
私たちは這々の体で逃げ出し、ようやく元来た場所まで戻ってきた。
元の土産物の建物に入る手前に、何かネットで囲われたスペースがあって、番をするお兄さんが一人座っていた。
どうやらこれがクワガタ虫取りコーナーのようだ。
私たちは虫取りはしないのでそのまま通過した。
お兄さんも誰もお客さんがいないので暇そうだった。
この辺りでパパが手の平大の大きな巻き貝を拾った。
この貝殻は私も持っている。なきじん海辺の自然学校近くのビーチで拾った。
「この貝、大きいしすごくかっこいいよね」
「・・・貝かな、これ。だってここに落ちていたんだよ。ここ、海じゃないぞ」
ぎょっとする私。
ビーチで拾ったときは貝殻だと信じ込んでいたが、確かにやんばる亜熱帯園は山だ。誰かが持ってきて落としたんじゃなければ、山にも生息する「何か」ということになる。
「ま・・・まさか」
そのまさかだった。
実はその殻は、巻き貝の殻ではなくカタツムリの殻だった。
「ぎゃ〜」
貝じゃなくて巨大でんでん虫だと思うととたんに気色悪くなる。
ちなみにこの殻の主はアフリカマイマイ。世界最大のカタツムリで、農作物を食い荒らし伝染病を媒介する寄生虫を有することから駆除対象となっている恐ろしい生物だった。
沖縄には昔、食用目的で人為的に持ち込まれた。今はもちろん食べる人は誰もいない。
やんばる亜熱帯園の園内マップを見ると、もっとあちこち散策路が延びているように書かれている。
でも台風のせいなのか、それとも昔は手入れしていたが今はいついってもこんな風なのか判らないが、実際に歩ける道はほとんど一本しかない。
しかも植物は荒れ放題。
だから入園料を割引しているんだろうかなんて思ってしまった。
そろそろお腹が空いてきた。
このまま真っ直ぐ名護まで南下せず、いったん本部半島の西側に出て、四日前にやんばるガラス工芸館グリーンフラッシュで作った琉球ガラスコップを受け取ってこなくてはならない。
私たちは途中の伊豆味で昼食を取ることにした。
伊豆味には森系の雰囲気の良いロケカフェが沢山ある。
先日、森の宴に行く途中に見かけた藍風にしようかなんて話をしていたが、何となく車を走らせて、えびすくいの沖縄クルマエビ食堂の看板を見て曲がると、クルマエビ食堂の駐車場に今度は「くばやー」というカフェの看板とやじるしがあったのでそちらに誘われるように進んでしまった。
くばやーはちょっと谷になった場所に木々に埋もれるようにあった。
シーサーが二匹乗った赤瓦の屋根で、気持ちの良いウッドデッキが設えてある。
私たちはその一角に席を取った。
ウッドデッキの周囲は緑に囲まれて、手すりからはアカバナーが顔を出していた。
ヘゴの木もあって、さっきのやんばる亜熱帯園よりよほど手入れがされている。
アカバナーには入れ替わり大きな蝶が遊びに来る。ほとんどはシロオビアゲハだが、たまに白とオレンジのツートンカラーの蝶の姿もある。
「あれを写真に撮りたいのよねー」
「どの蝶?」とカナ。
「これじゃない?」とパパが今帰仁村のパンフレットに載っているフタオチョウを指さした。
違う違う、そんなに珍しい蝶じゃないよ。フタオチョウは沖縄県指定の天然記念物でレッドデータブックに載っているんじゃなかったっけ。
後で調べたらついに私が撮れなかったのはツマベニチョウだった。何度かチャンスがあったのだが、そのときに限ってカメラを構えていなかったりしてついに撮れなかった。なんか悔しい。
私が蝶を撮っているとレナも興味を持ちだして、一緒にカメラを構えたりした。
くばやーで注文したのはくばやーピザと海ぶどうサラダとシークワーサージュースとマンゴージュース。ピザは二種類あったがコーンとサラミの入っている方にした。
チーズ嫌いの私はピザは食べなかったけど、パパと子どもたち曰くとても美味しいピザだったとのこと。
私はあまりお腹が空いていなかったのでサラダにしたが、これがなかなかのボリューム。
とにかく森に囲まれたこのスペースはとても落ち着く。
良い小休止になった。
私たちの後からやはり小学生ぐらいの子供を連れた一家が食事に来たが、こちらも次々遊びに来る大きな蝶に目を奪われて、カメラを提げたお父さんがしきりと写真を撮っていた。私と同じだ。
伊豆味を抜けて満名川に沿った県道を下り、海沿いに出ると後はよく知った道。
本部大橋、渡久地港、そして瀬底島を見ながらグリーンフラッシュビーチへ。
うう、最初の日にカナがハブクラゲに刺されたゴリラチョップだ。まさかあのときはそれきりシュノーケルできなくなるとは思わなかった。
今日の空は曇っている。
今回の沖縄旅行でもこんなに日差しが弱い日は初めてだ。
別に海で遊ぶ訳じゃないからいいけど、写真を撮っても海の色が綺麗に出ない。
ちょうどお昼時だったので、グリーンフラッシュビーチの食事処は混雑していた。
去年まではビーチに設置してあったが、今年は社長の意向で駐車場の横に作られたテラスのでしか食事を提供していない。ここからはちょうど海を見下ろすようになっているのでそれはそれで良い雰囲気だと思う。
ガラスショップの方に用事があったので、もうビーチには降りず、ショップの中に入った。
先日と同じおばさんが店番をしていて、引換用紙を出すと、すぐに完成したコップを持ってきてくれた。
濃紺と淡青色の二つのコップは、珊瑚礁の海の深いところと浅いところの色を映したみたいでとても綺麗だった。
形は如何にも手作りらしくぼこぼこと歪んでいる。そこがまたいい感じ。
コップには同色の箸置きをプレゼントしてくれることになっていたが、こちらは紺色を切らしていて淡青色を二つになった。
ここで手作りした琉球ガラスのコップは帰宅してからカナとレナのマイコップとして毎日朝に晩に冷茶やミルクを入れて使っている。
使う度に沖縄のことを思い出す。
沖縄の海の色を思い出す。ちょっと嬉しいコップになっている。
本部町から陸路で那覇へ向かう場合、嫌でも名護市を通過しなくてはならない。
名護の中心部を抜けて許田ICから沖縄自動車道に乗る予定。
今回の帰路で心配なのは名護市内の渋滞だった。
いつも名護の中心部を突っ切る58号線はそれなりに混むが、特に今日7月28日は名護夏祭りの開催日だったから。
特に祭りに行くつもりはなかったが、名護市内のウィークリーマンション滞在中に何度も準備中の会場ゲートを見ていて、気にはなっていた。
「時間もあるし、寄ってってみる?」
ところが後部座席を覗くと、レナが寝付いてしまっていた。カナはよほど眠くない限り乗り物の中では寝ないが、レナは揺れるとすぐに寝てしまうタイプ。
「いいよ、せっかくだからレナも起こして連れていこう」
たぶんパパはいざとなれば抱っこしていけばいいと思ったに違いない。でもいくら小柄だとはいえもう小学二年生、相当重いことを覚悟しなくちゃ。
とにかく夏祭りに行くつもりならまず車を駐車場に入れないと。
会場は名護漁港だから52号線沿いで、ここならいつも名護公設市場に行くときに使う市営駐車場が目の前だ。
ただいくら首都圏のお祭りとは規模が違うといっても、それなりに人は集まっているはずだから今頃の時間に最寄りの駐車場なんて空いているだろうか。
いつもの市営城駐車場は1時間100円だが、全て時間貸しに使っているわけではなく、奥の方は月極だ。それでも並んでまで待っている様子もない。とりあえず入ってみると、ちょうど私たちの直前に入った車が場所を見つけて、私たちのときは満車になってしまった。
料金所のおじさんは、道を挟んだ向こう側にももうひとつ駐車場があるから行ってみたらと教えてくれた。
ところがこちらも満車だった。
まあそうだろうな。昼過ぎに来て、ゲートの目の前の駐車場に入ろうと思うのがそもそも無理な話だ。
パパは、眠っているレナを乗せたままどこか車を停められる場所を探してくるから、ママとカナだけで先にお祭り会場に行っていてくれと、私たちを車から降ろしてくれた。
今年の名護夏まつりは第30回。
主催は名護市商工会青年部で、副題として青空市とビール祭りとある。なにしろ名護市はオリオンビール発祥の地だ。
港のただっ広い敷地をまるでブロックか何かで区切ったように屋台がずらずらと何列にも並んでいる。
特にゲートを入って一番手前は、とにかくずらーっとビールの屋台。オリオンビールの幟が風でいっせいにはためいているのは壮観だった。
カナは妹のレナがいないと借りてきた猫のように大人しい。
黙って私の後からついてくる。
屋台は焼きそば、焼き鳥、綿あめなどの食べ物系が並んでいるが、どうも半数はまだ準備中。お祭りのメインは花火が上がる時刻なのかもしれないが、どうにも呑気な感じだ。
タコライスや沖縄そばの屋台もあるのがこちら風。ヤギ汁まである。
食べ物の他にはアヒルすくい、金魚すくい、玩具に結んである紐を引っ張る籤、的当て、おみくじなどの屋台。
カナにどれかやってみようよと誘いかけるがもじもじするばかりでなかなかうんと言わない。これまた本当にやりたくないわけじゃなくてもじもじしているわけだから、扱いに困る。じゃあやりたくないのねと、本当にやらずに済ませれば、後々まで愚痴愚痴と言い続けるのだ。ここがカナの一番悪いところ。
カナが一番目を見張ったのはカラーヒヨコ。
いまどきカラーヒヨコなんて見ないよ。
私も子供の頃に見たきりかな。
それがこのお祭りでは久しぶりにピヨピヨ言っているのを見た。
「・・・これ、本当の色じゃないでしょ?」
新聞紙を敷いたコンテナの中で動いているヒヨコたちを見てカナが言った。
結局アヒルすくいをひとつやった。
ヒヨコじゃない、アヒルだよ。
玩具のあひるがぐるぐる水の中を回っているのをひとつすくうのだ。砂場遊びのスコップみたいなもので。
一応屋台のおばさんがアヒルの裏を見て番号を確認したが、当たりもハズレもありしゃしないんじゃないかと思う。ここからひとつ賞品を取ってと言われたが、カナはほしいものが無かったみたいでママがスティッチのぬいぐみのついたキーチェーンをもらった。
そんなことをしているうちに、腰にぶら下げた携帯が鳴った。
出てみるとパパだった。
「駐車場に車を入れて、そっちに向かって歩いているから」
「レナはどうした?」
「起こした。ぐずぐず言っているけど」
ええい、なんでこう子供って連鎖するみたいにぐずぐず言うんだろう。
それが何故か離れたところでぐずぐず言い合っていた子どもたちは、合流すると互いに機嫌を直した。
「レナ、面白いもの見せてあげるよ」
カナは率先してレナをカラーヒヨコのところに連れていった。
レナの目もまんまるくなった。
コンテナは二つあって、ひとつには赤と白のヒヨコが、もうひとつにはオレンジと緑のヒヨコが入れられていたが、ときどきヒヨコはジャンプして隣のコンテナに移ってしまう。
「赤いのが一匹、オレンジの中に入ったよ」
レナの興味はそこかい。
「何で色が付いているの?」
「・・・その方が売れると思っている人がいるんじゃないの?」
「そうかなー」
うん、ママもそうかなーと思うよ。
「あっ、そうそう、あのヒヨコは大きくなると別に色がついていない普通のニワトリになるから」
「えっ、そうなのー!」
そっちの方が驚いたらしい。
レナもアヒルすくいをやった。カナとは違う店でやったから賞品も違った。スイッチを入れると光るイルカのペンダント。
カナも羨ましそうにしていたから今度は三角籤をやらせた。不公平になってはいけないからレナも一緒に。
今度は二人は100円ショップに売っていそうなアクセサリーセットをもらって満足そうだった。
周りを見回していると、小学生や中学生同士で来ている子どもたちも多いようだ。少しだけお小遣いをもらって、友達同士で屋台を回るのだろう。
不思議と沖縄の女の子たちが着ている浴衣は本土のそれと違ってつんつるてんだ。子供も若い女性も丈を短めにしている人が多い。気候風土が暑いからか、それとも流行りみたいなものなんだろうか。女性の化粧の仕方も東京なんかと違ってやけに眉が薄いから地元の人と観光客の違いがよく判る。
名護を離れる前に道の駅許田に寄っていこうかなんて話をしていたのだが、もう今更買いたい物もないし、駐車場が混んでいたのでやめにした。
許田ICから高速道路に乗って北部を離れ、一路那覇へ。
初日に行こうと思って行きそびれてしまった牧志公設市場は今日、帰る前に立ち寄ろうと思っていた。
初日ではなく帰宅日に寄ろうというのだから、沖縄滞在中の食材買い出しではなく、帰宅後に自宅で楽しむための食材買い出しだ。
高速を降りたのがほぼ午後3時半。
まだ牧志での買い出しに要する時間を考えても一遊びできる。
「ここなんかどうかな」
私が提案したのは無料クーポン冊子ゆくるポンにカラーで載っていた珊瑚染め体験だった。
帰宅日は飛行機の時間を気にしなければならないし、空港のある那覇の近くに移動していないと渋滞などが心配だ。
一昨年はそれでも昼まで北部のビーチで遊んだが、あれは特殊例。泳いでしまうとぬれた水着の始末をどうするかとか、最後のシャワーをしっかり浴びたいとかいろいろ考えなくてはいけないから大変だ。
去年は比嘉酒造の泡盛工場見学に行って、あれも場所が空港に近い糸満市内でなかなか便利だった。
今年の沖縄旅行最後のプランは紅型工房 首里琉染での珊瑚染め体験と牧志公設市場にしよう。
道路からお堀のような水辺が見えたと思ったら、石塀の向こうに紅色の城、首里城が見えた。
首里城は沖縄のシンボル。
14〜15世紀頃に三山時代の中山王朝の王城として建設され栄華を誇ったが、沖縄戦で破壊され、その後琉球大学の敷地として利用されたことから跡形もなく消失した歴史を持つ。
現在は多くの建物と門が復元され、周辺の敷地と共に国営公園として保護されている。また、2000年には「琉球王国のグスク及び関連遺産群」として世界遺産の登録も果たした。
去年の旅行時にようやく念願叶って首里城見学ができたものの、持ち前のケチ根性が顔を出して正殿その他有料エリアには足を踏み入れていない。
首里城復元はまだ継続中なので、次はもう少し公開エリアが広がってから行ってみようと思っている。何年先になるか判らないが。
首里は以前首里城見学に来たときにも思ったが坂の多い場所だ。
城がそもそも見晴らしの良い高台に建っているのだから当然といえば当然か。
目的地の琉染はずいぶんと首里城に近い場所に建っているのだなと思ったら、こちらは元々、あの二千円札で知られる守礼門以前に首里城の第一門として建立された中山門跡地を店舗としているのだった。
道理でお城に近いわけだ。
場所は迷わず着いた。
駐車場は道を挟んだところで数台程度しか停まれない狭いもの。
私たちは体験工房と聞いて、テーマパークほどは広くないものの、団体観光客がやってくるような俗っぽい施設を想像していた。
ところがこの琉染、沖縄風と言うよりはむしろ京都の老舗呉服屋のような風格を漂わせる高級感溢れる場所だったのだ。
外観も合掌造りで白と黒の印象が強くあまり沖縄らしくない。
子連れで入るのも躊躇するぐらい。
外観以上に店の中は独特の雰囲気だった。
冷房がひんやりと効いて、高級感のある染め物の製品が綺麗にディスプレイされている。中央に囲炉裏と茶釜もありお茶菓子が置いてある。
どうやらここは工芸体験施設と言うよりは、あくまでも歴史ある老舗の染め物屋で、オリジナル製品を製作販売する傍ら、店のPRと多くの人に気軽に染め物に親しんでもらおうという目的で体験を受け付けているようだった。
私たちが店の中に入ると、着物姿の上品な店員が出てきて応対してくれた。
「珊瑚染めを体験したいんですが」
「ご予約のお客様でいらっしゃいますか?」
「いいえ」
ここを知ったクーポン冊子ゆくるポンには要予約とは書かれていなかったが、規模からいって先客がいたら無理かもしれないとは思っていた。
「・・・大丈夫ですよ。どうぞこちらへ」
どうやら今の口振りだと、他に予約も入っているらしい。私たちが予約者が来る時間よりも先に体験を終わらせられそうと踏んで受け付けることにしたようだ。
サンゴ染め体験はTシャツ、ショートエプロン、四角い絹生地(額に入れて飾ることもできる)の三種類から選べる。
料金はどれを選んでも大人3,000円、子供2,500円。
私たちは実用的なTシャツを選んだ。
パパはやるつもりがないようだったが、面白そうだと思った私も子どもたちと一緒に体験することにした。
品の良い店員さんは箪笥からサイズの合うTシャツを出した。
この箪笥も事務用の殺風景なものではなく、まるで骨董品のようだった。
「お姉ちゃんはこのサイズ。妹さんはこちらで合うかしら」
一応背中にあててサイズを見ている。
Tシャツが決まると奥のテーブルに案内された。
テーブルの中央にはサンゴ染めに使う型と染料の入ったボトルが置かれていた。さらに着物姿の店員さんはステンシルに使うようなたぶんスポンジか何かに布を被せたスティックと、染料を出すスタンプ台のようなものを棚から出して並べた。
型はサンゴでできたものが9種類ほど。他に鋳物のシーサーが三つあった。
染料は四色。紅と黄と青と紫。
最初に店員さんがやり方を教えてくれる。
型の上に布を置き動かないよう輪ゴムで留め、スティックにぽんぽんと、スタンプ台から好みの色の染料をつけて、型を置いた布をこするようにする。
そうすると、コインの上に紙を置いて鉛筆でこすったときみたいに模様が浮き出てくる。これがサンゴ染めだ。
サンゴ染めの型は、本物のサンゴを機械でスパッとカットした断面を利用したもので、ひとつとして同じものがないオリジナル。
また、色も一色でぬるのではなく、重ねてみたりグラデーションにしたりすることが可能だ。
ルールはサンゴの型使用は五回まで。さらにシーサーは一回まで。
ほとんどの場合、Tシャツの表面にサンゴを五つ、裏面にシーサーを一つ染めると言う。
子どもたちは最初は戸惑っていたが、やり始めると次々とサンゴを選んで染めていく。
私はというと、デザインが決まらずなかなか進まない。
「お子さんはね、あまり考えないからどんどん進むんですよ」店員さんが品良く笑った。
「ちょっと見本、見てきていいですか?」
確か入り口の近くにサンゴ染めをした製品も売り物としてディスプレイされていた。あれを見てこよう。
「どうぞどうぞ」
ディスプレイはTシャツの他、ストールや子供用のワンピースなどもあった。
もちろん体験版ではなくオリジナルだから、サンゴの模様も五つとは限らずもっと沢山使ってあるものもある。
やっぱりカジュアルに決めるには、片側に集中させて、カスケードブーケのように下に流れていく形がかっこよさそうだ。
「決めました」
戻ってみると、もう子どもたちは半分ぐらい出来上がっていた。一色で塗りつぶしてみたり、内側と外側で色を変えてみたり、いろいろ工夫して作っている。とても楽しそうだ。
カナは、ひたすら斜めにサンゴを並べた。
それを見て妹のレナも真似をする。
「真似しないで!」
拒否された。
レナは仕方なく途中からランダムに変えた。
大人の目から見ると、カナの斜めラインは面白味に欠けるし、レナの方がリズムがあって良い。結果論だけど。
私は青と黄色のグラデーションが好きなので、まず手頃なサンゴをひとつセットして中央を黄色で染めた。
それから周辺にぼかしを入れて外側に青をぬるつもりだった。
ところが青を入れはじめてすぐに変だと思い手を止めた。
「あのー・・・」
店員さんが振り返る。
「これ、青じゃなくて紫みたいなんですが」
「そんなはずないわ」
店員さんは青のスティックをぽんぽんと端切れに押して、それから新しいものを持ってきた。
もう一度私は青を使ってみた。
やっぱりおかしい。青は藍よりいでて藍より青しというけど、これじゃ青でも藍でもなくて紫だ。
「そのスティックじゃなくて、インクの方が間違っているんじゃないですか?」
店員さんはそんなはずはないんだけどと言いながらもようやく染料をしみこませたスタンプ台を交換してくれた。
交換後の新しいスタンプ台を使うと、今度こそ青が出た。こうして比べてみるとよく判る。さっきのは絶対青じゃなかったって。
青くしたかった場所が紫になってしまってちょっと凹む私。
カナが一番先に完成した。
彼女は背中の部分にシーサーの顔を染めた。
にかっと歯をむき出して笑ったシーサーは頭にアカバナーをつけていた。
だからカナはアカバナーの部分だけ赤くして、中を黄色で染めた。シーサーの外側は青を重ねたので緑色っぽくなった。
それを見たパパは「パイナップルみたい」。
それからカナのサンゴ染めTシャツのシーサーは「パイナップルシーサー」と呼ばれることになった。
三枚のTシャツが完成すると、店員さんはアイロンを掛けて色を定着させ、きれいに畳んで袋に入れてくれた。
「お疲れさまでした。宜しかったらそちらでお茶を飲んでいって下さいね」
囲炉裏と茶釜のところに案内された。お茶請けはシンプルに黒糖だ。
私たちがここで一休みしている間に、予約していたらしい別のお客さんたちがやってきた。若い女性二人連れだ。私たちと入れ替わりに体験テーブルにいざなわれていた。
さて、この琉染では館内に三線の音楽が流れている。
これはCDなどではなく生演奏だ。
私たちがサンゴ染めを体験している間、暇そうにしていたパパに店員さんは宜しかったらお二階で三線をお聞きになりませんかと話しかけていたのを私は聞いた。
二階に続く階段のところにも『三線体験教室 15分で!!「花」が弾ける』と書かれたボードが立てかけてあった。
琉染の二階は染め物や骨董品のギャラリーであるとともに、三線教室でもあるのだ。
「ちょっと二階を見てきてもいいですか」と問う私に、「どうぞごゆっくり」と店員さん。
三線を習うつもりはないけれど、ちょっと生演奏をのぞかせてもらおう。
階段を上ると、色とりどりの反物を並べたガラスケースがあって、奥に取って付けたような畳のスペースがあって、そこに頭を剃り上げた男性が一人座っていた。
男性はこちらをちらりと見たが、私たちが三線を習いに来たのではないと知るとまた黙って演奏を始めた。
一曲聞かせてもらってありがとうございましたと階段を降りた。
ゆくるポンのクーポンを出すと、琉染では小さなお土産をくれた。
魔除けの塩が入っているという紅型染めのお守りだ。
今朝立ち寄ったやんばる熱帯園はクワガタ好きの人以外はちょっとお勧めできない感じだったが、この紅型と珊瑚染めの体感工房
首里琉染は、万人にお勧めしたい。
ゆいレール牧志駅周辺は工事中でがちゃがちゃしていた。
公設市場に専用駐車場は無いが、少し離れれば周辺に時間貸し駐車場はいくつかある。
今回は国際通りから近い駐車場に車を停めた。
国際通りはごった返していて、午前中までいた北部の山の中とは雲泥の差だ。
パパは観光客目当ての土産物屋や露天商には目もくれず、カナの手を引いてずんずん牧志公設市場のあるむつみ通りに歩いていく。
私は興味を惹かれるものがあるとすぐに足を止めてしまうレナの手を引きながら急いでその後をついていく。
しかしまあ、ショーウィンドーに並ぶ沖縄のTシャツにはやばいものが多い。
書き殴ったような文字でインパクトのある単語を書いたTシャツも有名だが、ブランド物のパクリも山ほど。
PUMAじゃなくてSHISAだったりKUINAだったりGOYAだったり。
笑うしかない。
いいのか、著作権。
アーケードの中で市場通りに曲がって、第一牧志公設市場到着。
第一とはいうものの、第二は無いので通称、タダの牧志公設市場。以前は第二もあったけどもう閉鎖されている。
牧志公設市場の中は、あのけだるい名護の公設市場とは異なり、いつも活気に溢れている。
肉屋、魚屋、八百屋、総菜屋、その他食品加工品の店が所狭しと軒を連ねている。
肉屋なら肉屋で何軒も入っていて品揃えはどこもそう違わないから、後は如何に上手く客を捕まえるかだ。品質や鮮度が違うのかもしれないが、一見の観光客には違いが判らない。
地元の客も多いのだろうが、観光客も負けじと多い。
「海ぶどう、買っていこうよ。あっ、アーサも」
それぞれ適当に目に付いた店で買った。乾物のアーサは那覇空港で買うより安くて良かったが、海ぶどうは北部の道の駅なんかで売られている新鮮なものと比較すると品質がいまいちだった。店の選択を誤ったのかもしれない。
パパは島らっきょうを探している。
島らっきょうは塩で軽く漬けると美味しいのだ。らっきょうというより極上エシャレットという感じの味だ。
でもこれ、生の島らっきょうを買って自分で漬け込もうとすると、皮を剥くのにえらく手間が掛かる。だから公設市場で既に加工済みのものがあればいいなと思っていたようだ。
私はクーブーイリチーがほしい。
クーブーとは昆布のこと。イリチーは炒めて煮ること。たぶん「炒る(いる)」から「イリ」に変換されたんじゃなかろうか。いろんなクーブーイリチーがあると思うが、去年牧志公設市場でもらったクーブーイリチーはほの甘くて美味しかった。
パパは去年も島らっきょうを買った店で今年も買うつもりだった。
えーと、確かたまき漬物店・・・。
ところがパパは「たまき漬物店」ではなく隣の「あらかき」という漬物店に声を掛けた。
あれー?、去年買ったのはこっちのたまき漬物店じゃなかったっけ?
「でも売っている奥さんは絶対こっちの奥さんだったよ」
「・・・」
おっかしいなー、私の思い違いか、それとも店を二つに分けた?
判らないけどあらかき漬物店で島らっきょうとクーブーイリチーを買った。今回も売り子の奥さんはいろいろとおまけしてくれた。
名護でも牧志でもそうだが、公設市場で買い物をすると、みんな気前よく何かしらおまけをつけてくれる。これがまた何だか嬉しい。
牧志公設市場の喧噪の中で、いよいよ今回の旅も終わりなんだと感じた。
アーケードの外に出ると、もう日差しが弱まっている。
国際通りを行き来する人の影も長く伸びている。
後は予定通りレンタカーを返却して・・・と思ったが、まだ一騒動あった。
カーナビに最初から入力してあったマツダレンタカーの那覇空港営業所に車を乗り入れると、何か様子がおかしい。
「ここ・・・?」
「うーん、何か違うような」
9日前、私たちが車を借りた場所とは立地も建物も違うような気がする。
パパが車を降りて営業所の中に聞きに行った。そしてすぐに営業所の人を連れて戻ってきた。
「ここじゃないんだって。ここはマツダレンタカー那覇第二空港前営業所で、この車を借りたのは那覇空港前営業所なんだって」
紛らわしいことに那覇空港前営業所が二つあるのは良いとして、何で貸し出すときにカーナビに返却地の営業所を入力しておかないんだ。代わりに第二空港前営業所が入力されていたから当然ここだとばかり思って来ちゃったじゃないか。
那覇第二空港前営業所の人に、那覇空港前営業所の場所を入力してもらって一件落着。
正しい那覇空港前営業所で無事レンタカーも返却して、夕日を見ながら送迎バスで那覇空港へ。
去年、一昨年とレンタカーを借りたジャパレンでは、必ず帰りの送迎バスではウチナー口(沖縄方言)のラジオを流していた。今回のマツダレンタカーはBGM無し。何だかあれが無いと寂しいな。沖縄に別れを告げるときに沖縄の言葉を聞きながら空港に向かうのが好きだったのに。
空港に着いたのが6時少し前。ほぼ予定通り。
灼熱の7月の沖縄から切り離されたかのように那覇空港ビルに一歩入ると肌寒いくらいに冷房が効いている。
カナもレナもタンクトップの上にキャミソールを着ているだけ。もう上着も着替えも全部スーツケースに詰めて預けてしまった。いつも帰路はANA宅空便愛用だ。羽田空港でスーツケースは受け取らず、そのまま自宅まで運んでもらう。だいたい翌日の午前中には到着する。
何か残された着る物は・・・そうだ!!
私はさっきサンゴで染めたばかりのTシャツを取り出した。早速親子でこれを着ちゃえ。
ばっちりだった。厚手の半袖Tシャツを上から着るとちょうどよい温かさ。
「ねぇねぇ、こんなTシャツを着ているの、私たちだけだよね」とカナ。
そうだね。どんなブランド服にも負けないよ。自分たちで染めたんだもんね。
二人ともなんかちょっと嬉しそう。
夕食は空港内の食堂街で食べた。
そんなにお腹が空いていなかったので、軽めに沖縄そば。
食堂街でたまたま目に付いた「琉球村」という店に入った。
琉球村と言えば、恩納村にあるテーマパーク。
一昨年遊びに行ったよ。この空港の沖縄そば屋もロゴといい、マスコットのキジムナーの絵といい、あのテーマパークの琉球村の系列らしい。
でもなんでテーマパークが空港でそば屋を?
味は別に悪くない。沖縄最後の味だと思いしみじみと食べた。
箸袋にプリントされたキジムナーを見て、「この子は誰?」とレナは聞く。
「キジムナー。ぶながやのことだよ」
ああ、と彼女は肯く。道の駅大宜味で見た絵本を思い出したらしい。
空港の窓から海の夕景が見える。
大きなまんまるの夕日が飛行機の翼の間に沈んでいく。
今回も9日間、ほぼ完璧な天気だった。
台風に悩まされることもなく、一度だけスコールにあっただけでほとんど晴れに恵まれた。
でも去年や一昨年の沖縄旅行と違って、今回はただひたすらに楽しい旅ではなく、何度か辛いことに見舞われた。
ハブクラゲに刺されたり、道に迷って川を登ったり・・・。
それでも全て終わった今、やっぱり楽しかったと思うし沖縄が好きだと思う。
いろんなことが凝縮して駆け足で過ぎた9日間。
搭乗案内に従って、ゲートを通過して、飛行機に乗り込んで、そして座席についてシートベルトを締める。
このフライトが終われば東京。
旅が終わる。
でも今はあと少しだけ・・・
少しだけ、沖縄のことを考えていたい。
また会う日まで。