初日 2005年6月18日(土) |
レナ5歳。
幼稚園年長。
何でも「なんで?」「どうして?」のお年頃。
「ご飯を残しちゃいけません」と母。
「なんで?」
「お肉や魚は動物さんが死んでその体をもらっているんだよ。あなたがお皿に載っているものを食べなかったら、その動物さんが死んだことは何の役にも立たないよ」
「・・・死んじゃったの? かわいそうだよ」
「そうしないとあなたが死んじゃうんだよ」
「・・・」
「だから残さず食べないと」
「・・・ご飯粒は? ご飯粒も動物さんなの?」
「あれはお米の成る植物の種なんだよ。私たちは本当は草に育つ植物の種をもらって食べているのだから、やっぱり動物さんと同じで残しちゃいけない。
そうだ。
それなら自分で実際にお米ができるところを見てみる?」
「うん、見てみたい」
いつも苺狩りに行く栃木県佐野のJA安佐アグリタウンから、いちご畑会員限定の米作り体験お誘い葉書が今年も来ていた。
パパが去年から興味を示していたから今年は申し込んでみるかな。
6月に田植え、10月稲刈り、12月餅つきのスケジュール。
ゴールデンウィークに
ケアンズに行って以来すっかり頭の中がオーストラリア一色になっていたので、そろそろ温泉旅館にお泊まりしようか。
佐野に用事があるのに湯西川に宿を取ってしまうのは我が家の謎だ。
どう考えたって遠すぎる。
最初は那須か塩原に泊まろうと思って探した。鬼怒川か川治でもいい。
だけどカナが小学生になってから、土日しか動けないし添い寝幼児扱いもできない。一年半前より格段に宿泊費用は高く付くようになった。
これぞと思う宿はどこも高すぎて泊まれない。
単純に大人料金が手頃な宿でも、小学生の割引率や添い寝幼児の料金計算如何によって、家族四人分の宿泊料は全く変わってくる。
やっと折り合いの付く宿を見つけた。
湯西川だった。
湯西川といえば、そうだなぁ、今から十数年前、まだ自分も独身でそれほど秘湯がもてはやされていなかった頃に名前を知った温泉だ。
あるときどうしても紅葉を見に栃木に行きたくなり、調べていくうちに雑誌で「秘湯」だと紹介されているのを読んだ。
当時は鬼怒川と塩原ぐらいしか知らなかった。
早速湯西川の観光協会に電話を掛けたのだが、紅葉の週末に一万円以内で泊めてくれる宿は無いかと聞いて「今週末は厳しいんじゃないですか?」と言われた。
結局、最後は日帰りで日光に出かけた。
あれきり湯西川とは縁がなかった。
気にはなっていたのだ、ずっとどんなところか。
朝4時45分に目覚ましをかけた。
5時過ぎには出発。
日の長い季節だから、5時前に既に空は明るかった。
でも先日梅雨入りしたので今にも雨が降りそう。
どうしてこんな早く出たかと言うと、ETCの割引と関係がある。
朝6時までに高速に乗る、東京近郊の決められたエリアを通過する、高速を使う距離は100キロ以内・・・この三つの条件を満たせば半額なのだそうだ。
パパは30分早起きすれば条件クリアとほくほく。
しかし眠いわ・・・。
朝早いにも関わらず、出発前にカナとレナは目を覚ました。
レナは車が走り出すとすぐに寝たが、カナは退屈なのでカーナビを見ながらあれやこれやと話しかけてくる。
東北道では雨が降ったりやんだり。
日光宇都宮道路に入ると雨はやんだがガスが出てきた。雲の中を走っているようだ。
タヌキ飛びだし注意の看板見っけ。
「本物のタヌキ?」とカナ。
飛び出してくるとしたら本物だよ。カンガルーは飛び出して来ないと思うけどね。
電線に鳩がとまっている。
「電線にとまってるのがワライカワセミってこともないよね」
「いいかげん頭をオーストラリアから日本に戻しなさい」とパパ。
うーむ温泉に入れば戻るかな。
今市で有料道路を降りて、朝食が食べられる場所を探した。
ガスト見つけた。
ああ、だけど10時オープンか。
今はまだ7時前。
早朝から開いている店がどこか無いだろうか。
今度はマクドナルド見つけた。
朝マックにしますか。
まだ寝ているレナも起こして着替えさせた。
今週のハッピーセットはスヌーピー。
子供たちはホットケーキを選んで、一生懸命食べたけど食べきれず、残った分は親が食べた。
これからの予定をどうするか。
パパは9時頃からやっている立ち寄り湯に一軒入って、湯西川へ向かおうと提案。
泊まる予定の
湯西川別館は12時からチェックインが可能だったので1時からでお願いしている。
現在地が今市を降りたところで、ここからだと・・・。
朝8時から立ち寄りを受け付けている鬼怒川温泉の仁王尊プラザに入り、それから
西川温泉に寄って湯西川へ向かうのはどうだろう。
西川温泉はまもなくダムの底に沈むというので、今回一人でも寄りたいと思っている。
しかしマクドナルドでかなりゆっくり過ごしたにも関わらず、時間はまだ7時すぎ。
鬼怒川は目の前なので、8時でも遅すぎる。
パパがふと、「
川治に7時から開いている共同浴場があったはず」と言い出した。
「それって、前に行ったことがある共同浴場じゃない?」
「えっ、行ったことあるっけ?」
「奥鬼怒の帰りに寄ったんだっけ? ぬるいお湯でさ、入れば入るほど寒くなっちゃって出られなかったの。覚えてる?」
「あそこって川治だっけ? 露天風呂じゃなかった気がするけど、川治のこれは露天だよ」
うーん、まあ行ってみれば判るでしょう。
「いい?」
「いいよ、そうしよう」
鬼怒川温泉街の道は判りにくかった。
旧道とバイパスと二本並行して道が走っている単純なつくりなのだが、何故か二回もナビをはずれてしまった。
雲が低く、左手から正面にかけての山々が、雲の合間にうっすらと頭だけ出している。幻想的な景色だ。
しかしやっぱり梅雨時。一日こんな風にどんよりしているのだろうか。
名の通った鬼怒川温泉は大型旅館が多い。
一昔前なら社内旅行、宴会といったキーワードでもてはやされていたのだろう。
巨大なあさやホテルの横を通過しながら、私たちには縁がなさそうと思った。
鬼怒川温泉を過ぎて、さらに北上すると、次に賑わうのは景勝地龍王峡、そして川治温泉に至る。
このあたり、鬼怒川と会津西街道こと国道121号線、そして東武鬼怒川線が束のようになって南北を貫いている。
首都圏から鉄道でもアクセスできるというのが鬼怒川流域温泉街の強みなのだ。
川治の温泉街に入り、中心部の表示板で
薬師の湯の場所はすぐに判ったものの、とても車は入れそうにない細い道だった。
温泉街にもとめられそうな場所はないし、仕方なく見つけた饅頭屋で駐車場の場所を伺うことにした。
店番の奥さんは上手く説明できず、奥にいる旦那さんを呼んできた。
にこにことした旦那さんは、温泉街を抜けて長生閣名月苑の奥を左折すれば薬師の湯の駐車場に出ると親切に教えてくれた。
「お子さん連れならあじさい公園を見ていくといいんだけど、時期的にまだあじさいは咲いてないかなぁ」
お礼に温泉饅頭をバラで二つ買った。
店の名は大黒屋まんじゅう店。
教えてもらった道は判りやすかった。
ちょうどこの辺りは、鬼怒川と鬼怒川の支流男鹿川が合流するところで、川に向けて道を下りながらパパは「確かに来たことがある、この道、覚えている」と言った。
発電所があって、駐車場がある。
駐車場の横は小さな公園になっていて、ブランコや滑り台を見たカナとレナは遊びたいと言い出したが「後で」。
公園には何台か軽トラックがとまっていて、草刈りの格好をしたおじさんたちが準備していた。これから草を刈るらしい。
あれ?
青空が見えてきたよ。
良かった。いくら梅雨時の旅行とはいえ、一日雨だったらどうしようかと思っていた。
薬師の湯は川沿いなので早速降りていって見るとなんとまだ開いていなかった。
以前は夏期は7時半から、冬季は10時からだったが、最近通年10時からに変わってしまったらしい。
・・・困ったな。
あたりをうろうろしてみたら、10年近く前に入った薬師の湯の建物は今は女性専用になっていて、露天風呂が混浴だった。
入れないとなると、「ここに入りたかった」とか子供たちがぼやく。
あれぇ? さっきまでは入らないとか公園で遊ぶとか言ってたのに。
10時まではまだあと1時間以上ある。
薬師の湯には入れなくてもせっかく川治まで来たんだから、せめてあじさい公園を見ていこうよ。
駐車場から黄金橋と名付けられた橋を渡ればあじさい公園はすぐだ。
確かにまんじゅう屋のおじさんが言ったとおり、まだあじさいの季節には早かった。
ちらほらとたまに色づいているだけでほとんどはまだ緑色だ。
この公園は全体が遊歩道のようになっていて、花や川を見ながら龍王峡まで歩くことができるようになっている。
見頃まではあと二週間ぐらい。咲き始めれば夏休み近くまで楽しむことができる。
さて、戻るときにも黄金橋を通るわけだが、この橋、あちらこちらにう○ちが落ちている。
子供たちもあまりに落ちているので、黄金橋じゃなくてう○ち橋なんじゃない?と言い出す始末。
反対側から草刈りのおじさんが一人やってきた。
「猿、いなかったかい?」
「猿ですか?」
「しょっちゅうこの橋をうろうろしているんだよ」
あっ、もしかして橋のあちこちに落ちていたのは猿の落とし物か。
「そうなんだよ。でもこのあたりの猿は日光いろは坂あたりにいるやつらと違って、見えるところに食べ物でも持っていない限り悪さはしないから大丈夫」
おじさんたちはあじさい季節の前に、公園やその周りを整備するため、今の季節に草刈りをするのだと教えてくれた。
「これからの季節、大勢のお客さんが龍王峡からあじさい公園まで歩いて、その後薬師の湯で汗を流し、川治の駅から電車に乗って帰って行くんだよ。でも薬師の湯は朝の一番風呂が最高だよ」
あじさい公園から戻ってきて9時半。
薬師の湯は諦めるつもりだったけど、あと30分なら待ってみようか。
なんたって一番風呂に入れそうだし。
子供たちも公園で遊びたがっているから一石二鳥。
朝が早かったのでここで一休み。
子供たちを公園で遊ばせて、大人はベンチでのんびり。
いいタイミングだったかもしれない。
そして10時少し前に薬師の湯に向かってみた。
さっき露天風呂のところで「まだ開いていない」と教えてくれた係りのおじさんが、「もう開いたよ」と教えてくれた。
行ってみると既に何人か入浴しているようだ。
早い。
何時の間にやってきて何時の間に脱衣したんだろう。
露天風呂は川のそばと、もうひとつ部分的に囲ってあるものと二つある。
先に入浴していた方々は、奥まった囲ってある方に入っていた。
どうも年輩の地元の方ばかりのようだ。
ここの混浴は本当に脱衣所も全て男女共通で、しかもお風呂は対岸の宿や橋から丸見えだ。
とても朝一でなかったら入れなかっただろう。
外側からは見えない隅の方で脱衣した。
そうしている間に、やはり地元のおばあちゃんが一人やってきた。
「靴を出しておくとびしょびしょになっちゃうから、下駄箱に上げた方がいい」
下駄箱があることに気が付かなかった。
何でも足の悪い人が多いので、どうしても脱衣所の周りはびしょぬれになってしまうという。
そのおばあちゃんも杖をつきながらやってきた。
「ここのお風呂は家のお風呂よりずっと温まっていいんだけど、ここに来るまでの階段がねぇ」
川沿いの露天風呂は誰も入っていなかったので、我が家の四人はそちらに入らせてもらった。
おお、ぬるい。
このぬるさが川治らしい。
前に入ったときは本当に辛かった。
温泉に入って辛いというのも変だけど、寒い時期でぬるいお湯で、当時は今の女湯になっている建物を半分に仕切って男女別にしてあったが、それでも半分露天風呂のような建物で外とほとんど気温は違わない。
二ヶ所湯中からお湯の出る湯口があったのだが、入浴客はみんなそこの取り合いで、それに湯口でもたいして温かくない。むしろ益々出られなくなるという温度だった。
意を決して上がって体を拭いて着衣すれば、実はぽかぽかと中から温まっていることもなくはないのだが、とにかくそこまでの勇気が出ないほど寒かった。
今の季節ならちょうど良い。
1時間でも入っていられそうな温度だし、それに出るときはちょっとひやりとするぐらいで寒いことは無い。
お湯は無色透明、臭いも温かいお湯らしい臭いしかせず特に温泉らしさは無いが、泡付きがとても良い。
源泉は上からではなく中から注入されているのだが、ぽこぽこと泡と一緒に出ていて、その泡が体中につく。はらってもはらってもというくらい。なかなか気持ちよい。
川はよく見えるが、川からもよく見える。
パパはもうひとつの露天風呂の方にも入ってきたが、とてもこちらは入れなかった。
朝一番でも何人か先客がいらしたが、その後も次から次へとお客さんが来る。地元の人あり、ハイカーあり。大盛況だ。
入ったはいいけど、どうやって出るかなぁ。
とりあえずパパにバスタオルを持ってきてもらって、それを巻いて脱衣所まで移動した。
こういうとき脱衣所が男女別になっていないのは辛いが、そういう人は女性専用に入ってねということなんだろう。
ようやく支度を終えて出てみたら、私たち一家が入っていた川沿いの露天風呂もぎっしりとお客さんが入っていた。
潮時だった。
お湯の中ではきしきしとした肌触りは、湯上がりにはさらさらとしていた。
地元の方が湯船で「今日は一日曇りで夕方には雨が降るって言っていたのに晴れたねぇ」と言っていたそうだ。
パパは内心「カナが晴れ女だからな・・・」とひとりごちたとか。
さて、川治を出て次に向かうは
西川温泉。
栃木の温泉に詳しい
流れ星さんに、「温泉」と表示を出したら保健所からクレームがついたので「西川集会所」とのみ書かれていると教えてもらっていた。
五十里ダムで作られた人工の五十里湖は、深いエメラルドグリーンで、ぐにゃぐにゃとしたY字型をしている。
五十里湖に流れ込む湯西川沿いに西川地区はあるのだが、ここはまもなくダム湖の下に沈むことが決まっているという。
野岩鉄道湯西川温泉駅を過ぎたところに上野という新しいトンネルができている。まだ一般開通はされていないが、工事車両が頻繁に行き来していた。
トンネルの下に通じている現在の県道も水に沈むのだろう。
その県道沿いにそれこそ知らない人は絶対に辿り着けないような西川温泉がひっそりと湯煙を上げていた。
一般民家のような建物で、外側には本当に「西川集会所」としか書かれていない。
さっきお風呂に入ったばかりの子供たちは当然もう入らないと言う。
一人で行かせてもらうことにした。
恐る恐る玄関を開け、靴を脱ぐ。
本当に中もただの民家のようだが、入って直ぐ目に付くところに「受付 料金500円」と更に手書きで「温泉浴場↑」と書かれていた。
左手の襖が開いていて、中からテレビの音がする。
「失礼しまーす」
中でお茶菓子を摘みながらテレビを見ていたのは二人のおばちゃんだった。
「温泉に入らせていただきたいのですが」
「ああ、どうぞどうぞ」
「ええと・・・」
「ここは初めて? そこの廊下を真っ直ぐ行くとお風呂だから。女湯は奥ね。ゆっくり入っていってよ」
ドキドキしながら誰もいない浴室のドアを開けると、もう嬉しくなるくらいざあざあざぶざぶとお湯が出ている。
ニ、三人入れるかどうかという四角い木の浴槽には全開になった源泉蛇口からこれでもかという勢いでお湯が出ている。
狭い洗い場にある蛇口もまた全開になっていて、そこからも置かれた洗面器に向かって勢いよくお湯が出ていた。すくってみたらそれも源泉だった。
そしてその二ヶ所から出るお湯は排水も間に合わず、洗い場の床はおよそ5センチほど、常に温泉の洪水状態だった。
・・・脱衣所に「お尻をよく洗ってから入りましょう」といった張り紙があったが、うん、ただ洗い場に座っているだけで十分お尻は綺麗になると思うぞ。
先ほどの川治の湯と違い、こちらはゆで卵の臭いがする。お湯からはさほど感じないが、肌には鉄臭も残るような感じ。
色は無色透明。すっきりと綺麗なお湯。
ごく柔らかい肌触りで、ぬれたまま腕をこするとオイリーなぬるぬるすべすべ感を感じる。
窓を開ければ目に鮮やかな新緑。
こんなに良い場所がまもなくダムに沈むなんて・・・もったいなさすぎる。
湯上がり、「なんだよう、旦那さんもお子さんもいるならみんな連れておいでよう、子供料金は取らないんだからさ、家族みんなで入っていきなよ」と受け付けてくれたおばちゃんたちが口々に言ってくれた。
ダムの水位が上がり、全部沈んだらどうなるか、二、三日のうちに会合が開かれ決定されるのだそうだ。
既におばちゃんたちの自宅や主な建物は、みんなもっと高い場所にある池の側に移転したのだそうだ。
この集会所もあと二、三ヶ月のうちには引き払うのだそうだ。
でもまた新しく同じような施設を作る予定があるという。
「新しい施設でも、奥さんがたは受付をされますか?」
「さあ、それはどうだかねぇ」
やはり今のこれがこのままずっとあるわけではないのだ。
おばちゃんたちがいてこその西川温泉。
「あと二ヶ月は大丈夫だから、またおいでね」と手みやげに煎餅の袋をくれた。
食べかけなのだが、お子さんたちの分もと、卓上に出してあった分まで袋に戻して持たせてくれた。
何だか哀しいような、寂しいような。
でもやっぱり嬉しかった。
ダムの水底に沈む前に、西川温泉を訪ねることができて。
西川を過ぎると山また山。
「湯西川温泉は何でこんなに奥まったところにぽつんとあるんだ?」とパパ
「そりゃ、平家落人がこっそり逃げてきた場所なんだから、山奥なんでしょ」と私。
開けた場所だったら、すぐに落人がいるってばれるじゃない。
湯西川温泉の手前に龍神霊水という名水が湧き出ている場所がある。
道沿いなので寄ってみた。
ここは竜ヶ窪という三匹の親子龍が隠棲した聖地であるとされている。
観音像が立ち、木枠から水が流れてくる。
残念ながらペットボトルの持ち合わせが無く、その場で水を飲むに留まった。
冷たく渋みと爽やかさのある水だった。
湯西川の温泉街は鬼怒川や川治とは比べものにならないくらい小さい。
それでも中心部には大きな旅館なども数軒建ち並んでいる。
湯西川出張所の正面に馬刺、鹿刺、猪鍋用、熊鍋用といった張り紙のある阿部精肉店を見つけて立ち寄ってみた。
ちょうど平家民俗資料館や平家最中の店の近くだ。
前に伊那で食べた鹿刺しが美味しかったので鹿肉を買った。が、固まりなのでこのままでは食べられない。クーラーボックスに入れて持ち帰ることにした。
それから茅葺き屋根の民家を再現して当時の落ち武者たちの暮らしぶりを紹介した平家の里へ向かうことにした。
12時過ぎのことだ。
観覧料は大人500円、子供300円。
敷地内には九棟の古民家が再現され、それぞれ昔の農機具を展示したり土産物を売ったり笛の名手平の敦盛の人形やらを飾ったりしている。
壇ノ浦の海戦に破れた平家一門は源氏の追っ手を逃れ各地に落ち延びた。
ここ、栃木県の栗山村にはこの湯西川の他、川俣や奥鬼怒などにも落人伝説が残っている。
特にこの湯西川では端午の節句は一日遅れて祝う、鯉のぼりは上げない、鶏は飼わないといった風習が今も継承されている。
鶏はときの声をあげるからという理由は判るが、何故に端午の節句に関して二つも謂われがあるのかと思えば、落人たちは初め、霊峰鶏頂山(川治温泉の東、エーデルワイススキーリゾートのあるあたりか?)に逃れて暮らしていたものの、男児が生まれて喜びのあまり鯉のぼりを上げたところを源氏に発見され、命からがら湯西川まで落ち延びたことによるという。
茅葺き屋根に囲炉裏のある古民家を覗き込んで、このところ何ヶ月かに一度の割合で通っている新潟の貸民家みらいを思い出した。
「みらいって凄いかも」
他ではこんな風に拝観料まで取って見せているものが現役で、実際に泊まって触り放題使い放題なんだもの。この年季の入った台所用品や大工用品だってみらいの引き出しを探せばごろごろ出てくるよ。
食堂も併設されているのだが、メニューは栃餅、お汁粉など食事と言うよりおやつのような感じだったので、昼食は外へ出てから食べることにした。
土産物屋には何故かアケビの蔓で作った花カゴや、骨董品などに混じって「鹿の餌」なるものが売っている。
鹿、いないねぇ、あの餌、どこで使うんだろうと言いながら歩いていると、ふいに風に乗って「鹿の臭い」
あっ、いたいた。
子供たちは古い家など見てもまるで面白くないらしく、ぶつぶつ言いながら歩いていたが、ようやく楽しめるものを見つけた。
柵で囲われた斜面に数頭の鹿たち。
こちらを見てもさほど興味がないらしく寄ってこなかったが、パパが鹿の餌を下げて戻ってくると遠目でもそれと判ったらしく、わらわらとみんな柵のところに近づいてきた。
餌ちょうだい、餌ちょうだいという感じにつぶらな目が訴える。
パパが餌を二人分に分けて、カナとレナに持たせた。
カナは最初怖がっていたが、レナが喜々として餌をやり始めると、真似して少しずつばらまいた。
オーストラリアの動物園で飼われているカンガルーたちは、どこもお腹いっぱいなのかあまり真剣に餌を食べてくれないけど、平家の里の鹿たちは食欲旺盛で、こぼれたかけらも綺麗に平らげてしまった。
パパは「さっき買った鹿刺しは、もしかして・・・」
あはは。
昼食を取ったのは、湯西川温泉街のお食事処 山島屋という店。
ちょうど中心部のいくつか蕎麦屋がかたまっているあたりにある土産物屋併設の店だ。
どぶろくと田舎定食とざるそばを頼んだ。
白く濁り発泡したどぶろくがなかなか美味しい。
田舎定食にはマイタケ鉄板焼きがついているのだが、これが「田舎」という言葉には似つかわしくなくバター味だ。マイタケが肉厚でとても美味しい。
蕎麦は割と素朴な味だった。
次にその二軒先にある丸湯という店に寄った。
ここはまるで旅館のようなネーミングだが、れっきとした酒屋で、日本酒の他、徳利やぐい飲み、クロスなども置いている。
日本酒を物色していると、お茶とお茶請けを出してくれた。
梅昆布茶だった。
湯西川純米酒と発泡日本酒のぷちぷちを購入。
二時少し前、本日お泊まり予定の湯西川別館にチェックイン。
茅葺き屋根の平家集落が川沿いに立ち並んでいるが、その手前、Y字路を右へ入るとすぐだ。
隣に湯西川本館という旅館があるが、別々の経営。
経営者が親族同士なので本館・別館という名称を使っていると言う。
親族といえば、湯西川自体が今も落人一族の末裔が全て仕切っている。鬼怒川や川治のように大手資本の旅館などが進出することはまずあり得ない。
平成の時代にまさかと思うかもしれないが、かの地では、嫁いできた嫁ですら、一生よそ者扱いされると言う。
まさに平家でないもの人にあらずの世界だ。
そしてそのかわり、どこかの家で一大事があったと言えば、一族郎党駆けつけるという。
ここは今でも隠れ里のままなのだ。
ちなみにそんな湯西川最大の悩みは、小中学校しか教育機関がないということらしい。平家落人末裔の子供たちは、湯西川中学校を出た後、日光や今市の高校に通うために寄宿生活を余儀なくされるそうだ。
湯西川別館の入り口はかなり年季が入っている。
さらに玄関入って、ちょっと並べられたスリッパも乱れている。
がっかりした感は否めなかったが、部屋に案内されて気分は変わった。
部屋は明るく広々として真新しかった。
入り口が綺麗でも客室が古いより、予算があったら客室を先に改装するというのが気に入った。
お茶請けには温泉饅頭が用意されていた。
うちの子供たちはあまり量を食べないので、幼稚園児のレナの分は食事を頼んでいない。可能ならカナの分も頼まないくらいだ。
ここは添い寝幼児でも施設使用料を取るが、その代わりに子供たちにも浴衣を用意してくれた。
身体測定の検査着のように、帯が無くてもはだけないような工夫がされている。
カナは中サイズで緑色、レナは小サイズで黄色だった。
子供たちは浴衣があるだけでお姫様気分だ。
窓辺に座ってお澄まし顔。
一休みしたら早速お風呂の偵察に行くことにした。
湯西川別館は5つのお風呂があるという。
まず二階の露天風呂。
露天風呂は広々とした岩風呂が二つあり、ひとつが混浴、もうひとつが女性専用となっている。
このときは女性専用には先客がいたのでのぞかなかったが、後で見比べたら混浴より女性専用の方が新しく広そうに見えた。
景色も混浴の方が開けているが、見えるのは湯西川別館の玄関棟や隣の湯西川本館の建物ばかりでそれほど良い景観でないのに対し、女性専用は草花の植えられた庭が見えて悪くない。
露天風呂から通路で移動すると、鶺鴒の湯と名付けられた家族風呂に出る。
こちらは御影石の四角い浴槽で、先客がいなければ札を返して自由に使うことができるようになっている。
二つあるカランからは、冷水と源泉がそれぞれ出るようになっており、使う人が自由に浴槽の温度調節をして良いと明記されている。
つまり赤ちゃんを連れて入りたい人は、思いっきりぬるめても良いということ。その代わり、上がるときには必ず水を止めていくことになっている。家族風呂で温度調節自由というのを明快にルール付けしているのはなかなか画期的だ。
最後が一階にある男女別の大浴場。
館内でシャワーがあるのはここだけだ。
「く」の字型の石の浴槽で、スイッチを入れると端の方が15分間、圧注浴風呂になる。
こちらの大浴場も女湯は使用中だった。
どうも今夜は女性客の方が多そうだ。
早速パパが一人でお風呂に向かった。
やがて戻ってきて、露天風呂と内湯と両方行って来たと言った。
「なかなかいいお湯だったよ」
交替で行ってくれば、いや、外湯でもいいよと言ってくれたので、ふらふらと共同浴場に行ってみることにした。
湯西川には二つの共同浴場がある。
ひとつは湯西川別館からも歩いて数分のところに、もうひとつは手前というか、五十里ダム寄りの下地区だ。
歩いて行かれる方に行ってみることにした。
ただこの
共同浴場、確か完全混浴でしかも橋から丸見えと聞いている。
ちょっと先客がいたら入れないかもしれない。
茅葺き屋根の平家集落がよく見える大きな橋のたもとのY字路まで来た。
土産物屋柏屋の隣の道を入る。
細い道の先は太鼓橋状にカーブした小さな橋に続いていた。
この小さな橋のたもとに、くたびれかけた木造の湯小屋が建っていた。
共同浴場入浴の心得と書かれた金属の板も周りがすっかり錆びている。
入り口前をひょいひょいと野良猫が横切った。
このあたりに住み着いているものか、それともどこぞの家で飼われているのか。
猫がうろうろしているだけで何となく鄙び度が増すような気がする。
誰もいませんように・・・いや、いないからって入ると、さっきの川治温泉薬師の湯のように出るに出られなくなってしまうかもしれない。
今回はサポートしてくれるパパもいないんだし。
どうしようかな・・・。
入り口の引き戸を開けると、右手に脱衣所、左手に浴室。
どちらも完全男女共用で、女性には入りにくい。
先客は一名、気むずかしそうな年輩の地元女性だった。
「入らせてもらって宜しいですか?」
「男の人が来る前に早く入れ入れ」
そ、それじゃあ遠慮なく。
石をそのままくりぬいたような雰囲気のある浴槽で、パイプから熱湯がそそがれている。
源泉の隣のパイプは冷水で、こちらは出口の処に三ヶ所ほど穴を開けた桶をくくりつけてお手製のじょうろのようになっている。
お湯は無色透明で柔らかいゆで卵の臭い。細かい湯の花が表面に浮いている。
温度は熱めだが、かなり加水もされているので入れないほどではない。
軽いきしきし感がある。
と、ドアが開き、別の客が入ってきた。
リュックを背負った観光客の男性だ。
「あのう、入っていいですか?」
「今、女しか入ってないから駄目」
と、年輩のご婦人はきっぱり。
や、やるー。
・・・というか、私に気を遣ってくれた気がする。
「あと10分したら来てもいい」
男性の返答はよく聞こえなかった。バスの時間がどうのとか言ったのかもしれない。結局彼は、ご婦人の頼みも聞きもせず、そのまま服を脱いで入ってきてしまった。
なんちゅう強引な・・・。
「混浴とか、こういうところの風呂とか初めてなんですよ。なんでこんなに橋から丸見えのところに風呂場作ったんでしょうねぇ。そういえば無料なんでしたっけ?」
男性は一人でよくしゃべる。
「200円だよ」と、取り付くしまもないご婦人の返答。
「ここの風呂は旅館に泊まった人とか入りに来る風呂なんですか?」
「えっ?」
「だからぁ、ここは観光客用の温泉なんですか?」
「違うよ。地元の人が入るところなんだよ。だから私たちが綺麗に掃除してるんじゃないか」
彼女は上がりながらそう言い放った。
あやや。
私の立場も微妙だなぁ。
彼女とはほぼ同時に公衆浴場を出た。
「あの男、ちゃんと払うんだろうねぇ」と不審そうに振り返る。その一方では「あんなにゆっくり入っててバスは間に合うんかしら」と心配もしている。
私も入らせてもらって良かったのだろうか・・・と心配になったら、
「あなたはいいんだよ。湯西川別館に泊まってるんだろ? 湯西川の旅館に泊まっている客は心配しなくったっていいんだよ」とお見通し。
しかも浴衣の柄で、宿泊先まで割れている。
「別館はお湯がいいよ。源泉を三本も引いてるんだ」
そりゃ良かった。地元の方に太鼓判を押される宿に泊まれたのはラッキーだ。
「帰りは向こう岸の平家集落の方を回って帰るといいよ」
「ぐるっと回れるんですね。良かった。茅葺き屋根の前を通ってみたいと思っていたんです」
「川岸まで降りないで、家の前を通るといいよ」
「どうもありがとうございました」
思わず深々とお辞儀をしてしまった。
この方がいらっしゃらなかったら、たぶんあの混浴公衆浴場には入れなかっただろう。
ゆるいアーチを描く橋を渡って、橋の上から緑の川面を見下ろした。
とても綺麗な景色だけど、先ほどの公衆浴場をはじめ、川沿いにはあちこちの旅館の露天風呂もあって目のやりどころに困ってしまう。
橋を渡り終えると三軒ほどの昔懐かしい茅葺き屋根の建物が並んでいる。
一番手前は湯元内湯の清水屋旅館と看板が下がっていた。
まさに昔の旅籠そのものだ。
その隣は会津屋という豆腐屋。食事もできる。
川岸の茅葺き屋根の家の前を歩いていたら、どこからか子供の頃に嗅いだようなシャボンの匂いが漂ってきて、何だか泣きたくなってしまった。
部屋に戻って一休み。
チェックインが早かったので、まだまだ暗くなるまで時間がある。
パパがまた、旅館の風呂に行ってくるかなぁと言ったので、どうせなら共同浴場に行って来れば、と送り出した。
しばらくして戻ってきて、
「ああ、いい湯だった」
「でしょでしょ。誰か他に入ってた?」
「二人ぐらい地元の先客がいたけど、あがっちゃってあとは貸切だった」
さらに面白いものを見つけたという。
「窓から川が見えるだろう? あの川、うようよ岩魚が泳いでいるのが見えた」
なんと風呂から岩魚の群が見えたんだって。
「カナ、レナ、ママと一緒にお風呂に入ってくれば」
何も無理して入れなくても。
朝一番で川治温泉に入ってるんだし、後は寝る前にシャワーのある大浴場で洗えばいいんじゃないの?
「やーだ、入らない」とカナ。
「部屋で遊んでる方がいーい」とレナ。
ほらね。
「でもせっかくだから明るいうちに一緒に入ろうよ。外の景色が見える方が楽しいよ。家族みんなで入れるお風呂もあるんだ。四人で入るならいい?」
「それならいいよ」とカナ。
「レナもいいよ」
何だか風呂に入りっぱなしのような気がするが、またまた入ることになった。
そういえばまだ、湯西川別館のお風呂には入っていなかった。
ところが残念ながら貸切家族風呂は先客が使用中だった。
ここは空いていれば札をひっくり返して使うシステムだから、早いものがちだ。
混浴露天風呂にも先客がいるようだ。
仕方がないので子供たちを連れて女湯露天風呂に移動した。
もちろんパパは入れないから、一人で混浴露天風呂の方に行ったようだ。
今日はパパも珍しくお風呂に入りっぱなしのようだ。
女湯露天風呂と混浴露天風呂は隣り合わせだ。
竹垣で仕切られていて、何故か混浴の竹垣には窓のようなものがあり、そこから顔を出すと女湯が見える(覗いちゃいけないよ)。
混浴と反対側も竹垣があって、どうもその向こうは隣の湯西川本館の露天風呂のようだった。
ここのお湯も無色透明。
湯西川公衆浴場や西川温泉のようにゆで卵の臭いがするが、ここのが一番傷んだゆで卵のようだ。
軽いきしきし感のある肌触り。
浴槽の一角にコップの備え付けられた湯口があり、そのあたりから時々熱い湯が流れてくる。
かなりお風呂が広いので、ゆったりと入れる。
周りには草花が植えられていて、気持ちが和む。
私は温泉としてはともかく、お風呂としては都市部のセンター系日帰り温泉はどうにも好きになれない。
こういう山や野の花が見えるようなお風呂が好きだ。
そしてもっと好きなのは、今日入った西川温泉や湯西川公衆浴場のような、その土地の素顔が見える温泉だ。
やっぱり栃木路はいいなぁ。
栃木は関東と南東北の境目のように思う。
ちょうど湯船の縁に溝のある平たい岩があって、子供たちはそこにお湯をかけて遊んでいる。
小さなハムスターの人形を持ってきたので、岩の上に並べている。
それがとても楽しかったらしく、カナはあがるとき、またこのお風呂に入りたいなと言った。
夕食はお部屋出し。
私はあまり部屋出しは好きではないのだが、子供たちが周りの人に迷惑をかけないよう気を遣うよりはずっと良い。
川魚、山菜といった山の中らしい料理から、刺身、煮物、茶碗蒸しといった一般的な旅館料理に加えて、栃木らしい湯葉、そして今回の宿泊プランについてきた栗山牛陶板焼きというメニュー。
子供用には和風ハンバーグとスパゲッティ・ナポリタンをつけてくれた。
子供たちは二人だけで窓際で食べた。
そこがお姫様の場所なのだそうだ。
いつもはあまり旅館の食事を食べないカナがほぼ一人分ちゃんと食べきったので、ああ、成長したんだなと思った。
レナはまだまだ。ほとんどおかずは食べずに、デザートばかり気にしている。
食後は外へ散歩に行くことにした。
エレベーターの前に、輪投げが置いてあるので、ちょっと遊んでから。
二人とも、自分の輪を入れたいあまり、ついつい線をはみ出し前へ前へ移動してしまう。
「ずるい!!」
「レナだって!!」
お互い様。
遊び終えてやってきたエレベーターに乗ろうとしたら、降りてきた浴衣姿のおじいちゃんがいきなり「じゃんけんぽんっ」。
面食らったカナも思わずパーを出す。
おじいちゃんは「可愛いなぁ」と笑いながら行ってしまった。
パパ曰く、「酔っぱらってるな〜」
夜道は涼しいけれど湿度が高かった。
梅雨時だから仕方ない。
晴れただけもうけものだ。
湯西川別館の玄関には揃いの白っぽいサンダルしか置いていない。サンダルはいまいち浴衣に合わないのだ。渋温泉のように下駄を置いてくれとまでは言わないが、仕方ないので自前のスニーカー。浴衣にスニーカーってもっといまいち。
あてもなく、河原まで降りてみた。
カナとレナとで向こう岸めがけて石の投げ合い。
どっちが遠くまで届くかな。
湯西川公衆浴場のある橋の上からは、ライトアップされた宿の露天風呂など見える。
誰も入っていないからいいものの、やっぱりこの橋はちょっとやばい。
夜のお風呂は、貸切の鶺鴒の湯にすることにした。
本当はシャワーのある大浴場に連れていこうと思っていたが、せっかく家族で貸し切れるんだし、髪の毛を洗うのは明日でもいいかなと思い直した。
パパが空きを調べに行く。
「大丈夫、今なら入れる」
みんなでタオルを手に移動。
泊まっている部屋が二階なので、鶺鴒の湯は一番近い。
札を使用中にひっくり返して、ゆっくりと入らせていただく。
ここはお湯の温度を自由に変えて良いことになっている。カランも二つあり、源泉と冷水、お好みでミックス。
但し、上がるときには冷水はきちっと止めていくことになっている。
窓の外はもう真っ暗だけど、昼間は緑がよく見えた。
ちょうど先客が適温にしてくれたようだ。あまり手を加えなくてもみんなで入れる温度だった。
湯上がりはまたひとしきりエレベーターの前の輪投げで遊んで、それから部屋へ。
エレベーター前の廊下には長椅子が置いてあり、よくそこに湯上がりの客がくつろいでいる。
この宿の宿泊者は圧倒的に年輩者が多く、どうも湯治目的で長逗留の人が多いらしい。
湯治客がいるのはお湯が良い証拠だろう。
夜9時前。
子供たちを寝かしつけながら、パパも一緒に寝てしまった。
まあ、今朝は早かったからね。
私は最後にもうひとつお風呂に入ってから寝るとしよう。
静まり返った部屋の電気を消して、タオルを手にする。
まだ大浴場に入ってない。
今夜最後のお風呂はあそこにしよう・・・。
二日目へ続く・・・