10.おじさんの温泉
ところが走り始めてしばらくすると・・・
「あっ、釜飯屋」
通り過ぎてしまった。
「左にUターンできそうな道があったよ」
また通り過ぎてしまった。
ペーパードライバーの私は運転はyuko_nekoさん任せだ。
そしてyuko_nekoさんちは先日車を買い換えたばかりで(デリカからパジェロへ)、yuko_nekoさんはまだほとんどこの新しい車を運転していないそうだ。
「慣れていなくてねー」
うんうん。無理はよくない。
もうしばらくターンできそうな道は無い。
「この先は?」
「おじさんの温泉にも寄ろうと思ったんだけど」
もちろん私とyuko_nekoさん。出てきたからにはご飯だけで帰ろうとは思っていない。
「そこは食事はできないの?」
「うどんとかぐらいは食べられるよ」
「じゃ、そこでいいじゃん。お風呂と食事、一石二鳥」
「よし、決まりだー」
おじさんの温泉というのはyuko_nekoさんが呼んでいる名前で、もちろん正式名称ではない。
yuko_nekoさんが以前、ちび姫ちゃんとしょっちゅう通っていたという彼女の馴染みの温泉だ。
「日帰り温泉なんだけどね、民宿もやっていて、えーと名前は何だったかなぁ、"神"がついたような気がする」
「"かみ"?」私は片品方面の温泉はまったく不案内だ。
知っているのは・・・以前、ひょんな縁から泊まった
片品温泉うめやと、寒い時期に入った
幡谷温泉ささの湯ぐらいか。
この辺りには日帰り温泉も多く、こうして走っている間にも摺淵温泉
水芭蕉わたすげの湯だとか、花咲の湯だとか次々と看板があらわれる。
県道から武尊方面に曲がるとちょっとした民宿街のようになっている。
「この辺の民宿はかなり寂れていたんだよ。温泉が出たのは割と最近で、そうでないとあまり売りもないものね」と、武尊周辺の事情に詳しいyuko_nekoさん。
確かに今は民宿のほとんどに温泉が引かれているようだ。
ついに名称を思い出せないまま、現地に着いてしまった。
直前に看板があって、それを見てようやく名前が判った。
花咲温泉しんめいの湯。
"しんめい"を漢字で書くと"神明"なので、yuko_nekoさんは神という字を思い出したらしい。
しんめいの湯のご主人が印象深いおじさんなので、ずっとおじさんの湯という愛称で呼んできたようだ。