2.キャンプと山梨の温泉
二日目 2007年10月7日(日) |
一夜開けて、今日も昨日に劣らず良い天気。
子どもたち三人は早速集まってポケモンで遊んでいる。
yuko_nekoさんちのちび姫ちゃんは小学5年生、カナが4年生でレナが2年生。
これまではずっと三人でいるとレナがついていけずはみだして大人の方に逃げてくることも多かったが、先月半年ぶりに泊まりがけで一緒に遊んだちび姫ちゃんは随分とお姉さんになっていて、今は三人対等に遊んでいるようだ。
前回の
信州高山温泉郷と万座温泉の旅行で、たまたまカナのニンテンドーDSライトが壊れてしまって、今修理に出しているところなのだが、ちび姫ちゃんが古いDSをカナに貸してくれた。彼女は新しいDSライトを買ってもらったばかりだったので、これで三人、額を付き合わせて遊べる。
今の子どもたちはすっかりゲームがコミュニケーションツールになっている。
ゲームだけしているのは困るけど、ツールとして使う分には仕方がないなと思う面もある。
朝食はカレーとホットサンド。
食べ終えて9時半頃、私たちはまた勝沼方面に車を走らせた。
目的は勝沼の朝市
勝沼では毎月、月初めの日曜日に朝市が立つ。
えっ、
勝浦の朝市かって? いやいや房総半島の勝浦じゃなくて甲府盆地の勝沼の朝市。似ているのは名前だけ。
今月初めの日曜日と言えば先週だけど、今月に限りかつぬまぶどうまつりの翌日開催予定。つまり今日。
場所は・・・「確かかつぬまぶどうまつり会場のすぐ近く。えーとね・・・シャトレーゼ勝沼だって・・・あっ、シャトレーゼってもしかして昨日の駐車場じゃない?」
そこで早速がっちゃんデリカのカーナビにシャトレーゼ勝沼と入力したところ、何故か違う場所にナビゲートされてしまった。
「ここどこ?」
「間違いないよ。シャトレーゼ勝沼店」
・・・。
昨日の広大な敷地ではなく、小さなシャトレーゼケーキ屋の店舗。
「ち、違う〜、シャトレーゼ勝沼店ではなく、シャトレーゼ勝沼ワイナリーだった〜」
ケーキ屋ではなく、ワイナリーの敷地だということに間抜けな私が気づいたのはようやくその時点だった。
そんなこんなでどたばたとしながらシャトレーゼワイナリーの敷地にやってくると、朝市会場は思ったよりこぢんまりとしていた。
うーん・・・。
勝浦の朝市みたいに地元の農産物が沢山売っているかと思ったのに、葡萄を除くとどちらかというとこれはフリーマーケット会場。
後で知ったが、どうやらこの日は他でも運動会などのイベントが重なっていて、出展者が少なかった模様。他の月ならここまで寂しいことはないのかもしれない。
何故かがっちゃんが最初につかまったのは野菜でも果物でもなく、エクステリアか何かの会社が出しているバギーだった。
「これほしいなぁ」
がっちゃん、まるで子供みたいに嬉しそうにまたがっている。
がたいの大きながっちゃんがまたがると、ごついバギーも子供向けの玩具みたいだ。
子どもたちは三人並んでアクセサリーの店をのぞいている。
ちび姫ちゃんの選んだアクセサリーは渋い。流石に渋過ぎだとみんなに言われて別のを選んだ。カナとレナは髪を留めるクリップ。
マッサージの店も何軒か出ている。
いきなり折り畳み式のベッドなど置いて、そこでマッサージ。目立ちすぎだよ。
「石和温泉とかで呼ばれてマッサージする人たちが空いている時間でこういうところで商売するんじゃない?」とyuko_nekoさん。
なるほどねぇ。朝市にしてはやけにマッサージ屋が多いと思った。
勝沼の朝市で食材が何も手に入れられなかったので、私たちは今度は新鮮市場石和にやってきた。
ここは昨日、石和のサティに行く途中、国道20号線からマクドナルドの角で石和温泉方面に曲がって見つけた場所。
パパだけが車を降りて見に行って、面白そうだからyuko_nekoさんたちを連れてこようと言ったところだ。
外側から見える看板には、「新鮮市場石和」「クックY食材スーパー 業務用食材 プロの店 現金問屋」「石和鮮魚センター」「マインマート」「ホテル・旅館御用達」とある。
つまりここは石和温泉のホテル・旅館などの夕食食材を売る安売り店の集合体らしい。
海が無いのに山無し県とはよく言うが、今まで山梨で海産物を食べようなんて思いもしなかったけど、なるほどプロ用食材なら面白いものが見つかるかも。
石和鮮魚センターの中は、確かに新潟の日本海鮮魚センターに負けずいろいろ揃っている。
「岩牡蠣だ、牡蠣を買おうよ」
「大ハマグリだ、珍しい、これも買おうよ」
あっと言う間にかごはいっぱいになってしまった。
「マインマートがあったからお酒も買ってくるよ」
「日本酒を一本頼む」
「八百屋もあるよ」
三人が夢中で買い物をしている間に私はちょっと敷地内の薬屋へ。
昨夜のテントのあまりの寒さに念のため持ってきたホカロンを使ったのだが、四つ持ってきて、昨日三つ消費してしまった。今夜も冷えるのは確実だから寝袋の足下に入れるために一パック買っておかないと。
それからこれは後からパパに聞いた話。
この新鮮市場石和には肉屋も入っていて、ちらしが貼ってあったらしいんだけど、ロースとかヒレとかバラとか全部100g100円の特売とか書いてあって、豚三頭分限りってあったって。
先着100名さまとか、10キロ分限りとかじゃなくて、豚三頭分だよ。ビックリ。
新鮮市場石和で買った品は全て氷と共にクーラーボックスに入れて、私たちが向かった先は笛吹川沿いの
はやぶさ温泉。
ここは以前にも何回か立ち寄ろうとしたことがあるが、何故かいつも定休日の火曜日に当たっていて、まだ一度も入ったことがない。
場所は雁坂みちこと140号線沿いで、いつもは埼玉の秩父から雁坂トンネルを抜けて帰るときに横を通っている。
もう何度もはやぶさ温泉に来ているyuko_nekoさんたちが「ここだよ」と車を停めたのは住宅街の隅の駐車場。
そして斜め前に見えているはやぶさ温泉はどう見ても日帰り温泉ではなく、旧家の個人住宅風。
さらに玄関前まで行くと、狭いながらも見事な庭が見えた。
「こんなところだと知らなかった」と言う私に、「以前は旅館だったらしいよ」とyuko_nekoさんが教えてくれた。
元々私たちは、今日ははやぶさ温泉ではなく市営の窪平温泉花かげの湯というところに行くつもりだった。
yuko_nekoさん一家御用達の花かげの湯は、お湯は少々塩素臭いが、プールがあり、安く利用できる個室休憩室があり、以前は食事もとても美味しかったとのこと(今は残念ながら食堂の業者が変わってしまった)。
何よりここのマッサージが高レベルで、凝りから今朝は頭痛に悩まされているがっちゃんは一刻も早く花かげのマッサージ師にもんでもらいたかったらしい。
個室を二時間借りて、大人は交代でマッサージしてもらおう、極楽極楽・・・とキャンパーらしからぬ計画を立てていたのもつかのま、電話をしてみると今日はマッサージ師が予約でいっぱいとのこと、いきなり当てが無くなってしまった。
とにかくがっちゃんの凝りをほぐさなければならない。
彼は数日前に十二指腸潰瘍の診断を受けていて(一応普通の食事はできるけど)、頭痛があっても軽々しく痛み止めなど服用するわけにはいかないから。
そこで機転を効かせたyuko_nekoさんははやぶさ温泉に電話をした。
はやぶさ温泉でもマッサージを受け付けていて、こちらもぎりぎりだったが予約が取れた。今直ぐに一人ぐらいなら受け入れられるとのこと。助かった。
はやぶさ温泉の受付は野菜に囲まれていた。
地元の野菜や果物を箱で並べて売っている。
入浴料は2時間で大人500円と良心的。
早速がっちゃんはマッサージに。私たちはお風呂に行くことにした。
内風呂も露天風呂も元々旅館だと言われるとなるほどと思うような作りだ。
特に内風呂の湯口が鯉の形で、口から勢いよくお湯が噴き出しているのが印象的。
三連休のなか日、お客さんの入りはまあまあ。脱衣所にも内湯にも露天風呂にもそれぞれ数人ずついるぐらい。後でマッサージ師の人に今日は特別空いているんだと教えてもらったが。
お湯の色は無色透明で温度はぬるめ。
露天風呂の湯面には細かい粉のような湯の花が沢山浮いている。いつもよりちょっと鮮度が悪いようだとyuko_nekoさんが言った。
お湯の中では少しきしつく肌触り。乾きかけると滑るような肌触りに変わる。乾くときに少しぺとつくような感触が残る。
湯口ではごくうっすらと硫黄の臭い。コップが置いてあるので飲んでみると、味らしい味はしないのに、舌触りだけがぎとぎとまったりとしつこく残る。
下部温泉にも似ている感じ。そういえば
下部温泉も山梨県だった。
お湯は内湯の方が鮮度が良さそうだったが、日本庭園風の岩の露天風呂は風が気持ちよくてつい長湯してしまう。
中には岩に持たれて眠っているんじゃないかと思うような人までいた。
子どもたちは先に上がっていたので、私とyuko_nekoさんはゆっくり入ることができた。
十分満足した後、脱衣所に戻ると、ちょっと気になるボードがあった。
「シャンプー・リンスを容器ごと持ち帰る方がいますので、見かけた方はフロントまでお知らせ下さい 館主」
・・・温泉備え付けのシャンプーを容器ごと持ち帰る馬鹿がいるのー!?
信じられない。入浴料払うよりシャンプー買ったら?
広間休憩室に一歩入ると、いきなりがっちゃんが診察台の上でマッサージされていた。
うわー、私は日帰り温泉とかでマッサージ頼んだこと無いけど、こんな公衆の面前でやられちゃうわけ? これじゃさっきの勝沼朝市のオープンエアマッサージと変わらないじゃん。
ところがyuko_nekoさんの方はがっちゃんがあまりに目の前でマッサージされていたので逆に気づかなかったらしい。彼女曰く、普通は畳の上とかあるいは別室でするものなので、まさかあんなに目立つ場所でやるとは思わなかったとのこと。
休憩室は端にカラオケセットがあり、今日は誰も使っていなかったが、前にyuko_nekoさんたちが来たときにはがんがんに誰かが歌っていて閉口したそうな。
「今日は空いてるんですか?」と問うyuko_nekoさんにマッサージ師の先生は「今日は特別に空いているよ。普段はこんなものじゃないよ。先週、先々週と週末の天気が悪かったでしょ。この辺の運動会や祭りが全部延期になって今週開催なんだよ。パンパンさっきから音が聞こえると思うけど、あれも運動会のピストルの音」
このマッサージ師、しゃべるしゃべる。一度しゃべりだすと止まらない。
私たちが上がる前は、まずマッサージしながらひたすらがっちゃんに話しかけ、がっちゃんから答えが無くなると、今度は目の前に座っているパパに照準を定め次から次へと話題を振ってきたそうだ。
子どもたちはお腹が空いたと言ってモツ煮を食べていた。
「美味しい?」
「美味しいよー」とレナ。
最初はパパが一人で食べていたら、子どもたちが我も我もと寄ってきて食べてしまったので一人一皿、計三皿注文したようだ。
「私もお腹空いたなー」
「じゃ、何か食べれば」
「うーんと・・・豚角煮丼」
パパは目をまるくした。「そんなにヘビーにがっちり食べるの?」
「一緒に食べる?」
「いいよ」
結局みんなでがっちりとお昼御飯を食べた。
私とyuko_nekoさん、それにがっちゃんは、この後もう一ヶ所ぐらい温泉をはしごしたいところだったが、お風呂に入ってお腹も満腹、さっき新鮮市場石和で海産物を買い出したパパはもうこの後はまっすぐキャンプ場に帰って火を起こしたい気分満々のようだった。
花かげの湯に行こうとした段階で、yuko_nekoさんたちと私はせっかくここまで来たのだから二ヶ所ぐらい温泉に入りたいねという話をしていた。誰かがマッサージをしてもらっている間に、残りのメンバーは交替で他の温泉に入ってくればいいよなんていう話になっていた。
行き先がはやぶさ温泉になってからも、yuko_nekoさんは近くに
鼓川温泉というところがあって、ここも硫黄の臭いがするいい湯なんだよと話してくれた。
「さ、帰るぞ帰るぞ」
えーっ、鼓川温泉は? と思ったけど、パパは有無を言わせなかった。実際子どもたちをどうするかという問題もあるし、仕方がないので一度キャンプ場に戻ることにした。
「まあいいよ、いったんキャンプ場に戻ってからまた後で来ればいいよ」yuko_nekoさんが慰めてくれた。
私もみんなもこの時点では御坂路さくら公園キャンプ場と鼓川温泉を往復するのにどれほど時間が掛かるか判っていなかったのだ。
「でね、この辺りに旨い馬刺の店があるんですよ」とがっちゃん。
今夜はさっき鮮魚センターで買った牡蠣と馬刺だ。
たぶん塩山の辺りだと思う。道は細く、まるで昭和初期で時間が止まったようなレトロな商店街に車は入った。
「どうやって見つけたの?」
「花かげの湯がこの近くで、たまたま車で通って見つけたんですよ」
店の名は、「肉のはせ川」。
「馬サシミ」「馬スキヤキ肉」「馬ボイルモツ」と書かれた手書きの紙が貼ってある。もちろん牛豚などの肉も揃っているし、近くの山梨市三富地区(旧三富村)特産のイノブタの肉もある。
yuko_nekoさんは特上馬トロサシミを頼んだが、店の中にいた小柄なご主人が切らしていると伝えてきた。
「いつも特上は切れてるんだよね。それじゃ、580円の馬サシミを。真空パックにしてね」
ご主人は冷蔵庫から赤い固まり肉を出すと使い込んだ包丁で切り始めた。
「真空パックにすると肉がくっついちゃって外し難いんだけど、色が変わらなくていいんだよ」とyuko_nekoさんが教えてくれる。
「うちの馬刺は極上だよ。東京の方にも出荷しているんだ。うちは何たってこの辺りで一番古い肉屋だからね。三代続いた肉屋はなかなか無いんだよ」
さらに花かげの湯の話になり、yuko_nekoさんがあそこの食堂が変わってしまって蕎麦ぐらいしか置かなくなってしまったと嘆くと、花かげの湯に入っていた業者が道の駅花かげの郷まきおかに移ってしまったんだという話も教えてくれた。
店を出て、yuko_nekoさん。
「何だか山梨の人ってしゃべり出すと止まらない人が多いね」
うんうんと肯く私たち。
さっきのマッサージ師さんや、キャンプ場の管理人さんだってそうだったじゃない。
山梨の人って、最初は口べたに見えても、とにかく話し出すとずんどこ話し続けちゃう人が多いのかも。
2時過ぎ。
キャンプ場に戻ったパパは早速火を起こし始めた。
「子どもたち、薪を拾ってきて」
「えー」
「薪拾いは子供の仕事」
パパにそう言われて、最初はぶつぶつ、そのうち夢中になるカナとレナ。
ちび姫ちゃんはこういうの、ちょっと苦手そう。
「できるだけ沢山拾ってきて。夜になったら寒いぞ。凍死しないためにも今にうちにみんなで薪を拾うんだ」
上手く乗せられて、小枝からそこそこ太い枝まで三人はせっせと拾ってきた。
この後yuko_nekoさんはトレーラーの中で仮眠を取っていたが、3時半頃起きてきて、どうする?温泉と相談を持ちかけてきた。
「そ、そりゃ私は行きたいけど。がっちゃんは?」
「がっちゃんもたぶん行きたいって言うとは思うけど・・・」
うちのパパはキャンプ場に根が生えているからもう行かないだろう。子どもたちもお風呂に入るよりここで遊んでいる方がいいと言うだろう。
これでお風呂組とキャンプ組に別れてしまえば話は簡単なのだが。
「俺、残るよ」とがっちゃん。「やっぱ先輩(パパ)に悪いし、誰か一人残った方がいいから」
房総半島でのキャンプを思い出すパターンだなぁ。
とりあえず行くと決めたら急いだ方がいい。
4時少し前、yuko_nekoさんと私はがっちゃんのデリカに乗り込んだ。
「じゃ、行ってくるから」
そう、私もこのときはまだ、そんなに時間が掛かるとは思わなかったのだ。
「・・・混んでるねー」
じりじりしながら、ちょうど塩山の辺りで夕方の渋滞に巻き込まれた私たち。
電車の高架が見える。何だかさっぱり車が進まない。
思えばさっきのはやぶさ温泉までだって結構遠かった。山を下って盆地を越えて、反対側を笛吹川に沿って登らなくちゃならないんだものね。
その上私は鼓川温泉の場所をよく知らなかったのだが、鼓川温泉ははやぶさ温泉よりさらに8キロぐらい奥まったところにあった。
何となく辺りが薄暗くなってきて、気分的に焦ってきた。もうちょっと近い場所で別の温泉に入るとか・・・あるいは来るのを諦めた方が良かったんだろうか。
「あと少しだから」
どんどん辺りは寂しい景色になり、まばらだった民家もついに見えなくなってきた。
道はいつのまにか上り坂。
「鼓川温泉はこの辺まで来るといつも来るんだよ。はやぶさ温泉みたいにぬるめで、ちょっと硫黄の臭いがするの。花かげの湯と鼓川は両方市営なんだよね」
夕闇が迫っている。
かなり上まで登ってきたなと思ったら、やけに立派な駐車場があってそこが鼓川温泉だった。
「ずいぶん時間が掛かっちゃったから、ゆっくりは入れそうにないね」
温泉の建物は駐車場のさらに上だった。
階段を上っていくようになっている。
連休の夕方だから駐車場もいっぱいだ。
駐車場の一角にちょっとした野菜や味噌などの加工品を並べた直売所が出ている。
市営の温泉と聞いて私がイメージしていたのはシンプルもしくは和風の建物だったが、鼓川温泉の建物はともかくロックガーデン風に設えた庭やウッディなテーブルセットが並んでいる様子は妙に欧風だった。
でも庭を過ぎるとのれんの掛けられた入り口は小綺麗な和風の作りだ。
受付横の券売機でチケットを買って入浴する方式。
脱衣所に入るとやっぱり混んでいるなぁという印象。
案の定内湯も露天風呂も結構な人数だった。
露天風呂に出てみた。
既に日が落ちている。
お湯はぬるめ。無色透明だ。肌触りはやっぱりきしつく。
先に入っていたyuko_nekoさんが落胆した声で「消毒の臭いがする・・・」と言った。
どれどれ・・・。
「本当だ、塩素臭いね」
「いつもはこんなこと無いのよ。硫黄の臭いがして好きなのに・・・」
やっぱり連休で混んでいるから必要以上に塩素剤を投入しているのだろうか。
せっかくはるばる来たのにとyuko_nekoさんはショックを受けたようだった。
今日のはやぶさ温泉は良い湯だったが、印象としてはこの鼓川温泉も似た雰囲気だ。
なのに塩素の臭いがするだけでどれだけ興がそがれるか。
しかもこれひとつで、温泉の微妙な良さみたいなものが殺されてしまって、良いところ無しの状態になっている。塩素云々よりそこが一番残念だった。
他の常連さんたちも、今日は変な臭いがすると言っていた。
いつもはこんなに塩素臭くないということか。
「おかしいなぁ。鼓川温泉は内湯は循環だけど露天風呂は源泉掛け流しのはずだよ」
yuko_nekoさんが湯口のお湯をすくって臭いをかいだ。
「これは塩素臭くない!!」
「えっ、ホント?」
本当だ。湯口からどぼどぼと出ているお湯は全然塩素臭く無いどころか、確かに硫黄の臭いがする。はやぶさ温泉より硫黄の臭いは強い。
「じゃ、どこから塩素が・・・」
湯口の真下に移動したyuko_nekoさんは、ちょうど足下からもお湯の出る場所があることに気づいた。
「ここからもお湯が出ている。湯口より熱いみたい」
「きっと源泉温度が低いから、下から加熱した源泉を入れているんだよ」
「でもここは掛け流しのはずなんだよね」
「循環はしていないんじゃない?。でも加熱する装置の途中で塩素を混ぜているんじゃないかな」
やっと状況が飲み込めた。
それにしても、こうも塩素を入れるとこの温泉の良さが台無しだ。
お湯から上がるとyuko_nekoさんの携帯にがっちゃんから連絡が入っていた。
マシュマロを買ってきてくれとのこと。
うー、先に言ってくれればさっき買ったのに。
行きに既に塩山でスーパーマーケットに寄り、頼まれていた蚊取り線香を買っていたのだ。これだけでも時間のロスになっている。帰りにまたマシュマロを売っている店が見つかるとは限らない。
何しろ蚊取り線香は夏のものだし、マシュマロは冬のもの。意外と今の季節、売っていない店も多いのだ。
行きに渋滞に捕まったからもう塩山は通らないつもりだった。
既に辺りはとっぷりと暗くなっている。
「あった、コンビニだ。でも反対車線だよ」
「何とか曲がるから」
こぢんまりとしたヤマザキデイリーストアだった。
時間がないから探すことはせず、最初から店の人にマシュマロを置いているか聞く。
苺ゼリーが中に入ったタイプのマシュマロしか無かった。でも一応買っておく。
たぶん割り箸の先に刺して焼こうというんだろうけど、苺ゼリー入りでも無いよりマシだ。
「あれ、この辺の地名、正徳寺だ。もしかして
正徳寺温泉初花の近く?」
ナビを見て言う私に「そうだよ、すぐ裏手かな」とyuko_nekoさん。だいぶ戻ってきた。あと少し。
「最後のコンビニでビール買っていこう」
本当に遅くなっちゃった。
やっぱり鼓川温泉はとっても遠かった。
「ただいまー」
車から降りると子どもたちが口々に「遅いー」と言ってきた。
「ごめんごめん」
ところが子どもたち以上にパパが怒っている。
がっちゃんがそっと「5時半までは先輩も機嫌良かったんだけどさぁ、あんまり怒っているから俺もちょっとは怒っている振りをしないといけないと思って」とささやいた。
がっちゃん、ごめん。
パパ、そんなに怒ってるのー?
でもさぁ、頼まれたものを買う以外に寄り道なんてしてないし、行き先も告げていったんだからしょうがないじゃない。そもそも行くなってことか。
仲直りまで少々時間が掛かったが、ようやくみんな元に戻って夕御飯。
楽しみにしていた大ハマグリはいまひとつ大味だったと不評だったが、牡蠣はyuko_nekoさんがアルミに包んで焚き火の中に放り込むとなかなかいい感じになった。馬刺も最高。
子どもたちは食事の後は焚き火でマシュマロを焼いて、苺ゼリー入りなのが心配だったがむしろそれがとろりと溶けてなお好評だった。
カナだけは何故か焼くのを嫌がってそのまま食べていたが、ちび姫ちゃんとレナは焦げ目がつくまで焼いてあつあつを食べていた。
焚き火はすっかり子どもたちがはまっていて、火の番もしてくれた。
「お前たちが温泉行って戻ってこない間に、俺たちがきっちり子どもたちに火の使い方を教えといたからな」とパパの嫌みつき。
ひときわ大きな枝を「おやぶん」と呼び、それを燃やすことに夢中になる男たち。
「これを全部きっちりと灰にするのが気持ちいいんだよ。あんな風に(余所のテントを指して)ぼうぼう燃え上がらせちゃ駄目だって。ほーら、いい感じに熾き火になってきたぞ」
今夜も空には天の川。