◇◆実りの山梨◆◇
御坂路さくら公園キャンプ場
でもこの管理人のおじさんは決して悪い人じゃなかった。
「イノシシが出るんだよ、この辺は。まあ隣の人が犬を連れてきているみたいだから心配ないとは思うけど」
しばらくしてもう一組のキャンパーを案内してきたときに彼はそう教えてくれた。
イノシシは同じ獣どうし、犬がいると寄ってこないらしいのだ。
「畑の農作物とか荒らされてね。この辺の畑の柵は電気を流してあるくらいだよ」
「イノシシって頭がいいんですよね。鹿とは段違いに頭がいいって、私の前の上司が教えてくれたことがありますよ。イノシシ狩りが趣味の人でね。そういえば上司は山梨出身でした。この辺だったりして」と私。
「へー、何て言う名字?」
い、いきなり名字か。地元の人なら名字を聞いただけであの辺の出身とか判るんだろうなー。
とにかく管理人のおじさんは、さっきは「あのねー」と思ったけど、実は話好きで世話好きのおじさんだった。
「蚊が出るかもしれないから。あと、夜は冷えるから気を付けてな」
はいはいと軽く返事をした私たちだが、この冷え込みは笑えないと後で知った。
かつぬまぶどう祭りの会場では、10月だというのに半袖でも暑いとぼやいた陽気だったが、盆地の夜は半端じゃなく冷える。
それはもう、だんだん日が傾き、ついには日が落ちて、寒がりの私は半袖の上に長袖を着て、その上に長袖を着て、さらにその上に上着を着て、そのまた上にショールを被ったくらいだった。