6.温泉浴場えぼしの湯
いちさか商店はすぐにわかった。さっき通り過ぎた時に子供が数人雪を投げて遊んでいたところだ。
いちさか商店の角で曲がるとすぐに右手に烏帽子の湯の看板が見えた。
比較的新しい緑の看板で、湯気の上がる温泉マークとともに「
温泉浴場えぼしの湯」と書かれている。
特に古い家が並ぶわけでもないどこにでもありそうな住宅街にある烏帽子の湯だが、ドアを開けると昨日のかみのやま温泉の外湯にも共通するような昔からそのまま雰囲気を保っている渋い共同浴場の顔がのぞいた。
しかも入浴料はかみのやま温泉より安い100円だ。
到着した時が既に10時40分頃過ぎだったので入場制限をするまで20分を切っていて、番台に「入浴時間は11時半までになりますけど宜しいですか?」と聞かれた。
浴室のドアを開けてうわあっと幸せな気分になった。
ふんわりと甘いゆで卵の臭いがする。
これは予想していなかった。
かみのやま温泉のように透明だろうから、勝手に臭いもないだろうと思い込んでいた。
まさかここで山の温泉的なゆで卵臭がかげるとは。
もちろんかみのやま温泉はかみのやま温泉でとても良かったけれども、次の日は違うタイプの温泉に入りたかったんだ。
そうこれこれ。
今日入りたいなと思っていたのはまさにこんな感じの温泉。
烏帽子の湯は烏帽子の形の浴槽と湯めぐりマップには紹介されていて、実際にそこに載っている写真は男湯で歪んだ三角形が烏帽子に見えなくも無いが、実は女湯の浴槽は烏帽子には見えない。烏帽子の湯だから烏帽子型の浴槽と言うのは後から知ったことで、最初浴室に入って浴槽を見た時の私の感想は、「アメーバ?」だった。
非常に有機的なフォルムというか、角を丸めた長方形の四つの辺を全部適当な力でぐにゃっと押して出来たみたいな形。変わっている。
お湯はすっきりとした無色透明で湯の花も見当たらなかった。
熱めだが熱すぎず、でも長くは入っていられない感じ。軽いきしつきがあって、じんわりと包み込むようなお湯。
浴槽が掛け流しであるだけでなく、シャワー、カランも全部源泉を使ってある。
髪を洗いだした人のせいでシャンプーの臭いが充満し、いつの間にかゆで卵の臭いはわからなくなってしまった。
赤湯の外湯は撮影禁止だが、他にもえらく注意書きが多く、浴室は手鼻、ツバ吐き禁止、脱衣所はタオルを敷かず下着もつけずに生尻で椅子に座るの禁止と、まあ書いてあることは常識だがわざわざ貼紙をしてあるところが気になった。
入ったら即温まるタイプのお湯で、次の時間もあるのでそんなにゆっくりと入っていたわけでもないのだが、上がると随分体力を消耗していた。
上がって番台の前のベンチに腰を掛けて休んでいたら、番台の奥さんが出てきて出入り口のカーテンを閉め、「清掃のため、午前の受付は終了しました。午後2時までお待ちください」と書かれた札を下げた。