夏休み東北日記 三日目


7月27日(土)

 目覚めると今日は朝からいい天気。
 今日は田沢湖まつりの日で、お祭り会場に車で行くには午後三時頃に入った方が良いらしいので、近くで過ごすことにする。
 田沢湖から、日本で一番有名な秘湯もある乳頭温泉郷まで車で30分。一度は行ってみたい鶴の湯温泉

 途中、強い硫黄臭の水沢温泉、田沢湖も一望できて眺めの良いという田沢湖高原温泉など過ぎて、横道に入り、ダートを少し行くと、あの有名な鶴の湯温泉の入り口。


 数年前の秘湯ブームの頃は、猛烈に混んでいたと聞く。今はそれほどではないというものの、朝から既に駐車場には車がいっぱい。


 茅葺き屋根に黒光りする板造りの建物が、ちょっとタイムスリップしたような気分にさせる。
 早く湯に入りたい一心で、つい待ち合わせなども確認せずに、二手に分かれて入浴する。
 流石に一番有名な混浴の鶴の湯は、あまりに開放的で私は入れず(笑)。男性がいっぱい入っているだけでなく、滝の湯方面の通路からも丸見え。
 取りあえずレナを連れて、女性専用露天風呂のある大白の湯へ。


 思わず感動。
 四角い開放的な露天風呂になみなみと白濁した湯がたたえられている。
 やっぱり露天風呂はこうでなくっちゃ。
 理想的?
 強い硫黄臭。味は薄い酸味。本当に綺麗な青みがかった白い色。温度は子供でもまあ嫌がらずに入れるが少し熱め。
 脱衣所の段になっているあたりから、ぽこぽこと泡が立ち上ってくる。泡をすくおうとすると、ふっと消え、また少し離れたところから泡が立ち上る。源泉が湧いているのだ。その気まぐれな息づかいにちょっと嬉しくなる。

 既に数人の女性が入浴していて、そのうち若い二人がプラスチックのはえ叩きを手に、時折来襲するアブを迎撃している。
 いや、本当にアブが多い。攻撃を受けるたびに、全員が右往左往。全然落ち着いて入っていられないねと誰かが言った。



 ここは、鶴の湯の他に、白湯(美人の湯 別名冷えの湯)、黒湯(子宝の湯 別名温たまりの湯)、中の湯(眼っこの湯)、滝の湯など泉質の違う浴槽がいくつもある。せっかくだからと、混浴露天の鶴の湯以外、全部入ってみた。
 白湯は冷えの湯と言うが、どちらかというと熱め。
 黒湯は一番泉質的にはゆっくり入りたい感じ。ぬるめでとろりとしている。天気が悪いと黒く見えると言うが、今日は晴天で他の湯と同様、真っ白だ。
 中の湯には内湯と露天風呂もついている。すぐ脇に咲いている白い紫陽花が一枝湯面に落ちて風流を醸し出している。
 滝の湯は打たせ湯? アブが二匹飛んでいたので見るだけにした。
 プール用のゴムが入ったバスタオルを持参していたので、はしご湯には重宝した。さっとそれを身につけて、いろいろ回ることが出来た。

 水分を補給して、いざ次へ。
 乳頭温泉郷は、鶴の湯温泉の他にも、黒湯、妙乃湯、蟹場、大釜、孫六といくつも温泉があって迷う。
 でも、一番有名な鶴の湯に入浴したら、次は、昔一番人気だったという黒湯にまず入ってみるというものだろう。


 黒湯の駐車場から急坂を降りていくと、一部の建物の屋根だけ新しくしたような、湯治場の雰囲気を残した黒湯温泉に着く。
 木で出来た水飲み場があって、レナは冷たい水に手を伸ばす。

 料金を払い、外に出ると、右に混浴露天風呂。左に女性専用露天風呂とある。
 女性専用に入るのも良いけど、家族全員で入れるかもしれないから、まずは混浴に行ってみよう。


 鄙びた感じの湯小屋があり、浴槽とは御簾で仕切られただけの脱衣所がある。その奥に屋根のついた露天風呂。
 幸い誰も入っていないようだ。みんなで入っちゃおうか。

 しかし、そう巧くはいかないもの。
 子供達を脱がしているうちに、男性が一人入ってきた。
 でもまあ、せっかく来たんだし、湯も白濁していて入っちゃえば見えないから、混浴に入っちゃえ(昨日もそんなこと言ってたような…)。


 人が少ない分、鶴の湯より落ち着くなぁ。風がいい気持ち。屋根はあるけど、外がよく見えるのが嬉しい。
 鶴の湯ほどではないけど白濁していて、匂いは鶴の湯より強い硫黄臭。味は酸味はほとんどなくてちょっと苦いかな。


 見て下さい、この温泉百戦錬磨の強者顔。
 私たち夫婦は、温泉好きの他の人に比べて、そんなに入湯数は多くないけれど、娘達は年齢からすると、かなりの数をこなしているはず。

 有名な黒湯の打たせ湯。
 娘達はこれがいたくお気に入り。背中が痒くなったと言いながら、ずーっと浴びていた。

 とにかく人が少なかったせいか、鶴の湯より黒湯の方が気に入った。
 が、内湯も露天風呂も、階段状になっている部分は板を張りだしていて、その下にゴミが溜まりやすく、大きな減点(ちょっと掃除してほしいナー)。

 さあ、お昼時だ。
 流石に子供達は、昼間は二湯のはしごが限界なのだ。本当はもっと沢山入りたい温泉があるのだけど。
 泊まっている田沢湖のホテルでもらったプリントに、日帰り入浴情報だけでなく、昼食情報も少し載っていた。例えば鶴の湯は別館山の宿で昼食が取れる(11時から14時)が、その時間帯は入浴だけの利用はできないとか、蟹場は食事どころは無いが持ち込み可とか。
 その中で目を引いたのは妙乃湯。
 稲庭うどんなら予約無しで食事が取れるとのこと。


 妙乃湯は、鶴の湯、黒湯などとは差別化を図り、山の中でも綺麗でモダンな宿がいいと思う女性をターゲットにしているらしい。
 なるほど入り口も、ロビーも、先ほどの二湯とはまるで異なり、瀟洒な感じだ。
 これはこれでなかなか良い試みだと思う。いろいろな雰囲気の中から、自分の好きなところを選べば良いのだから。


 通された食堂も綺麗でセンスの良い造りで、冷房は入れていないらしいのに、外と違ってひんやりしている。窓の外に滝があるからか? 目に鮮やかな新緑をバックに赤い風鈴が揺れている。
 ここは立ち寄り入浴料金が他より高いことでも有名だが、食事の料金設定も高め。とはいえ、ここで食べたうどんは、品良く本当に美味しかった。涼をとるにも良い場所だ。

(ちなみに浴室は改装中とかで、湯巡り帳(入湯温泉郷宿泊者のみ購入できるお得なスタンプ帳)による入浴は現在お断りしているそうだ)

 妙乃湯まで来て、妙乃湯に入れないかー。
 後ろ髪引かれまくり。
 でも旅はまだ前半。子供達の体力を使い切ってしまうわけにはいかない。
 残念無念。ああ、あともう一湯~っ。入りた~いたーいたーいたーい(エコー)。

 車に乗ったら、レナは爆睡。カナは今日は寝ない。
 とりあえず田沢湖を一周。田沢湖と言えばコレ、の辰子姫像。


 ドライブの後はホテルに戻って一休み。
 田沢湖まつりのメインは、午後7時頃から始まる、「双龍の出会い」と「秋田県創作花火コンクール」だ。会場はホテルから1.5キロほど離れた白浜特設会場。駐車場に車を入れるために最初は午後3時くらいに行くことを考えていたが、レナは起きないし、のんびりしちゃったので、まあ、車で行かれなければバスで行こうということになっていた。
 午後5時半。パパが車で様子を見に行ったら、まだ駐車場は空いているとのこと。早速カナとレナにそれぞれ浴衣と甚平を着せて出発だ。

 まつり用の臨時駐車場はまだがらがら。会場に最も近い駐車場でもわずかに空きがある。首都圏じゃ考えられないなぁ。

 イベントにはまだ時間があるので、出店を冷やかしたり、ボートに乗ったりすることにした。

 
 田沢湖は本当に美しい湖で、ゴミ一つ落ちていない。足こぎボートを借りて、100円の魚の餌を購入。既に餌をもらえるものと知っていて、ボートの周りにはウグイがうじゃうじゃ。透明度が高いので、凄くよく見える。餌をまくと一斉に寄ってきて、ほとんどメデューサの髪状態。湖水に手を入れれば、にゅるにゅるとウグイに触れる。つかみ取りができそう。
 しかしボートの横揺れがひどく、船酔い体質のパパは真っ青。


 時間が近づいてきたのでレジャーシートを敷いて待つ。出店の焼きそばや味噌タンポを買ってきて、ぱくつく。お祭りっていいよね。

 6時50分。龍神太鼓が響き渡る。
 カナはいつ龍が来るの?とそわそわ。

 よく晴れていたので、それは綺麗な夕焼け。
 生保内節踊りが終わるといよいよ龍神の登場だ。

 村の美女、辰子は美貌を永遠に保つため湖の水を飲んで龍になり、田沢湖に沈んだとか。双龍なのは、たつこと、恋人(恋龍?)の八郎潟の八郎太郎をあらわしている。八郎太郎が辰子姫に会いに、田沢湖まではるばる来るそうだ。
 湖の中で龍が踊る様はなかなかの迫力。

 最後は花火。秋田県創作花火コンクール。
 外輪山に囲まれたカルデラ湖の湖上であげるため、音響効果や、水面に映る視覚効果が素晴らしいそうだ。コンクール形式なので、ぶつ切りになるのは否めないが、どの花火も勢いがあって素晴らしかった。東京の花火大会のように、すし詰め状態で観覧するのと違って、のびのび見られるのが何より良い。

 
 昼間はあんなに暑かったのに、いつの間にか空気がひんやりしている。
 明日もまた、晴れるのだろうか…。

つづく


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