6.大事な人形が消えちゃった
一人になったので似非泡付きを体験しようとエステバスに入ってみたり、低温の圧注浴槽へ入ってみたりして、最後にもしかして掛け湯辺りに源泉があるかなと見に行ったら、案の定そうだった。
おっ、このお湯、すごくいいじゃない。
このまま源泉でお風呂を作ってくれたらいいのにと思いながら何度も何度もざばざはと掛け湯をしていると、お湯の臭いはまるで浴槽のそれと違う。
少しゆで卵みたいな臭いがするしオイルの臭いもする。味は重曹と金属っぽい感じも。
脱衣所のドアに手を掛けたらドアは反対側から開いた。
他の入浴客かと思ったらカナだった。
泣きべそをかいている。
「チルットがいなくなっちゃった」
チルットというのはカナがお風呂に持って入ったポケモンの人形だ。
服を着た後、冷水サーバのところで水を飲んで、そのときにレナの人形と一緒にサーバの横に置いた。
そしてそのまま人形を置いたことを忘れて扇風機に当たっていたという。
レナが先に人形のことを思い出し、二人で取りに戻ったが、レナの人形は残っていてカナの人形だけ消えていた、と、こういうことらしい。
冷水サーバと扇風機は1メートルぐらいしか離れていないので、本当にちょっと目を離した隙になくなってしまったようだ。
レナの人形は残っていたのだから、たぶん知らずに他の子供が持ち去ってしまった可能性が高いのだろう。
泣き続けるカナを連れて、レナと一緒に大広間休憩室まで戻ると、既に湯上がりに温泉豆腐まで平らげたパパが待っていた。
事情を話して、二人がかりで何とかカナを落ち着かせて、何か食べるものを買おうと売店に行った。
やまなみの湯には食事処はついていない。
持ち込みも可だし出前を取るのもOKだ。
おはぎとチーズ蒲鉾と小倉ミルクを買った。小倉ミルクというのは小倉餡の入った牛乳ゼリーのようなもの。
さっきお腹いっぱい葡萄を食べたのでお昼は軽めに。
周りを見回すと、他の客は大きなタッパーに食べ物を入れて持ち込んでいたり、焼酎も瓶のまま、館内で売っている胡瓜をその場で洗っていきなりぽきりと折って味噌をつけて食べている人までいる。
パパもトマトを買ってきた。
何故かトマトや胡瓜は朝市くんと書かれたロッカーみたいな自動販売機で売られている。
館内にはちょっとした図書コーナーもあり、カナとレナは大人が食べている間そこで絵本を読んだりしていた。
ロビーにはテレビの他に子供向けの番組を写すスクリーンなどもあって面白い。
お値段も手頃だし、近所に一つほしい系の温泉だ。