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田貫湖キャンプ場便り


二日目 2005年9月24日(土)

 夜中に風が強くなってきた。
 一番端で寝ていた私は、背中にあたるテントの揺れ具合で台風の影響を感じていた。
 確か昨日マタギさんが、台風の中心に向けて吹き込む北風が来ている、二日目の降水確率が時間を追うに従って高くなるのは、これから天候が益々悪化する証拠だと言っていた。
 それでも昨日はあんなに晴れていたし、富士山もくっきり見えていた。
 どうか台風の影響は最小でありますように。
 特に今日、二日目はオタクの母さんがわざわざ愛知からやってきて下さるはず。
 中止になんかしたくない。
 でも逆に嵐の中、キャンプを続けるのは危険すぎる。
 朝の天気を見て決定を下すしかないんだろう・・・。

 早起きのパパがテントの中に入ってきた。
 「天気はどう?」
 「曇ってる。さっきはちらっと富士山が見えたけど、今は何も見えない」
 やっぱり・・・。
 明け方、特に囂々と風が吹いていたものなぁ。
 どうしよう。

 決断を下すのは、幹事のだださんだ。
 オタクの母さんが家を出るのが8時半。
 それまでに決行か中止か決めなくては。
 風は明け方より収まったような気がするが、今度は雨がばらばらと降ってきた。
 ここは山梨側ではなく静岡側で海上の台風の影響を受けやすいし、湖際で遮るものがないから風も心配だ。
 今夜に掛けて天気が好転するなら続行も考えられるが、一番荒れるのが今日の夕方に掛けてだとすると・・・。
 オタクの母さん同様、今夜参加予定だったバイク乗りのオフローダーさんからも、今夜キャンプするのは危ないかもしれないという電話が入った。
 ・・・諦めるしかないか・・・。
 7時45分、オタクの母さんにメールを入れた。
 「今朝は雨で風もこれからまだ酷くなるようなので、今回のキャンプは中止することになりました。オタクの母さん、ごめんなさい」
 オタクの母さんからはすぐに返信があった。
 オフローダーさんにもだださんが連絡した。

 えーん、中止なんてかなしすぎる。
 しかもこれ、私を救う会だよ。
 救われてないよー、半分しか。
 「まだ救われてません」ときっぱり。
 次回よろしく。

 とりあえず朝食を食べているうちに、一時的に雨が上がった。
 さあ、今のうちにテントを撤収だ。
 洗い物を片づけたり、荷物を積み込んだりしていると、またときどき雨が降ったりやんだり、さらに強風も吹いてきて、しっかり立ててあったはずのマタギさん一家のタープが一気に倒壊してしまった。
 さ、さすが台風の風。
 しかしもっとさすがだったのはそれでもびくともしなかった、だださんのタープだった。
 強風群馬のキャンプ地で研究を重ね選んだ強化ペグが威力を発揮。
 効果抜群。

 さてこれからどうしよう。
 みんなキャンプは諦めて帰るとしても、せめてどこか一ヶ所ぐらい一緒に温泉入りたいよね。
 正直富士山周辺の温泉は期待できない。
 値段が高いばかりでお湯的には、どうしても入りたいって感じじゃない。
 増して売りは富士見風呂だろうから、こう天気が悪かったら料金にまったく見合わないこと間違いなし。
 静岡側に下るとしたら・・・
 「佐野川温泉はこないだ行ったけど、思ったほど鮮度抜群ってほどじゃなかった」と晶ちゃん。
 実際かなり遠いだろうし。
 「新稲子川温泉はちょっと興味がある」とyuko_nekoさん。
 新稲子川温泉ユートリオ先月行ったばかりだし、今回水着を持ってくるの忘れちゃったからなぁ。
 下部温泉も連休中じゃ、足下湧出の大市館や源泉舘は入れるかどうか。
 誰かが「初花は?」と言った。
 全員が「おお」と思った。
 初花は甲府盆地の石和温泉よりちょっと北、秩父往還道路近くにある日帰り温泉だ。
 うなぎ屋の温泉として知られ、鮮度の良いにゅるにゅる湯がどかどか掛け流しで湯遣いにも定評がある。
 「ちょっと遠いけど、そのかわり中央道に近いから帰り道は便利だよ」
 「お昼はウナギが食べられる」
 「この人数なら個室を借りよう」
 というわけで、電話で個室を予約。富士五湖から峠を越えて甲府盆地を目指すことになった。

 ここでマタギさん一家とはお別れ。
 姐さん女房でバイク乗りの格好いいマタギの奥さんと、一見怖そうなんだけどお酒が入るとフレンドリーなマタギの旦那さん、そしてみんなのアイドル、アラスカマラミュートのレイラちゃん。
 次回はレイラちゃんの引く犬ゾリに乗せてもらう雪上キャンプにしようと約束して、さよならした。



 初花は確か、ちょっと場所が判りにくかったかなぁと思っている我が家は、黙ってがっちゃんの車の後をついていくことにした。
 朝、一時的に迫力有る姿を現した富士山はもうまた見えない。
 がっちゃん車がウィンカーを出して曲がり、停まったのは道の駅 朝霧高原。
 うちのカナとレナは、ちび姫ちゃんと一緒にがっちゃん車に乗っていたから、ジュースなど買ってもらっていた(ありがとです)。
 建物の中に消えたがっちゃんは、しばらくして戻ってきて、
 「この道の駅、いいもの売ってるよ」と教えてくれた。
 yuko_nekoさんはまだ中で買い物を続けているという。
 「ハムとかソーセージとかね、試食もさせてくれて、旨いの」
 へー。次に本栖湖キャンプに来るときに、ここで買い出しをするのもいいかもなぁ。
 で、車から降りもせずに私が何をしていたのかというと・・・
 今夜の宿探し。
 パパがキャンプ場を出てからすぐに、せっかくだからもう一泊していくかと言ったから。
 カナも今朝、まだ帰りたくな〜いと言っていたしな。
 パソコン開けて、携帯経由でネットに繋いで・・・。
 トクー!トラベル とかで当日の空きを調べる。
 もちろん無いことは無いんだけど、連休なか日でありながら、家族4人で三万円以内と思いっきり金に糸目を付けているし、場所は初花から車で1時間以内、二食付きの温泉旅館で、できれば石和温泉とかみたいな歓楽街的温泉街じゃない方がいいなぁ・・・なんて無茶苦茶な条件をつけると、見つかるものも見つかりゃしない。
 ようやく初花に到着する頃、全ての条件をクリアした藪ノ湯なる温泉を発見したところだった。
 車から降りてyuko_nekoさんに、藪ノ湯って知ってる?と聞いてみた。
 「泊まったことあるよ」
 おっ、やった。
 「どんなとこ?」
 「うーん・・・部屋も食事もお風呂も・・・」
 「酷かった」と、がっちゃんが続けた。
 ・・・そ、そうか。そうなんだ。
 「Mってとこでしょ?」
 「いや、Sだけど」と私。
 一応候補に挙げたところとは違う宿だったらしい。でもまあ、それで藪ノ湯に行く気はすっかり失せてしまった。
 「携帯でJalanのサイトとか見てたんだけど、なかなか予算内で空いているところは無いねぇ。大人四人とかならちょっと安くなるかな」とyuko_nekoさん。
 よ、四人ってことはもしかして・・・。

 到着してすぐにだださんと晶ちゃんもやってきた。
 紺碧七さんだけが遅れていたが、先に入館していることにした。

 みんな初花はリピーターだ。
 我が家も二度目に中津川にキャンプに行った帰りに寄っている。
 1時から3時間で個室をお願いしていたが、入館時間が12時50分だったので、3時50迄でいいですね?と受付で言われる。
 お湯とウナギは極上なのに、こういうところ、ちょっとケチだなぁ。

 個室は二階で、踊子草と桜草という二部屋を繋げてもらった。
 メニューを見ていたら紺碧さんも追いついてきた。
 しらやきが美味しいよねぇ、上の大で、温泉で作った豆腐が食べたい、いろいろみんなで迷いながら注文を決めた。
 ウナギを焼くのは時間がかかるので、パパはさっさとお風呂に行ってしまった。
 紺碧さんは車から温泉のガイドブックなど持ってきてくれたが、残念ながら日帰り温泉の情報ばかり。
 yuko_nekoさんが気になるところを見つけた。
 南アルプス市営の、南アルプス温泉ロッジ
 「ここ、公営だから安いし、いつも空いているのよ」と流石、宿情報に詳しい。
 「だけどいつも空いているっていうのも不安でさ、いいところなのか、悪いところなのか」
 と、とりあえず聞いてみるか? 空きだけでも。
 yuko_nekoさんが携帯を出した。
 「はい・・・もしもし・・・・」
 ひととおり話をして、受話器を押さえてこちらを向く。
 「2食付きで大人一人7,000円、小学生5,700円。部屋はあるって。公営だから何人で泊まっても一人料金は変わらないみたい」
 お風呂から戻ってきたパパが離れたところで腕で丸を作った。
 「はい、じゃあ大人四人、小学生二人、幼稚園児一人です。二部屋希望です」
 い、いいのー?
 がっちゃん仕事が忙しくて最初から2泊はできないんじゃなかったっけ?
 でもがっちゃんはちび姫ちゃんにもう一泊すると宣言してしまった。
 これは決まりということだ。
 一人っ子のちび姫ちゃんはもう今夜もカナと離れるつもりはないらしい。
 し、しかし、我が家だけもう一泊するつもりがあれよあれよと言う間に・・・。

 ちょうどそこへ晶ちゃんとだださんもお風呂から戻ってきた。
 「私たち、もう一泊することにしたんだけど、晶ちゃんたちはどうする?」
 「一泊7,000円で安いしまだ空きが有るみたいだよ」
 「楽しそうだから行っちゃおうかな」
 ・・・あれよあれよあれよあれよと言う間に、元々今日は帰る予定だった紺碧七さん以外の全員が、このまま初花から南アルプス温泉ロッジになだれ込むことになってしまった。
 なんという行き当たりばったりな展開。
 みんな、いいのかー?
 本当にそれでいいのかー?



 おなかいっぱいウナギを食べて、気がついたら3時間取ったはずの個室使用時間も半分以上過ぎてしまった。
 「お風呂行ってくれば?」とパパ。
 子供たちを連れてyuko_nekoさんとお風呂へ。
 脱衣所の一番奥まで行くと、この前は気がつかなかったけどベビーベッド代わりの台もある。浴室にもベビーバスがある。この辺は赤ちゃん連れに寛容だなぁ。

 初花のお湯はにゅるにゅるだ。
 今までに入った中でもTOPクラス。
 あとは長野のあららぎ温泉とか、新潟の大沢山温泉とか。
 しかもシャワー、カランも源泉だから髪の毛を洗っても体を洗ってもシャンプーもボディーソープも落ちていないんじゃないかと思うくらいいつまでもにゅるにゅるする。
 もう本当に贅沢な温泉だ。
 内湯は源泉そのままと加熱したものとあり、他に露天風呂やサウナや井戸水の樽風呂などもある。
 前に入ったときは指の間だけじゃなくて指先までハイターがついたときみたいににゅるにゅるしたが、今回はそこまではしなかった。
 それでもすごい。角質溶けてます、お肌溶けてますっていうくらいの勢いだ。
 色は濃い琥珀色。
 泡付きや匂いは微か。
 非加熱浴槽はほとんど体温ぐらいの温度なので、入っていると入っていることも忘れそうだ。
 でも割とべたべたする温泉だ。

 気がついたら1時間近く経っていた。
 おおっと、ぬるめの温泉はこれだから気をつけなくっちゃ。

 急いで出ると、廊下のところの源泉を紺碧七さんがペットボトルで汲んでいた。
 一応お一人様ペットボトル2、3本まで、ポリタンクはご遠慮下さいとある。

 結局初花を出たのは、個室予約時間が切れるぎりぎりだった。
 雲行きは怪しいが、この辺りは雨は降っていないようだ。やっぱり静岡側とは台風の影響も違うのだろう。
 ここで紺碧七さんとも別れ、残りの一行は突如決まった宿泊先に向けて、一路南アルプス市を目指すのだった。



 何しろ急に決めてしまったものだから財布の中身も心許ない。
 途中で銀行に寄ってお金をおろした。
 町中を走っていたはずがいつの間にか周囲は山の中になり、霧も出てきて薄暗くなってきた。
 しかも細い道なのにどういうわけか反対車線から来る車が多い。
 一台しか通れないようなカーブで、急に三台も大型バスが降りてきて困った。
 この先に何があるのかなぁ。
 この天気にこの時間で、みんなどこから来たんだろう。
 南アルプス林道はマイカー規制のため通行止めと書かれた看板の前で車を停められた。
 「どこへ行くの?」
 「南アルプス温泉ロッジに泊まります」
 「行っていいよ」
 ナビではそろそろ到着するはずだ。
 今まで一軒も家の無かった道沿いに、急に何軒かの宿らしい建物が見えた。
 このあたりは芦安温泉郷というらしい。

 黄昏時に到着した南アルプス温泉ロッジは、豪華さとは無縁の質素な建物だった。
 道向かいに白峰会館という日帰り施設があって、こちらも同じ南アルプス市営、食事処と日帰り温泉と土産物屋があるようだ。
 南アルプス温泉ロッジに宿泊すると、ロッジ内の浴室と、白峰会館の浴室と両方利用できるようになっている。
 露天風呂はないものの、一応白峰会館の方が景色が良く男湯が広く、ロッジの方は景色は見えないが女湯の方が広く作られているそうだ。

 部屋は予想したよりずっと広くて綺麗だった。
 もうこれだけで宿泊費の元は取れたような気がする。
 別に豪華な設備も気の利く仲居さんもいらないよ、我が家の場合。
 平日ならまだしも、9月の連休ど真ん中に、いきなり部屋が空いていてしかも二食付き7千円でしょ。
 破格だと思う。

 子供たちはまた一部屋に集まって人形遊びを始めた。
 さっき初花で入ったばかりだが、ここの温泉も気になるので早速yuko_nekoさんと行ってみることにした。
 外が真っ暗になる前に、白峰会館の展望風呂に行ってみよう。

 ロッジから白峰会館までは道を渡らなくても屋根付きの通路が通じている。
 がっちゃんの向かった男湯は混んでいたようだが、yuko_nekoさんと入った女湯は誰もいなかった。
 窓からは南アルプスの山々と背の高いキバナコスモス。
 お風呂は小さめでタイル張り。
 無色透明のお湯がそそがれている。
 加水加熱循環だというが、半掛け流しぐらいの状態。
 正直、一昔前の公営施設では間違いなく循環風呂だろうなと思っていたが、想像したよりお湯の状態は良かった。
 硫黄臭と言うより一種汚水のような臭いだが、きしつく肌触りは、湯上がり相当すべすべになっていた。初花の効果かと思ったが、この温泉自体にすべすべになる性質があるようだ。
 僅かに泡付き。
 かなりよく温まる。
 さっぱりして、初花のようなべたつきは無かった。



 夕食は食堂で。
 yuko_nekoさんが、部屋が広く綺麗で料金の安い公共施設は往々にして食事がいまいちと言っていたが、まったくその通りだった。
 いやいや贅沢はいけない。
 料金もさながら、さっき贅沢なウナギを食べてきたばかりじゃない。
 これならいっそ素泊まりにしても良かったかもね、と、みんな。
 ランチが遅めだったこともあって、みんなあまりお腹が空いていなかった。

 子供たちを寝かせたのは8時過ぎ。
 レナはぐずぐず言いながら寝て、カナはあっと言う間に眠りに落ちて、ちび姫ちゃんだけ眠れなかったらしく大人が歓談している部屋にやってきた。
 やってきたもののやっぱり眠かったみたいで、電気が煌々とついているのも、大人がわいわい雑談しているのも気にせず、すぐに横になって寝てしまった。
 お疲れのがっちゃんも既に寝ていて、二人が同じ様なポーズで寝ているのが微笑ましい。
 それ以外のメンバーは眠いのも眠いけど、酒とつまみを持ち寄りいつの間にか一室に集って飲み始めた。
 私はまだお腹いっぱいでアルコールも何も入る余裕がなかったけど、みんなビールをがんがん飲んでる。
 飲み過ぎだよ〜、大丈夫かー?
 昨日がスペシャル焼酎の日だったから、今日はビールみたい。
 何度も階下の自販機まで買いに行っていた。
 途中でがっちゃんも目を覚ました。
 少しお腹が空いてきたところで私もチューハイを付き合った。
 あまりに楽しくて時間が過ぎるのも忘れていたので、お開きは午前様だった。
 せっかく温泉に泊まってるんだからと、寝る前にパパに付き合わせてもう一度白峰会館のお風呂に入ってきた。

 何だかねぇ、今日の午前中はまさかこんな展開になるとは思いもしなかったね。

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