あとはそのまま黙ってカーナビに従って吉井町を目指した。
ああ、吉井町と言っても既に平成の大合併で高崎市の一部になっている。今は高崎市の吉井地域とでも呼べばよいのだろうか。
近づくと、頂部を平らに切り取ったようなシルエットの牛伏山の頂上に戦国時代の天守閣のようなものが見えた。
これは城跡ではなく城を模した展望台。
岩櫃城温泉くつろぎの湯なんかもそうだけど、群馬県民、お城の形が好きだね。
湯端温泉は確か一軒宿とは言っても普通の民家のような佇まいだった記憶がある。
この辺りは山の中ではない。しかし町でもない。強いて言えば田園地帯。
緑は多いが幹線道路は広く民家は少ない。とにかく郊外というには田舎寄りで、でも決して観光地ではないそんな感じ。
だいたい一般的なイメージによる温泉地というものは観光地にあるもので、いやいや逆か、温泉があるから温泉地が観光地になるというパターンが多いわけだけれども、そういう意味ではここは温泉宿がありますと言われても、どことなく違和感の残る場所である。
牛伏山は一応観光地であるだろうし、この辺りは蛍の生息地としても知られているので観光客も来るとは思うのだが、ここは作られた観光地ではなく、田舎のおばあちゃんちに帰ったような生活感だけが流れている。
そんな一角に湯端温泉はある。
看板がなければ普通の民家のように見えるが、近づいてみると入り口近くに真新しい板張りの別棟ができていた。「ゆばたのゆ」と素朴なひらがなの書かれた札がついている。