天狗の湯の方は赤御影石を切りだした四角い湯船の浴室と、岩風呂の露天風呂ができていた。
露天風呂の一角には茂四朗トンネルを通した時の大きな貫通石も飾られている。
貫通石の小さいものは、縁起物として天狗の湯の売店でも販売されていた。
吾妻峡温泉天狗の湯と言えば、茹で卵のような臭いが印象に残っている。
ほんのりとした茹で卵と金属の臭いは、同じく八ッ場四兄弟の
林温泉かたくりの湯のような油系バリバリの臭いとはまったく違う印象だった。
しかし今ここにある天狗の湯は全然違っていた。
臭いはほとんど感知できない。きしつくような肌触りは強くカルシウムを感じさせる。
裏を返せばカルシウム以外の特徴は消されてしまっている。
温泉らしさははっきりと残っているものの、整形した美人のようにまるで別人だ。
設備が整って地元民専用でもなくなって、誰でも気軽に利用できるようになったのはいいけれど、源泉の個性を消さず上手に利用するのは難しいのだなとしみじみ思う。
生花が飾られた立派な休憩室や地元の写真が飾られた廊下などを見ると、とても丁寧に運営されていると思う。
四万温泉のこしきの湯で会ったご婦人の言うように、館内にはレストランのたぐいは無く、売店でカップラーメンが売られているだけなのはちょっと寂しいかもしれない。