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◆◇四万温泉・積善館の休日◇◆

5.こしきの湯と湯の泉(せん)






 こしきの湯はそれほど大きくないながら小奇麗な三角屋根の建物だった。
 ここは日帰り温泉である前に四万せせらぎ資料館というダム関係の展示施設も兼ねている。
 四万せせらぎ資料館は群馬県で最初に作られたダム資料館とのことだが、資料館としては小規模だと思う。ここを訪れるほとんどの人の目的は温泉だろう。

 同じく町営の四万清流の湯より100円安い一人400円の入浴料を払って中に入ると、女湯は先客が一人。のんびりと入れそうだった。







 浴槽は石とタイルのごくシンプルなもので、窓は広く取られている。
 一部開閉可能な窓の外は奥行きのごく狭い庭のようなスペースがあり、その向こうに柵があり、そのまた向こうが奥四万湖だ。明るい青緑の水をたたえた、いかにもダム湖という谷間がそのまま沈んだような形をした湖だ。
 対岸は低山と青い空。浮かぶ白雲。
 窓を開ければ少しひんやりした山の風が浴室の籠もった空気を攪拌する。

 お湯は無色透明。臭いはほとんど無い。
 きりりと端正で硬質。けれど不器用で主張の少ない印象。飾り気のないこの施設に似つかわしい。
 けれど浴槽の縁からは順次掛け流されていくそれは、まぎれも無く本当の意味での贅沢な温泉。

 こしきの湯の源泉は、四万温泉では現状唯一のダムより上流のから引かれたものだという。
 この源泉は湯の泉(ゆのせん)、すなわち今から8年ぐらい前までは首都圏近郊では最も有名な野湯と言っても過言では無かったところのものだ。
 残念ながら私は(ほとんどの場合子ども連れだし)野湯には縁が無い。
 だから湯の泉も訪れたことが無く、こうして今、ああこれが湯の泉のお湯なのかとしみじみひたるのみ。





 「あの窓から見える道路、あのあたりに結構熊が出るのよ」と同浴していた女性。
 中之条町にお住まいで、特に夏場はこしきの湯を訪れることが多いそうだ。
 「四万のお湯はどこも熱いけど、こしきの湯は熱すぎなくてちょうどいいからねぇ。それにいつ来ても空いていてお風呂でも休憩室でもゆっくりできるし」
 そうなのだ。四万温泉には施設や料金的に優れた施設は他にあるが、例えば露天風呂などにこだわらなければ空いていてのんびりできるという理由でこしきの湯を選ぶのは十分有りなのだ。
 「逆に冬によく行くのは八ツ場ダムのところの天狗の湯なんだけど、あそこは移転してから引き湯の距離が延びてぬるくなっちゃったから残念なの。行ったことはあるかしら?」
 「あります。建て替える前ですが」
 「お湯もそうなんだけど、せっかく綺麗にしたのに食事がカップラーメンぐらいしか無いのはいまいちだわ」
 ふーん。建て替えた天狗の湯にはちょっと興味があった。
 前が良かった分、お湯に期待はできないと思うが、利用しやすくなったならそれはそれで利点だ。

 私は同浴者が上がってしまった後も、しばらく一人で窓の外を見ながら湯あみを続けた。
 子どもたちもいないし急ぐ旅でも無い。
 こんなにゆっくりできることはそんなに無いのだから。



1-6落合通りの中島屋へ続く


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