5.こしきの湯と湯の泉(せん)
こしきの湯はそれほど大きくないながら小奇麗な三角屋根の建物だった。
ここは日帰り温泉である前に四万せせらぎ資料館というダム関係の展示施設も兼ねている。
四万せせらぎ資料館は群馬県で最初に作られたダム資料館とのことだが、資料館としては小規模だと思う。ここを訪れるほとんどの人の目的は温泉だろう。
同じく町営の
四万清流の湯より100円安い一人400円の入浴料を払って中に入ると、女湯は先客が一人。のんびりと入れそうだった。
「あの窓から見える道路、あのあたりに結構熊が出るのよ」と同浴していた女性。
中之条町にお住まいで、特に夏場はこしきの湯を訪れることが多いそうだ。
「四万のお湯はどこも熱いけど、こしきの湯は熱すぎなくてちょうどいいからねぇ。それにいつ来ても空いていてお風呂でも休憩室でもゆっくりできるし」
そうなのだ。四万温泉には施設や料金的に優れた施設は他にあるが、例えば露天風呂などにこだわらなければ空いていてのんびりできるという理由でこしきの湯を選ぶのは十分有りなのだ。
「逆に冬によく行くのは八ツ場ダムのところの
天狗の湯なんだけど、あそこは移転してから引き湯の距離が延びてぬるくなっちゃったから残念なの。行ったことはあるかしら?」
「あります。建て替える前ですが」
「お湯もそうなんだけど、せっかく綺麗にしたのに食事がカップラーメンぐらいしか無いのはいまいちだわ」
ふーん。建て替えた天狗の湯にはちょっと興味があった。
前が良かった分、お湯に期待はできないと思うが、利用しやすくなったならそれはそれで利点だ。
私は同浴者が上がってしまった後も、しばらく一人で窓の外を見ながら湯あみを続けた。
子どもたちもいないし急ぐ旅でも無い。
こんなにゆっくりできることはそんなに無いのだから。