我が家では子供の就寝時間は9時と決まっている。まあ最近では9時にベッドに入れてもその後1時間ぐらい姉妹でぺちゃくちゃとおしゃべりしている日もあるが。
そろそろ子どもたちの寝る準備をさせようと思っていた。
もうお風呂上がりにパジャマ代わりの服に着替えさせているし、布団も敷かれている。後は歯を磨くだけだ。
「今、歯磨きを済ませたら、後は好きなだけ起きていてもいいから。というか、寝たくなったら寝れば良い」
旅行の時は規律も弛む。お友達と一緒の夜だし、とりあえず好きなだけ遊ばせようと思っていた。
「とにかく歯を磨こう」
「は~い」
歯磨きセットを出し、コップに水を入れる。子供部屋に洗面設備がついていないのは仕方ない。廊下の水道で磨かせる。
子どもたちの寝る準備が整ったら、私は行きたい場所があった。
前々から四万に来る度にyuko_nekoさんとがっちゃんが飲みに行くという店「あすなろ」にちょっと連れていってもらおうと思っていた。
あすなろは
たむらの坂を下って
積善館の前を通り、さらに荻橋近くまで歩いて、橋よりはちょっと手前。土産物屋の高田屋とバス停の間の引っ込んだ所にある。
一応トンカツ屋ということになっているようだが、yuko_nekoさんたちの話を聞いていると飲み屋のイメージの方が強い。
ラーメンなども置いているが、何でも息子さんは本格的な中華の勉強をした人だそうで、料理全般侮れない美味しさなのだとか。
味以上に聞こえてくるのはあすなろマスターの人柄のウワサ。
エンジンが掛かっちゃうと飲めや飲めやであのyuko_nekoさんすらつぶれるまで帰れないという。
だからぜひとも四万に泊まる機会があれば寄りたいと思っていた。
あすなろ・・・いったいどんな店?
「いらっしゃーい」
カウンターの中で出迎えてくれたマスターは、yuko_nekoさんたちの話を聞いてイメージしていたよりインテリな雰囲気の小柄な人だった。
もうすっかり顔なじみのがっちゃんたちはにやにやしている。
店はまだ空いていて、私たちは適当な席に座った。
「ここのソテーが旨いんだよ」とがっちゃんが言うのでまずはソテーを注文する。
やってきたメンバーはyuko_nekoさん、がっちゃん、えんぴつさん、くららさん、そして私。
早速yuko_nekoさんたちがマスターに「秘蔵のあれをちょうだい」と言う。
秘蔵のあれ、とは、メニューでも裏メニューでもなく、うこんの錠剤のこと。事前に探したyuko_nekoさんはついに
四万温泉の薬局で手に入れられなかったらしい。
しょうがないなーとマスターは錠剤を出した。
「これしかないよ」
三人分。
既にドリンク剤のうこんを飲んでいたyuko_nekoさんとがっちゃんは私たちにその錠剤を譲ってくれた。
「これを飲むと翌日、楽だよー」
そんなに効くのかと私も飲ませてもらった。ごっくん。
なんか怪しいクスリでも取り引きしているみたいだな。
「錠剤はあれしかないけど」と、マスターはうこん酒も作ってyuko_nekoさんの前に置いた。
ソテーが来るとくららさんがワインが飲みたいと言い出した。
「そうだよね、これにはワインが合いそうだよね」とyuko_nekoさん。マスターにワインは無いか聞いてみる。
「無いよ」
そこをなんとか。
マスターは探して一本持ってきた。
もしかしたら自宅用だったかもしれない。
「これでもよけりゃ」
もうまったく我々は我が儘な客だった。みんなでワインを飲みながらソテーをつまむ。
いつの間にか次々とお客さんが入ってきて、見回すと店内はほぼ満席になっていた。