子連れ旅行温泉日記の目次子連れ温泉ガイド地熱愛好会 > 子連れ旅行温泉日記 > 四万たむらの休日(テキスト版) > 初日

四万たむらの休日


初日 2005年11月19日(土)

 屋根の上に北斗七星が瞬いているのが見えた。
 11月の日の出は遅い。
 朝5時。
 高速道路のETC割引と渋滞回避のため、今回も暗い中出発した。

 私の掲示板で四万温泉行きの話が出たのはいつだろうか。
 9月に田貫湖へみんなでキャンプに行ったときに、四万温泉の蕎麦屋中島屋の小枝子パパが、行きたいけど仕事があるので週末泊まりなら地元でないと無理だなと言ったことが始まりだったかもしれない。
 あれよあれよと話は進み、時期は11月。目的は早めの忘年会。参加者は・・・気が付いたら25人を超えていた。
 これもみんな、幹事や手配を引き受けてくれただださん、晶ちゃん、小枝子パパの手腕と人望に寄るのだろう。
 会場は驚いたことに四万たむらの花湧館と決まった。
 四万たむらと言えば、初めて四万へ行ったとき、うっかり迷い込みそうになり、入り口のあまりのゴージャスぶりに目を回したあそこだ。
 四万たむらには、たむら、四万グランドホテル、そして今回泊まる予定の花湧館と三種類の施設があり、どこに泊まっても全部のお風呂に入れるという。
 お風呂だけでいくつあるんだろう。
 ・・・ちゃんと数えていないが12ぐらいありそうだ。
 全部入りたいけど無理だろうな。
 でもこれを逃したら一生四万たむらに縁がないかもしれないし。

 幹事の晶ちゃんから、チェックインは2時からだが、宿泊客は11時からお風呂に入れてもらえると聞き、また、たむらに2度宿泊経験のあるyuko_nekoさんから、たむらには温水プールもあるという情報を頂き、それでは11時からプールで子供たちを遊ばせようと計画したのだが、何故か通年営業のはずの温水プールは、小枝子パパによると今はぬるくて使えないとのこと。
 いつものように早朝に家を出て、朝早く群馬に着いたらチェックインまでどうするか、いきなり途方に暮れてしまった。

 何のプランもないまま、とにかく夜明け前の5時には家を出た。
 ETCの夜間割引を使うため、練馬ICから100キロ以内の前橋ICで関越道を降りる。
 最初に目に付いたまるまつという和風ファミレスに入り、ゆっくり朝食を食べた。
 どうせ時間は沢山あるのだ。

 「パパ、何かアイデアある?」
 「え?」
 何だかにやにやしている。
 「何か考えてるんでしょ」
 「・・・榛名山を登ってみようと思って」

 榛名山の榛名湖は私たちにとって思い出の場所だ。
 湖際の、そう賑やかな一角とは少し離れた榛名湖温泉のある辺り。
 あそこに私たちのお気に入りの宿があって、夏を除き春に秋に冬に・・・去年の3月まで11回も通ったのだ。
 まだ二年も過ぎていないのか。
 まるでずっと昔のことのようだ。
 窓から見る鏡のように凪いだ榛名湖。
 雪を被った湖畔の木々。
 朝の冷たい空気の中、鳥の声を追って散策したこと。
 階段のところにかまくらを作ったり滑り台を作ったりして遊んだこと。
 子供たちがよく遊んでいた和室やキッチン横のカウンター。
 ロビーの甘酒。
 スノーキャンドル。

 あれからしばらくは、もう榛名山には登るまいと思っていた。
 悲しくなるから。

 私たちは榛名山の東面をまずは伊香保目指して登り始めた。
 今年の遅い紅葉は、ちょうど麓から伊香保辺りまで鮮やかに目を楽しませてくれた。
 伊香保は水道水疑惑以来、すっかり信頼を失っている。
 少しは活気を取り戻したろうか。
 榛名湖の宿同様の経営であった伊香保の宿は、私たちも一度泊まったことがある。
 榛名湖の宿とともに売りに出され、榛名湖の方は榛名町が買い取ったものの伊香保はついに買い手が付かなかったと聞いている。
 通りすがりにちらりと見てみたら、入り口にはガムテープが貼られ使われている様子はまったく無かった。
 歴史ある伊香保の本線(金泉)を引いている宿だったのに・・・。

 途中の展望台で少し写真を撮り、それから見慣れた道をさらに登る。
 キャンプ場の入り口を過ぎて突き当たりを右へ。
 ああ、何度この道を通ったことか。

 車を停めてパパが言った。
 「カナ、レナ、覚えてる?」

 もしかしたらレナなんて覚えていないんじゃないかと思っていた。
 だけど車を降りたレナは、懐かしい湖の見えるおうちの前でいきなり泣き出してしまった。
 「どうしてもうここに入れないの?」とレナ。
 「夜になるとエレベーターが止まっちゃってお風呂から部屋に戻れなくなっちゃうんだよね」とカナ。
 そうだよね。二人ともしっかり覚えてるんだね。
 寒空の下、金曜日の泊まり客はいないのか、門は固く閉ざされていた。
 たぶん今日の午後になれば週末を過ごす客がチェックインするのだろう。
 湖の見えるおうちの隣に立つ紅葉はまさに見頃で、じっと見つめているとぼんやりとにじんできた。
 もうここに泊まることは無い。
 たぶんね。



 時間だけはたっぷりあったので、朝早く人けのない榛名湖をぐるりと車で一周した。
 どの角度からの景色も見慣れたもの。よく知っている場所ばかり。
 ここでワカサギ定食食べたなぁとか。
 ここから凍った湖上に降りてソリ遊びをしたなぁとか。

 そして一周半した後、北側の道を下った。
 そう、いつも草津や浅間隠や川原湯や四万へ通ったあの道。
 やがて左手に真っ白な浅間山が遠く見え、下りきると正面に山水画のように印象的な岩櫃山。

 榛名山を下ってからは吾妻川に沿って長野街道を中之条町方面へ。
 とにかく今回は朝の時間つぶしのあてがない。
 今回の宿泊メンバーの中で同じく子供連れのyuko_nekoさんに何かプランがあれば便乗させてもらおうと思ったのだが、彼女たちの一家は夜中にがっちゃんが帰ってきた後、夕食を食べて支度を整えて午前1時半には家を出て、嵐山で夜明かししたらしい。
 そして今朝は真っ直ぐ川原湯へ向かっているはず。
 がっちゃんが川原湯と四万の温泉卵の味の違いを研究するんだと息巻いていると聞いたので、吾妻川のもっと上流の方にいるはずだ。

 四万温泉の近くで子供と遊べるところ・・・。
 思いつくのは中之条町嵩山のたけやま公園と、薬草とハーブのテーマパーク薬王園ぐらい。
 たけやま公園は以前、yuko_nekoさんに教えてもらった。
 でも四万に行くのはいつも冬ばかりで寒そうだったので、まだ一度も行ったことがない。
 今回行くにもやはり気温がネックかなと思う。
 早朝は特に寒そうだ。
 薬王園の方は薬草やら薬膳料理やらにはパパも子供たちも興味が無さそうだったし、何やら宗教がかっていそうな雰囲気があって敬遠していた。
 でも、
 「この薬王園の工芸体験はちょっと面白そう。カナは工作とか大好きだし、どうかな」
 パパも「いいんじゃない」と言う。
 じゃ、今日は薬王園に行ってみますか。
 そして実際に足を運んでみると、薬王園を運営しているのは宗教団体ではなくてJA沢田だった。何だ、農協だったのか。紛らわしい。

 薬王園の入り口には巨大な白い像が二体立っている。
 医薬の祖、因幡の白兎の物語や素戔嗚尊の娘婿として知られる大国主尊と、古代中国の農耕と商業を司った神、神農の二人だそうだ。
 これがどうも、宗教がかって見える理由の一つだろう。

 薬王園の入場料大人800円を払わないと工芸体験も出来ないのかと思っていたら、工芸体験村の方は独立していて入場料を払わなくても利用できると受付で教えてくれた。
 工芸体験村は木工館と陶芸館に別れている。
 この他に薬王園内にもうひとつハーブ館というのがあって、この三ヶ所で体験ができるようになっている。
 木工館は木彫り・木工細工と草木染めを体験することができる。
 陶芸館は手ロクロか電動ロクロを選び湯飲みや皿などを作ることができる。
 ハーブ館は押し花細工やハーブソープ、ハーブキャンドルなどを作る。
 ちなみにハーブ館は12月後半から2月いっぱいは休館になる。

 陶芸館で作る作品は完成までに日数がかかるので、その場で作り上げることのできる木工館を選ぶことにした。

 一軒家のような建物の中には、優しそうな係りのおばさんが二人ほど控えていて、いろいろと見本を見せて下さった。
 カナが最初に興味を惹かれたのは蓋付き小鉢だったが、これは1,800円と高い上に細工も難しそうだ。
 パパは手軽なキーホルダーを押したが、カナはうんと言わない。
 おばさんが、女の子だったら手鏡なんてどうかしらと言ってくれて、カナもレナも手鏡に細工をすることに決めた。

 おばさんは日当たりの良い部屋に道具を運んでくれて、簡単に説明してくれた。
 まず電動ヤスリで角を丸めて、それから手鏡の台の部分に鉛筆で好きな絵を描く。
 それから電気ペンを使い表面を焦がして下書きをなぞり、鉛筆の線は消しゴムで消す。
 色を塗ってスプレーで艶を出して、乾かして完成。

 二人は今、ポケモンにはまっている。
 今回も二人してポケモン全キャラ大図鑑とやらを持参している。
 これを見ながら手鏡をデザインするのだそうだ。

 カナはアメボーズという、タコのようなアメンボのようなポケモンを、レナはラブカスというハート型の熱帯魚のようなポケモンを描くことにした。
 下書きを終えて電気ペンを持つ。
 先端に針金がついていて、それが電気を通すことにより高熱になり、木に焼けこげを作ることができるという仕組みだ。
 レナは中心のラブカスだけは綺麗になぞる自信がないからと母にやらせたが、それでも周りの模様などは全部自分で一つずつ丁寧に描いていった。
 カナはやっぱり母に頼もうとしたがすげなく断られ、全て自分でなぞった。
 色付けは木工用の絵の具。
 赤、黄色、オレンジ、緑、茶・・・。
 カナがアメボーズの顔は青だからどうしても青が塗りたいと言って、特別に青も出してもらった。
 青はくすんで見えるので、普段は出さないのだそうだ。

 綺麗に出来上がったところでちょうど良い時間。
 薬王園から四万温泉まで車で15分ほど。
 おばさんたちは、距離は近いけど山の中に入るから、四万では今朝雪が降ったみたいよと教えてくれた。



 薬王園を出たところで、yuko_nekoさんからメールが入っていたのに気づいた。
 川原湯で知り合いののびーさんに会って、これからのびーさんの案内でどこか温泉に入ってくると書いてある。
 のびーさんにはまだお会いしたことがないが、あえてどこかに連れていってくれるとあるからには、ガイドブックに載っていない系の温泉に違いない。
 場所からして八ツ場四兄弟か、さもなくば平治・・・。
 うーん、川原湯から四万へ向かうんだからやっぱり八ツ場かな。
 後で聞いたらやっぱり当たりだった。

 沢渡方面との分岐を過ぎてすぐに、エメラルドグリーンの四万湖が見えてくる。
 紅葉は終わり掛けだが、湖面は静かで凪いでいた。
 ちょっと車を停めて。
 お願い。
 ああ、光が当たったらもっと綺麗だろうなぁ。

 四万湖を過ぎればやがて見慣れた四万の温泉街だ。
 かなり紅葉が残っている。
 例年なら10月終盤、どんなに遅くても11月10日には落ちてしまうと、四万の蕎麦屋の主、小枝子パパが教えてくれたのだが、まるで今年の紅葉は私たちの訪問を待っていてくれたかのようだ。
 山口エリアを過ぎて新湯エリアに入ると、もう目指す四万たむらは道の先。
 「千と千尋の神隠し」の舞台じゃないか?なんて噂されたこともある積善館を左手に見ながら坂道を登れば、なんと坂道の頂上はそのままたむらの玄関になっている。

 どっしりとした入母屋造り茅葺き屋根の建物が出迎える。
 重厚だし、歴史を感じさせるし、何より建物までのスペースの取り方が、悠々として贅沢感を感じさせる。
 本当にこんなところに泊まらせてもらって良いのだろうか。
 正面に車をつけると、早速たむらの従業員が出てきて、お泊まりのお客様でいらっしゃいますか?と丁寧に聞いてきた。
 「はい、花湧館ですが。えーと、予約は・・・」
 「団体扱いでいらっしゃいますと・・・○×チューリップの会様ですか? それとも全国温泉友の会様?」
 「あっ、それです。温泉友の会」
 ちょっと恥ずかしい団体名だなぁ。でもいろいろ考えてだださんたちがつけてくれたのかな。
 「お車はこちらで移動させていただきますので」
 車を降りる時にカナとレナに聞いてみた。
 「お腹空いた?」
 「空いてない」
 じゃ、今から小枝子パパの中島屋へ昼食を食べに行こうかと思っていたけど、予定は変更。先にたむらのお風呂に入らせてもらうことにしよう。



 晶ちゃんから事前に、チェックインは2時からだけど11時からお風呂には入れると聞いていたので、早速玄関から入らせてもらった。
 若そうな従業員のお姉さんが、「先にお風呂に入られる方ですね、ちゃんと伺ってます」とすかさず温泉タオルを渡して下さった。
 早速カナとレナが、作ってきたばかりの手鏡を披露する。
 「これね、自分で描いたんだよ」
 「うわぁ、凄い。こんなの作れるんだ」
 お姉さんは、ちゃんと子供に合わせて驚いてくれる。
 「今、近くの薬王園の工芸体験で作らせてもらったんです」
 まさかこのときは、この会話が後で役立つことになるとは思いもしなかった。

 四万たむらのロビーはちょうど新湯川に面してガラス張りになっている。
 川縁の紅葉が赤く染まっている。
 これは露天風呂からの景観も期待できそう。

 「お風呂は沢山あるみたいだけど、どこへ行く?」とパパ。
 「森のこだま」
 四万たむらの中でも一番景色の良い露天風呂が森のこだまだ。
 チェックイン前に入れるとしたら絶対ここと決めていた。
 お湯が良いところは他にもあるかもしれないけど、絶対森のこだまが一番人気だから混む前に入りたい。できれば独占したい。
 それに冬の日は短い。
 絶景露天風呂は絶対に少しでも日の高いうちに入っておくべき。

 まるで館内は迷路のようだった。
 方向音痴の私には、とても一度では覚えきれない。
 エレベーターに乗ったり、ラウンジの前を通ったりして、ようやく森のこだまの入り口に着いた。
 幸いにも先客は一名。
 それもちょうど上がるところらしい。



 「うっわぁい」
 それはもう素敵な露天風呂だった。
 紅葉に染まった新湯川を少し上から見下ろすようになっていて、屋根はついているものの開放感も十分だ。
 お湯はそれほど熱くない。
 ちょっと加水しすぎだと思うくらいだ。
 ひんやりした空気の中、川沿いの木々は橙色に染まり、川面を彩っている。
 秋の終わりを感じさせる鈍色の空からは、ときおり儚い粉雪が降りてくる。
 そして四万のお湯。
 大好きなんだ、四万温泉のお湯は。
 草津より好きだと思う。
 きしつく中に少しぬるぬるする感じもあって良い肌触りで、身のうちからぽかぽと温まってくる。
 四万温泉で紅葉露天風呂を独占・・・。
 もうこれだけで、上州まで来た甲斐があるというもの。

 少し経つと若いお姉さんたちが数人どやどやと入ってきた。
 掛け湯もせずにばしゃばしゃとお湯に入る。
 うーん、ちょっと考えものだなぁ。
 四万たむらには沢山お風呂があるから、もしかしたらたった今、別のお風呂に入ってきたばかりなのかもしれないけどさ。
 少しばかり興醒め。

 子供たちがパパを呼んだ。
 男湯は下だ。
 森のこだま露天風呂は二階建てになっていて、下が男湯、上が女湯なのだ。
 パパの返事が聞こえた。
 下を見下ろすと男湯の屋根の部分が見えた。
 もしかしたらこのお風呂、男湯より女湯の方が眺めが上かもしれないな。
 だってこんなに凄い景色なんだもの。
 しかし、後でパパが撮影した男湯の画像を見てがっかり。
 男湯は低い位置にある分、ちょうど脇の赤く染まった紅葉が湯面に映えて、それはそれで絵になっていた。
 というわけで、どっちの方が良い景色かは、結局よく判らなかった。



 お風呂から上がると、yuko_nekoさんと電話が繋がった。
 こちらはこれから中島屋で昼食にしようと思っていると伝えると、yuko_nekoさんたちも中島屋へ行きたいと言う。
 四万たむらの駐車場に車を停めて、坂を下り、積善館の正面の細い道、落合通りに入れば、中島屋はすぐ判るよと説明して電話を切った。
 私たちも車はたむらに預けたまま、歩いて落合通りに入った。
 昼食時の中島屋は混雑していて、既に席の空くのを待っている客が数人いた。
 ようやく少し入れ替えがあって、店内に入ると、畳席のテーブルには知った顔ばかり並んでいた。

 ええと・・・今回の幹事のだださんと晶ちゃん。それから紺碧七さんとばばちゃん、義満さんの顔は判る。
 あと何人か知らない方がいる。
 出席者の中でお会いしたことが無いのは確か、たーくんご一家、サンダーバード隊、そしてやませみさん。
 あれ、カナと同じくらいの女の子が一人いる。
 yuko_nekoさんちのちび姫ちゃん以外に子供の出席者がいると聞いていなかったけど、たーくんさんのところは「一家」となっていたのでもしかしたらこちらのお嬢さんかもしれない。
 あと、あの雰囲気はおっとりしていそうなのに目つきの鋭い方がもしかしたらやませみさんかなぁ・・・。

 店内は大混雑だったので、今回のオフのメンバーがどっと席を立ったところでようやく私たちも座ることができた。
 ちょうど入れ違いになってしまったが、この後どうせ合流するのだから挨拶はそのときでいいみたい。

 さてここで蕎麦や親子丼を食べながら、温泉一號なる四万温泉水仕込み日本酒やら、パパお好みの中島屋特製(?)焼酎の蕎麦湯割やらを飲んでいると、そこへカップルが入ってきた。
 中島屋の奥さんが「オフの出席者ですよ」と教えてくれた。
 それは3年前に一度、埼玉のホテルヘリテイジ四季の湯でお会いしたオリーブさんと、旦那様のポパイさんだった。
 あのときは気づかなかったが、オリーブさんは私の実妹によく似ている。
 何だか話をしているとうっかりと妹と話をしている気になってしまうくらい。
 さらにしばらくして、yuko_nekoさん一同も中島屋にやってきた。このころには既に昼食ラッシュも過ぎて店内はかなり空き始めていた。

 中島屋の蕎麦は美味しい。
 親子丼の卵のとろけ方も素晴らしい。
 まあ親子丼はほとんど親の口には入らなかった。子供たちががつがつ食べちゃったから。

 yuko_nekoさんと、がっちゃんと、ちび姫ちゃん、そして今回初対面ののび〜さん。
 yuko_nekoさんは私とのび〜さんが初対面と知って驚いた。
 後でやませみさんとも初対面だと知ってもっと驚いていた。
 だってさ、うちは泊まりがけのオフは、キャンプ以外参加したことないんだよ。旅館でみんなで集まるなんて初めてなんだってば。
 意外だった?

 食べ終わった頃、中島屋の小枝子パパが奥からあらわれた。
 小枝子パパというのは、蕎麦屋のダンディな主人であらせられるのだが、以前は「小枝子」という女性名で「こんばんワ、小枝子です」などと若い女性を装ってネットに出没していたため、その正体を知らない犠牲者たちは、中島屋には重い撮影セットを軽々と操る美女がいるらしいと勝手な想像を思いめぐらせていたものだ。
 実は架空のアイドルであった小枝子さんの名前は、小枝子パパが生まれたお嬢さんにつけたいと考えていた名前であったものだという(実際は事情により、小枝子さんという名前は使われなかった)。
 そこでしばらくの休止後、ネットに復活したとき、彼は正体を明かして「小枝子(の父)」と名乗ることにした(何故括弧がついているかはさておき)。
 ところが、当の小枝子さんこと、小枝子パパの実のお嬢さんが先日結婚されて、お子さんを出産されたことから、なんと小枝子(の父)さんはある日、小枝子(の爺)さんとなってしまった。
 いやいや、父なのはあくまでも小枝子さんに対してで、お孫さんが小枝子さんではないのだから、小枝子の父で正しいのだが、ご本人や周りの人たちが茶化したこともあり、一部では「小枝子(の○)」さんとも呼ばれている(○の中にはお好きな字を)。

 「もしかして・・・今日の参加メンバー、既に全員、中島屋で昼食食べてません?」と私。
 「義満さんが一番乗りだったね」と小枝子パパ。
 うーん・・・でも、まだ誰かに会っていないような・・・。
 「takayamaさんだ」
 そうだ、takayamaさんの姿を見ていないじゃん。
 「ま、どっかのお風呂に入ってからあらわれるでしょ」と小枝子パパが言う。
 最後に中島屋のおばあちゃんと、子供たちで並んで記念撮影させてもらった。
 小枝子パパのお孫さんも一緒だ。
 ぷっくりにこにこしていてかっわいいね。これはもう、小枝子パパが孫にめろめろになっちゃうわけが判る。
 中島屋のおばあちゃんにしてみれば、曾孫なんだ。
 やっぱりおばあちゃんのこの若さの秘訣は絶対四万温泉の効能だと思うのだが。



 四万たむらに戻ると、takayamaさんと小枝子パパを除きみんな集合していた。
 四万たむらの本館と、湯治棟の花湧館の間は、いったん玄関を出て外を通った方が近いのだが、地下の廊下でも繋がっている。
 後で小枝子パパと晶ちゃんに、みんなこの廊下を通ると暗〜くなるんだよ、と教えてもらった。
 豪華でぴかぴかだったたむらと比べて、廊下の先は如何にも古びていてがっくりするのだそうだ。
 ま、まあ確かにギャップは激しい。
 でもそれはあくまでもたむらの玄関から入って帳場でチェックイン手続きをしたからで、最初から花湧館だけ見れば別に粗末でもなんでもない。
 何事も上を見ればきりがないのだ。
 しかもお風呂だけは花湧館に泊まろうと、グランドホテルに泊まろうと、たむら系列の全てのお風呂に隔たり無く入れるのだし。

 ここで少しトラブルがあった。
 だださんと晶ちゃんが先にたむらと打ち合わせをして、下見もさせてもらったのに、今日案内された部屋が、予約した部屋と違うと言うのだ。
 責任感の強い晶ちゃんが涙ぐんでしまったが、全員分の布団さえあればあとは誰も細かいことは気にしないって。
 子供が二人いるということで、幹事さんたちは我が家には特別にトイレ付きの部屋を振り分けてくれた。
 これはありがたかった。
 なぜなら、寝る直前までその部屋は、私たち一家の部屋ではなく、子供部屋として機能していたからだ。
 我が家の二人の娘たちと、yuko_nekoさんちのちび姫ちゃん、そしてたーくん一家のMちゃん。この四人がずっとその部屋の中で仲良く遊んでいたので、廊下に出なくてもトイレが付いた部屋はとても役に立った。

 最近のキャンプオフなどでは、子供連れはうちとyuko_nekoさんちだけのことが多いので、そうするといつも3人だ。
 ちび姫ちゃんとカナで遊び始めてしまうと、レナはだいたいついていけなくなって親の所へ逃げてくる。
 今回は四人なので力関係が変わるかなと期待してみた。
 一番年上なのは小学三年生のちび姫ちゃんだ。続いてMちゃんとカナが二年生。レナが幼稚園年長。
 まずMちゃんが様子を見てリーダーシップを取りにかかる。ちび姫ちゃんも負けてはおらず、微妙に緊張が走る。カナはまったく何処を吹く風。レナは背伸び。
 結局、一番年下のレナが使いっ走りなのは相変わらずだったが、後は四人でバランスを取り合ったらしい。最後まで脱落者は出なかった。
 あとは・・・
 実は今までの旅行では、子供たちは人形遊びをしていることが多かった。
 しかし今回は、ちび姫ちゃんとMちゃんは携帯ゲーム機を持参していた。
 我が家にはゲーム機は無い。
 うちの子供たちは、たぶん今時珍しく、ニンテンドーとかプレステとかとは無縁で育ってきた。家で代わりになるものと言えば、もうネットに繋げなくなった古いパソコンに入れたフラッシュなんかの単調なゲームが少し。
 幸い、カナにはレナ、レナにはカナという同性の遊び相手が常にいたため、機械を相手にさせる必要がなく済んでいたのだ。
 そう、今までは。
 たぶんどこかで洗礼を受けざるを得ないだろうなとは思っていた。
 それが今日だった。
 カナもレナも、ちび姫ちゃんとMちゃんのゲーム機に興味津々。
 そして貸してもらうや否や、もう目は爛々。
 よくテレビのCMで見ているゲームとはこれだったのかと。
 そして親の顔を見るなり、「買って」。
 あのね・・・
 何でも「買って」と言えば手に入ると思ってはいけないぞ。
 親としては、もうちょっと引き延ばしたい。



 部屋で落ち着いたところで子供たちを残し、親はお風呂に行ってくることにした。
 森のこだまはさっき入ったし、花湧館の翠の湯は夜に入ればいいから、今度はがっちゃんが、気に入っているという御夢想の湯に行くことにした。
 御夢想の湯は総檜の内風呂だ。
 四万の御夢想の湯といえば、日向見にある共同浴場だが、ここもネーミングの由来は同じだ。
 大江山の酒天童子を退治した碓井貞光の夢枕に童子が立ち、霊泉を授けたと言われる伝説が起源だ。
 思ったより広々とした綺麗な浴室で、湯気が籠もっている。
 先ほどの森のこだまと違って、出汁のような臭いがほんのりと漂っている。
 てっきりアブラ臭の一種かなと思ったのだが、後でやませみさんにそれは木の臭いだと教えてもらった。
 浴槽や浴室の材質で、こんなにもお湯の印象が変わるのだなと実感させられた。

 御夢想の湯の脱衣所からは、もうひとつ庭園露天風呂 甌穴へも出ることができる。
 かなりぬるめだった。
 yuko_nekoさんに、先端の方に行くと建物の窓から丸見えなんだと聞かされて、思わず振り返ってしまった。
 庭園露天風呂と言ってもそれほど景色は良くない。男湯の方はもうちょっと良いのかもしれない。



 お風呂から上がって、部屋に戻ると、あれ? 変だ。子供たちが四人ともいない。
 部屋はシンと静まり返っている。
 まさかみんなでどこかへ行っちゃったのかな。
 そうっと襖を開けてみると
 「きゃ〜」
 座布団などを仕舞ってある狭いスペースに、女の子四人が鮨詰めになって笑っていた。
 大人が帰ってきたらびっくりさせようと、15分以上も息を殺して待っていたんだって。
 チームワークの良さにびっくりだ。

 宴会時間の前に、仕事を早めに切り上げた小枝子パパと、ザスパ草津の応援に行っていたというtakayamaさんが登場した。
 ちなみにザスパは負けたらしい。
 宴会前だというのに、みんな一室に集まって飲みまくり。
 例によって紺碧七さんがプレミアム級焼酎やらブランデーやら持ってきてくれて、他にもあっちからもこっちからも日本酒だとかつまみだとか。
 ビールが足りないようだと事前に察知した女性陣は、すかさずtakayamaさんに事前に電話を入れ、途中で買ってきてねと甘いささやき。泣く泣くtakayamaさんはビールを下げて登場したっけ。
 私が初対面のやませみさんの隣で固くなっていると、やませみさんに、こないだはちょうど大野あやさんが同じだったと笑われてしまった。
 晶ちゃんが、えんぴつさんは全然固くなってなかったよと教えてくれた。
 きっと晶ちゃんやyuko_nekoさんも固くならなかったんだろうな。羨ましい性格だ。

 ひとしきり飲んだ後、時間になって宴会場へ。
 宴会場はたむらの花みずきという大広間。
 入り口に「全国温泉友の会 御一行様」と書かれていてちょっと恥ずかしい。
 広々とした宴会場で、料理も料金以上に奮発してくれていると小枝子パパが教えてくれた。
 子供料金は大人の料理をちょっと減らしたものと、お子さまランチ系と二種類あって選べるようになっていた。
 見ると、ちび姫ちゃんもMちゃんも大人の料理系だ。
 そして気持ちよく平らげていく。
 カナとレナはこういうところでは小食。
 中島屋でお腹いっぱいお昼を食べたせいか、ほとんど子供用の料理に手をつけなかった。
 料金の問題ではなく、料理がもったいないので可能なら食事抜きで頼みたいところだったが、その料金設定は今回無いと聞いていたので、これは致し方ない。
 結局レナのオムライスは晶ちゃんが、茶碗蒸しはyuko_nekoさんが、カナの料理全般はがっちゃんが食べてくれたらしい。ありがたい。
 私は自分の料理でお腹いっぱいになってしまってとても子供の分まで食べられなかった。



 宴会の終わり掛け。パパがもう9時近いので子供たちを寝かせなくてはと言い出した。
 子供たちは食べ終えたのを見計らって、既に部屋に戻している。
 パパと部屋に行ってみると、子供たちは仲良く遊んでいた。もうすっかり布団も敷かれている。
 朝の早かったパパは、子供たちを寝かさなきゃと呟きながら、自分がそのまま寝てしまった。
 仕方がないのでyuko_nekoさんと二人で、四人の子供たちをお風呂に連れていくことにする。
 今度は花湧館の翠の湯だ。
 ここも内風呂で、周りはタイルだが、浴槽は木で、特に底の簀の子状の隙間から、源泉が出てくる。
 といっても直湧きではなく、やませみさんによると、下から注入しているだけでしょうとのこと。まあ確かに、源泉そのままでは熱くて入れない。
 そうはいっても、ゆらゆらと泡が下から出てくるお風呂に入っているのは気持ちいい。
 子供たちは髪も体もしっかり洗って、身支度を整えた。
 ちび姫ちゃんとMちゃんはまだ眠くないと言っていたけど、日頃から9時就寝で今朝は早かった我が家の二人は、布団に入るとさっさと寝付いてしまった。



 その頃既に宴会場から部屋に戻ってきた面々は盛り上がっていたらしい。
 今回のオフでの出来事及び宴会中の事件?などをかいつまんで紹介してみたいと思う(事実と異なっている場合は、ぜひ申告して下さい)。

その1 【がっちゃんの温泉卵事件】

 がっちゃんは、川原湯温泉と四万温泉の温泉卵を作り、食べ比べて味の違いを研究したいと言っていた。
 前日からyuko_nekoさんたちは品質の良い卵を入手して、朝から川原湯で温泉卵作りを実行。
 非常にいい感じの温泉卵ができた。
(しかしこの場合の温泉卵とは、温泉で作った卵という意味で、川原湯は温度が高いため、いわゆる白身のゆるい温泉卵ではなく、半熟卵に近い出来だった)

 ここまでは成功。
 実際に川原湯の温泉卵を食べさせてもらってとても美味しかった。

 問題は四万温泉の温泉卵。
 四万たむらには温泉卵製造用の専用コーナーがプールや足湯の脇にある。
 よって、売店でも生卵を販売している。
 だから、通常ならきちんと温泉卵を作ることができるのではないかと思われる。

 が、しかし。

 しかしなのだ。
 がっちゃんが温泉卵を作り始めるより前に、温泉卵専用コーナーを通りかかったやませみさんが、おもむろに温度計を取り出し、すちゃっと湯温を測定し、「これは温泉卵を作るのは無理だ」と判断したと言う。
 そのことを晶ちゃんから聞いたのは、がっちゃんたちが卵を湯の中に入れてしばらく経ってからだった。
 「無理なんだって、がっちゃん」
 でもがっちゃんは諦めない。
 一時間経過したところで卵を引き上げてきた。
 先陣を切ってぱかっと割ってみたのはのび〜さんだったか。

 ・・・どろ〜。
 全然固まっていない。
 駄目だこりゃ。
 滑川温泉温泉卵大作戦失敗の巻再来だ。

 これは食べたくないねぇ、と口々にみんな。
 固まらない状態で一時間熱した卵なんて一番やばい状態だ。
 やませみさんに言わせると、温泉卵を作ることのできる一番低い温度はせめて60度で、その場合は3時間かかる。今日の四万たむらの温泉卵製造所は50度台しか無かったので物理的に無理だ、と。
 しかもこの先、夜になるに従って益々お湯の温度は下がるはずだから、あそこで粘っても宜しくない。

 そこへすかさず、ジモティ小枝子パパの一言。
 「おい、いい場所知ってるぞ。そこに行けば20分で完璧な温泉卵が作れる」
 どこどこ?、と、みんな。
 「積善の橋を渡り終えたところに下へ降りる階段がある。そこを降りていくと源泉がどぼどぼ出ていてそれを受けるたらいのようなものがある。その中に入れれば一発だ」

 がっちゃん、しばし思案。
 外はもう暗くなって、昼間より格段に冷え込んでいる。
 yuko_nekoさんは「やめなよ」と言う。

 しかし結局意を決してがっちゃんは出発した。
 そのままでは腐ってしまう生暖かい卵を持って。
 もちろん心配するyuko_nekoさんも一緒だ。
 「いってらっしゃ〜い」
 無責任な残りのメンバーは、明るく見送った。

 20〜30分経過。

 戻ってきたお二人談。

 積善館の橋を渡って階段を降りたものの、小枝子パパの言う源泉が見つからない。
 「そんなはずは無いよ、おい。俺は子供の頃からよくあそこにお湯を汲みに行ったんだぜ」と小枝子パパ。
 とにかく源泉は見つからなくて、川沿いに少し下ってみた。
 しばらく行くと、何本かどばどばとお湯が出ているところがあった。
 やった、これだ!!
 と、思ったのもつかの間、どうも温度が低そうだ。(触ってみたらしい。触れるくらいじゃ温泉卵を作るのは無理だ)
 「それは積善館の排湯だよ。元禄の湯とか、他の風呂の」と小枝子パパ。
 みんなどっと笑い。
 がっちゃんたちもこれは違うと判断した。
 そして、おかしいなぁと思いながらもさらに下ると、ようやく熱い源泉が溜まっているところがあった。
 小枝子パパ 「?」。
 そこに卵を漬け、待つこと15分。
 ようやくそれらしいものができて引き返してきたという。
 なお、がっちゃんは浴衣に半纏姿だったが、襟元があまりに寒そうなので、後ろからyuko_nekoさんが手の平を首筋に当てて、待っている間中温めていたそうだ。
 ああ、夫婦の鑑だよねぇとみんな頷く。

 そしてそのときは顛末を聞くのに夢中で終わってしまい、ずいぶん後まで実際の卵がどうなったか失念していた。
 夜中を過ぎてからだと思う。
 私はふいにあの温泉卵がどうなったか気になりだした。
 晶ちゃんに聞くと、出来上がってすぐに食してみたら、これが完璧な温泉卵で、白身は半分とろけ、黄身はほどよく固まっていたという。
 「まだ残ってる?」
 「うん、その辺にあるはずだよ」
 スーパーのがさがさ袋に入っていた。
 しかし覗き込むと・・・

 うーむ。
 中に残っていた卵はいくつかが割れて中身が出ていた。
 中身というのはつまり、川原湯と違い白身が固まりきっていない温泉卵だからして、中はちょっと悲惨な様子に・・・。

 結局、私は四万温泉の温泉卵を食べることはできなかった。
 他にも期待していたのに食べられなかった人が何人もいたらしい。

 今回の教訓。
1.温泉卵を作るときはお湯の温度を確かめよう。60度以上ないと卵は固まらない。いくら熱くても、手をつっこめる程度のお湯に卵を入れるのはリスキーなのでやめよう(笑)。
2.持ち歩いたり、袋の中に入れておいたりする可能性があるならば、白身の柔らかい本当の温泉卵ではなく、白身の固い半熟か固ゆでぐらいにしておいた方がいいかも。

 やませみさん曰く、意外と温泉卵を上手く作れる温泉は少ないとのこと。
 確かに今まで本物の温泉で作った温泉卵と言えば、小野川温泉湯の峰温泉で食べたが、そのどちらも温度が高すぎて固ゆでになっていたっけ。



その2 【中島屋小枝子パパ鉄人伝説】

 蕎麦屋の主、小枝子パパは、ぱっと見も、とても孫のいる年には見えない。
 しかも見かけ倒しではないのだ。
 背は高いけど細身なのに、とんでもない超人だったりする。
 例えば・・・
 小枝子パパは蕎麦屋が引けた後、さらにもう一つ夜のお仕事をお持ちだ(夜のお仕事なんていうと危なそうだが、何のことはない、某所でラーメンを作っているのだ)。
 そして全ての仕事を終えて、夜中の1時半とかに、おもむろに車に乗り、真夜中の高速道路を突っ走る。
 そして夜明け前に東北の八幡平とかに到着して朝日を拝み、1泊二日で帰って来ちゃったりする。
 八幡平に一泊二日ぁ!?
 それだけでもきついのに、1日日付が変わるまで働いて、一睡もせずにですかぁ?
 「全然寝ないで走って、現地に到着して朝日を見るとすかっとするんだよ」
 ひぇ〜。鉄人。
 しかしせっかくやってきた八幡平は、夜が明けてみたら雲で真っ白で何も見えなかったそうな、ちゃんちゃん。

 そしてその鉄人ぶりは今回の宴会でも余すところ無く発揮された。
 仕事を切り上げて午後から参加した小枝子パパは、夕食前から飲み、夕食中も飲み、夕食後も飲んだ。
 私の真っ正面に座っていたので、その顔色の悪さに心配になった。
 飲めば飲むほど青白くなるのだ。
 「小枝子パパ、顔色悪いですよ」
 「つい数日前まで熱だしていたからな」
 聞けば昨日までしばらくお風呂にも入れなかったという。
 なのに小枝子パパは、12時を過ぎても飲み続け、3時を過ぎても飲み続け、何やらその頃は宴会場となった部屋は死屍累々。それでも生き残ったyuko_nekoさんとサンダーバード隊2名と小枝子パパの計4名は、お腹空いた・・・もうつまみが残ってない、でもあと少し頑張れば夜明けだ・・・夜が明ければ朝食をつまみに飲めるぞ・・・と廃人宣言のような気合いを入れて飲み続け、最後の最後に小枝子パパがうっかりと15分ぐらいうとうとした隙に裏切り者たちは姿を消し、結局ほぼ夜明けまで完徹状態だったらしい。

 しかし本当の鉄人ぶりを発揮するのはこれから。
 当然yuko_nekoさんらが夜が明けた後に睡魔の攻撃を受け次々と倒れた中、鉄人小枝子パパは飄々と風呂をふたつ梯子し、朝食会場にさわやかな顔で現れきっちり食べて、朝のうちに「それではみなさま、一足先に失礼いたします」と何食わぬ顔で蕎麦屋に戻り、1日仕事をして、さらにまた翌日日付が変わるまで仕事をしていたらしい。

 信じられない。

 果たして小枝子パパのパワーの源は四万温泉の源泉なのか!?

 そんな鉄人小枝子パパのお蕎麦が食べてみたい人は、中島屋へGO!
 (但し、小枝子の小窓に騙されてはいけませんよ(笑))



 閑話休題。

 流石に夜中の2時を回ったところで、私も眠くなってきた。
 私自身病み上がりだったし(小枝子パパを笑えない)、今朝だって4時半起きだ。
 寝るならその前にお風呂に入ってあったまりたいなぁ。

 夜のお風呂のお勧めは、ライトアップされた森のこだまだったらしいが、残念ながらあそこは11時で閉めてしまう。
 ライトアップというもの自体、泊まらないと見られないものだし、それに紅葉がライトに映えて綺麗だったろうけど、時間が過ぎてしまったものは仕方ない。
 オリーブさんたちは入ってきたそうだ。
 後から聞いて、晶ちゃんと行けば良かったね〜と悔しく思った。

 晶ちゃんが今からお風呂に行くなら付き合いますよと言ってくれた。
 そこで、幻の湯、竜宮に行ってみることにした。
 竜宮の湯はたむらで唯一混浴だ。
 プールの先にあって、昼間見てきたけど、あまりにも開けっぴろげで女性が入るには勇気がいりそうだった。
 浴槽は二つあって、ひとつは水着OKなのだそうだ。
 といってもそれはプールが営業しているときの話だと思う。今はわざわざ水着に着替えて入りに行く人もいないだろう。
 しかもyuko_nekoさんが言うには、後ろに男性の大浴場甍の湯があるから、こちらが見られなくても向こうを見に行くみたいで益々女性には入りづらいという話。
 晶ちゃんは早めに誰もいないのを見計らって今日一度入ってきたと言うけれど、流石に昼間は私も無理かなと思っていた。

 今なら・・・真っ暗だし。
 ばんさんだったか、「夜は入れないほど熱いよ」と教えてくれた。
 「そうそう」と誰かも相づちを打つ。「熱湯になっていて湯気がもうもうと上がっていた」
 そ、そんなに熱いの?
 でもこの機会を逃したら入れないかもしれないから・・・と、思い切って行ってみよう。

 流石に夜中なので廊下では誰ともすれ違わない。
 晶ちゃんが一緒に来てくれて本当に良かった。一人じゃ怖いし道に迷うに決まってる。
 暗いプールの横を通って、竜宮の湯へ。
 yuko_nekoさんの言っていた男湯も、夜中なので誰もいなくて問題なし。
 寒いのでほとんどふきっさらしの脱衣所は辛かった。
 脱衣所にも男女の区切りは無いようで、これは益々昼間は入りにくい。

 右手の浴槽が熱く、左手は適温だった。
 熱い方は最後にさっと入ってみることにして、晶ちゃんとふたり、適温のお風呂にどっぷりとつかった。

 暗い中、川のせせらぎが聞こえる。
 空を仰ぐと、早い雲が風に流され、やがて星が見えてきた。
 竜宮が幻の湯と呼ばれるのは、増水すると川に沈んでしまうからなのだそうだ。
 「いい湯だね」
 「うん、来て良かったね」
 ああ、なんかいいなぁ。
 何度も言うけど、やっぱり四万温泉は好きだ。

 すっかり温まった後で、最後に熱い方にも入ってみた。
 ばんさんたちが言うように本当に熱湯で、手を入れてみただけではそれほど感じないが、足を入れるとあまりの熱さにすぐに飛び出したくなる。
 でもせっかくなのでと全身入ってみた。
 ほんの一瞬で「あちーっ」と出てしまったが。



 最終エピソード その3 【yuko_neko牢名主女王様 誕生秘話】

 いやぁもう、この日のyuko_nekoさんは凄かった。
 たぶん私以外の誰に聞いても、この日の出席者はみんな声を揃えてそういうに違いない。

 飲めば飲むほど燦然と光り輝き、そのあまりの眩しさに部屋に逃げ帰る輩もいたとかいなかったとか。

 かくいう私も午前2時過ぎ、お風呂に行ってくると宣言したら、
 「必ず戻ってくるのよ」と釘をさされてしまった、はい。

 それでは犠牲者・・・もとい、女王様の僕となった某tさん(仮名)の証言をお聞き下さい。

 「neko姉さん〜♪(猫なで声で)許してください。(爆)ほぼ姉さんの僕となって、生きていきます。(泣)
 実はここ10年間は、お酒が入ると全ての人をなで斬りにしていて、温泉オフ会となると、悪の化身とやってきました。ある人は枕で涙に濡れぐしょぐしょになり、ある人は私が言ったことで何時までも頭からはなれず仕事にもならなかったそうです。
 別名、オフ会の夜ハンドル「悪徳商人越後屋」と有名なのですが、neko姉さんに比べたらまだまだですよ。いまだに爆撃されたことが頭の中をぐるぐるです。
   ・・・・・・中略・・・・・・
 すいませんトイレいってもいいですかと問いに、5分したら直ぐにかえってくるんだぞ。とってもやさしいお言葉で、トイレに入りながらぶるぶる震えていました。」

 果たして脚色はあるのでしょうか?

 真実は闇の中。

 とにかく朝までyuko_neko女王様に付き合ったサンダーバード隊もすっかりyuko_nekoさんファンになったということなので、如何に彼女が魅惑的だったか言葉を尽くさなくとも判ってもらえるかと思う。
 いやいや、あの、これは誉め言葉だって。

 そして私などは結局3時過ぎに寝たのだが、夜は9時に子供たちよりも早く床についてしまったうちのパパは、朝も早うと5時半にはいそいそと朝風呂に向かったらしい。

 と、正面からよく知っている誰かが歩いてくる。
 それはなんと、お供にサンダーバード隊を引き連れたyuko_neko女王様で、パパがさわやかに「おはようっ」と声を掛けると、ハイになった声で「お休みっ」と切り返されたらしい。

 後からいろいろな方から聞いた話を総合すると、どうもこれが小枝子パパが不覚にもうとうとしてしまった空白の15分間の出来事だったのではないかと思われるのだ。


二日目に続く・・・

二日目へ… | 四万たむらの休日目次 | 子連れ温泉ガイド地熱愛好会HOME