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美ら国訪ねて
*子連れ沖縄旅行記*

8.クマノミに会えるビーチ




 この日沖縄に向けて、いやいや正確には石垣島に向けて進行中だったタリムこと台風13号は、最終的には翌31日に八重山諸島を暴風域に巻き込み、石垣島で風速51メートルを記録した。
 石垣島に遊びに来ていたパパの同僚Aさんとその家族は、31日の飛行機で東京に戻るはずだったが、当然戻れず予定外の一泊を余儀なくされたという。
 飛行機の欠航が決まると、台風料金と称してホテルもレストランも格安になるというのは、後からAさんに教えてもらった。

 石垣島ではなく沖縄本島に泊まっていて、31日ではなく30日の夜に帰るはずだった我が家はどうなったか。
 思い出してみようと思う。

最終日 2005年8月30日(火)

 冷蔵庫の中がほとんど空だったので、朝ご飯はお弁当を買ってきた。
 パパが近くに気になる弁当屋があると言って車で買いに行ってくれた。
 ああ、覚えてる。車でいつも前を通るから気になるよね。
 買って帰ってきたのはおにぎり四つと牛丼のような日替わり弁当。
 「あの弁当屋には仕事に行く前の肉体労働者が買いに来るんだ。駐車場がやけに混んでいるから何でだろうと思ったら、みんな昼の分の弁当と、朝食代わりの汁物を買って、汁物は車の中で食べてから出かけるんだよ。だから駐車場がいつまでも空かないんだ」
 ふーん。そんな暗黙のルールがあるのね。

 昨夜パパがカナに聞いた。
 「明日は沖縄で遊ぶ最後の日なんだけど、何がしたい?」
 カナは言った。
 「海でお魚が見たい」

 シュノーケルは出来ないけど、海に行きたいなら21世紀の森ビーチだな、とパパは決めた。
 那覇空港20時発羽田行きの便を取ってある。
 海で遊ぶとしても昼前まで。
 ウィークリーマンションのチェックアウトが12時だから、戻ってきてシャワーを浴びようと思うなら11時には戻ってこなくてはならない。
 確かに21世紀の森ビーチは近くて条件に合っているのだけど・・・。

 寝る前に地図を捲った。
 まあ、台風が近づいているから明日の天候を見てということになるだろうけど、もしまだ雨が降っていなかったら行かれるビーチがあるだろうか。
 条件はシュノーケルが出来るところ。
 そして名護から近く、すぐにマンションに戻れるところ。
 ・・・古宇利島は無理だ。
 パパは30分ぐらいで行かれると言っていたけど、ソーバイ・ビーチの場所がまだよく判っていなくて道に迷うと時間のロスが大きいし、何より台風が来るのだからライフセーバーもいないような人けの無いビーチで子供たちを遊ばせるのは怖い。
 南下する手もあるけど、どこがシュノーケル可能か判らない。
 意外とシュノーケルを禁じているビーチが多いはずだ。

 そうだ。
 塩川ビーチのあたりはどうだろう。
 確か塩川の近くに気になるビーチがあった。
 やんばるガラス工芸館と書かれた建物があって、国道からもビーチが見えていた。
 距離は、たぶん片道20分ぐらい。
 道沿いに駐車場があったから瀬底ビーチなどと違って駐車場やビーチへのアクセスに時間のロスが無さそうだ。
 少し手前からビーチまで500mと書かれた手書きの看板などが立っていて、気さくな雰囲気があった。あの様子からして、プライベートビーチということはないだろう。
 マリンスポーツ貸し出しの看板もあったから、たぶんシュノーケル可能じゃなかろうか。
 条件的に良さそうだ。
 それにあのビーチは海の色からいって遊泳区域内でも岩場か珊瑚礁がありそうだ。砂地のビーチと違って魚が沢山いるに違いない。
 「塩川ビーチに行ってみようよ」
 「どこだって?」
 「ほら、あのベルビューに行くすぐ手前。手書きの看板が立っているビーチがあったじゃない」
 「ああ、あれか」
 パパは乗り気じゃなかった。
 でも窓の外を見ると、台風が来るとはとても信じられないような穏やかな青空が名護湾上空に広がっていて、行くなら今だよと告げていた。



 ビーチから戻ったら即撤収できるよう、先にスーツケースに荷物をまとめておいて、朝9時、最後のビーチに出発した。
 何度も通った本部半島への道。
 空は青く海も青く雲は白い。
 もしかしてビーチに着いたら暗雲立ちこめているんじゃ・・・。
 あるいはやにわに土砂降りの雨が降って来るんじゃ・・・。
 いやいや大丈夫。
 カナとレナの晴れパワーで、きっときっと晴れているに違いない。
 いつものパターンで、帰る頃に雨が降り出すに違いない。
 あとまだもう少し・・・どうか台風よ、雨を降らせないで。

 塩川ビーチだと思っていたそこは、グリーンフラッシュビーチという名前だった。
 琉球ガラスの体験・見学施設と駐車場は共通。
 そして車を停めると、ビキニに短パンの若いお姉さんが「ツアーの方ですか?」と聞いてきた。
 「いえ、通りがかりに見つけたので入ってみたのですが」とパパ。「このビーチはシュノーケルできますか?」
 「大丈夫ですよ」
 やったぁ。
 しかも駐車場は無料だった。
 ビーチも目の前だ。

 白い砂浜に降りてみて、改めてここにして良かったと思った。
 海の色は瀬底島に勝るとも劣らない綺麗なブルーグリーンのグラデーションで、遙か遠くの方だけネイビーだ。
 時間があまり無い。
 急いで日焼け止めをぬると、シュノーケルセットを装着した。
 子供たちにはピンク色のライフジャケット型浮き具を着せる。
 水は少し冷たいような気がしたが、そのままざぶんと海の中に入ってみた。

 驚いたことに、波打ち際から数歩歩いただけで岩とも珊瑚ともつかない固まりが、足下をごろごろしていた。
 そこからゆらゆらと海草のようなものが生えている。
 だからもう、その辺りから魚がいる。
 子供たちの十分足が着く深さで魚が泳いでいるということだ。
 さらに驚いたのは、ブイで仕切られた遊泳区域の最奥まで行ってもほとんど深くならなかったことだ。
 水納ビーチなどすぐに何メートルもの深さになり、ほとんど足が着かなかったし、瀬底ビーチでも珊瑚のある辺りはかなり深かったのに、グリーンフラッシュビーチは本当に遠浅で、大人なら足の着かないところの方が少ないくらいだ。
 あっ、アオヒトデ見っけ。
 美ら海水族館のイノーで触らせてもらったあの鮮やかな青いヒトデが海の底に落ちている。

 もちろんこのビーチには欠点も沢山ある。
 名護の町からも近い国道沿いのビーチだから、どうしても珊瑚は汚れていて色はあまり無い。透明度も水納島あたりと比較してはいけない。ビーチの砂は白いけれど、ほとんど砂と言うより瓦礫の山といった感じで目が粗く裸足で歩くのはかなり痛い。
 海中も砂地がほとんど無い分、海水浴には適さない。
 でもそれは裏を返せばシュノーケルには最適ということだ。
 全体的に浅く魚が多いということは、子供でも容易に海中観察が出来るし、水中写真を撮る場合も被写体との距離が近いということだ。
 透明度だって水納ビーチと比較するから差が付くだけで、瀬底ビーチと比べるなら大差ないと思う。
 瀬底ビーチよりアクセスが容易だし、駐車料金も無料だ。
 裸足で歩けないほど珊瑚や貝が大きいままごろごろしていても、海の中で遊んでいる分には全然関係ない。
 それより子供たち自身が浅瀬でヒトデやナマコを拾える環境は家族で遊ぶには最適だ。
 意外なところに良いビーチを見つけた。
 グリーンフラッシュビーチ、気に入ったよ。

 ところで私たちが水中撮影用に使っているカメラはキャノンのPower Shot A40だ。
 これに専用のハウジング(防水ケース)をつけて使っている。
 ところが初めて海に持ち出した一昨年のロウアイルズから、ずっと悩んでいることがあった。
 悩みとはレンズの曇りだ。
 温泉みたいに温度と湿度の高いところで撮影してもレンズは曇るが、それは一時的なもので、室温にすればすぐに戻るしレンズを温めれば比較的熱いところで撮影できる。
 それに曇るのは外側なので、ハウジングを布で拭き取れば一時的にはクリアになる。
 しかし水中はやっかいだ。
 一度曇るとどうやっても元に戻らないし、曇るのはハウジングの内側なので水中では決して拭くに拭けない。常に水と砂の攻撃と隣り合わせのビーチでは、極力ハウジングは開きたくないというのもある。
 海中とビーチとの激しい気温差が曇りを産んでいるというのは理解できるが、どうすればいいのか判らなかった。
 いろいろ考えて手は尽くしてきたのだ。
 ビーチに持っていく前からハウジングをセットしておくとか、海中の温度に常に近づけておくため、ビーチで直射日光に当てないのは当然として氷の側に置いて冷やしておくとか。
 でもどうしても上手くいかない。
 おかげで今回も、瀬底ビーチも水納ビーチも曇ってぼけぼけの海中写真ばかりだ。
 よく考えると去年のミコマスケイではまともな海中写真が撮れている。
 どうしてあのときはレンズが曇らなかったんだろう。
 それに余所の人がダイビングで撮影した海中写真など見ていると、みんな曇って困るなんて言っていない。
 何か見落としていることがあるのだ・・・。

 そういえば、瀬底ビーチでも水納ビーチでも、カメラを持って海に入って、最初の一回は曇らなかったような気がする。
 ミコマスケイではそもそも一度しか水の中に入っていないし、ダイビングをする人たちは当然潜ったらそのままで、何度も水中と熱い水上を行ったり来たりなんてしないはずだ。
 ロウアイルズや瀬底ビーチや水納ビーチでは、何の気無しに水中にカメラを入れ、それから海岸に戻り、また何度も水中にカメラを沈めたりした。
 もしかして、最初の一回が勝負なんだろうか。
 レンズを冷やすとかそんな小手先のことでは温度調節が上手く行かず、一度浜辺に引き上げてしまうと次に水中に持ち込んだときにどうしたって曇ってしまうのか。

 というわけで、今回はカメラは水中に入れっぱなしにすることにした。
 つまりパパとママのどちらかは常にカメラを持って水中で待機。
 決して温度差の激しいビーチには引き上げない。
 何となく間抜けで単純な方法だが、ようやく最後までレンズがクリアなまま海中撮影に成功した。

 といっても、まあ大した写真は無いんだけれども。

 グリーンフラッシュビーチで遊べるのはほんの1時間強。
 そう思って、心残りがないよう思いっきり遊んだ。
 そろそろ退却時間かと思ってビーチに戻ると、
 「実は今、ベルビューホテルに電話した。チェックアウト時間は12時だけど、今まだビーチにいるんです・・・って言ったら」とパパ。
 「そしたら?」
 「チェックアウト、2時ぐらいでいいですって言ってくれたよ」
 ホントにー!?
 「10時半にはビーチを出ないと間に合わないと思っていたけど、12時半まで大丈夫」
 ばんざぁい。

 ほとんどがらがらに近いグリーンフラッシュビーチだったが、10時半頃から急に混み始めた。
 といっても、ビーチで遊ぶ家族連れなどはまばらで、ほとんどはマリンスポーツをするツアー客。
 若い水着の女の子ばかりぞろぞろと2、30人ばかりやってきて、バナナボートだとかジェットスキーだとか遊泳区域とはちょっと離れたところでやっている。
 体験ダイビングも盛んらしい。
 時間が来ると予約した人の名前が放送で流されていた。
 「関西から来る人が多いかな。みんなツアー客なんですよ」
 海の家みたいな気さくな売店でかき氷を買うと、お店の人がそう教えてくれた。



 何度目かにパパが一人でシュノーケルしに行った後だ。
 「ニモ、見つけたよ」
 「えっ、嘘っ」
 「撮れてると思うよ」と、カメラを指さす。
 まっさかぁ。
 いくら何でもカクレクマノミがこんな浅いビーチのしかも遊泳区域内にいるとは思えないよ。
 似たようなしましまの魚を見間違えたんじゃないの?
 ハウジングごしでははっきりしないが、カメラの液晶で画像を確認してみると、確かにニモっぽい魚が映っている。
 「何処で見たの?」
 「あの辺」
 私がまだ行っていなかったあたりだ。
 「でももう見つかるか判らないよ」
 本物のカクレクマノミだったらイソギンチャクから離れないはずだから、同じあたりにいるんじゃないかなぁ。
 「どうかな。でも子供たちには内緒にしよう」
 うん。
 もう一度見つかる保証はないのに、ニモがいたとか言うと、見つかるまで騒ぐからなぁ。
 しかし、そのあと結局ニモを探しに行く羽目になってしまった。
 なぜなら・・・。

 「ラブカスみたいな魚もいたよ」と、子供たちと見た魚について話をしているときに私が言ったら、
 「ラブカス見たい」
 「ラブカス見たい」
 カナもレナもいきなり騒ぎ出した。
 ラブカスというのはハート型の魚みたいなポケモンだ。
 母が見たのは単なるチョウチョウウオだったのだが、もういくらそう言っても聞かない。
 「ラブカス!」
 「ラブカス!」
 ラブカス・コールだ。
 どうするよ。
 チョウチョウウオが見つかるかどうかすら判らないのに、チョウチョウウオを見つけたところでこれは本物のラブカスじゃないとか言うだろう。
 ラブカスみたいなって言っただけで、誰もラブカスを見たなんて言ってないよ。

 カナが泣き出した。
 泣くなって、もう。
 パパが起死回生の一言。
 「パパがもっといいものを見つけてあげる」
 最後の切り札はもちろんニモだ。



 全員で探しに行っても効率が悪いので、パパが一人、さっきクマノミを目撃したあたりを探し、見つけたら手で合図をすると言うことになった。
 既に時間が残り少ない。
 もうあがるつもりでいたので、まさかまた今から全員で海に入るとは思いもしなかった。
 そうは言っても、ここで何もアクションを起こさずにいたらカナもレナも納得しないだろう。
 残されたわずかな時間でニモが見つかる可能性は低いが、やれるだけやってみよう。

 空模様も急に怪しくなってきた。
 まるで子供たちの精神状態を反映しているかのようだ。
 パパからはなかなか合図が来ない。
 必死で探しているのは判るけど、潜ったり顔を上げたり、全然成果無しのようだ。
 「ラブカス、まだ見つからないのかな」とカナ。
 子供たちにはまだ探しているのがニモだとは言っていない。
 何だか判らないまでも、何かびっくりするような魚がいるらしいと薄々感じているだけだ。
 三人で波打ち際でやきもきと待っていたが、ついに痺れを切らしてしまった。
 どうせならみんなで探そう。
 「カナ、レナ、パパからの合図はないけど行ってみよう」
 決心して泳ぎ出す。
 今まではシュノーケルの時に自分も必ず浮き輪をつけていたが、今回はそのまま泳ぎだした。
 グリーンフラッシュビーチはそれほど深くないし、浮き輪はない方が速く泳げる。

 さっきパパが「この辺りで見た」と言っていた場所からはかなり離れてしまった。
 パパは何度もそこで潜ってみたが見つからないらしい。
 移動しながらいろんなところをのぞいてみた。
 本当に見つかるかな。
 もう雨も降ってきそう・・・。

 何度目かに海中を覗き込んだとき、誰か他の人の足にぶつかりそうになって、あわてて顔を上げたとき、オレンジ色の魚が視界を横切った。
 「ニモ!!」
 ガボガボ。
 シュノーケルをつけたまま叫んだから凄い声になってしまった。
 「ニモ!! いた!! ニモ!!」
 子供たちに教える。
 「この下!! クマノミ、見える?」
 パパとママとでシュノーケルセットを使っていたので、子供たちは二人とも水泳用ゴーグルだった。
 カナもレナも果敢に水の中をのぞく。
 なかなか見つからないらしい。
 「あっちへ泳いでいった。おいで」
 パパもやってきた。
 「ねっ、いただろう」
 「いたいた」
 やっと見つけた。
 もう見失わない。
 オレンジ色のひらひらする姿を追っていくと、あれまあ、ちっぽけなイソギンチャクが海底に張り付いていて、そのそばに大小三匹のクマノミが泳いでいた。
 「見えた、見えた、ニモだ」と嬉しそうにレナ。
 ママのシュノーケルとマスクを外し、レナに渡してやる。
 レナは水泳用ゴーグルを外すとシュノーケルセットを装着した。
 「ニモだニモだ」
 パパが、手を出すと寄ってくるよ、と教えると、レナは手をひらひらさせてみた。
 寄って来るって・・・それって絶対威嚇攻撃されているだけなんじゃないかと思うんだけど。
 突然空が真っ暗になって、ばらばらと大粒の雨が降ってきた。
 「見えないよ! 雨が降ってきたからもう帰らなくちゃならないよ」
 カナは一人、追いつめられたように泣きべそをかいている。
 「海の中にいてもうぬれているんだから雨が降ってきたって平気だよ」
 「大丈夫、このすぐ下にニモがいるから海の中を見てご覧」
 パパとママとで何とか落ち着かせる。
 「・・・判った」

 「見えた!! クマノミだ!! かわいい」

 良かったね。良かったね。
 空は暗かったが一時的に雨は上がった。
 最後の最後でみんなでクマノミを見ることができた。
 カナはもう満足して、すぐにパパと連れだって岸の方へ泳いでいったが、レナはぎりぎりまでニモと遊んでいた。
 ニモにしては水族館で見たより少し大きいし、背中の方が黒っぽいと思ったら、後から写真で確認したらそれはやっぱりカクレクマノミではなくクマノミだった。
 でもいいのだ。
 十分。
 最後のビーチでみんなでクマノミに会えるなんて、本当に思いもしなかった。



 そして、笑っちゃうことに急いで荷物をまとめて駐車場に移動し、車に乗り込んだか乗り込まないかのうちに、本当に土砂降りの雨になってしまった。
 もう、いっつもこうなんだから。

 急ぎ名護まで戻り、ウィークリーマンションでシャワーを浴びた。
 海で遊んだ後、シャワーが浴びられないまま荷物を持って帰るのは辛すぎる。
 チェックアウト時間を伸ばしてもらえて本当に良かった。
 「私が機転をきかせたから」とパパ。
 ははは。そうだね。それに快く了承してくれたベルビューの人たちにも感謝。
 髪の毛も洗って潮を落としてすっきりさっぱり。

 南国の天気は気まぐれ。
 グリーンフラッシュビーチで降ってきた雨も、名護にはついてこなかった。
 さよなら、ウィンベル沖縄名護コーラルビュー。
 町中のマンションだったのは意外だったけど、とても気に入った。
 できるなら、また沖縄に来たときにここに泊まりたい。
 カナもレナも名残惜しそうに部屋を出た。



 この後の予定と言えば、5時頃那覇に着き、レンタカー返却。
 6時には那覇空港に着いて夕食を食べ、8時には那覇空港から離陸。
 あと3時間のうちに那覇まで移動すれば良いということ。
 まずはどこかで遅い昼食を食べよう。

 パパが考えていたのは、先日、魚介類を購入した名護市内の鮮魚店だ。
 食事処も併設されていて、ベルビューの支配人がその場で食べるのもお勧めだと言っていた。
 店の名は海鮮市場 魚しん。

 テーブル席と座敷席があったので、座敷の方に座らせてもらった。
 半端な時間だけどお客さんがちらほらと入っている。
 昨日、古宇利島でウニを食べ損ねてしまったから、ウニイクラ丼と・・・それから魚の煮付け。
 「煮付けは何の魚があるんですか?」とパパが訪ねると、
 「マダイと、○△▽と、▽○×○」
 マダイ以外は聞き取れなかった。この辺りで捕れる熱帯魚には沖縄特有の呼び名がついているので一回聞いただけではよく判らない。
 「一番美味しいのはどれですか?」
 「それは、▽○×○かしら」
 「すいません、もう一度その魚の名前を教えてもらえますか?」
 「ビタローよ」
 「ビタローですか。じゃ、そのビタローの煮付けをお願いします」
 ビタローなんて面白い名前。
 キタローみたいだな、とパパが言った。
 東京に帰るまで覚えている自信がなかったので、割り箸の入っていた袋に「ビタロー」とメモした。
 帰りがけに店のレジのところに沖縄の魚一覧が描かれたポスターが貼ってあったので、ビタローを探したら、ビタロー(ハナフエダイ)と載っていた。

 さてこのビタロー、もう、めっちゃくちゃ美味しかった。
 一口食べて、「ウマ〜」と思わず呟いてしまうほど。
 ウニイクラ丼だってとても美味しかったのにすっかり霞んでしまうほどだった。
 沖縄のウニは結構あっさり味だ。
 旅の終わりに美味しいものに出会うと、何だかとっても得をしたような気になる。
 今日はもう、このビタローで幸せいっぱいだ。



 もう後は一直線に那覇へ向かうだけ・・・。
 と言いつつ、また寄り道してるし。
 道の駅 許田。
 最後にシークワーサー酒とかパイナップルをお買いあげ。

 それから高速道路に乗って、伊芸のサービスエリアで休憩。
 赤と白の瓦屋根に大口を開けたロングヘアのシーサーが乗っている。
 このサービスエリアからは東海岸の海が見渡せ、平安座島、浜比嘉島、宮城島、伊計島などが、展望台や併設されたレストランの窓から見ることができる。
 海で遊ぶなら西海岸かななんてずっと思っていたが、東の海もこんなに綺麗なんだと改めて思わせる海の色だった。
 ちなみにここは、日本最南端のサービスエリアなのだそうだ。

 何故かカナがこのサービスエリアの売店で、ヤンバルクイナグッズを見つけた。
 おさる工房というところの携帯ストラップだ。
 あんなにやんばるで探したけど見つからなかったグッズがこんなところにあるとは。
 しかも道の駅ゆいゆい国頭で仕方無しに買ったヤンバルクイナの置物よりよっぽど可愛く本物に忠実にできているし。
 というわけで、これもお買いあげ。

 行きにルネッサンスリゾートの山田スパに寄るために降りた石川ICを通過。
 パパが、まだ時間があるからどこか一ヶ所ぐらい観光していってもいいぞと言った。
 といっても30分くらいか・・・。
 まさか沖縄市の温泉銭湯 中乃湯に寄って行くほどの時間は無い。
 ここから那覇・空港方面に行く途中で寄れそうな観光スポットねぇ・・・。
 初日に行きそびれた首里城ぐらいかな。
 守礼門ぐらいはカメラに収めたい気がするなぁ。
 「いいよ」
 でもって一度はナビに首里城の場所を入力したのだが、
 「あっ、首里城公園の入館料は800円だ」
 「じゃ、諦めよう」
 いや、800円が惜しいって言うんじゃなくて、800円払うなら、もっと時間のあるときにゆっくり見たいじゃない。
 走って行って、ちらっと見て、また走って帰るんじゃ、800円は高いよ。
 首里城は今度ゆっくり見に来よう。
 きっと、「今度」があるさ。

 もう一度、ナビの行き先を修正。
 今度こそ寄り道せずにジャパレン那覇空港営業所へ。
 妙に小利口なカーナビは、市内を迂回して空港へ向かう那覇空港自動車道を通ろうとはせずに、近道の西原ICで降りて市内を突っ切る道を示した。
 那覇は流石に沖縄最大の都市で、うんざりするほど渋滞していた。
 こんなことならナビ任せにせず、自動車道で迂回すれば良かった。
 結局、渋滞を抜けるのに時間がかかり、空港に着くときにはタイムスケジュールの帳尻が合っていた。
 終わりよければ全て良し、だ。

 午後5時、レンタカーを返却して、5時半、那覇空港に到着した。
 窓の外、雲は多いがまだ雨は降る様子がない。
 空港にも台風情報が張り出されていて、今日12時の予想進路図では、既に石垣島や宮古島は強風域に差し掛かっている。

 那覇空港には広いキッズスペースがあって、飛行機型の遊具と、シーサーバスがある。
 カナとレナも滑り台や隠れ家のついたシーサーバスが気に入ったようでしばらく遊んでいた。
 土産物屋も充実しているのでこちらは大人が交替で見に行ってみた。
 空港で売っているフルーツは高い!

 さあ、沖縄を発つ前に夕食を食べよう。
 空港内は高いだろうし選択肢も少ないが、仕方ない。
 やはり最後に沖縄らしいものを食べたいと思うのか、沖縄郷土料理の店はどこも大混雑していた。
 パパがステーキが食べたいと言ったので、キリンビア&スナックに入った。
 沖縄はステーキも安い。
 付け合わせはベニイモ。
 パパはつまみに島らっきょうも注文した。
 エシャレットに似た味だった。

 子供たちはあまり食欲がないようだった。
 まあ昼食が遅めだったし。
 適当にポテトを摘むとごちそうさま。
 店の中で騒いでもいけないので、二人でレストラン街の通路の窓のところへ行っていいよと伝えた。
 すると突然の稲光。
 えっと思って窓の外を見る。
 ああどうしたことか。
 さっきまでの明るい空は何処へやら。
 とっぷりと暮れた夜の空港は、いつの間にかバケツをひっくり返したような大嵐になっていた。

 ついに台風が追いついたのだ。
 いつものお決まりのパターン。
 旅の終わりはいつも雨。
 いやいや、旅の終わりはいつも嵐。
 それも雷鳴轟く大嵐。
 何もかも終わって、遊び尽くして、これで終わり、もう帰るだけと思うと、いつも雨が幕を引く。
 思えば台風に始まり台風に終わる今回の旅。
 羽田を出発するときに雷雨で離陸が遅れ、さんざん狭い機内で待たされたのも今やいい思い出か。
 滞在中は沢山の太陽と思い出をくれた。
 ありがとう沖縄。

 そしてさよなら。






エピローグ


 「那覇空港発羽田行き20時の便をご利用のお客様にご案内申し上げます」
 えっ?
 「只今、悪天候により機体の到着が遅れております。出発時刻が延期となりますのでご連絡させていただきます」
 ・・・・
 またですかいっっ

おしまい


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