6.フルーツランドとネオパーク
六日目 2005年8月28日(日) |
日頃、日焼けというと肩が一番酷い。
立っているとき、座っているとき、肩に直角に太陽光線が当たるからだ。
だからつい日焼け止めは肩にたっぷりぬる癖がついていた。
油断した。
一昨日、瀬底島でシュノーケルした後、背中がばっちり焼けてしまったことに気づいた。
それでもこのときは時間も短かったし、既に午後の日差しだったから大事には至らず済んだ。
問題は昨日の水納島だ。
瀬底島の教訓を受けて、マンションから徒歩1分のドラッグストアで新品のSPF50の日焼け止めを買って、家族全員しっかりと複数回ぬりこんだはずなのに。
背中は特に重点的にぬったはずなのに。
やはり自分では上手くぬれないからと、子供たちに頼んだのが敗因だったのか?
昨夜は私とパパとレナと、三人とも背中が痛くて苦しんだ。
肩胛骨の下と、背中の下の脇寄りが特に痛い。
日頃こんなところ日に当てないからなぁ。
カナだけは誰より真っ黒に焼けているのにけろりとしている。
しかしここまで黒いと日本人に見えないぞ。
とりあえず背中の痛い三人は、互いに火傷の軟膏を塗りあって床についた。
沖縄の太陽は強烈だ。
海で遊ぶのは楽しいが、果たして帰る頃はどんなありさまになっているだろう。
この日の夜明けは、パパは一人でビーチに行った。
いつもの21世紀の森ビーチだ。
そして朝焼けに染まる海を撮影して戻ってきて、町の中で朝市をやっていたぞと教えてくれた。
「連れていってやってもいいぞ」と恩着せがましい。
私がマーケットとか好きなのを知っているし、また連れていかないと後々まで言われると思ってのことだ。
「
ポートダグラスのサンデーマーケットと違ってずっとこぢんまりとしてるぞ」
「いいよ」
「子供たちも連れていこう」
本当だった。
川沿いの市街地に、小さな青空市が立っていた。
よくこんなの見つけたねぇと言うと、パパはガソリンを入れようと裏道に車を入れたらやっていたと教えてくれた。
一番手前の店は、男の子三人連れたお母さんの出しているもの。
古着や古本と並んで、お菓子のおまけに付いてきたようなポケモンの玩具がごちゃごちゃと箱に突っ込んである。
今さらポケモンがブームのカナとレナは、すっかり夢中になって覗き込んでいる。
オーストラリアでもいつもそうだが、マーケットを見つけると、パパは子供たちに小銭を渡す。
自分で選んで買って良いよと。
二人はそのポケモンを買うことに決めたようだ。
ただ、とりあえず先に一周してみることにした。
まあ頑固なカナは、最初に決めたものを決して動かそうとはしないだろうけど。
次に目に付いたのはビーズのアクセサリー屋さん。
若いお姉さんが店番をしている。
カナとレナが覗き込むと、子供サイズの指輪を沢山ある中からいくつか選び出してくれた。
カナは水色のビーズを、レナは透明なビーズを選んだ。
手作りでひとつ20円。
子供たちが目に付くものをあれやこれや見て回っているうち、パパは食べ物を買っていた。
青々とした立派なゴーヤーに、一人分が小さなカップに入ったジーマーミー豆腐、昆布の佃煮クーブーイリチーなど。
星の砂のキーホルダーはパパが子供たちに買って上げた。
星の砂って昔、流行ったよねぇ。
「10年前だっけ?」とパパ。
「20年前かもよ」と私。
最後に最初の店に戻って、やっぱりポケモンお買いあげ。
カナはロコン、レナはフシギダネ。
ひとつ10円。
店番の男の子のうちどの子の名前だか、それらプラスチックで出来たポケモンの玩具には、額にひらがなで「よ」と書かれていた。
朝市の後はマンションに戻り朝食を食べて、それからゆっくり21世紀の森ビーチに行った。
今日の目的はビーチコーミング。
一昨日カナがパパと二人で行って、綺麗な貝が落ちている場所を見つけたからレナに見せたいと言ったからだ。
パパは朝から2度目になる。
それにしてもどうして、このビーチに来るときは、こうも完璧な青空なのだろう。
緑の芝生の向こうに、コーラルグリーンとセルリアンブルーの南国の水平線。そしてその向こうは澄み切った紺碧の空。
打ち上げられた白い珊瑚が骨のように散らばっている砂浜。
大物の貝は無いか、みんなで足下を見つめながら歩く。
岩場には緑色の蟹がいた。
ここは名護の町中とは思えないほど水が澄んでいる。
カナをトイレに連れていき、戻ってくるとパパが岩場の奥のテトラポットの方で呼んでいた。
何かと思って足場の悪い岩を伝って近寄ると、何かパパの指さした方で跳ねた。
ぬれた岩の隙間だ。
「美ら海水族館にいたトビハゼだよ」
よく見ると茶色の小さな魚が岩の上に張り付いていて、人が近づくとジャンプして海中に逃げる。
「さっきこの岩まで来たら、いっせいに何かが水に飛び込んだから吃驚した」
魚というと水の中という先入観があるが、この魚たちは岩の上を器用に這っているので何だかとっても不思議だ。
今日は水着を着ていないけれど、このまままた水の中に入ってしまいたい欲求にかられる。
透き通った名護湾の海は、おいでおいで気持ちいいよと誘惑する。
パパが立ち止まった。
「ここへ来てみて」
うん。
「耳をすませて」
「・・・」
「波が来ると、シャラランと珊瑚が転がる音がするんだよ」
本当だ。
貝や珊瑚でできた砂浜だからこそする音だ。
楽園の海の小さな響きだ。
さて、今日は久しぶりにビーチ以外の遊びをしようと決めていた。
名護に来てからもう毎日ビーチ三昧だったから。
沖縄本島北部には、いくつか観光名所がある。
子連れ向けのテーマパークに目的を絞っても、ナゴパラダイス、ネオパーク・オキナワ、ナゴパイナップルパーク、OKINAWAフルーツランド、ゴーヤーパーク、やんばる亜熱帯園といくつもある。
この中からパパと二人でOKINAWAフルーツランドとネオパーク・オキナワを選んだ。
私自身があまりパイナップル好きじゃないので、ナゴパイナップルパークは外して、蝶と鳥のいるフルーツランドと、今夜ふうりん祭りというお祭りが開催される動物園ネオパークを選んでみた。
ナゴパラダイスをのぞけば、残りの施設はみな名護から本部半島へ向かう山側の道の近くにある。
フルーツランドもネオパークも、名護市内から車で10分とかからない。
フルーツランドはナゴパイナップルパークの隣だった。
11時ちょっと前。
巨大パイナップルのモニュメントがあるパイナップルパークを過ぎて、OKINAWAフルーツランドの駐車場に車を停めた。
トロピカル王国と書かれたちょっと安っぽいボードのゲートが待っている。
パパはいまいち乗り気ではないようだ。
もともと彼はフルーツ嫌いだし。
ゲートをくぐると今のシーズン、園内で実が生っている植物の名前が並べてあった。
フルーツランドで見ることができる熱帯果樹は37種。そのうち20種が現在実をつけているという。
パパイヤ、バナナ、パイナップル、アセロラ、ピタヤ(ドラゴンフルーツ)、グァバ、シークワーサー、マンゴなどは判る。
フトモモ・・・は、太股じゃなくて、確かオーストラリアのユーカリがフトモモ科だったな。
サボジバ、ジャボチカバ・・・こうなるともう、さっぱり判らない。
いったいどんなフルーツなのやら。
入り口入るとまずフルーツゾーン。
緑のパパイヤがいっぱいなっている。
青パパイヤはオレンジ色のパパイヤと種類が違うわけじゃなくて色づく前に収穫したもの。沖縄や東南アジアでは野菜のように日常的に食べる。
恩納村のなかゆくいで買った青パパイヤも薄切りにして食べてみたらほんのりとパパイヤの香りがして美味しかった。
まあ、何もつけずにぽりぽり食べてしまうのは私ぐらいかもしれないが。
歯ごたえがいい感じなので、今度炒め物にも使ってみよう。
シークワーサーもなっていた。
これって沖縄のフルーツとして最も有名だが、意外と実物を見た旅行者は少ないのかも。カボスのようなサイズで、種が多い。
むいて食べるって感じじゃない。やっぱり絞って使うもの。
語源を知ってる?
酸ィー食ワーサー。
つまり酸っぱい食べ物。
カナとレナが気に入っているドラゴンフルーツの木は巨大だった。
外観はもろサボテン。
実がドラゴンの目に似ているからドラゴンフルーツと言う。
もっと食べられそうな実がいっぱいなっているところを想像していたが、食べ頃になると収穫してしまうのか、果樹園になっているフルーツはどれもまだ青く硬そうだった。
次の温室は蝶ゾーン。
日本最大の蝶、オオゴマダラが飼われている。
入って直ぐの左にある低木に、ほとんど白に近い生成り色に、黒い筋と文様のある大きな蝶が沢山たかっている。
それほど派手な蝶ではない。
でも蛾かと見紛うほどに大きいので最初はちょっと怖い。
しばらく立っていると、やがて蝶の方から寄ってきた。
オオゴマダラは赤い色が好きで、赤いところに寄ってくると知ったのは、フルーツランドを出てからだった。
このときは、最初は子供たちの帽子の縁に寄ってきた。ピンク色だったから。
次に私の服に寄ってきた。水色とベージュ系のワンピースを着ていたが、柄が花柄だったのがお気に召したらしい。
そのうちに何故か私の手足に群がりだした。
ひぇ〜。
なんで?
肩とか腕とか。
他の観光客にも吃驚されるぐらい次々と私にばかり寄ってくる。
レナが羨ましそうに見ていたので、一匹腕から外して手渡してやった。
手の平に蝶を乗せて、レナ、とても嬉しそう。
カナは例によってびくびくモード。
興味はあるのだが、寄ってくると後ずさる。
それでも髪の毛にとまってくれたときは、リボンみたいと大喜び。
オオゴマダラの幼虫は毒草を食べる。
キョウチクトウ科のホウライカガミという植物だ。
この草の毒を体内に取り込むことにより、他の動物に襲われないようにするという自衛の手段だと言う。
そのせいでもないだろうが、なんとオオゴマダラのさなぎは、吃驚するような色をしている。
金色なのだ。
園内ではそれが見物できるように、ロープを渡してぎっしりとさなぎの付いた葉をクリップで留めてある。
この強烈な色は、オオゴマダラ本体の色ではなく、中に詰まっている液体の色らしい。
ところどころ既に羽化した後の抜け殻も混じっていて、こちらは既に金色の名残も無い。
蝶ゾーンの温室内はひたすら暑く蒸していて、パパなどさっさと出てしまったが、蝶と遊ぶのに夢中になった子供たちはなかなか先へ進もうとしなかった。
最後にバードゾーン。
色とりどりのインコがいて、レインボーロリキートには餌付けすることもできる。
実は今月はじめ、富士五湖の一つ、
本栖湖でキャンプして、朝霧高原の
富士国際花園でロリキートに餌付けしたばかり。
レインボーロリキートは
オーストラリアのクイーンズランド州にいる七色のインコ。
特に小鳥好きのカナがお気に入りだ。
ただ、富士国際花園のロリキートたちは貪欲すぎた。
餌や光り物めがけてほとんど攻撃に近い親愛の情を示すため、臆病な彼女はすっかり引いている。
パパは餌を買った。
小さなカップにネクターが入っている。
係りのおじさんは、お子さんに持たせても大丈夫ですよと言ってくれたが、何しろ富士国際花園の記憶が新しいものだから、カナもレナも自分で持とうとはしない。
けれどここのロリキートはまったく大人しかった。
ちゃんと礼儀を心得ていて、1、2羽飛んできて、一心不乱にネクターを飲むだけだ。
あの硬いくちばしでどうやって飲むのだろうと思うと、くちばしの間から長い舌が出てきて器用に液体をすくいとっている。
去年カナは、学校の夏休みの自由研究にレインボーロリキートの絵を描いた。
ただの絵じゃなくて仕掛けを作り、くちばしの間から舌が出てきて餌のジャムをつつくようになっている。
私はロリキートが舌なんか出したっけ? と思っていたけど、
オーストラリアの動物園でカナはちゃあんと観察していたのだった。
カナは怯えて一歩下がっているが、レナは興味津々。
わき目もふらずネクターを飲んでいるロリキートに触りたくて仕方ない。
そーっと手を出そうとするが、大人しいロリキートも食事中に撫でられたくなんかない、キッと振り向き威嚇する。
ロリキートがまたネクターを飲み始めると、また手を出す。そしてまた威嚇される。
何度も繰り返しているうち、ロリキートはレナがちょっと手を動かしただけでさっと振り返るようになった。
その様子は、「食事中なのに邪魔しないで!」と意思表示しているみたいで可笑しかった。
インコのいるケージから出るとき、背中にプラスチックの黄色いチェーンが当たった。
見上げると上から何本も垂れ下がっている。
パパが、ロリキートを背中や肩に乗せたまま客が出ないようについているんだろうと言う。
なるほど、富士国際花園でも出口に「背中や肩にロリキートは乗っていませんか?」と言った注意書きの張り紙があった。
まさか気が付かない客がいるとも思えないけど、結構いるんだろうか。
バードゾーンを出て空を見上げると、本当にいい天気。
今日もまたビーチに行ったら良かったんじゃないかと思うような空だ。
いやいや、そんなに毎日ビーチで遊ぶ体力はないはず。
今日はここで良かったと思う。
周りに植えてあるのはバナナの木、そしてパイナップル。
いやもしかしたらこのパイナップルはフルーツランドのパイナップルではなく、隣のナゴパイナップルパークのだったりして。
こういう施設は、出口の前に土産物屋があるのがお約束。
ちょっとした椅子とテーブルもあって、フルーツが食べられるようになっている。
パフェ用のグラスに入ったカットフルーツが500円。
縦に割ったパイナップルの皮を器にしたフルーツ盛りが1,000円。
ここに来たら1,000円のフルーツ盛りだろう。
中に入っているのは、パイナップル、ドラゴンフルーツの赤と白、マンゴー、ライチ、グレープフルーツ、メロン、キウイ、スイカ、スターフルーツなどなど。
それこそあっと言う間に子供たちに食べられてしまった。
「ママ、これ食べていいよ」と母にくれたのはグレープフルーツぐらいだった。
12時過ぎ。
いったんマンションに戻る。
大人はお腹が空いたが、いつもより朝食がのんびりだった上に、さっき山盛りフルーツを平らげたばかりの子供たちはお昼は食べたくないと言う。
「子供たちにはお留守番しててもらって、大人だけで食べに行かない?」と私。
「大丈夫かなぁ」とパパは心配性。
でも結局、火や刃物のあるキッチンには近づかない、誰が来てもドアを開けない、部屋から出ない、喧嘩をしたり大声を出したりしない、と、いくつかの約束をさせた後で留守番を任せることにした。
向かったお店は「山原そば にぬふぁぶし」と言う。
にぬふぁぶしとは沖縄の言葉で北極星。
マンションから徒歩4、5分のところに沖縄系ファミリーレストランA&Wがあるが、その敷地内に今月はじめオープンしたばかりの新しいそば屋だ。
何で知っているのかというと、マンション近くの塀に新規オープンの広告が貼ってあって、通る度に気になっていたからだ。
しかもこのA&Wが経営しているらしい。
どうして本場アメリカ生まれのファミレスがそば屋を?
店内は綺麗で、立ち食いそば屋とファミリーレストランを足して二で割ったような感じ。
券売機で食券を買って注文するシステム。
私は三枚肉そば、パパは山原地鶏そばを頼んだ。
沖縄そばは琉球村のちゃんぷるー市場で食べたから2度目になる。
私はそばと言えば蕎麦粉で作ったものと思っていたので、初めて食べたときはあの触感にびっくりした。
うどんとは違うけど、蕎麦よりはうどんに近い。
実際、沖縄そばの原料は小麦粉100パーセントだ。
「蕎麦粉じゃない蕎麦なんてあるんだ」と吃驚したように言う私に向かって、パパは「そばは蕎麦粉のそばとは限らないだろう、中華そばっていうのもあるじゃないか」と言った。
なお、全国生めん類公正取引規約によると、蕎麦粉が30パーセント以上入っていないと、そばの定義から外れるためそばという名称を使ってはならないとされているらしい。
にも関わらず、沖縄そばをそばと呼ぶことが出来るのは、すったもんだの末、特殊名称として登録が認可されたものによる。
(参考
沖縄そば辞典)
メニューを見ていてまたまた気になるものを見つけた。
じゅーしー。
じゅーしーって何だ?
単品120円と安くて、ソフトドリンクのついたセットもある。
このソフトドリンク付きって言うのがミソだなぁ。
デザートの一種かなぁ。
ジューシーって響きからして、何だか果物を絞ったものが入っていそうじゃない?
じゅーしーとコーラのセットも追加してみた。
すると、
「!!」
運ばれてきたのはなんとヒジキの入った炊き込みご飯。
それもお茶碗一杯。
とてもそばを食べた後にこんなに沢山食べられないよ〜。
沖縄の言葉で「じゅーしー」とは炊き込みご飯のことだった。
間違ってもデザートのつもりで頼んではいけない。
三枚そばは普通の味だったが、山原地鶏そばは美味しかった。地鶏を焼いた香ばしさがよく出ている。
厨房に一声かけて、じゅーしーが食べきれないので持ち帰りたい旨伝えると、袋をくれた。
たぶん持って帰れば子供たちが喜んで食べると思う。
子供たちがいないとフットワークが軽くなるので、このままついでにもう一ヶ所寄ってみることにした。
いったんマンションの駐車場に戻り、今度は車を出す。
目的地は道の駅 許田。
この間立ち寄ったときは、子供たちがぐずぐず言ったこともあり、ゆっくり見られなかった。
今度こそ。
しかし、何故か車を出したとたんもくもくと行く手に立ちふさがる暗雲。
名護市内から許田まではほんの10分も走らずつくはず。
それがどうしたことか、さっきまでの青空が嘘のように、いきなりフロントガラスに当たる雨粒。
やっぱり私たちの行く手がいつも晴れているのは娘たちの晴れパワーのおかげなのだ。
こっそり別行動を取るのは許さないとばかりの空模様だった。
道の駅許田の駐車場は混雑していた。
ぐるっと一周して、ちょうど前の車が出たスペースに停めさせてもらう。
店内は相変わらずパイナップル山積み。
海ぶどうを購入。
海ぶどうは今、ほとんどが養殖。
鮮度を保つため、こういった店ではどこも水槽に入れてぐるぐる回している。
鮮魚売場もすごい。
東京じゃ考えられないような蛍光色の熱帯魚のアラが詰め合わせで売っている。
パパは「本当にこんな色の魚からいい出汁が取れるのかなぁ」と不審そう。
うこんや蜂蜜、ポークランチョンミートの缶詰も買った。
このランチョンミートはゴーヤーチャンプルーに最適。沖縄ならどこででも売っていると聞いた。
買い物を終えて戻ると、やっぱり名護は青空の下。
カナもレナも自分たちのいるところは、ちゃっかり晴れさせているらしい。
午後の予定はふうりん祭りにあわせて、名護自然動植物公園こと、ネオパーク・オキナワに行こうと思っていた。
パパが電話で問い合わせたところ、お祭りは夕方6時からで、ネオパーク内はゆっくり見て回っても1〜2時間ぐらいあれば十分ということなので、4時になったら出発することにした。
子供たちはにぬふぁぶしから持ち帰りしたじゅーしーをおにぎりにしてやると喜んで食べ、さらにデザートにドラゴンフルーツを食べ、大人は今朝の朝市で買ったジーマーミー豆腐を食べた。
「ジーマーミーって何?」とパパ。
「えーと・・・ピーナッツ関係だったような気がする」と私。
そう、ジーマーミー豆腐とは、大豆ではなくピーナッツで作った豆腐。
専用のたれがついてきたので、これを掛けて食べてみた。
おっ、なんか想像していなかった味がする。
豆腐自体は甘みがあってかなり硬い。
硬いといっても島豆腐のような崩れる硬さじゃなくて、葛を固めたものに似た感じの歯ごたえ。
つまりぷるぷるっとくる感じ。お菓子みたいだ。
たれは甘くない。というか、甘じょっぱい。
なかなか美味しい。
「ネオパークに行くまで時間があるから、名護城跡に行ってみたいな」
名護城(なんぐすく)は日本一早く咲く桜の名所として知られている。
もちろん今は桜の季節じゃないけど、初日に首里城も見そびれているし、一ヶ所ぐらい城跡見物をしてみたい。
見晴らしがいいみたいだし、子供の遊べる公園もあるみたい。
でもパパはまったく興味を示さなかった。
「・・・どうしてもって言うなら、ネオパークに行く前に寄ってみてもいいよ」
そうは言ったが、口先だけ。
ごろりと横になるとそのまま4時まで昼寝してしまった。
まあお疲れだからしょうがないか、とここは諦めることにした。
「パパ起きて。時間だよ」
「えっ、今何時?」
「4時ちょうど」
そんなに寝てしまったとは思わなかったようだ。パパは急いで起きあがり、支度を整えた。
「カナ、レナ、動物園に行くよ」
ネオパーク・オキナワは、名護のメインストリート、海沿いの道を21世紀ビーチの前で山側へ曲がって少し行った辺りにある。
この道は初めてだった。
マンションのある東江(あがりえ、沖縄では東は太陽が上がるから「アガリ」と読む)には、警察署や消防署が、21世紀の森公園近くには市役所があるから、海沿いの道は旧市街、そして山側へ曲がった先は大型ショッピングセンターなど並び、新市街地といった雰囲気だ。
お祭りが開催されると言っても、ネオパークはとりたてて混雑した様子も無い。
駐車場も余裕で停められた。
入り口には張りぼて?の大岩。
西部劇のテーマパークにでも入るみたいだ。
受付で入場料を払い、中に一歩足を踏み入れると、「ここ、来たことあるね」とパパ。
言われてみると、目の前のフラミンゴが遊ぶ大きな池に見覚えがある。
ということは、カヌチャに泊まったときにドライブで来たんだ。
海洋博公園のイルカショーのことははっきり覚えていたのにネオパークのことはすっかり忘れていた。
そうは言ってもレナにとっては初めてだし、カナだってもちろん何も覚えていないはず。
動物の餌が200円で売っていたので、カナとレナの分をそれぞれ買おうとしたら、通りがかりのカップルが、あげる機会がないまま園内を一周しちゃったからと、一袋譲ってくれた。
中は円柱状に固めた動物の餌と、パンくず。両方がごちゃ混ぜで入っている。
フラミンゴは遠くにいてほとんど餌を食べてくれないが、少し歩くと適当にその辺をクジャクが闊歩していて、クジャクの方は割と食べてくれる。
「綺麗な色のクジャクは雄なんだよ」と鳥に詳しいカナ。
「雌に見せて仲良くするためにいろんな色の光る羽を広げるんだよ。羽を広げたところが見たいなぁ」
「雌の前じゃないと広げてくれないんじゃない?」
「そうだよねぇ」
雌はよちよち歩きのベビーを連れていた。
幼鳥はいたって地味だが小さくて可愛い。
池の周囲には他にも沢山水鳥がいる。
でもみんな遠くにいて、通路の方にはほとんど来ない。
池の端まで来ると順路は薄暗いトンネルへ。
何故か巨大で不気味なカタツムリを石垣のところで発見。
沖縄のカタツムリは本土と何か種類が違う。
前にカヌチャのヴィラの周りで見つけてびっくりしてしまった。
やたらと大きいし、殻が巻き貝みたいになっているのだ。
岩のトンネルを出るとまた池があり、今度は水中トンネルになっている。
水中トンネルと言っても一昨日行った美ら海水族館にあったような綺麗なやつじゃない。
何だか緑色の藻が生えまくった水の濁ったトンネルだ。
これはアマゾンの水辺を模したもの。
透明なトンネルの断面に張り付いて、一心不乱に藻を食べ続けるユーモラスな魚を見ることができる。
それからアマゾン系の鳥たちがいる丘を過ぎて、左手にゾウガメ牧場への表示が見えた。
ネオパーク・オキナワの目玉の一つがこのゾウガメ牧場だ。
何しろ小学生までのお子さまは、なんと亀に乗ることができるのだ。
狭い坂道を登ると、受付があってゾウガメコーナーとヤギやポニーのいるコーナーに別れている。
みんなゾウガメの方に入っていく。
料金を払うと餌になる葉のついた枝を一本くれる。
大人は餌をやるだけだが、子供ならカメの背中に乗って餌をちらつかせながらカメを歩かせることもできる。
檻の中にいたゾウガメは六匹ほどだろうか。
なるほど浦島太郎を乗せたカメのように巨大だ。
柵の奥にもまだ何匹かいる。
カナは早速大きな一匹にまたがった。
レナはちびすけだったので、係りの人が一番小さいカメのところに案内してくれた。小さいと言ってもまたがって足が地面に着かないくらいには大きい。
誰が最初に考えたんだろうね、子供たちをカメに乗せようなんてさ。
カメたちは大人しく、餌をめがけて黙々と歩く。
カナはカメに餌を取られてしまった。
レナは上手に餌の枝を揺らしながらカメを歩かせている。
入園客が立ち入る柵とは別に区切られた柵があり、そこには甲羅にバッテンのガムテープが貼られたカメがいた。
たぶん弱っているとかの理由で、乗せるのを休止しているカメなんじゃないかと思うが、そのバッテンはあんまりでは?
ゾウガメ牧場を出ると次はオセアニアコーナー。
あっ、ワラビーだ。
カンガルーの小型種、ワラビーがぽんぽんと跳ねている。
木にはたわわにフルーツならぬフルーツバットがぶら下がっている。
フルーツバットとは果物を食べるオオコウモリのこと。
オーストラリアの
ポートダグラスに泊まっていたときは、部屋の窓から夕方になるとよく飛んでいる姿を目撃した。
つんつんとモヒカン頭の鳩や、クジャクもうろうろしている。
子供たちはここでもクジャクに餌をやり続けた。
オセアニアコーナーの先に真新しい建物が建っていた。
ネオパーク国際種保存研究センターだ。
パパが、「前に来たときはこんなのなかったよね?」と言う。
どうだっけ。
前回はカナもまだ小さかったのでゾウガメ牧場にも行かなかったし、あまり記憶に残っていない。
入り口で履き物を専用のサンダルに履き替えるようになっている。
病院か研究所のような雰囲気だ。
ここは希少な動物の繁殖や園内で生まれた赤ちゃんを育てることなどを目的としている。
目の上の白いラインが面白いのはインカアジサシ。
振り返った顔がとぼけていて癒し系なのはアオツラカツオドリ。
しかしひとつずつ区切られた部屋の三つに一つは空室だ。そこにいるべき生物の名前を記した札は下がっているのに部屋の中には何もいない。自然環境に近づけようと各部屋に植えられた植物や、たった今まで使われていたような餌台もあるのに。
カナが足を止めた。
「ヤンバルクイナの部屋だ!」
ヤンバルクイナは沖縄本島北部にしか生息していない珍しい鳥だ。国の天然記念物にも指定されている。
イリオモテヤマネコと並び、沖縄では最も名前の売れている生き物のひとつだ。
ところがこの部屋ももぬけの空だ。
どうしたことだろう・・・。
沖縄へ出発する前、カナはガイドブックでヤンバルクイナのイラストを見つけた。
やんばる地方を紹介する頁のあちこちを、茶色い頭と羽、白黒のお腹、オレンジ色のくちばしと足、そして目の下に白いラインのついたユーモラスな鳥が歩き回っている。
吹き出しには「ぼく、ヤンバルクイナ」と書かれていた。
「ヤンバルクイナって何?」とカナ。
「珍しい鳥だよ。沖縄にしかいないんだって」
「ふーん」
そう言えばちょっと、カナの好きなオーストラリアの鳥、
オレンジフッテッド・スクラブフォウルに雰囲気が似ている。
でもそのときは、カナがそんなにヤンバルクイナに会うことを楽しみにしているとは思わなかった。
期せずしてネオパーク・オキナワの国際種保存研究センターでヤンバルクイナの札を見つけ、にも関わらずヤンバルクイナそのものには会えなかったので、カナはショックでみるみる哀しそうな顔になった。
「じゃ、受付で聞いてみるよ。ちょっと待ってて」
国際種保存研究センターの受付でヤンバルクイナはどこにいるのか聞いてみる。
すると、
「ふうりん祭りが始まるので移動させちゃったんです」とお姉さん。
「移動って・・・じゃ、お祭りが始まったらお祭り会場の方で見られるんですか?」
「えーと・・・そうじゃなくて、お祭りの花火でヤンバルクイナが驚くといけないので、ネオパークから離れたところに先ほど移動させちゃったんです」
なに?
すると、なんだね。
今日に限ってヤンバルクイナは不在っていうこと?
「他にヤンバルクイナが見られるところはありますか?」
「ネオパークの中でもこのセンターだけなんです。他はちょっと判りません」
・・・。
「ヤンバルクイナに会えないの?」とカナ。
パパは意を決したように、「明日必ずパパが、カナをヤンバルクイナのいるところに連れていってあげるよ」と言った。
パ、パパ、そんな安請け合いして大丈夫か?
ヤンバルクイナはそうそうその辺にはいないぞ。
「約束?」
「約束だよ」
気持ちは判るが、どうするつもりだ?
国際種保存研究センターを出ると、いつの間にか最初に通ったフラミンゴの池まで戻ってきた。
まだ子供たちの手にした袋には、結構餌が残っていたので、もうどんどんやっちゃいなさいと発破をかける。
もうクジャクたちもあまりお腹が空いていないようだ。
最後はフラミンゴたちに向かって餌を投げる。
届かなくても池の魚たちが食べてくれるだろう。
レナが池の縁で餌を投げている様子を見て、パパはまた池に落ちるんじゃないかと冷や冷や。
先月の
新潟旅行で、レナはカエルをからかって石を投げて、池に落ちた前科がある。
最後に池中の鳥が一斉に飛び立って、子供たちはびっくりして固まった。
6時になったのでふうりん祭りの会場へ移動してみる。
会場はネオパークに隣接した多目的広場だ。
駐車場と入園料を払う受付との間に土産物などを売っているメインハウスがあるが、そこの二階から移動できる。
二階には沖縄軽便鉄道の駅舎と自然博物情報館がある。
沖縄軽便鉄道というのは、大正三年から第二次世界大戦まで走っていた沖縄唯一の鉄道を再現させたもの。
この軽便鉄道が戦争で焼けてしまってから、今に至るまで沖縄に鉄道は走っていない(モノレールはあるが)。
日本全国津々浦々、独身時代に旅して回ったはずのパパが、何故かカヌチャに泊まるあの日まで沖縄にだけは来たことがなかった。
「何故?」と聞いてみたら、「沖縄には国鉄が走ってないからな」と返ってきたことを思い出した(パパはいわゆる旧国鉄乗りつぶし系鉄ちゃんだった)。
自然博物情報館の中には、美ら海水族館のそれとは比べものにならないくらい適当なタッチプールとナチュラリスト・真謝喜一氏のコレクションという多種多様な沖縄の貝の展示があった。
タッチプールにはヒトデなどに混じってフグが泳いでいるのが笑えた。
楽しみにしていたふうりん祭りそのものは、あまりにも地元のお祭り過ぎてすぐに退散を決めてしまった。
地元の団体の発表会という感じだったので。
今日は朝や昼にゆっくりしていたので、帰りが遅くなってしまった。
これで帰ることにしよう。
ふうりん祭りの花火を楽しみにしていたが、何ならマンションか21世紀の森ビーチから見物すればいいか。
名護に着いてから毎日七階の部屋から海に沈む夕日を見ていたが、今日はどうしても帰宅が間に合いそうにない。
よく晴れていて、素敵な夕日が見られそうなのに。
「21世紀の森ビーチで、落日を見ていってもいい?」
「いいよ」
パパはもう公園の駐車場はクローズしているかもしれないからと言って、いつも朝の散歩時に使っている外れの駐車場に車を停めてくれた。
子供たちは降りないと言うので、大人だけで車を降りた。
パパは子供たちを見ているというので、一人で桟橋のように突き出したところまで歩いてみた。
もう太陽は水平線近くまで降りてきている。
辺りには釣り客が少しと、それから何故か泳いでいる家族連れや、犬を泳がせている人も。
そういえばベルビューの支配人が、地元の人は夕方泳ぎに来ると言っていた。
昼間はクラゲ除けネットの外に近づくとすかさずビーチセイバーから注意の放送が入ったりするが、公園が表向きクローズすると、もう文句を言う人もいないので、みんな自己責任でネットの外で泳いじゃったりするらしい。
太陽はゆらゆらと揺れるように水平線近くの雲で歪み、滲み、ついには三つの破片になって赤く染まった。
角のように突き出した先端で、一人立ち、ゆっくりと空を見ながら回転すると、茜色に染まる広い世界が、水平線から水平線までの180度が、自分の上に降りてくるのを感じた。
なんて贅沢な景色だろう。
完全に暗くなるまで余韻に浸っていたいけど・・・子供たちが待っているから戻らなくちゃ。
夜はパパが、本場沖縄のシェフにも負けないと自画自賛するゴーヤーチャンプルーを作ってくれた。
子供たちにはジーマーミー豆腐も出した。
「これなに?」と懐疑的なまなざしを向けたカナだったが、隣で先に一口食べたレナが「美味しいよ」と言うと黙ってスプーンを口に運んだ。
今日の昼に買った海ぶどうも出した。
レナが「海ぶどう、海ぶどう」と嬉しそうにつまんでいる。
ネオパークの花火は9時少し前に始まったようだ。
マンションのバルコニーからは見えなかったが、裏側へ回って、エレベーターや非常階段のある通路からはぎりぎり見える角度だった。
パパがそこから見えることに気が付いて呼んでくれたが、「でもやっぱり遠いからあまりよく見えないよ」
「子供たちにも見せて上げようよ」
「・・・判った、連れてくる」
しかし子供たちが到着してすぐに、花火は終わってしまった。
えっ、たったこれだけ?
「見たかった」
「パパとママだってほとんど見てないよ。すぐ終わっちゃったもの」
わざわざヤンバルクイナを避難させたほどの花火なんだから、もっと盛大に上がるのかと思っていた。
それほどのものでもなかった。ちょっと残念。
その日の終わり、パパが心配そうに呟いた。
「新しい台風が生まれた。真っ直ぐ沖縄本島へ向かってきている」
そう、先日のマーワーこと台風11号は私たちが留守にしている関東地方を直撃して去っていったが、今度は新たに発生したタリムこと13号がやってくる。
「・・・いつ来るの?」
「この分だと、30日に・・・」
30日と言えば沖縄を発つ日だ。
ANAの最終便で那覇から羽田に戻る予定だ。
まさか、飛行機が飛ばないなんてこと・・・ないよね?