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美ら国訪ねて
*子連れ沖縄旅行記*

4.美ら海水族館と瀬底島



四日目 2005年8月26日(金)

 「じゃ、行ってくるから」
 そう言って、パパは無情にもカナの手を引いて出かけてしまった。
 朝の6時。
 寝ぼすけレナはまだ夢の中。

 旅先でのパパは嫌になっちゃうほど早起きだ。
 平日は目覚まし代わりの携帯アラームが鳴ると「もっと寝ていた〜い」と言い、休日は誰より遅起きを楽しんでいるパパなのに。
 しかも今回は沖縄に行く二日ぐらい前から6時前に起きていた。
 沖縄には時差はないから、出発前から調整しなくていいんだよってば。
 ついでにカナも早起きだ。
 彼女は体内時計が狂うことなく、休日も平日も家でも旅先でもきっちり目を覚ます。
 パパは勝手に自分とカナを早起き組と名付け、朝の散歩に行くことに決めていた。

 ところが本部町のビーチリゾートに建っているとばかり思いこんでいたウィークリーマンションは、来てみたら名護の町中だった。
 軽く朝の散歩としゃれ込むには、ビーチまで距離があった。
 それでもパパは諦めない。
 車で21世紀の森ビーチまで出かけることにしていた。
 21世紀の森公園の駐車場は早朝は開いていないから、昨日のうちに朝停められる場所までチェック済みだ。手回しの良いことで。
 彼にとって予想外のことと言えば、遅起き組のママが6時前に起きてしまったことぐらいだろう。
 「何で起きたの?」
 「何でって!! 朝早くからぱたぱたと出たり入ったりする誰かさんのせいに決まってるじゃないかっっ」
 だいたい普段の休日はよっぽど私の方が早く起きている。
 その遅起き組って呼ぶのやめてくれない?

 今朝の海は雲が多かった。
 ゴールデンウィークに泊まっていたケアンズ近郊ミッションビーチのアコモは、東海岸なので海から昇る朝日が見えた。
 名護湾は夕日スポットなので朝はちょっと物足りない。
 それでも雲が多い分、山側から昇った朝日は雲に反射して赤く光っていた。



 ここ数日の天気予報では、沖縄は昨日と今日が晴れ、明日以降は晴れ時々曇り。
 だから内心、勝負を賭けるとしたらこの二日間かなと思っていた。
 昨日は期待通り快晴。
 島へ行くことも提案してみたが、パパは近場で過ごすことを決め、名護市内の21世紀の森ビーチで遊んだ。
 結果的には良かったと思っている。前日、前々日の移動の疲れが残っていたからだ。
 それもあって、今日こそは真っ青な海と真っ白なビーチの水納島へ行こうと思っていた。
 なのに空模様と来たら、予報裏腹、朝食を終える頃にはどうにもすっきりしない雲がじりじりと広がってきた。
 どうする?

 とりあえずビーチに行く準備を整えて車に乗り込む。
 ぎりぎりまで寝ていたレナだけは朝食も食べていないが、車の中で何かつまませることにした。
 名護を出て海沿いの道を本部半島へ。
 一昨日も通った快適なドライブコースだ。
 しかし雲が多い。
 雨が降りそうなほどではないが、ほとんど青空が見えない。
 おまけに何やら遠雷も。
 島へ行けば晴れているっていうこともあるかもしれないが、いまいち踏み切れない天候だ。
 北へ向かえば少しは晴れてくるかと思ったが、まったくそんなことは無かった。
 異様な山容の石灰岩切り出し山を右手に見ながら、ふと海の方に目線を移すと、おや、虹だ。
 白い雲にうっすらと七色のかけら。
 やがて瀬底島に通じる瀬底大橋が見え、ナビに従って裏道に入ると鄙びた感じの港に着いた。
 ここが水納島へ行く高速船乗り場、渡久地港だ。
 船はシーズンオフには一日3便しか無いが、夏休み中は12便も出ている。
 ちょうど港からは本部大橋が見える。
 橋の隣にはさっきの虹が、今度は長く弧を描いていた。
 カナが最初にそれを見つけた。

 港まで来てみてみたものの、やっぱり踏ん切りはつかなかった。
 島まで渡れば晴れてくるなんて都合の良い可能性は低い。
 パパがここまで来てみたけど、今日は曇っていても楽しめるところに変更しようかと提案した。
 「カナ、水族館に行こうと思うんだけど・・・」
 嫌だと言うかと思ったカナは、意外にも「行きたい」と嬉しそうに答えた。
 「あのね、ハム太郎のロコちゃんが水族館に行く話があるんだよ。そこでね、ヒトデを触ったりするの。それがやりたい」
 よーし決まり。
 やっぱり島は快晴の日に限る。
 ケアンズに行ったときも、ダンク島でしくじっているじゃないか。
 今日は予定変更。
 海洋博記念公園の美ら海水族館に行くことにしよう。



 港から目の前に見えていた本部大橋を渡る。
 橋から沖に浮かぶ島の中央にそびえる不思議な形の山が見えた。
 あれはタッチュー(城山)。
 伊江島のランドマークだ。
 まるで帽子みたい。
 ほぼ平坦な島の中で、そこだけ異様に盛り上がっていて奇怪だ。
 ちょうど伊江島の頭上にも、大きな雲がかかっている。

 国営海洋博記念公園は、沖縄本島でも有数の観光地なので、かなり手前から道路標識に記されていて迷うことはない。
 竜宮城を模した琉宮城蝶々園やバベルの塔みたいな熱帯ドリームセンターが見える。ドリームセンターはもう海洋博記念公園の施設の一部だ。
 実は海洋博記念公園に来るのは2度目だ。
 レナがまだお腹の中にいて、2歳前のカナを連れてカヌチャに宿泊したとき、一日だけレンタカーを借りてここを訪れている。
 そしてイルカのショーを見て、目の前のエメラルドグリーンの海のあまりの鮮やかさに驚いたのだ。
 正直カヌチャ周辺の海はいまいちだった。
 今度来るなら西海岸がいいと強く思った瞬間だった。

 駐車場に車を停めて、長い石段を下りる。
 下に噴水と海を見下ろす広い石段は確かに覚えがあった。
 海の向こう、真っ正面にタッチューが見える。
 この角度、計算して作られている。
 子供たちは石段を下りて、噴水で遊び始めた。
 ここの噴水はちょっと面白い。
 高低差が無く真っ平ら。だから池のように水が溜まっていない。
 そこまでは時々普通の公園でも見かけるが、音楽に合わせてまるで生きているかのように水が出る。
 なんだか蛇が飛び跳ねているようだ。
 ふと雷の音が聞こえた。
 まだ遠い。
 でも確かに雷鳴だ。
 さっきからずっとしつこく鳴り続けているらしい。
 黒雲の下のタッチューもなんだか雨にぬれているような気がした。

 途中にちょっと子供の喜びそうなネットの張ってある遊具が見えた。
 ちびっこ砦だ。
 カナの好きなターザンロープもある。
 でも今は先を急ごう。
 目的地は美ら海水族館だ。

 水族館のチケットは、既に一昨日道の駅許田で購入してある。
 急に目的変更したからまだ開館時間まで間があるのではないかと思ったが、夏休み中に限り8時半からオープンしていた。
 ラッキー。

 入り口に巨大なジンベイザメのモニュメントがある。
 しかし子供たちは高いところに据え付けてある青銅の魚などより、チープな顔出しの方が気になるよう。
 なんだか知らないが「沖縄美ら海水族館来館記念」と書かれたボードの、ジンベイザメやマンタの顔の部分から二人して顔を出して、「写真を撮って撮って」。

 ゲートをくぐってエレベーターで下へ降りると、正面に大きなイルカの水槽が見えた。オキちゃん劇場だ。時間があったらこの後行ってみよう。
 伊江島上空の黒雲はますますやばそうな雰囲気。
 雨が降り始める前に建物の中に入ってしまおう。

 海洋博公園では無料でイルカのショーやマナティー館、ウミガメ館など見学できるのに、水族館は大人1,800円と決して安くない。
 その価値があるかは入ってみないと判らない。
 キャッチフレーズは「世界一と世界初がここにある。」
 世界一なのは巨大アクリルパネルの水槽。
 世界初なのはジンベエザメの繁殖目的の複数飼育。
 マンタ(オニイトマキエイ)の複数飼育なども世界初らしい。
 受け付けを過ぎて最初のコーナーはイノーの生き物たちと名付けられたタッチプール。まさにカナが水族館でやりたいと言っていたあれだ。

 わぁい、ヒトデがいっぱい。
 ヒトデは漢字でも海星と書くけれど、英語でもSea Star。
 どのヒトデもかなり大きく、色がとても綺麗だ。
 特に目立つのが細身の青いヒトデ。
 そのまんまアオヒトデという。
 イノーの係りのお姉さんが「どうぞ自由に触ってみて下さいね」と教えてくれた。
 「但し、海中の生き物は、水から出すと呼吸できなくなっちゃうので、必ず水の中で触ってね」
 レナはこういうとき真っ先に触ってみる。
 姉のカナはちょっと臆病なので後込みしている。
 思ったより固い。
 それからもう少しぽってりとしたコブヒトデやマンジュウ型のヒトデもいる。
 「これは何?」
 黒いのはナマコ。
 触ってみるとこちらはぶよぶよしている。
 ナマコの方はレナも、見た目に恐れをなして触ろうとはしなかった。

 次に待っていたのは珊瑚と熱帯魚の大きな水槽。
 色とりどりの枝珊瑚と、ちょうどファインディング・ニモに出てきたような熱帯魚たちが泳いでいる。
 「ドリーだ」
 「エイ先生だー」
 と思ったら、すいーと黒っぽい人影が。
 ボンベを背負って潜ってきたのは、水族館の係員。
 餌の時間なのかな?と見ていたら、彼は珊瑚や岩の上にたまった汚れを手で払ってまた浮上していった。
 お掃除係だったらしい。

 小さい魚ばかりかと思ったら、岩影から額に大きなコブを持った青い大きな魚があらわれた。ナポレオン・フィッシュだ。
 ぎょろっとした目玉が可笑しい。ロンパリって言うの? 分厚い唇もユーモラス。

 美ら海水族館は小さな水槽をちまちまと多く作るのではなく、本物の海中をイメージさせた大きな水槽が多い。
 そして大きな水槽はだいたいぐるりと周囲を回っていろいろな角度から見ることができるようになっている。
 珊瑚と熱帯魚の水槽の角を曲がったときだ。
 パパがニモを見つけた。
 水槽の隅にイソギンチャクがいて、その触手のところに何匹かのカクレクマノミが泳いでいたのだ。
 さらに上の岩場にも何匹か。
 ちっちゃくって可愛い。
 ニモだニモだと子供たちとはしゃいでいたら、ゆったりと大きなウミガメが視界を横切った。



 さてこの水族館最大の目玉である巨大アクリルパネル水槽の黒潮の海に行く前に、通路で黒潮探検ツアーの受付を行っていた。
 1日10回、1回辺り15人限定。
 黒潮の海水槽を上から眺めることが出来るというもの。
 私はちょっと気になったが、パパは受付時間まで並ばなきゃいけないし、既に行列が出来ているようだからとやめて、10時からの美ら海シアターを見ようと言った。

 10時までまだ20分ほどあったので、先に黒潮の海へ。
 世界最大のアクリルパネルは流石に大きい。
 カラフルさでは先ほどの珊瑚の海に敵わないが、迫力は満点。
 前に大阪の海遊館で巨大ジンベエザメなら見たことがあるが、ここはまたいろんな魚がいて、目の前を群れなして横切っていく。
 カナもレナも目を丸くして見ていた。
 「エイ先生の背中に乗りたいな・・・」とレナ。
 うん、あの大きなマンタならレナぐらい乗れるかもね。

 ふと振り向くと、ずいぶんと人が増えていた。
 通常は9時半オープンだから、それにあわせて来る人が多いのかもしれない。
 流石に有名な水族館だけあって、平日でもこんなに混むんだね。
 サメ博士の部屋で鋭利な鮫の歯に触った後、時間になったので少し戻って、美ら海シアターを見た。

 シアターの後はジンベエ・マンタコーナーを通り、土産物屋を一回りして水族館を出た。
 空模様は相変わらず。
 遠雷もまだ聞こえる。
 まもなく11時の回のオキちゃん劇場がスタートする。
 水族館の次はイルカショーにしよう。
 実は海洋博公園では夏休み中の土日、イルカに触ることの出来るプランなども行っている。
 沖縄のいくつかの施設でも6千円なにがしか出せば、イルカと触れ合える場所などもあるのだが、何しろこの海洋博公園は太っ腹にも無料だった。
 そのかわり小学生以上という年齢制限があり、葉書による事前抽選方式だ。
 レナは無理でもカナだけでもと、一応葉書は送ってみたが、残念ながら落選。
 もちろん今日は土日ではないのでイルカと遊ぶプランはやっていないが、せめてもショーは見ていこう。

 オキちゃん劇場はさっき書いたように2度目だ。
 あの日はよく晴れていて、ぎらぎらじりじりと南国の強い日差しが照りつけていた。
 何も遮るものがなかったので、パンフレットを小さかったカナの頭上にかざして、サンシェード代わりにしていたことを覚えている。
 そして1歳だったカナは、家に帰ってから沖縄のことをほとんど覚えていなかったが、長いことイルカのジャンプだけは覚えていて、「イルカさんがピョーンって跳ぶんだよ」と何度も教えてくれた。
 それくらい印象的なことだった。

 丸い大きな水槽を半円形に囲むようにすり鉢状の座席がある。
 最初はよく見えるように一番前に座ってみたが、時々雲の間から顔を出す太陽が強すぎる。
 少しでも日陰になるように後ろの方へ移動した。
 オキちゃん劇場の屋根はほんの一部分しかついていない上にメッシュ状になっていて、大した影は作り出してくれないのだが、それでもあの日の思い出のように、直接日差しを浴びるよりはマシだった。
 パパが買ってきてくれたジュースを飲みながらショーが始まるのを待つ。
 いつの間にか他の座席もみんないっぱいになっていた。

 オキちゃん劇場で特技を披露するイルカは、バンドウイルカ、ミナミバンドウイルカなど5匹。
 生粋の水族館生まれの子もいれば、天然生まれの子もいる。
 ヒレを振ったり歌ったり踊ったり、背泳やジャンプを決めてくれる。
 アシスタントに一番前の席に座っていた男の子が選ばれ、イルカに指令を出させてもらっているときは、カナもレナもすごく羨ましそうだった。
 こんなことなら一番前の席に座らせて上げれば良かったかな。
 いやいやもちろん一番前にいたって選ばれるとは限らないし、だいいち姉妹のどちらかが選ばれたら後々まで喧嘩になるだろう。
 これで良かったのだ。

 オキちゃん劇場の次は30分ぐらいしたらイルカスタジオのショーがあるようだったが、お腹も空いてきたので昼食を取ることにした。
 ところが公園内のレストランは水族館を出たところにある展望の良いビュッフェ式のものしか無いらしく、食べ放題では元の取れない我が家には向いていなかった。
 仕方なく案内図でカップとスプーンの絵のあった総合案内所の辺りまで戻ってきたが、カップのマークというのはレストランではなくカフェで、早い話が軽食はおろか飲み物ぐらいしか置いていなかった。
 どうしようか・・・と親が迷っている間、子供たちは朝から気になっていた噴水で一遊び。
 ああ、あー。
 やってくれるじゃない。
 夢中になっているうち、レナはもちろん小学二年生のカナまで、着ていた服をびしょびしょにしてしまった。
 水着じゃないんだから、どうしてくれるのよ。

 追い打ちをかけるように大粒の雨が降ってきた。
 雨だ雨だと急いで駐車場に戻る。
 いいじゃん、あなたたちはもう既に噴水でぬれてるんだから、今さら雨が降ったからってどうってことないじゃないの?



 海洋博公園の敷地の隣に琉宮城蝶々園と都市緑化植物園があって、その斜め前辺り、道を渡ったところにホテルマハイナ・ウェルネスリゾート・オキナワが建っている。
 マハイナはちょっと宿泊を検討したホテルだ。ついでにマハイナ塩泉などという温泉もどき?もあって気になっている。
 このマハイナの隣にこれまた道の駅まがいの、やんばる海の駅が建っている。恩納村のおんなの駅なかゆくいみたいな感じだ。
 やんばる海の駅で昼食にすることにした。

 やんばる海の駅には、ランチレストランてぃんがーらと、海人(うみんちゅ)料理海邦丸と二つの食事処がある。
 海のそばだから魚介類を食べよう、と、海邦丸に入ることにした。
 まだ雨がばらばらと降っていたので、駆け足で屋根の下に移動した。

 海邦丸は庶民的な雰囲気の店で、隣に併設されたお魚センターの鮮魚を使って調理してくれる。
 頼んだのは伊勢エビがどーんと乗った海邦丸スペシャル定食Bと、お魚とゴーヤーチャンプルーの定食。
 それから単品で活海ぶどう。
 実は前々から海ぶどうが気になっていた。
 ちょうど今がシーズンだと言うし、あちこちの産地直送センターで見かける。
 だけどどんな味なのかちょっと想像がつかない。
 どこかで外食してみて、美味しかったら買って帰ろうとパパと話していた。

 海ぶどうはキャベツの千切りの上に乗って出てきた。
 ごく小さな葡萄の房のような形の海草だ。
 たれが2種類と、薄切りレモンが添えられていた。
 それでは一口・・・。
 横からレナも手を出した。
 ふむ。海の味。
 うん、そう、海水浴をしていてうっかり海の水を飲んじゃったそのものの味がする。ぷちぷちとした食感が面白い。なかなか美味しいかも。
 カナは最後まで食べようとしなかったが、パパとママとレナで平らげてしまった。
 伊勢エビもゴーヤーチャンプルーももちろんとても美味しかったのだが、海ぶどうのインパクトに負けてしまった。
 この店のメニューはボリュームもあってもうお腹いっぱい。

 食後は土産物を物色。
 買うわけではないのだが、どんなものを売っているのか気になって。
 パパとカナが、珊瑚で作った置物を発見。
 これなら自分たちで作れそう。
 拾った珊瑚で作ってみようか。
 伊江島直送の鮮魚も色とりどり。
 本当にこっちの魚は、刺身で食べるのが不思議なくらい鮮やかな青や緑色だ。

 なんだかちょっと予感はしていたが、やんばる海の駅から外に出てみて、やっぱり・・・と思う。
 さっき降ってきたあの雨は何だったんだろう。
 まるで時計を早回しにしたみたいに、嘘みたいな青空。
 そうだ。
 海へ行こう。
 今からだって遅くない。
 晴れたなら、白い砂浜へ行って珊瑚礁の海で泳ぐのだ。



 満名川の河口に架けられた本部大橋を渡って、それからもう一つ橋を渡る。
 瀬底大橋。
 沖縄本島の本部半島と、離島の瀬底島を結ぶ橋だ。
 半日では水納島に船で渡るには時間のロスが大きすぎる。
 橋で結ばれている瀬底島の瀬底ビーチにしよう。
 瀬底ビーチは本島から車でアクセスできるビーチとしては、破格に美しく、シュノーケルポイントとしても知られている。
 長閑なさとうきび畑を抜けて、ゴルフ場を横目に見ながら外海の方へ車を進めると、エメラルドグリーンの海が見えてきた。

 駐車場の入り口に着くと係りのお兄さんが千円を徴収。
 そこからは海は見えず、お兄さんは道の先を指して、「ビーチはあの下です。下まで降りて車が停められそうだったらそこに、いっぱいだったらここに戻ってきて停めて下さい」と教えてくれた。
 未舗装の坂道を降りると、それほど広くはない駐車場と売店が見えた。
 ほとんど満車だったが、昼過ぎなのでもう帰る人もいて何とか車を停めることが出来た。

 実は子供たちはもう昼食前から水着姿だった。
 なぜなら海洋博公園の噴水で着ていたワンピースをずぶぬれにしてしまったからだ。
 びしょびしょで気持ち悪いーと言うのでビーチ仕様に持ってきた水着にさせたのだ。
 ランチも水着姿で食べていた。
 まるでその後、ビーチに行くのが判っていたようだ。
 バスタオルや浮き輪、シュノーケルセットを入れたビーチバッグを持って、さあ準備OK。
 ビーチへは木立を抜けて急な坂を下りる。
 坂の下に海が見えてきて気が急く。
 正面には今朝行くはずだった水納島だ。
 うわぁい、ビーチだビーチだ。
 眩し〜い。
 砂浜が熱ぅい。

 瀬底ビーチはすごい人出だった。
 昨日、名護市内の21世紀の森ビーチに行って、沖縄のビーチは空いているねぇなどと思ったが、それはまったくの思い違い。
 午前中曇天だったとは思えない賑わいだ。
 海に向かって右手にレンタルショップと監視所、そして白い砂浜にはずらっとパラソル。
 個人のパラソルも少しだけあるが、ほとんどはビーチを管理する業者のパラソルで、波打ち際に近いところは一列にブルーのパラソル、少し浜よりのところはチェアー付きでに白と黄色のパラソル、左手の高台にはやはりチェアー付きでちょっと高級感のあるネイチャーグリーンのパラソルが並んでいる。
 日差しがとても強いので、パラソル無しではいられない。
 我が家もブルーのパラソルを借りることにした。
 既にパラソルは定位置に等間隔で差してあるので、未使用の閉じたパラソルを開くと、係員のお兄さんが跳んできて料金を徴収するシステム。
 パラソルはひとつ千五百円。
 何かとお金がかかる。
 沖縄へ持ってきた荷物の中にはレジャーシートを入れなかったが、大きめビーチタオルで代用。
 せっせと子供たちにも日焼け止めを塗って、さあ、海へ行ってらっしゃい。

 元々今回の沖縄旅行の大きな目的はシュノーケルだった。
 去年、オーストラリアミコマスケイでママはシュノーケルした。しかし当時小学一年生だったカナは怖がってまったく泳ごうとはせず、幼稚園年中だったレナだけついてきた。
 ライフジャケットと水泳用ゴーグルを着用して、一緒に珊瑚礁の海を泳いで回ったが、そのレナもどうしても海に顔だけはつけられなかった。
 あんなにプールではゴーグル無しでも目を開けられるのに、何が怖いんだか。
 「ほら、すぐそこにお魚が沢山いるよ」と教えてあげても絶対駄目。
 なんてもったいない。
 だから今年またオーストラリアに行ったとき、今度こそ子供たちに海中を見せてやろうと、ジュニア用のシュノーケルセットを購入してお風呂場で練習までさせた。
 なのに今年のオーストラリア旅行ではついにシュノーケルする機会は回ってこなかった。
 残念。
 カナもレナもあれほど楽しみにしていたのに。

 沖縄でもシュノーケルできるビーチは限られている。
 結構死亡事故なども頻発しているらしく、きちんと整備された町中の公営ビーチなどはほぼシュノーケル禁止だ。
 昨日行った名護市の21世紀の森ビーチも禁止されていた。
 だから瀬底ビーチにはかなり期待していた。
 瀬底島の瀬底ビーチはシュノーケルOK。
 足下を熱帯魚がすいすいと泳ぎ回る海水浴場として知られている。

 パパが「シュノーケル、したいならしてくれば」と言う。
 えっ。だって子供用のシュノーケルセットしか無いよ。
 「日頃から頭が小さいって自慢してるんだから子供用のマスクだって入るだろ」
 「・・・」
 レナのを借りると絶対ぎゃあぎゃあ騒がれるので、カナの水色のシュノーケルセットを借りることにした。
 沖縄の海は暖かい。
 寒いのが苦手な私は海やプールには滅多に入らないが、黒潮流れる熱帯の海と呼ばれる沖縄なら、それも夏限定でなら、何の躊躇もいらない。
 白い砂浜は波打ち際を過ぎるとウェーブした板のように固くなっていて、すぐに深くなる。
 手前の方は砂だが、ブイとロープで仕切られた遊泳区域の奥の方には黒々と珊瑚礁が見えている。
 たぶんあの辺りに行けば魚がいるに違いない。
 泳ぎ初めてすぐに、カナとレナにばれてしまった。
 「あーっ、私のシュノーケル!!」とカナ。
 「貸して」
 「・・・いいよ」
 ライフジャケットは無いので浮き輪を使う。
 とぷん・・・と顔をつけると、水底が縞模様にきらきらと光っているのが見えた。
 魚は・・・と、あっ、いたいた。
 青と緑の縞模様。
 白黒の魚も。
 やっとシュノーケル出来た。
 さあ、子供たちにもこの光景を見せてあげなくちゃ。

 カナとレナは海で遊んで砂浜でも遊んで、それからシュノーケルセットを装着、わくわくとパパと一緒に海へ走っていった。

 しばらくたって・・・。
 カナだけぽつんと戻ってきた。
 シュノーケルとマスクを外して砂遊びを始める。
 「どうしたの?」
 「・・・シュノーケル、もういい」
 パパとレナはまだ戻らない。
 海の方を見やると、パパの横にぷかぷかとレナの背中が浮いているのが見えた。

 ようやく戻ってきたパパは、興奮したようにレナは凄いと教えてくれた。
 「平気で何分も水中に顔をつけて泳いでいるんだよ。でもって魚を見つけると、さかなさかなとか叫びながらどんどん追いかけていくの。管をくわえているから管の出口からぼこぼこと「さかなさかなー」とかって聞こえて来るんだよ」
 そりゃあ、可笑しい。
 まあレナはミコマスケイでも顔こそつけないまでも平気で何十分も泳いでいたからなぁ。
 プールでもまるでラッコかカモノハシみたいだし。
 天性のシュノーケラーなのかも。
 対する姉のカナは、管に水が入ってくるのが嫌なのか、もうシュノーケルはしたくないと言う。
 お魚見えた? と聞いても、見えたんだか、見えなかったんだか、はっきりした返事をしない。
 こりゃあカナはこれきりシュノーケルをしないかな。
 あれほど練習したのに。

 飲み物やトイレはさっきの駐車場まで戻らないと無い。
 かき氷とカルピスを買ってきた。
 どちらも300円。かき氷は適正価格かなと思うけど、カルピス300円はちょっと高い。
 今朝の天気が嘘のように暑い。
 汗をかいても一瞬で乾きそう。
 乾くといえば子供たちのワンピース。
 噴水でぬれたのをパラソルの上に干しておいたらすっかり綺麗に乾いてしまった。

 子供たちとパラソルの下で休んでいたら、パパが空いたシュノーケルセットをつけて海の方へ泳ぎに行ってしまった。
 シュノーケルにすっかり夢中になったレナが、「もう一度お魚、見に行きたい」と言ったけど、もうひとつのシュノーケルセットが無いと私もつきあえない。
 パパの帰りを待つことにした。

 「パパ、遅いよ。レナ早くお魚見に行きたかったんだよ」
 子供用のマスクと管をつけたパパは、ごめんごめんとレナに謝り、それから思いもかけないことを言った。
 「シュノーケルって面白いな」
 でしょー。
 ロウアイルズでもミコマスケイでもシュノーケルしたいしたいって言う私のことを笑っていたくせに。

 結局三人で二つの子供用シュノーケルセットをかわるがわる使って、何度も海の中をのぞいた。
 夕方になってくると、色鮮やかな魚は姿を消したが、その代わりに小さな魚の群がいくつも横切っていった。
 子供たちが砂と海と珊瑚で作った白いお城も、夜になる前には満ちてきた潮に流されてしまうだろう。



 帰りがけに魚屋に寄った。
 ベルビューの支配人に教えてもらった鮮魚店だ。
 確かCOCOという大型日用品店の隣に新鮮な魚介類の手に入る店があると言っていた。
 だけどここって・・・。
 店の前まで来てパパと顔を見合わせる。
 お食事処っていう暖簾が下がっていて、魚屋には見えない。
 「支配人は店内で食事もできると言っていたからここで間違いないと思う」とパパ。
 確かに「海鮮市場 魚しん さしみ屋と定食屋」と看板に書かれている。
 この、さしみ屋というのは刺身の食べられる食事処というだけではなく、刺身を売っていると見て取って良いだろうか。

 紺の暖簾を潜って店内に入ると、ああ確かに奥が定食屋になっていて、カウンタのところで魚介類も販売しているみたい。
 とは言っても、教えてもらわなかったらとても魚屋だとは判らなかっただろう。
 えっ、嘘。
 一パック均一500円って・・・。
 これって、これって、アワビだよ。
 ほ、本物のアワビ? なんか似てる違う貝ってことない?
 「アワビですよ」と店の人。
 東京で買ったら何倍の値段だ??
 アワビとマグロを買った。
 マグロも安いんだけど、なんか赤身が薄い色で違う魚みたい。
 パパがアワビもこんな薄切りになってると、アワビらしくないよなぁと笑った。

水納島の透き通った海へ続く


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