3.名護を遊ぼう
三日目 2005年8月25日(木) |
それはもう、完璧な快晴だった。
沖縄に着いて三日目。
名護のマンションに着いて最初の朝。
七階の窓から見る海の上の空は、隅から隅まで青一色。
昨日の疲れもあって7時過ぎまで寝ていた。
パパは早起きしたようだが、残念ながらここはビーチフロントではないので、お散歩に行く海岸が無い。
ここから一番近いビーチは21世紀の森ビーチ。
ここは日本ハムがキャンプすることでも知られる21世紀の森公園に作られた人工ビーチで、昨日ベルビューの支配人がお勧めですよと言っていた。
朝ご飯を食べたら21世紀の森ビーチに行ってみることにした。
私はせっかくこれだけ晴れているのだから、どこか遠出して島のビーチに行ってみようと提案したのだが、パパは今日は近場でゆっくりと決めたようだ。
ウィンベル沖縄名護コーラルビューから21世紀の森ビーチのある21世紀の森公園までは車で5分ほど。
朝9時半。
駐車場はがらがらだ。
じりじりと強烈な日差しが降り注ぐ。
肌にちりちりと感じる直射日光は、日焼け止めを塗っていてもあっと言う間に真っ黒になりそうだ。
ビーチは人工なので真ん中に突き出した展望スペースがあり、その両側に弧を描いてくるりと蔓のように巻き上がった部分がついている。
海に向かって左側が遊泳区域だ。
クラゲ除けのネットで囲われている。
泳いでいる人影はほんの7、8人。
真っ白な砂と真っ青な海と空。
これぞ沖縄という絵に描いたようなロケーションだ。
子供たちには最初から水着を着せていたので、もうそのまま水際まで降りられる。
よく行く東京の葛西臨海公園の海や、先日
新潟旅行の時に遊びに行った日本海側の鯨波海水浴場などと違って、ここらの砂浜は貝殻や珊瑚のかけらでできている。目に眩しい白さであるだけでなく、足裏の感触もまるで違う。さらさらとくっつかない。裸足で歩いても気持ちいい。
セルリアンブルーの海も沖縄ならでは。
水は透き通り、寄せては返す波はソーダゼリーみたいだ。
カナとレナは波打ち際まで駆けていき、ばしゃばしゃと走り回った後、浮き輪で泳いで、それから飽きるまで貝と珊瑚を拾って歩いた。
名護市という町中にありながら、こんなに綺麗な海があるなんて、やっぱり沖縄は凄い。
特にこのビーチはかなりの穴場だった。
ロケーションも透明度も素晴らしいのに、観光地ではないのでほとんど観光客がいないのだ。
やってくるのはほとんど名護の地元民で、しかも地元の人は暑すぎる日中にはやってこない。夕日の名所でもあることから、むしろ夕方から遊びに来るという。
この後いくつか観光地的なビーチを巡ったが、こんなに空いているところは無かった。
お昼少し前。
子供たちが海から離れようとしないので、パパはファーストフードを買いに行った。
ちょうど泊まっているウィークリーマンションの近くに、ちょっとアメリカンな雰囲気の店があったというのだ。
その店の名はA&W。
アメリカ生まれのチェーン店で日本のファーストフードの草分け的存在。
ルートビアを発明したロイ・アレンのAとパートナーだったフランク・ライトのWをとってA&Wと命名され、今では本場アメリカでも懐かしがられるような古き良き時代のファミリーレストランになっているという。
ドライブスルーもあって、日本のマクドナルドのように一列に並ぶのではなく、駐車スペースごとにメニューとマイクがあって、車を停めて注文するとすぐに店の人が運んできてくれるシステムになっている。
パパが買ってきたのはおっきなハンバーガーひとつとトーストにいろいろ具を挟んだようなハンバーガーともサンドイッチともつかないようなのが二つ、さらに飲み物と揚げ物だった。
「ポテトと・・・これはイカリング?」
「オニオンリング」
「そりゃ失礼」
子供たちにはハンバーガーを半分ずつ食べさせようとしたが、何しろその辺の薄っぺらなのと違って巨大なので、とても手で半分になんて分けられない。
「カナ、先に半分食べて。残りをレナが食べて」と私。
「やだ」、と二人とも。
「なんとか半分に切って」とパパ。
無茶言うなぁ。
パパ、ほら、
スイス製の五得ナイフ持ってたじゃない。あれ、出して。
「ああ、そうだった、忘れていたよ」
こういうときに使わなくてどうする。
それでなんとか半分こ。
食後も海に入っていいよと子供たちに伝えたのだが、もう十分泳いで気が済んだらしく、午後は貝拾いをすることにした。
子供たちが泳いでいる間、パパはビーチを隅から隅まで歩いて、かなり大きなイモガイやタカラガイを拾っていたので、子供たちも負けずと大物を捜すことにした。
21世紀の森ビーチは程良く綺麗な貝が落ちている。
これがあまりにも砂浜がさらさらだと、逆に全て粉々になっていて、なかなか完璧な貝殻は見つからなかったりするのだ。
カナは一人でもくもくと波打ち際を探している。
レナとスティンガーネットで囲われている外側の、ビーチの端まで歩いてみることにした。
たまに打ち上げられたハブクラゲに刺されることもあるようで、ビーチではしきりとネットに近寄らないよう放送を入れているが、あまり波打ち際に近寄らないようにすればネットの外でも大丈夫だろう。
ビーチの外れの岩場まで来ると、まるで白い骨が一面に散乱しているような荒涼とした場所があった。
骨に見えるのは波に洗われた珊瑚のかけらだ。
今は水から離れているが、満潮時にはここまで波が来るのだろう。
大物があるかと思って探してみた。
おお、あるある。
大きなイモガイを見つけた。
それから鋼色のキンチャクガイも。
帽子を被っていても熱射病で倒れそうになってきた。
このビーチは近いのでまた遊びに来られる。
今日はここまでにして戻ることにした。
部屋には戻らず、そのまま名護市内へ行ってみよう。
名護プラザの建物に大きな緑色のトカゲ。
よくゲームセンターとかにゴリラが登っていたりするあれと同じ。
市営の駐車場は1時間以内無料、その後は30分ごとに課金されるシステム。
中心地のアーケードは程良く鄙びていて、南国の太陽が照りつける。
建物の屋根の部分にあちらこちらからブーゲンビリアの蔓がわさわさと伸びている。
この辺りに名護の公設市場があるはずだ。
昨日、那覇で牧志公設市場に寄れなかったので、名護公設市場にはどうしても行ってみたい。
名護十字路の近くにいくつか市場入り口と書かれたアーケードがある。一本入ってみると、なんだか薄暗くあまり人けがない。
衣料品が沢山つるされている奥には色とりどりの果物が並んでいた。
新橋の線路下を思い出す古びた煉瓦造りのアーチを潜り、建物の中に入ると、今度は肉屋が何軒も。
テビチ、チマグ、三枚肉・・・。流石に豚の顔そのものみたいなのは無いけれど、足の部分はそのまんま売られている。
八百屋もあり、シブイ(瓜)など巨大で一抱えもある。
朝なら活気があるのか、昼過ぎの気怠い市場は何となく余所者には声を掛けにくい雰囲気があって、買い物はせずに出てしまった。
八百屋の隅ではおじさんが、ひたすら無言でモヤシの髭をむしっていた。
喉が渇いたというレナをなだめながら、ようやく部屋に戻った。
まだ2時過ぎ。
ひとつやふたつ、観光できる時間だけど、もうがつがつせず今日は部屋で休むことにした。
7階の窓から見る名護湾の海がきらきらと光を反射して光っている。
子供たちはベランダで拾ってきた貝殻を洗い、パパは冷房の効いた部屋でテレビをつけた。
ニュースでは台風情報を流している。
益々本州に近づいた巨大な台風11号は、まもなく東海から関東に上陸する模様。
テレビには大荒れの千葉の海が映っていた。
昨日、恩納村のおんなの駅なかゆくいで買ったドラゴンフルーツを切ってみる。
どう考えても四つで200円は格安だ。
ドラゴンの目に似ているからドラゴンフルーツと名付けられたというトロピカルフルーツで、綺麗な濃いピンクで薔薇の蕾のような形をしている。
皮を剥いてさくっと切ってみると、中は白く胡麻のような黒い種がつぶつぶと入っていた。
ドラゴンフルーツには赤肉と白肉と他に黄色いのもあると言う。これは白いドラゴンフルーツだった。
味はさっぱりした感じ。種のつぶつぶした感触も含めてキウイフルーツに似た味わいだ。
果物嫌いのパパは一口食べて、「無理」。
子供たちはいたく気に入ったようで、あっと言う間に皿は空っぽになってしまった。
今夜は外食することにした。
ウィンベル沖縄名護コーラルビューと海との間にちょうど一軒の居酒屋があると、ベルビューの支配人に教えてもらっていた。
徒歩1分。
7階から見下ろす居酒屋のベランダ席は、あんまり洒落た風に見えなかったが、表へ回ってみると、意外にモダン和風な綺麗な店だった。
名前は創食家 縁 東江店。
マリンリゾートをイメージした白い漆喰の外観で、中は黒を基調とした落ち着いた佇まいだ。
オープンの5時にあわせて出かけたので、まだ店内はがらがら。
窓際の席に案内してもらえた。
ここは海に面したオープンエアのテラス席もあり、夕日が沈む頃にはカップルや仕事を終えた会社員でいっぱいになりそうだ。
本場のゴーヤーチャンプルー、豚肉と島豆腐の胡麻ドレサラダ、グルクンの唐揚げなどを頼む。
ウチナーな感じのメニューは眺めているだけで楽しい。
運ばれてきた料理も美味しそう。
島豆腐のサラダは豚肉も油が抜けていてさっぱり系。
ゴーヤーチャンプルーは流石に苦みが利いている。
三枚肉は滅茶苦茶柔らかいし、グルクンは思ったよりも小柄な魚だった。
もうお腹いっぱい。
パパがふとレディース用のサービスメニューを手に取った。
四名様以上の女性のみのグループには平日に限り1割引。
「パパが女だったら適用されるのにね」と私。
日がゆっくりと傾いてきて、海の上に長い光の道が出来た。
いつの間にか店内では、サラリーマンやOLのグループがわいわいと飲み食いしている。
子供たちが退屈してきたのでそろそろ退散することにしよう。
なぁに、本当の日没は7階から見ればいいさ。
その日の太陽は、まん丸のまま水平線ぎりぎりに降りてきた。
最後に雲に隠れるまで、燃え尽きる前の線香花火みたいに、瞑い茜色にぶるぶると輝き、それから静かに沈んでいった。