2.那覇から北へ
二日目 2005年8月24日(水) |
「まだ寝てるのか?」
と起こされたのはそれでも7時半。
体が泥のように重かった。
昨夜ホテルに到着したのが既に12時を回っていた。死んだように一晩眠ったけど、まだ体力が回復していない。
空の色も面白くない灰色だった。
沖縄に来たら晴れていると思ったのにがっくり。
旭橋東横インの窓からは行き来するおもちゃのように可愛らしいゆいレールが見えた。
ホテルはツインルーム一泊8,190円と格安ながら朝食もついている。
家族四人でツインは狭いが、小学生のお子さまも添い寝をすれば無料になると言う太っ腹さだ。
レンタカーを受け取りに行くことになっているパパは先に朝食を食べてきた。
パパが出かけている間にママと子供たちも食べることにした。
一階のフロント横にビュッフェ式の朝食が並んでいる。
おにぎり四種と漬け物、みそ汁、お茶とコーヒー。
子供たちはそれぞれふりかけのかかったおにぎりを選んでいた。
部屋に戻るとすぐにパパも戻ってきた。
荷物をまとめてチェックアウト。
レンタカーを借りたのはジャパレン。キャンペーンのウィークリー料金が格安だったので。
ホテルの出口を出て、目の前の駐車場に移動する間に雨が降り始めた。
あ、雨〜?
何で雨なの?
大粒でぼたぼたと肩にあたる。
晴れの予報はどこに!?
ああ前途多難。
「台風はこっちには来ないんじゃなかったっけ?」
「ああ、これは前線の雨らしい。今朝の天気予報では今日の沖縄はいまいちだった」
ええーっ、聞いてないよー。
おまけにレンタカーには頼んでおいたジュニアシートが載っていなかった。
無料でつけてくれるはずだったのにとパパは、いったんジャパレンの営業所まで戻ることにした。
ジャパレンではすぐにジュニアシートを出してくれたが、シートを取り付ける後部座席のベルトの留め具が埋まっちゃって出てこない。
パパが一所懸命引っ張ったが、そうしている間にも激しい雨が背中をぬらす。
仕方なくジャパレンの人を呼んできた。
とんできたお姉さんもなかなか出せず、車をいったん屋根の下に移動して、別の男性がようやく引っぱり出してくれた。
車の準備も整って、最初の目的地へ向かうことにした。
今日の予定はまずは那覇のまちぐわーこと第一牧志公設市場。ここでいろいろ沖縄らしい食材を物色して、それから早めの昼食も取って、次に首里城見学。最後に移動して西海岸のリゾートホテル、ルネッサンスリゾートにある温泉、
山田スパに入りベルビューのウィークリーマンションにチェックイン。
ところが、雨は激しくなる一方。
まるで昨夜の羽田空港だ。
こう雨ばかり続くと、この先ずっと雨ばかりで旅行が終わってしまうような陰鬱な気分になってくる。湿度もめちゃめちゃ高く、不快指数がどんどん上がる。
ようやく国際通りの入り口に来た。
車にはナビが着いているので道順はナビ任せだ。
通りの両側には土産物屋や酒屋が並ぶ。
おもしろ可笑しいシーサーが店番しているところが多く、いかにも那覇と言った雰囲気だ。
やがて細い道にくねくね入り、気が付くと陶器専門店が軒を連ねる壺屋やむちん通りに出ていた。
ぐるりと竜を象った場所があり、その中央に井戸が掘られていた。
傘を差してやってきた女性が雨の中、ペットボトルに水を汲み上げている。
目指す牧志公設市場は駅からも徒歩10分ほどかかるという。
駐車場だってない。
しかも雨と来たら、時々ちょっと小振りになって行かれるかな?と希望を持つ度に、またどしゃーっと激しく降ってくる。
ほとんど嫌がらせのようだ。
結局渋滞している国際通り周辺をぐるぐると回っただけで、那覇観光はまるまる諦めることになった。
高速道路を北上すると、雨はようやく上がり、空がうっすらと明るくなってきた。。
後部座席を振り返るとカナもレナも揃って寝ていた。
まあいいや。
次の目的地までゆっくり寝ていてもらおう。
石川ICで高速を降りて、ちょっと日本離れしたパームツリーが並ぶ海沿いの道を行けば、そびえ立っていたのはルネッサンス・リゾート・オキナワ。以前の名前をラマダ・ルネッサンスと言った。
ここには温泉がある。
山田スパと言う。
含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉の冷鉱泉が湧いていて、なんと朝の6時から夜中の12時まで外来も受け付けている。
外来用の駐車場は道向かい。
そこに車を停めて横断歩道を渡ることになる。
カナは到着少し前に目を覚まし、レナはここで起こされた。
ルネッサンス・リゾートの入り口入ると吹き抜けの巨大なロビーに圧倒される。
椰子の木が植えられ人工ラグーンには小舟が浮かぶ。
おまけに色とりどりのオウムたちが枝にとまってこちらを見下ろしていた。
こんなリゾートホテルに泊まれたらなぁ。
でも庶民がツアーでちまちまと2、3泊泊まってもなぁ。
お財布の心配も無しに豪華に一週間以上滞在できたら幸せなのに。
山田スパはこのルネッサンスリゾートオキナワの二階にある。
ロビーに取り付けられた洒落た階段を上り表示に従って右手奥に向かうと、リゾートプールの受付のような場所があり、ルネッサンスリゾートオキナワ及び系列ホテル宿泊の場合は割引料金、そうでなければ1,050円の料金を支払う。
脱衣所は広々としているが、特にその一角にリゾート柄のソファが置いてあり、温泉というよりリゾートホテルらしさが出ている。
湯上がりには冷水機から、水ではなくなんとポカリスエットが飲み放題。
露天風呂は無く内湯だけ。
長方形の浴槽がひとつで、僅かに白っぽく濁ったお湯が湛えられている。
冷鉱泉なので湧かしているが、季節により調整温度は異なり、今の季節は真夏なので38度に設定されている。
まったく痛んでいない柔らかいゆで卵の臭いと、他に何か華やいだ臭いがする。
肌触りはきしつく感じ。塩分が乾いて肌がつっぱるようなところもある。
あまり鮮度の良い感じはしないが、部分的に床のタイルが茶色く色づいている。
一番気に入ったのはやはり窓の外の景色。
窓自体小さく、植え込みが邪魔であまりよく見えないが、こんな風にコーラルブルーの珊瑚礁の海を見ながら入れる温泉なんて日本中探しても滅多にない。
ちょうど浴室から見えるのはルネッサンスリゾートのビーチらしく、浮き輪を手にした親子連れやマリンスポーツをする若者の姿が見えていた。
私たちが入ったとき、先に来ていた親子連れの、カナと同じくらいか少し上の姉妹が人魚のように長い髪の毛を束ねもせずそのままお風呂に入り、二人してゆうゆうと泳ぎだしたのには目を丸くしてしまった。
当然カナやレナも、「泳いで良いの?」と私に聞いてくる。
いくらビーチが見える温泉でも、高級リゾートホテルの温泉でも、プールじゃないんだからそれはまずいんじゃない?
姉妹の母親は自分を洗うのに一心不乱だったので、本人たちに「泳がないでね」と伝えた。
姉妹は顔を見合わせて、それから最後までちらちらと私の方を見ていたが、あまり泳がなくなった。
こういうのって難しい。
時刻は昼時。
今朝の予想外の土砂降りで、すっかり午前中の予定が狂ってしまったので、代わりに琉球村へ行ってみることにした。
ルネッサンスリゾートまで来れば琉球村まではもうあと僅かだ。
琉球村というのは昔の琉球を体験してもらおうという一種のテーマパークで、沖縄地方各地の古民家を移築して保存している。
雲の間から日が射して、じりじりと暑くなりだした中、駐車場に車を停めて昼食がてらのぞいてみることにした。
入り口を入るとなんだか体育館のような屋根のついた中に、シーサーの乗った沖縄風瓦屋根の低い建物が並んでいる。それぞれの建物の中には土産物屋が入っていて、一番奥に食堂と舞台があった。
そのときは知らなかったが、そこはまだ琉球村ではなく、手前にある「むかし沖縄 古郷の駅」という無料スペースだった。
舞台にはチャンプルー劇場と書かれ、ちょうど沖縄舞踊をやっていた。
民族衣装を着たお姉さんが三線の音楽に合わせてひらひらと踊る。
そのうちに手招きされ、前の方に座っていた何人かが手を引かれて舞台に上がって一緒に踊った。特に一人混じっていた金髪の外人さんが妙に嬉しそうに踊っていたのが印象的だった。
食事はテビチ(豚の足)の定食とソーキそばを頼んだ。
知らないものを決して口にしようとしないカナはご飯ばかり食べていたが、何でも試してみるレナはゼラチン質のテビチがいたく気に入ったようだ。
最後に舞踏団の人たちと一緒に記念撮影もしてもらった。
琉球村の方は子供たちはあまりお気に召さなかったようだ。
敷地内に点在する各施設をのぞくと、それぞれ伝統工芸の実演や販売を行っている。
どれか体験でも申し込めば違ったのだろうが、そこまで気合いを入れずただ見て歩くだけでは面白くなかったようだ。
大人は三線を触らせてもらったり御嶽(うたき)の建物を見たりしていたが、カナは興味がないと言うしレナは疲れて歩きたくないと言う。
途中、小ヤギを飼っている家があり、施設のおばあちゃんがヤギにあげてご覧と葉のついた枝を渡してくれた。
レナは喜んでヤギに枝を差し出すが、カナは枝についている棘がささると痛いと後込みする。
じゃああげなければいいのにと思うのだが、ヤギに餌はやりたいのだ。
おばあちゃんは棘のない別の枝を持ってきてくれたが、レナが振り回した枝の棘に腕が当たり、結局カナは泣きべそをかいてヤギの小屋を後にした。
機嫌を直したのはハブセンターの手前の庭園に来てからだった。
鯉の沢山いる池があり、池の中央に船と柱に支えられた台が乗っている。台に橋が架かっていて渡ることが出来る。
カナとレナは何度も行ったり来たりして遊んでいた。
もうほとんど一周して、最後のポーポー屋という軽食屋の手前でかき氷を売っていたのでそこで一休みすることにした。
カナもレナも自分のかき氷がほしいと言う。
パパは量を考えても二人でひとつで十分だろうと言う。
かき氷売りのお姉さんが妙案を出してくれた。
「本当はカップ一つに山盛りなのですが、一人前をカップ二つに分けてお渡ししましょう」
それで二人とも満足。
一人分のかき氷を全部食べたいわけじゃないのだから。
シーサーを作る体験工房の中を抜けて、最後に水牛の働く製糖工場に出る。
水牛は大人しいから触ってご覧と言うと、やっぱりカナは怖がって逃げてしまう。
琉球村はカナの趣味ではなかったせいか、最後に少し雨がぱらついた。
牧志公設市場に寄れなかったので、どこかで食料を仕入れて行こうとパパが言った。
確かさっき寄ったルネッサンスリゾートの近くに農産物直売所のついた道の駅みたいなのがあったよ。
そこは、おんなの駅なかゆくい。
おんなって女じゃなくて恩納。
ここは恩納村の農産物販売センター。
野菜や土産物はこれというのが無かったが、果物は豊富。そして後で許田のやんばる物産センターで比べてみたら、この恩納村のなかゆくいの方がずっと安かった。
何しろドラゴンフルーツが四つで200円だよ。
ここでそのドラゴンフルーツ(四つ200円)と念願のアップルマンゴー(1個500円)と青パパイヤ(1個180円)を買った。
それから並びの鮮魚店で千円の刺身盛り合わせひとつと80円のムール貝のウニソース焼きを四つ。
刺身の中身はイラブチャー、ガーラ、セイイカ(全部判る?)。
再び高速道路に乗り、終点の許田手前で何やら視界にちらりと青いもの。
まさか水平線じゃないよね?・・・と思ったら、本当に水平線だった。さっきまで右手に海があったかと思えば、もう左に見えるあたり、やっぱり沖縄って細長い島なんだ。
空はずいぶんと晴れてきた。
この分だと泊まるウィークリーマンションからはきっと綺麗な夕日が見られるに違いない。
さっき寄ったなかゆくいでは、あまりいろいろ仕入れられなかったので、今度は許田ICを降りてすぐの、道の駅許田やんばる物産センターに寄っていくことにした。
やんばる物産センターはさっきのなかゆくいより規模が大きい。
蒲鉾屋、サーターアンダーギー屋、そば屋、甘味処などが軒を連ねている。
中心になる農産物コーナーに入っていろいろ物色してみることにした。
やんばるくいなの柄の泡盛や、レトルトの沖縄食品、美ら海水族館の入場券などを買った。
沢山買ったので、ジャパレンがくれたクーポンを出したら、ハンカチと生ジュースをサービスしてくれた。生ジュースはパッションフルーツ、ゴーヤー、ドラゴンフルーツ、パイン、シークワーサーと種類があったのでシークワーサーを選んでみた。
ライムに似たすっきりした味わいだ。大人は一口ずつ、後はみんな子供たちに飲まれてしまった。
混雑した名護市内を抜けて、名護湾に沿った449号線を西へ。
時折珊瑚礁のあるパステルグリーンの海とビーチが点在する快適な道。
左手にリゾネックス名護が見えると、今度は右手に異様な小山がいくつも見えてくる。
ごつごつと削り取られた山容は、秩父の武甲山を思わせる。
ここもセメント工場があるのだ。
やがて道は右にカーブし、天然記念物の塩川を渡る。
塩川というのはその名の通り塩辛い川で、世界でこことプエルトリコにしか無い珍しい川だと言う。
海の上は晴れている。
今朝の嵐が嘘のよう。白い雲が流れていく水色の空だ。
崎本部の集落を越えて、ベルビーチゴルフクラブの表示があった。
ベルビューホテルはどこだろう。
ゴルフクラブの近くだと思うが・・・。
もう少し行くと、道沿いに白い建物が建っていた。
ここがゴルフ&マリーンリゾート ベルビューホテルだった。
外観は少しくたびれているな、という感じだった。
道を挟んだ海のそばにはまあまあのビーチもあるはずだが、ホテルからの眺めもそれほど期待できないかもしれない。
ホテルはこことして、泊まるウィークリーマンションはどこなんだろう。
ここからもうちょっと山の方へ登るのか、それともさっきのゴルフクラブへの道を曲がった方にあるのだろうか。
パパが一人で車を降りてチェックインの手続きに向かった。
しばらくして戻ってくると、
「マンションはここじゃなくて25分ほど離れたところにあるらしい」と言った。
ベルビューホテルの支配人が先導する車の後について、再び名護市への一本道を走っている。
先ほど通り過ぎたばかりの塩川、石灰岩切り出し山、リゾネックス名護をまたもう一度過ぎる。
「この方向へ25分って言ったら、名護市内? もしかして名護を通り過ぎちゃうんじゃないの?」
「俺もそう思う」
そういえば、ベルビューホテルの公式サイトで泊まるウィークリーマンションを見つけて、チェックインはホテルで行うと書いてあったし、夜中の到着ならその夜はホテルの方に泊まるとなっていたから、当然ホテルの隣に建っているものと思って疑わなかった。
思えばサイトの何処にもウィークリーマンションの住所は書かれていなかったのだ。
「泊まる場所がベルビューのある本部町だと思っていたからこそ、観光は本部周辺で考えていたのに、まさか名護だったとはね」
支配人の乗る車は混雑した名護市内に入り、表情豊かなシーサーが沢山乗った名護市役所の前を通り、消防署の前で曲がった。
ベルビューのウィークリーマンション、ウィンベル沖縄名護コーラルシーは、名護市の中心部より南寄り。東江の海のそばに建っていた。
(そうだよ、マンションの名前に「名護」ってついてるじゃん)
マンションは8階建てで、私たちの案内された部屋は7階だった。
たぶん前に
草津で泊まったウィークリーマンション同様、部屋の一部は分譲して、残る何部屋かをベルビューでレンタルしているらしい。
部屋は十分な広さがあり、ダイニングとキッチン、和室ひとつとベッドルームが二つある。
但し、ベッドルームにはそれぞれシングルのベッドがひとつずつ入っていっぱいなので、あとは和室に布団を敷くことになる。
窓からの眺めは流石に抜群。
ちょうど真正面に名護湾に沈む夕日が見えるようになっている。
まだ若そうな支配人は、今日はきっといい夕日が見られますよと太鼓判を押してくれた。
さらにその支配人は非常に真面目な人らしく、生活必需品の買い出し情報からお勧めビーチ、お勧めレストランなどひとつひとつ丁寧に地図を差して教えてくれた。
リゾートらしい立地条件のアコモデーションを探していた私たちにとって、ここは意外だったけれど、その代わりに何をするにも利便性が高い。
ドラッグストアと居酒屋までは徒歩1分、スーパーマーケットとコンビニとファーストフードまでは徒歩3分。
そして支配人の言葉通り、その日の夕日は絶景だった。
七階の窓から見る海の夕焼け。
太陽はゆっくり沈んでいき、水平線近くに漂う雲に隠れたと思いきや、最後に雲の隙間から真っ赤に燃えた。
最後の残照が消えると、あとには紫色の帳。