「あれ・・・」
しかし
真湯の前で私は驚いた声を上げた。
「違うとこかと思った」
木の色も新しいぴかぴかの建物は、自分の知っている真湯とは違う場所のようだった。
「建て替えたんだ・・・」
私の知っている真湯は古びた建物で、むしろレトロ感のある金属のドアだった。
建て替えられても「真湯霊泉」と看板に掲げられているところは変わらない。看板も新しくなってはいるが。
小雪の舞い始めた空を見上げてから、私たちはめいめい女湯、男湯と書かれた戸をあけた。
以前はいきなり浴槽だったような気がしたが、下足場があって、それから中に入るようになっていた。
のぞき男の似顔絵手配なる張り紙もあってびっくりする。
中も大層きれいになっていて、天井は湯気抜きのある木造り、床はタイルだった。
お風呂の壁に花を生ける箱がしつらえてあって、梅の枝だろうか飾られているのが印象に残った。
お湯の様子も以前来た時とはずいぶん違って見えた。
前は濃い抹茶に黒い湯花が大量というえらくインパクトのあるカラーリングだったが、今日の真湯はどちらかというとミルキーブルーの白濁湯という感じだ。
かき回してもかき回してもほとんど湯の花も無い。
わずかに小さめの黒いものが見つかっただけ。ちょっと拍子抜けだ。
マッチのような硫黄のにおいがする。
熱さはもう、手を入れるのも勇気がいるほど熱い。
でも私と入れ替わりに上がった先客がいたのだから、人が入れない温度では無いはず。
せっせと掛け湯して慣らし、何とか肩を沈める。
あっちゃ~。
本当に熱い。
草津の時間湯で少々鍛えた私でも熱いと思う。
熱いと一番先にやられる足の脛が猛烈に痛くなる。
こりゃダメだ。
すぐに上がり、壁の向こう、男湯に声を掛けてみる。
「そっちは一人?」
「いや、二人だけど」
「熱くないー?」
熱いけどそれほどでもないといった適当な返事が返ってくる。
どうも男湯は女湯ほどの熱湯ではないようだ。
でも
野沢温泉で熱い湯ということは、それだけ野沢温泉らしいということだ。
こりゃあ入るしかない。
意を決してもう一度入る。
でも熱い。
何しろまったく加水していないようだ。
仕方ないので何度も出たり入ったりを繰り返した。最後まで数分単位では入れなかった。