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子供と一緒に夏休み
**福島でLet's体験旅行**

1.B級かな東北サファリパーク



初日 2006年8月26日(土)


 東京を出て埼玉を抜けて栃木に入り、まもなく矢板を通過しようとしているのだが、雨が降っている。
 ゴールデンウィーク、6月、そして夏休みに入り先週末と、これで三度、キャンプの予定がつぶれた。
 私の体調不良やパパの仕事の関係。
 仕方ないんだけど、今年はまだ一度もテントを使っていない。
 しかも癪なことにその三度は三度ともいい天気だった。
 ようやく夏休み最後の週末である今日、何が何でもキャンプに行こうと計画を立てたのに、何故かこうして雨が降っている。

 まあそうは言っても、夏休み初旬に10日間の日程で沖縄に出かけ、本州が梅雨で水浸しになっている間オール晴れという経験をしてきたのだから、これはこれでバランスが取れているというものだろう。
 最初予定していた行き先は富士五湖の一つ本栖湖だったが、雨は東京から甲信地方にかけて降るようだったので、キャンプも山梨も諦めて、急遽方面を北に変更、福島に宿を取った。
 決めたのも昨日の午後になってからだから、準備も情報収集も何もしていない。
 だから旅先に何が待っているかも検討もつかない。

 今回泊まるところは塩沢温泉の湯川荘というところ。
 いつものトクー!トラベル で安いところを探した。
 ここはお風呂も良さそうだし何より直前予約で半額になっていて、おまけに6歳まで添い寝幼児扱いで受けてくれる。
 地図を開くと、塩沢温泉は安達太良山の麓にある。
 二本松ICから25分。
 東北サファリパークが近い。
 いつも福島というと。裏磐梯か猪苗代湖に行くことが多く、ちょうど二本松ICから岳温泉周辺はすっぽり抜けていた。
 安達太良山周辺なら土湯峠近くの新野地温泉や西側の沼尻温泉になら入ったことがある。
 でももうずいぶん前だし、冬にばかり行っている。
 どこに何があるのかすっかり忘れちゃった。

 おっ、そんなことをつらつら書いているうちに、今日初めての青空が見えたよ。
 やっぱり北へ向かって正解か。

 日が出るととたんに暑くなる。
 さっき朝食を買いに寄った佐野SAではあんなに寒かったのに。
 空が晴れてくると気持ちも晴れてくる。
 宿は12時チェックインだけど、通りがかりにある岳温泉にでも寄っていこう。

 岳温泉というのは独立国らしい。
 昭和57年にニコニコ共和国として独立宣言をしたそうだ。
 日本の治外法権なんだろうかね。
 コンセプトがよく見えてこない。
 二本松ICを降りて11時少し前、国道459号線に入った。

 岳温泉には岳の湯という共同浴場がある。
 共同浴場と言っても素泊まり専門の宿泊施設も併設されている。
 でも今回は既に11時も回っているし、眺めの良い露天風呂のある旅館を選んでみようと思う。
 というわけで国道を岳の湯のあるT字路で曲がり、岳温泉中心街であるヒマラヤ大通り(なんちゅう名前だ)をあだたら高原方面に登ると、道の両側からはお祭りの提灯が垂れ下がる。
 ヒマラヤ通りを上り詰めたところにある甲子大黒天にも祭りの幟。
 さらに登ると道は左へ大きくカーブして、今度は小さく右へカーブした高台に、目指すホテル光雲閣は建っていた。

 岳温泉には日帰り入浴を受け付けている旅館が多いが、料金はまちまち。
 500円から1,000円ぐらい。
 光雲閣は525円だ。子ども料金は無く均一。
 結構手広く日帰りを受け付けていて、日帰り向けの張り紙などあちこちにある。
 というか、宿泊客とは駐車場も入り口も別だ。
 ペットホテルも併設されていて、ペット連れの宿泊も可能。
 お風呂は景観の良い2階。
 脱衣所にはベビーベッドは無いが、赤ちゃん連れにも使いやすい平たいベンチがあった。

 浴室は明るく景色がとても良かった。
 備え付けのシャンプーやボディーソープも、墨入りだとかオレンジ入りだとか何種類かあって凝っている。
 お湯は掛け流しで酸性泉。
 臭いはほとんど無いが、薄めたレモン水のように酸っぱい。
 やはり絞ったレモン果汁を薄めたようにほんの僅かに濁っている。
 湯の花は石膏を削ったように白いかけらのようなものが漂っていた。
 露天風呂もあるのでそちらに出てみると・・・あれ?
 一人先客がいたがほとんど寝そべっている。
 お湯が少なすぎて寝湯状態だ。
 ちびすけレナがぺったりと座ってちょうど肩が出るくらい。清掃してまだ溜まりきっていないんだろうか。
 先客のお姉さんはすぐに内湯に戻ってしまったので、後は貸切風呂のようだった。
 肌触りきしきし。
 最初は軽めの浴感だが、しばらく入っていると肌がぴりぴりずしんと来る。
 露天風呂の木筒の湯口からは、焼きたてパンのような発酵した香ばしい臭いがしていた。

 男湯露天風呂からパパの声がする。
 「お腹空かない?」
 「じゃあ上がったら食べようか」



 ガイドブックには岳温泉の外れに空の庭という洒落たレストランがあると載っていたが、子連れ向けではなさそう。
 目に付いた成駒というソースカツ丼屋に入る。
 ちょうど共同浴場の岳の湯の斜め前だ。

 店内のメニューはソースカツ丼の他に蕎麦だの定食だのあったが、この店の名物はやはりソースカツ丼のようで、周りのテーブルを見てもみんなカツ丼を頼んでいた。
 とりあえずヒレのソースカツ丼を二人分注文。
 運ばれてきた丼にはどーんとご飯とカツが盛られている。
 子どもたちはあまり食べなかったから、大人はそれぞれ一人分足らずを食べるだけでお腹いっぱい。
 正直なところ、味が濃すぎ。
 薄味好きの私としては、ソースがたっぷりかかったところはあまり食べられなかった。

 岳温泉から塩沢温泉までは車で10分程度。
 きちんと舗装されてはいるものの道はどんどん山道になってきて、道の両側の木々は空を覆い隠した。
 道の脇に小さな駐車場があり車が何台も停まっていると思ったら、そこは安達太良山の登山道入り口だった。
 登山道のところで道は急カーブして、すぐに右手に旅館が見えた。
 そこが今日泊まる予定の湯川荘。

 確かにチェックイン時間が昼の12時から可能だったが、それにしても駐車場の車の数が多い。
 湯川荘は朝から夕方まで手広く日帰りを受け付けているからだろうか。
 外観はあまり雰囲気の無い微妙な寂れ方で、パパは渋そうな宿だなと呟いた。

 とりあえずすぐに近くの東北サファリパークに出かけようと思っていたので、子どもたちを車に待たせたまま、チェックインだけ済ませてしまうことにした。
 ロビーは無人だ。会議室にあるようなベルが置いてある。
 厨房の方は忙しそうな雰囲気だったがベルを鳴らすと若い女性が出てきた。
 「はい、お泊まりの方ですか」
 待っている間に宿帳に記載してしまったのでことは早かった。
 すぐに部屋に案内してもらえた。
 部屋は二階、奥からふたつめ。
 正直なところ、トクー!トラベル で格安で予約したこともあり部屋の期待はしていなかったが、通された部屋は広々として綺麗で吃驚した。
 子どもたちの喜びそうな小部屋もついている。
 窓からの景色も駐車場側だけど二階だからなかなか。
 案内してくれた仲居さんは、「今からどちらか行かれるんですか?」と聞いてきたので「東北サファリパークに行ってみようと思っています」と答えた。
 「サファリパークならロビーで割引券をもらっていって下さいね。今からだと確か2時からフラミンゴショーじゃないかしら」
 そう、東北サファリパークは大人2,600円、子ども1,300円のお高い入場料を取るが、塩沢温泉宿泊者に限り、大人半額、子ども無料になるのだ。
 つまりここで割引券をもらっていくと、家族四人で大人一人分の料金になるということ。

 サファリパークと言えば、カナがまだ幼稚園ぐらいの時に群馬サファリパークに行ったことがある。
 レナはもちろんカナも行ったときのことは覚えていなかったが、車のアンテナをキリンがなめたという事件だけは記憶していた。
 「今回はキリンになめられないように先にアンテナははずしてあるよ」とパパ。

 サファリパークの入り口は何故か混雑していた。
 夏休みの土曜日だからか、それとも受付の手際が悪いのか。
 車から降りずに受付できるので、係員が車を覗き込んで一車ずつ人数を確認している。
 割引券があるから大人一人分の2,600円で済むのかと思ったら、やれトランシーバーのレンタル料が必要だとか、草食動物用の餌だとかで、結局4,100円支払うことになってしまった。
 これで全部正規料金だったらかなり痛い。

 最初のコーナーはいきなりライオンコーナーだ。
 入り口前に係員のおじさんが待っていて、一車ずつ窓を開けさせて注意事項を伝える。
 何年か前にどこかのサファリパークで観光客がトラに襲われて命を落とす事件があったから慎重なのだろう。
 「入って直ぐライオンコーナーだからね、絶対に車から降りない、絶対に窓を開けない、絶対に立ち止まらない。何かあったらクラクションを鳴らすこと」
 車から降りないと窓を開けないは判るけど、車を停めてもいけないのか。
 車が近づくと自動で開く巨大なゲートはジュラシックパークを思わせる。いっそここでジュラシックパークのテーマソングでも鳴らせばいいのに。

 少し走ると右にも左にも気怠そうなライオンが横たわっていた。
 こっちを見ているけど興味なさそう。
 停まっちゃ行けないと言われているせいもあり、ここはあっと言う間に通り過ぎてしまった。

 次のゲートが開くと、ここは凄い。
 前方を行く車がみんな襲われているぞ。
 シマウマ、ラマ、シカ、餌を狙って草食動物たちがわんさと車にたかっている。
 私たちの車も例外ではなく、すぐさま取り囲まれた。
 後部座席の窓は少ししか開かないので子どもたちを助手席に呼んだ。
 助手席の窓を10センチほど開けて餌を差し出すとはぐはぐとよだれを垂らしながらがっついてくる。
 「気持ち悪い〜」とカナ。
 終いには餌を隙間からぽとんぽとん落とし始めた。
 もったいないからやめてくれ。一袋千円もしたんだよ。

 餌が無くなっても心配なかった。
 動物たちは車を見れば餌をくれるものと思って、餌を撒かなくても勝手にすり寄ってくる。餌を買わなくても十分なくらいだ。
 キリンもいるが柵の中。
 なんだ遠いなと思っていたら、ぐうーっと首を伸ばして目の前まで来た。
 ゾウは完全に囲われていてよく見えなかった。

 ちょうどどの車も餌を上げ終えた頃、次のゲートがある。
 しかもそこは中間ゲートでこの先にまだ草食動物のコーナーが続いている。
 何のことはない、ここでまた餌を売るのだ。
 いい商売だね。
 ここの餌は500円。
 入り口で買う餌が高いと思う人はここまで我慢してここで買えば半額で済む。
 但しこっちのコーナーにはシマウマはいない。代わりにラクダがいるよ。
 私たちはもう餌は買わなかった。

 草食動物コーナーの次にベンガルトラのコーナーがあるが、こちらも檻の中。ライオンと違って全然よく見えない。

 これでサファリゾーンはおしまいだ。
 このサファリパークは猛獣に注意と言うより草食動物に注意という感じだ。
 シマウマにたかられるっていう体験はそれなりに貴重かもしれない。
 でも車の窓とその周辺は動物たちのかじった跡でべとべとのぐちゃぐちゃになる。

 サファリゾーンを出ると駐車場があって、今度は猿とうさぎのコーナーになっている。
 坂道を登ったところには見るからにB級色を漂わせた動く大恐竜館というものがあって、「日本初公開!!パンダ」と書かれていて、その隣に小さく「はくせい」。
 日本初公開のパンダの剥製って言われても・・・。
 (ちなみに嘘くさいパンダの剥製なら五十沢温泉ゆもとかんでも見られるけど)

 それから坂道を下ったところには猿とイノシシとフラミンゴがショーをする会場がある。
 ショーまでは30分以上あったので先に猿のコーナーに入ってみることにした。
 ワオキツネザルやリスザルがいる。
 放し飼いになっていて、自由に触れる。
 特にリスザルは人なつこくて、餌を持っていなくてもぽんぽんと飛びついてくる。

 パパが真っ先に飛びつかれた。背中に一匹飛び乗ってきたかと思うと、あっと言う間に二匹、三匹と飛びついてきた。
 カナやレナは羨ましいと思う反面、ちょっと怖い。手を差し出したり、びくっと飛び退いたり。
 特にレナはリスザルに触りたくて仕方ない。
 パパは何が気に入られたのか、その三匹が降りた後もすぐに他の猿に飛び乗られていた。
 「パパの方に手を出せばレナに飛び乗ってくれるかもしれないよ」
 おそるおそる手を出すが、リスザルは警戒しているのかなかなか寄ってこない。
 そのうちレナは、隅の方に大人しく座っている一匹のリスザルを見つけた。
 そうっと頭を撫でると、警戒してびくっとするが逃げなかった。
 「この子は大丈夫みたい」
 何度か頭を撫でているうちに、リスザルは警戒を解いて自分からレナの手に自分の手を乗せるようになった。
 「この子、レナのこと好きになったみたい」
 他の猿が来て、その子を追い払った。
 するとその子は足が悪いことが判った。片足を引きずってそれを自分の尻尾でかばっている。だから子どもたちが近づいても逃げようとしなかったんだ。

 3時からショーが始まると放送が入った。
 猿のコーナーを出てみると駐車場の側にちょっとした人だかりがあって、見るとこれからショーに出演する猿が猿回しのお兄さんと一緒に歩いていた。二本足で。しかも紙おむつをつけている。
 客が近づくとお兄さんは猿に挨拶をさせるが、猿は挨拶が下手なので頭を下げるとその拍子にぺたりと座り込んでしまう。きっとこれも出し物の一つなんだろう。
 何だかいまいちっぽいけど、一応ショー会場の入り口まで行った。
 当然他のエリアと同様そのまま入れるのかと思ったら、入り口にいるお姉さんが小さな声で、「あのうここは有料なんです」と言った。
 別料金なんてどこにも書いていない。
 園内のそこら中にショーの会場はこちらだの、ショーの時間は何時からだの幟や看板を立てて、客寄せの放送も頻繁に入れて、どこにも別料金なんてあらわしているものがなかったぞ。
 詐欺とは言わないけどあまりにわざとらしいので、Uターンしてしまった。
 大人千円は高すぎでしょ。
 仕方ないのでB級色も露わな動く大恐竜館の方へ歩いてみたが、そこも入り口に300円と書かれていたのでやっぱり入るのをやめてしまった。
 どう見ても300円の価値は無いでしょ。

 猿のコーナーの隣に慎ましやかにウサギのコーナーがあって、そこは無料のようなので子どもたちをそちらに誘った。
 およそ綺麗とは言い難い小屋の中に白や茶色のウサギがうろうろしている。
 子どもたちは喜んでウサギを追い回したのでパパはウサギの餌300円を買った。大恐竜館一人分のチケットよりは価値があるに違いない。
 ウサギたちは最初は警戒していたが、そのうち馴れてきて手から差し出す餌を食べるようになった。

 もう東北サファリパークは十分だと思ったが、出口前にホワイトアニマルコーナーがあって、カナに聞くと見てみたいと言うので車を降りてみた。
 ホワイトライオンはそれほどホワイトじゃない。というかサファリゾーンにいたライオンも種類はホワイトライオンだったはず。
 他に白いトラとかフクロウとかキツネとかタヌキとかヤマアラシとか。フクロウとタヌキは確かに白かった。あとは白いと言えば白っぽいけどという程度。
 何故かホワイトじゃないのにレッサーパンダコーナー。
 数分見ているだけで結構立ち上がっている。立つレッサーパンダって珍しくないのか。
 白いシマウマもいる。シマウマが白ければただの白馬かと思うかもしれないが、一応シマウマの黒い縞がベージュに見える。普通のシマウマを漂白したみたいで何だか変な感じ。
 最後が白カンガルー。
 カンガルーも白いと巨大なマウスみたいに見えるから不思議だ。
 「B級だと思ったけど・・・」
 「やっぱりB級だったね」
 正規料金じゃとても行きたくないけど、まあこの料金なら許すというところ。

 宿に戻って一休み。
 パパは早速タオルを首に掛けてお風呂へ。
 戻ってきたので聞いてみる。
 「どうだった?」
 「まあまあかな」
 こないだ泊まった赤倉温泉の和泉屋旅館では手放しで誉めていたパパにしては消極的な。
 いまいちだったのかな。
 交替で私も行ってみよう。

 内風呂は桧だった。
 後で判ったが、桧風呂と岩風呂とあって男女入れ替え制。このときは女湯が桧風呂だった。
 とても感じの良い浴室だ。綺麗でも新しくもないが、浴槽の縁だけでなく底も全て木造で、ちょっと年季の入ったところがまたいい味を出している。
 ところが入ってみて吃驚。
 なんじゃこりゃ。
 見た目の鄙び具合の入った素晴らしいお風呂のお湯が、強烈な塩素臭。
 プールみたいだよ。
 これが一昔前の清潔で広々とした公共センター系日帰り温泉だったら納得だけど、この佇まいにはなんとも似つかわしくない。
 がっかりした気持ちを抑えつつ、露天風呂にも入ってみることにした。
 露天風呂は内湯のドアを開けて出るようになっている。
 少し錆びかけた朱塗りの橋が架かっている。
 この橋も見る人によっては興醒めかもしれないが、私は気にならない。
 それより露天風呂のロケーションはまた素敵だった。
 お風呂は岩で小さいもので、2、3人でいっぱいだろう。男湯との境には木の壁があってランプがひとつ下がっている。
 囲いもなく森の中にあるようなお風呂だった。
 楓や山毛欅の木に囲まれて、緑一色の今もいいけれど、紅葉したらさぞやと思わせるロケーションだ。
 ・・・なのに。
 なのにやっぱりプールみたいに塩素臭い。
 がっかりだ。
 失望だ。
 かなりショックだ。
 もしかしたら清掃後で湯を貯める前に浴槽を消毒したとかで臭うだけなんじゃないかと思おうとしたが、湯口からも強烈に臭う。これは間違いなくお湯を供給する段階で大量に塩素薬剤を投入している。

 パンフレットには掛け流しとあったが、脱衣所にははっきりと、加水加温循環消毒していると明記されている。
 そりゃそうだけど・・・絶対塩素入れすぎ。
 あまりショックだったので早々に上がってしまった。

 部屋に戻ると誰もいなかった。
 スリッパもない。
 浴室からの帰りにもすれ違わなかったし通りがかりの売店やロビーでも見かけなかった。どこにいったのだろう。
 窓から外を見下ろすと、いたいた、カナとレナとパパとで野の花を摘んだりトンボを追いかけたりしている。
 窓から呼びかけると戻ってきて花を見せてくれた。

 夕食は6時半。
 食堂で食べるようになっていたが、行ってみると有り難いことに子ども連れの家族だけ別室の座敷に集められていた。
 こういう気遣いは助かる。他の家族連れもそう思っているに違いない。
 カナは子ども食。レナは添い寝幼児扱いなので食事は無い。
 だから「どうしてレナの分だけ無いの?」とぐずぐず言いはするけれど、実際はカナとレナと合わせても、子ども一人分も食べやしない。カナは白いご飯は一人前食べるけど、他のものは少ししか食べようとしないし、レナに至ってはデザートだけあればいい様子。
 だから子どもたちに食事をつけてももったいないだけなのだ。
 料金の面からだけでなく、ほとんど箸をつけないなんて勿体なくて涙が出てくる。
 だから今回のこの宿が6歳児まで食事抜きで受け付けてくれたのは本当に有り難かった。
 天ぷらはちょっと冷めていたが、全体的に工夫もあって美味しく食べられた料理だった。
 窓の外から入ってくる風の涼しさに、カナは「山の夏はもう終わったんだね」と言った。

二日目「フルーツラインと四季の里」へ続く


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