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那須の紅葉旅

20.得体の知れない名湯



 言われた入り口を入り靴を脱ぐと、まともな木の階段が待っていた。
 今までの行程が行程だったので、中もとんでもない状況なのではないかと思っていたのだ。
 廊下も古いところと作り替えた新しいところとある。
 暖簾は普通だったが、脱衣所は狭くお世辞にも綺麗とは言えなかった。
 脱衣籠が4つ5つ埋まっていた。
 結構人気があるらしい。
 何でも鹿の湯とは違うアルカリ性の硫黄泉で、胃腸病に効き目があり、特に糖尿病を煩っている人たちには大変な評判だという。
 頻繁に通う人も多いのか、回数券も売っていた。
 「失礼しまーす」
 タオルを手に浴室に足を踏み入れると、先ほどの雲海閣の硫黄泉より少し広い浴室は湯気が充満してうすぼんやりと煙っていて、先に入っていた人たちが「こんにちは」と声をかけてくれた。
 雲海閣が入り口を入って横に二つ浴槽が並んでいるのに対し、喜楽旅館は縦に二つ並んでいる。
 こちらも四角い木製の浴槽だ。
 青白い濁り湯がたたえられていて、何故かそれぞれに二つずつバルブのついたパイプが伸びている。


この木の階段を下りて廊下を行くと浴室だ
鹿の湯源泉にも似ているが、実は全然違うタイプ。


 浴室中に漂う臭いは、レモンに似た酸っぱいような臭い。さらに熟しすぎて傷んだ果実のような臭いに腐ったゆで卵のような臭いも混じっている。
 窓側がぬるく、入り口側が熱めだった。
 先にぬるい方に入ってみると、温度はそんなに高くないのにすぐに唇の辺りがじんじんと痺れてきた。中から血行がよくなっているような感じだ。
 だいたい木の浴槽に青白い硫黄臭のお湯が入っていたら、それはもう熱い湯と相場が決まっている。これでぬるい湯というのがまず意表をつく。
 先に入っていた一人が、バルブのひとつを回して湯を出し、それを備え付けのコップで受けて静かに飲んでいた。
 真似してコップを手にして隣の浴槽のバルブを捻る。
 シューッと圧力のかかった音がして、コップに湯が少し入った。
 それを飲もうとして口を付けて思わずむせる。
 コップの口に揮発した刺激性のガスが登ってきたらしく、目尻に涙が浮かんでしまった。

 先に入っていたお客さんたちがちらほらと上がっていき、気が付くと自分の他は、常連らしいご婦人一人となっていた。
 「こっちのバルブはボイラーで湧かしたお湯で、もうひとつのバルブは温度を下げるための水が出るの。でも水の方も湧かしていない源泉だから、いくら入れても薄まることはないらしいのよ」と教えてくれる。
 両方の浴槽に両方のバルブがついているから全部で四つなのだ。
 でもぬるい方の浴槽の水のバルブはいくら捻っても何も出てこなかった。
 「この温泉は飲んでもよく効くの。でも凄い味なのよね」
 ああなるほど。飲むときは加熱していない方のバルブを捻って飲んでみれば良かったのか。
 教えてもらった非加熱源泉をコップに受けて飲んでみた。
 最初の一瞬はフルーツのさわやかさを感じる口当たりなのに、すぐに渋い老いたような味に変わる。そしてそれがいつまでも舌に残る。
 臭いもそうなのだが、ここのお湯は老松と名につくからと言うわけでもないのだろうが、妙に老いを感じさせる。
 肌触りはきしつくが、ぬるつく感じもある。濁り湯でも粉っぽさみたいなものは無い。
 一言で言うと・・・そう、得体の知れない名湯・・・なんてものがあるとしたら、ここのことだろう。

 帰りにまたあの角で威嚇するように犬たちが出てきた。
 もしかして午前中、那須どうぶつ王国でウサギを抱っこしたりしたのが気にくわないんだろうか。
 いやいやそれにしたって綱もつけずに犬たちを道に出しておくこと自体問題だと思う。
 あの家の主は、泥棒に入られた経験があるのか、さもなければ近所の人たちといがみ合っているに違いないとそう思うことにした。






1-21.青白い濁り湯で一休みへ続く


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