1.長谷寺へ向かう
それはそれは息をのむような眺め。
まるで清水の舞台を少し小さくしたような本堂を背にした舞台からは、日が昇ったばかりの朝の凛と澄んだ大気に薄紅色の炎のように咲き誇る桜、谷あいの家々、背後の初瀬山、本長谷寺と五重塔などぐるりと辺りを見回して。
昨日、ならまちの工房とんぼ玉空歩でこれから天気は下り坂なんて聞いたのに、今いる長谷寺の空は雲一つない怖いくらいの青さで、それを独り占めしている自分が信じられない。
旅での思いがけない景色との出会いは、花期、天候、時間帯、神の采配のままに。
目覚ましは5時15分にかけた。
随分と深く眠っていた気がする。寝ぼけ眼でカーテンを開けると、窓の外はまだ日が昇っていない薄明。
身支度を整えて長谷寺に行く準備をしないと。
泊まっている
長谷寺温泉 湯元井谷屋から長谷寺までは歩いて5~10分程度だと思われる。
最後まで寝ていたレナを起こし、井谷屋を出たのは6時10分ちょっと前。
ちょうど出る前に若主人が玄関に出てきたので念のため確認した。
「朝の勤行の見学は予約などしなくても大丈夫なんですね? 行って受付などすぐにわかりますか?」
「あー、石段を昇っていくと入り口にこう入れないように塞いであるように見えますけど、隙間が開いていて入れますから。で、隙間から入ってさらに登っていくと受付があるのでそちらで見学したい旨伝えて500円払えば大丈夫ですよ」
あっ、聞いてよかった。
入り口が閉まっているように見えたら現地で悩んでいたに違いない。