◆◇桜の古都巡り◇◆
奈良観光旅行記

32.井谷屋到着

　井谷屋は長谷寺の参道に建っている。つまり、長谷寺の方角に向けて歩いていれば途中で井谷屋に着く。
　歓迎の看板があるのだから駅の正面の階段を下りるのが一番近いのだとは思うが、ストリートビューで見た時、駅前の集落に降りたら細かい道が多くどこがどこやらわからなくなったので、シンプルに右の道へ進んだ。多少遠回りになっても広い道を行けば参道に出るはず。

　東京で夕方の6時半過ぎだったら絶対にありえないような暗さとひと気の無さ。私の家の周辺だったら午前0時前後レベル。車もほとんど往来していない。
　途中、道が二手に分かれたので左に進んだ。
　駅は高い位置にあったのでどんどん下っている。
　坂を下りながら見上げると中空に鎌のような三日月。

　歩き出して10分ほどで広い通りを渡る交差点に出た。
　そのまま直進し、初瀬川を渡る。
　この辺りから景色は静まり返った住宅街ではなく、少しずつ観光地というか寺院の参道めいてくる。良かった。道は合っていたようだ。
　「あっ、この辺知ってる」
　一緒にストリートビューを見ていたカナが言った。
　普段なら先にお話の結末を知ってしまうようであえて旅先のストリートビューなど見ない私が、今回だけは先に見て土地勘をつけておいて良かったと思った。そのくらい知らない夜道は迷いやすい。

　井谷屋は参道の両側にあった。
　一応長谷寺に向かって左が本館、右が旧館、さらに本館の山側に廊下でつながった別館があり、眺めの良い温泉の浴室はそちらにある。
　歴史のありそうな建物の旧館は今は本館が満室の時だけに使用するそうで、今夜私たちが泊まるのは本館の方だ。