◆◇桜の古都巡り◇◆
奈良観光旅行記
28.大美和の杜展望台
奈良駅周辺を歩いていたときと違い、旅行荷物を持ったままだったので重い。息を切らして階段を上りふと上を見上げると桜の枝の真下にいることに気付いた。
東大寺で見てきたような広い場所に植えられて四方八方に悠々と枝を伸ばした桜ではない。丘の斜面に植えられ野生的に活きている桜だ。
思わずカメラを取り出してシャッターを切っていると・・・しまった、子供たちを見失った。
ぐるりと辺りを見回すと、私は桜の木のただなかにいた。濃いピンクの花弁、淡雪のように白いもの、一重、八重、枝垂れ・・・さまざまな桜が妍を競って枝を揺らしている。
花の中で迷子になっているようだ。
子供たちの名を呼ぶ。
「どこにいるのー?」
「こっちこっち」
姿は見えないけど声のする方にさらに登った。
そして細い道は斜面を上へと続き、見上げていた桜はいつの間にか目線の高さになり、それが腰まで下がり、気が付くと私は穏やかな盆地を見下ろし、大和三山をのぞむ丘の頂上に立っていた。
「うっわぁ」
思わず感嘆の声が出る。
ここどこ?どこ?どこ?
こんなところガイドブックにあったっけ?
なんとも言えない柔らかい夕方の日差しが放射状の光となって盆地を照らしている。
近景は丘の満開の桜で、竹林があって中ほどに広がる盆地、瓦屋根の民家が連なり、遠くに和歌にも歌われた畝傍・耳成・香具山の大和三山。さらに遠くに二上山、葛城山など大阪との県境方面の山地。
家々の間に遠く、すっくと大神神社の大鳥居が立っている。
泣きたくなるほど綺麗な景色だった。
この地は守られているんだなと思った。
遠く飛鳥の時代から幾重にも天然の結界が張られて守られている土地なんだなと思った。
最古の神社がこの地にあるのが分かるような気がする。
丘の上にはベンチがあって、何人かの観光客が思い思いに休んだりカメラを向けたりしていた。
奈良行きの計画を立てているときはこの場所のことをまったく知らなかった。
それどころか今日、三輪駅に降り立ったときだってこんな場所があるなんてまったく知らなかった。
大神神社に行きたいと思っていただけで、狭井神社にすら絶対寄ろうと決めていたわけではなく、増してや久延彦神社なんて聞いたことも無かった。
くすり道を吸い寄せられるように辿って、いつの間にか丘の上に立っていた。
満開の桜が揺れている。
今日が一週間前でも一週間後でもこんな景色は見られなかったろう。