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宝台樹キャンプ場日記


初日 2005年7月16日(土)


 梅雨入りするかしないかの6月。
 友人のyuko_nekoさんからメールが届いた。
 「急な話だけど今週末、晶さんたちとキャンプに行きません?」
 残念ながら子供部屋にエアコンを設置する工事が入っていた。
 「ごめん、その日は駄目みたい」
 諦めて翌週、家族だけで栃木の湯西川へ旅行に出かけることにした。
 すると
 「天気も悪そうなので一ヶ月延期することにしました。7月の三連休、どうですか?」
 やったぁ。その日なら空いている。
 そんなこんなで夏休み直前の宝台樹キャンプが決定した。

 旅行中は元気いっぱいでも、旅行前に何かと体調を崩すのが子供たち。
 だけど今回、喉が痛い・・・と呟いているのはパパだった。
 とりあえず風邪薬を飲んで様子を見ている。

 行き先の宝台樹というのは、群馬県水上町、百名山の一つ武尊山の山麓だ。人工湖の藤原湖の近く。前に宝川温泉に寄ったとき、近くを通っているはずだ。スキー場やパラグライダースクールもある。

 頼りになる幹事のだださんに全て任せきりで、食料だけ積んで、今、関越道を走っている。まもなく埼玉を抜けて群馬に入る。
 昨日今日で九州あたりは梅雨明けしたようだが北関東は微妙な天気。
 フロントガラスにはときおり雨粒があたる。



 と、携帯に晶さんから電話が入った。
 「今どこですかー?」
 「本庄児玉あたりを走ってまーす」と私。
 「こちらもこれからだださんと一緒に紺碧七さんを拾ってキャンプ場に向かいます」
 「yuko_nekoさんからもさっき連絡が入って8時過ぎに昭和村にいるって言ってました」
 「yukoさんとは昨日電話で話して、朝3時に家を出るって言ってましたよ、立ち寄り湯して来るって・・・」
 あはははは。
 ゆっくり出てくると思ったyukoさん一家が朝から群馬入りしているなんて珍しいと思ったら、そういうことですかー。

 電話を切った後、
 「9時過ぎには高速を降りるから、うちも一ヶ所ぐらい入っていっていいよ」とパパ。
 どこにしようか・・・。
 「近くで朝9時か10時からやっているところ」
 「キャンプ場最寄りの温泉で嶺久館というところがある。朝7時からやっているよ」



 水上ICを降りて利根川を渡る手前を右へ折れる。
 利根川と上越線に沿って少し南下すると、諏訪の湯の看板が見えた。
 そう、最初は嶺久館に行こうと思っていたのが何故か途中で気を変えて、諏訪峡の諏訪の湯に行くことにしていた。

 看板の表示に従い川の方へ細い道を降りると、「本当にここなの?」とパパ。
 駐車場のようなところから諏訪峡梁と書かれたオンボロの建物が見える。
 まさかあれじゃないよね。
 「ちょっと見てくる」
 一人で車を降りてさらに細い道を奥へ進んだ。
 諏訪の湯の建物は確かに新しくはないが、とりあえずB級施設を苦手とするパパの許容範囲だった。
 「この奥にあった。車で入れそう」
 10時オープンなのでまだ開いたばかり。
 それでもちらほらお客さんが入っているようだ。
 あちらこちらに貼られた張り紙も年代を感じさせる。
 ここを選んだ理由の一つは入浴料金。
 休憩室を使わなければ大人300円と大変お安い。

 子供たちを連れて女湯に向かった。
 ここは内風呂のみ。露天は無い。
 壁の片面がごつごつの岩で、浴槽の底は青っぽいタイル張り。
 縁のところが二ヶ所ほど低くなっていて、そこからざぶざぶと掛け流されている。こちらのお湯は自噴掛け流しが自慢だ。
 先客は年輩の女性が一人だった。
 それほど熱い湯ではないが、子供たちにとっては少し熱かったようだ。掛け湯を嫌がる。
 シャワーで流そうとしたが、シャワーのお湯のカランはいくら捻っても水しか出てこなかった。
 仕方なく子供たちに自分たちで浴槽のお湯とカランの水をまぜさせて掛け湯させた。
 そんなに冷やさなくてもたいして熱いとは思えないのに。

 臭いはゆで卵の臭い。それもかなり傷んだゆで卵。さらにちょっと下水のような臭いも混じっている。
 肌触りはきしきしとしながらも、湯から出ると僅かに油分があるようなぬるぬる感もある。
 飲むと味は特に何の味がするというわけでもないのだが、舌に引っかかるようなきしきし感がやはり強い。
 乾くと塩泉のように突っ張る。
 何かと複雑な温泉だ。
 どうにも一筋縄ではいかない。
 しかも何か訴えかけるものがはっきりしている。

 カナとレナは持ってきたハム太郎の人形をお湯が掛け流されるあたりに並べては流されるのを楽しんでいる。
 先客の年輩の女性が「いくつ?」と聞いてきた。
 「五歳と七歳です」
 「ちょうどうちの曾孫とおなじくらいね」
 ひ、ひまご〜。
 聞いてみたら既に齢80、最後のお孫さんが大学に入ったところだそうだ。
 とてもそうは見えない。
 矍鑠としてせいぜい60台の後半だろうと思ったところだった。

 男湯ではパパがおそらくその女性の連れ合いだろう男性に、
 「よくこんなところを見つけてきたね」と言われたそうだ。
 「妻が温泉マニアなので」と彼は答えたらしい。(誰が温泉マニアじゃ)
 「群馬県内何十も回ったけれど、諏訪の湯の泉質が一番。ここはどこより良いよ。湯テルメには行ったことある?」
 「一度・・・」
 「あそこは紅葉の時期に行くくらいだな」
 とまあ、それくらい良いところらしい。

 それほど熱いわけではないのに、驚くほど温まるので入りっぱなしではいられない。出ては入り、入っては出てを繰り返す。
 すっかり満足して入り口へ戻ると、子供たちはパパと源泉を飲んでいた。
 館内にも飲泉用の蛇口がある。
 ここの温泉は1Kg中、2.50mgのフッ素が入っているそうだ。虫歯予防にも効くとか。



 諏訪峡を出て、水上を越えて、奥利根のところで藤原湖の方角へ曲がる。看板は目指す宝台樹の他、宝川や湯ノ小屋といった有名どころの表示に従っていけば間違いない。
 ところが途中で道が二手に分かれている。
 ナビは右を指しているが、宝川温泉などの表示は左になっている。
 とりあえず右へ進む。
 どうもナビは左の道が舗装されているのを知らなかったようだ。どちらにせよやがて合流して同じところに着く。
 左の方が新しいようだ。
 どうしてこんな山の中に二本も道があるのだろうかと思ったが、スキーシーズンにはそれなりに需要が有るのかもしれないと思い直した。

 細長いダム湖の藤原湖畔を走り、今回の宿泊地、宝台樹のやすらぎの森に着いたのはちょうど11時。

 ・・・あれぇ?
 幹事のだださんたちは11時頃キャンプ場に到着するって言っていなかったっけ。
 不安がよぎる。
 もしかして・・・集合場所、間違えてないよね?
 違うキャンプ場だったってことないよね?
 心配〜。

 宝台樹キャンプ場やすらぎの森は、キャンプ場とオートキャンプ場で結構値段が違う。
 今回のオフはキャンプ場の方で行われるはずだ。
 チェックインは12時からだから、できるだけ早くキャンプ場エリアの駐車場から近い良い場所をキープしようと、そんな風な打ち合わせになっていなかったっけ。

 このときはまだ日が射していた。
 キャンプ場受付前の広場では、どこかの合宿なのか揃いの帽子を被った子供たちがうろうろしていた。
 とりあえずチェックイン時間にはまだ早いが受付に入ってみる。
 チェックイン、オーケー?

 ここのキャンプ場は林間サイトで、手前の方は白樺、奥の駐車場の近くは松林になっている。
 オートキャンプ場でなくても本当に駐車場の近くにテントを張ることができるので、これはキャンプ場の方にしておいて正解だ。
 テントを立てるための正方形のコンクリがあちこちあるが、我が家の小川テントにはサイズが小さすぎた。仕方なくコンクリとコンクリの間の地面に張ることにした。
 トイレも炊事場も決して新しくはないが、割に清潔にしてあるし、トイレに虫が少ないのがよい(巨大ナメクジはいたが)。

 パパはどんどんテント設営の準備を始める。
 天候が不安定なので、雨が降る前に何もかも終わらせたいのだ。
 晶さんたちに連絡を取りたかったが、あいにくと私のau携帯は虚しく圏外を表示していた。

 11時半も過ぎて、ようやく晶さんとだださんと紺碧七さんが到着した。
 ああ良かった。時間と場所は間違えていなかったらしい。
 晶さんたちも設営準備に取りかかり、ほぼみんな作り終えたところでどしゃっと大雨が降ってきた。

 雨音を聞きながら、子供たちとテントの中でエアーマットを膨らませた。
 ようやく家族四人分を膨らまし終えて外へ出てみると、みんなタープの下に集まって、既に飲み始めていた。



 三連休のはじめなのにまだキャンプサイトはがらがらだ。
 梅雨明けしていないからか、それとも夕方にならないとやってこないのか。
 その中で、テントを立てる様子もない大人ばかりの集団がずっと忙しそうにしていた。どうもデイキャンパーらしい。
 可哀想に、雨の中バーベキューして、ようやく雨が上がったらもう撤収だなんて・・・。いいとこ無い。
 食べきれなかったスイカをお裾分けしてもらった。

 ランチは晶さんたちが用意してくれることになっていた。
 ワカメを入れて釜揚げうどん。
 飲みながら食べていると、そこへようやくyuko_nekoさん、がっちゃん、ちび姫ちゃんの三人が到着した。
 私たちが諏訪の湯に寄っていると晶さんから聞いて、携帯にメールを入れてくれたらしいが既に私の携帯は圏外に出ていて連絡が取れず、湯テルメに入ってきたという。
 携帯を見たら、いつの間にかメールの着信マークが出ていた。
 キャンプ場は圏外なのだがうろうろ歩き回っているとたまにアンテナが立ちかけるのでメール有りのところまでは受け取ることができたらしい。
 しかしメール確認をしても手紙の内容を受信するには電波が足りないようで、どうしてもメールを読むことができない。
 別に本人が目の前にいるのでメールが読めなくてもいいのだが、着信マークを消すことができずその分の電力を消費して、腕時計がわりにしていた携帯は結局翌日には電池切れで役立たずとなってしまうのだった。

 yukoさんたちは昨日も夜遅くまで働いていたのに、朝5時には家を出て、沼田でトマト狩りをしてスーパーで買い出しをして、それから温泉に入ってやってきたそう。yuko_nekoさんもがっちゃんも寝不足で顔色が悪い。
 「横になって休んでおいでよ」とみんなは口々に言ったが、結局そのままずるずるとyukoさんたちも飲みに加わってしまった。

 yuko_nekoさんは今回がキャンプ初体験だ。
 前にやっぱり同じようなメンバーで(正確にはだだ幹事による○○さんを救う会という名称だったりする)、中津川村キャンプ場で泊まったことがある(奥秩父日記参照)。
 ただ、あのときはバンガロー泊だった。
 がっちゃんはお仕事のため出席できず、yuko_nekoさんはちび姫ちゃんだけ連れて二人で参加した。
 キャンプ場とは言えバンガローだから別に何も特別な準備はいらなかった。
 だけど今回は初めてのテント泊。
 そのためyuko_nekoさん一家はテントを購入した・・・はずだった。
 なのに何故かネットで購入したテントは、自宅で組み立ててみたら壁と床がなかった・・・。
 なんとそれはテントではなくスクリーンタープだった・・・というエピソードを聞かせてもらったところだ。
 その後、3人用という名目で、実際は一人寝るのがやっとの小型テントも購入し、今回に備えたという。

 我が家のカナとレナ、そしてyukoさんちのちび姫ちゃんは、早速テントの中に籠もって遊び始める。
 すっかりテントは秘密基地に変身だ。
 大人は飲みまくる。
 今回はyuko_nekoさんを救う会という名称で、紺碧七さんがまたもやプレミア級の秘蔵酒を何本も持ってきてくれた。
 どんぶり仕込み燃島、辛口焙煎仕込み越後またたび酒、仙人、天の魅惑、アルコール分46度の日本酒越後さむらい、八丈鬼ごろし、小諸ワイナリーオリジナル信濃リースリング・ホワイトブランデー・・・まあ、出るわ出るわ。紺碧七さん本人密造の苺酒まで。
 つまみもすごい。
 我が家持参の鹿刺し(先月栃木の湯西川で購入)と、yuko_nekoさん持参の馬刺であわせて「馬鹿」コンビ。紺碧七さん持参の鯨の刺身と、だださん持参の鰹。
 どれもまあ、ちょっとやそっとでは手に入らないような珍味づくし。
 特に馬刺のたてがみ(脂身)と鯨の脂身をみんなで絶賛。
 飲んでいるところへ本日最後のお客様登場。
 えんぴつさんと消しゴムさんカップル。携えていらしたお酒は粕取り焼酎村山党。
 私はお二人とも初対面。
 えんぴつさんは東京から行く日帰り温泉王選手権の最終決戦にも残った強者でいらっしゃる。でもとてもそんな風には思えない気さくな方だった。
 その間、今度はテントから出てきた子供たちは虫取り網でバッタや蝶を追いかけ、シャボン玉を飛ばし、持ってきた人形を着せ替えていた。
 テントのつもりがテントじゃなかったスクリーンタープの中には、自立式のハンモックがセットされ、辺りがだんだん薄暗くなる頃にはパパの作ったモツ煮もいい具合に煮えてきた。

 ここでえんぴつさん、謎の温泉発言。
 「中之条から子持村の方へ向かうルート上で、中山温泉という看板を見るので気になっている」
 な、なかやま温泉〜???
 集っているのはいずれ劣らぬ群馬の温泉達人ばかり(それ以上の温泉達人がいるじゃないかというツッコミはさておき)。なのに誰も中山温泉なるものの存在を知らない。
 「白地に黒い文字で中山温泉・・・もしかすると山中温泉だったかも」
 山中温泉も聞いたことないなぁ。
 紺碧七さんが「川中温泉じゃないか?」と言う。
 えんぴつさんが一軒宿かもしれない、秘湯っぽいと言うので益々それらしい。川中温泉なら確かに国道沿いに看板も出ていたはずだ。
 でも「川中温泉」という響きはどうも彼女にはぴんとこないようだ。
 違うのかな・・・判らない。
 でも自分が知らない群馬の温泉だって山ほどあるはずだ。
 本当にあるんだろうか、中山温泉。
 気になる気になる。
 ここに群馬の温泉大王takayamaさんがいたらたぶん一発で当てるんだろうな。
 しかし、本当ならちょうどこの三連休、夏油会という会を岩手の夏油温泉で主催するはずだった彼は、何とも残念なことに、先日登山の途中で足首を痛め、今回は自宅で療養中だった。
 いてもいなくても話の中心になるtakayamaさんは楽しいエピソードに事欠かず、今回も気が付くとみんなで彼の話をしているのだった。
 もしかして今頃花粉症のようにくしゃみしまくってる?

 あれきり雨は降らなかった。
 子供たちも寝かせた後、大人はすっかり飲み漁り、日付も変わった後、もしかしてキャンプ場で一番五月蠅いのは我々か?・・・と、はたと我に返り、みんないい気分で各々のテントに消えていった。


二日目へ続く・・・

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