ひなの宿千歳は松之山温泉街の奥まった辺りにある。
道は狭く両側に温泉宿が並ぶ中、車を進めると、右手に切り立つように千歳の建物が建っていた。
駐車場は手前らしい。
松之山の奇祭である「むこ投げすみ塗り」と書かれた白い垂れ幕が下がっている。
玄関にはまだお正月飾りがあって、それほど広くはないもののこの辺りの温泉では豪華さを感じるロビーの作りだ。
私たちが中に入ると、さっき電話に出てくださった-女将さんだか仲居さんだかわからないが-とおぼしい女性がそそくさと受付に来て料金を徴収した。
大人1,000円、子供700円。
覚悟していたがやっぱり高い!
高いけど、松之山温泉スキー場の1日券があればとりあえず100円引き・・・と、じゃじゃーんと出したところ、
「それ、どこのですか?」と冷ややかな声。
慌てて裏返すと、松之山温泉スキー場の1日券だと思って自信を持って出したそれは、昨日のまつだいファミリースキー場の1日券だった。
失敗失敗。これじゃなくて・・・・えーと、あれ? 無い、無い、無い。
タオルや着替えを入れた袋に手を突っ込んでかき回すが、目的の1日券はどこにも無い。
なななななんで?
あれほどしっかりと無くさないようにとこの袋の中に入れたはずが・・・
あーっ、しまった、電話したときだ。
千歳に電話したとき、1日券の裏を見てダイヤルしたからその時に車の中に置いてきちゃったんだ。
・・・がっくり。
割引があるから松之山温泉に入っていこうと思ったのに、ご丁寧にその割引券を忘れてくるなんて・・・。
早くしてくださいと言わんばかりの目で見降ろされて、しぶしぶと割引券を出すのをあきらめ、私は料金を支払った。
領収証が渡される。
それを受け取り、私は聞いた。
「えーと・・・浴室は・・・」
「つき当たりを左です」取りつくしまもない。