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◇◆がんばれ新潟◆◇
四万温泉と雪国古民家の旅

3.いつものまつだいファミリースキー場と芝峠温泉




 念のため24時間待てと言われた手作り納豆だが、半日たった段階でもう既に豆が白くなってきたらしい。
 あっ、こらっ、パパ、勝手に保温機を開けちゃダメでしょ!


三日目 2009年1月3日(土)


 朝起きたら窓の外は真っ白だった。
 いやいや昨日から真っ白だったのだが、地面や木々の枝だけでなく、空も真っ白。一面の白。

 昨日何が一番大変だったかというと、運転手でお疲れだったパパが一番先に撃沈してしまい、私と子供たちだけで布団を敷いて、お湯を沸かして湯たんぽを作って、お風呂も入って、最後にこたつじゃなく布団で寝なさいとパパを叩き起こしたことが一番大変だっただろうか。
 パパときたら逆にそこで目が覚めちゃって、私と子供たちが寝た後になって一人でこたつで長々と飲んでいたみたいだけど。
 若井さんに頼んでわざわざ持ってきてもらったこの湯たんぽ。見た目よりずっしりと沢山お湯が入るので、これを用意するのは結構大変なのだ。やかん一杯沸かしても、湯たんぽ一つ分には少し足りない。
 やかんがもう一つあったような気がするけど、無いのかなぁ。二つあればいっぺんに沸かせるのに。そんなことを思ったが、翌日パパが引っ張り出してきたやかんを見て思い出した。
 そうだ。この囲炉裏の間に置かれていた骨董品みたいなやかんも実用品だっけ。どこぞの民俗博物館に同じようなものが展示されているのを見たことがあるぞ。みらいではこんなものも全て飾りじゃないのだ。

 新潟に旅行に来ると言って、子供たちがまず期待したのはスキー。
 だから今日の行先はここから至近距離にあるまつだいファミリースキー場。
 小ぢんまりとしたスキー場だけど、子供が遊ぶにはちょうど良い。ここで足慣らしして、明日か最終日にはもう少し大きいスキー場に行ってみよう。
 そんなわけで、のんびりと起きて朝ごはんを食べた後は、私たちはまつだいファミリースキー場へ向かった。
 もう時間は10時半近い。

 雪は雪というよりアラレ。
 それも相当な大粒。昨日この辺で降っていた雪もそうだったのだが、当たると痛い痛い。
 まつだいファミリースキー場はもう2度か3度来ているので、だいたい勝手がわかっている。
 山頂の方のリフトはこの時期いつも動いていないので、リフトは実質一本。
 リフトを降りたところから左右及び林間に分かれるので、コースは全部で三本。
 どのコースを取っても初級者から中級者という難度で、ある程度滑れる人からするとあまり面白くないかもしれない。子連れには適当なコースが多いかも。

 駐車場に車を留めて、まずはパパが子供たちの板を手に子供たちをリフト乗り場の方へ連れて行った。
 しかしいつまでたっても戻ってこない。
 いくらなんでも遅すぎなんじゃないかと不審に思い出した頃、ようやく彼は戻ってきて、「レナのスキーブーツが割れた」と言った。
 「えっ?」
 「しょうがないからレンタルした。だから時間がかかっちゃって」

 カナのスキー3点セットはネットでユーズド品を扱う店で購入した。
 レナのスキー3点セットはパパの会社の友達からもらった。
 友達のお子さんが使ったお古だが、見た目はユーズド品をお金を出して購入したカナのものより綺麗で洒落ていた。
 しかしこれ、お友達のお子さん三人兄弟が使って、カナが使って、レナで既に5代目なのだ。ずいぶん酷使したわけだから壊れても仕方ない。
 まあ一番古いスキー用具は私の板と靴とストックなんだけどねー。もう二十年近く使っているぞ。

 さあ滑るぞー・・・とは言うものの、人数分の一日券を買ったのは子供たちの分だけ。大人は二人で一枚。お金が惜しいという以上に、半分しか滑りたくない、交替で休んじゃえという姑息な計画がバレバレである。
 最初の引率者はパパだ。行ってらっしゃ〜い。
 カナもレナも上手に滑る。特にレナは安定が良いのかかなり上手い。
 だから心配なことがあるとすればリフトの乗降のみ。降りるのは何とかなるから乗るときが一番心配だ。何しろレナは小学三年生にしてはとびきりちびっちゃくて、まずリフトの座る板にお尻が届かないのだから。
 だから大人一人子供二人のリフトの組み合わせは、最初はカナが一人、大人とレナが二人で乗ることになる。
 ある程度慣れてきたら、小さなスキー場なら子供たちだけで乗れることになる。ちび二人で並ぶと、気を利かせてリフト係のおじさんは動きをスローにしてくれるから。

 雪・・・というか大粒アラレはいっこうにやむ気配がない。
 風が強くないので吹雪きはしないが、青空はのぞめそうにない。
 まつだいファミリースキー場はその名の通り地元のファミリーによる利用が多いようで、リフト乗り場近くの緩斜面では大勢の小さな子供が色とりどりのプラスチックソリで遊んでいた。
 そのうちスキーのコースと合同では危ないと判断したのか、スキー場の係員がネットで仕切りを作った。

 何回か滑ったところで交代指令が届いた。
 レナとリフトに乗るのは気が重いなぁと思いながら子供たちと合流する。
 私は高所恐怖症でただでさえリフトが苦手なのに、レナが手を離してちょっとでも揺らしたりするともう目の前がくらくらしちゃう。勘弁して。
 とりあえずリフト乗り場には「リフトの乗降に自信のない方は係員までお申し出ください」と立札が立っているから、遠慮なく申し出てみた。



 リフトで上まで登って松代の街を見下ろしてみても、どこもモノトーンの景色。
 子どもたちは林間コースに行きたいというのでついていった。家族の中で一番スキーの苦手な私は、狭くて凍っていたり、逆に平坦で進みが悪かったりする林間コースもちょっと苦手。

 大人は交替しながらある程度滑ってお昼ごはん。
 レストハウスはリフト乗り場近くの一軒しかなく、座席もごく少ないが、スキー場自体が小さいので混雑しているのは見たことがない。
 そして十日町らしくお米が美味しい。
 とりあえず昼食はおにぎりとたこ焼き。

 午後になるとちょこっとだけ青空が顔を出したが、それはあっという間に雲にぬりつぶされ、後はまた白一色の空。
 リフトに乗っているとき以外それほど寒くはないが、太陽が恋しいなぁ。
 林間コースを含めた三本のコースをかわるがわる滑って、終了したのは2時過ぎぐらい。
 ねえねえ、せっかく新潟に来てるんだからどこか一か所ぐらい温泉に行くよねぇ?

 「芝峠温泉ならいいでしょ?」
 「芝峠ぐらいならいいよ」
 芝峠温泉雲海はまつだいファミリースキー場最寄りの温泉。
 第三セクター経営で、2005年にリニューアル。源泉をひとつ増やし、露天風呂を新設した。
 宿泊施設だが、日帰り温泉も手広く営業している。
 何より立地が良い。山の中腹で密かにかの絶景馬曲温泉に引けを取らない景観が待っている。

 やれ塩素臭いのは嫌いとか、循環風呂は嫌とかわがまま言う私と違って、パパはもっぱら気楽に寄れるかどうかを重視する。
 つまり、敷居の高い旅館や、やけにB級な施設はお嫌いで、子供と一緒の場合は地元率が高く鄙びた共同浴場も敬遠する(大人だけの時は後者は割と好きらしい)。
 そんなパパにも芝峠温泉はぴったりだ。
 「確か一昨年はまつだいファミリースキー場の半券があれば入浴料割引だったよね?」
 でも一日券を裏返したりしてみたが、今年はそのようなサービスは見つからなかった。
 ちょいと残念。

 相変わらず空は曇って汚れた雪のような色をしているので、もう日が暮れるのかまだそんな時間じゃないのかよく判らなかった。
 芝峠温泉の看板に従って道を登っていくと、だんだん路上の雪の量は増えてきたが、昨日の2号館へ行く道筋ほどではない。
 左手が開けて見晴らしがよくなってきたと思ったら、芝峠温泉に到着した。
 宿泊客のものが大半なのか、駐車場はかなり混雑している。

 駐車場の一角に雪だるまの作りかけかと思う大きな雪玉が転がっていた。
 早速子供たちは飛びついたり蹴りついたり。
 急ぎたいパパはイライラして早く来いと呼びかける。
 駐車場は道路より一段低い場所にあり、駐車場から芝峠温泉雲海の建物まで行くには雪の斜面を登らなくてはならない。
 一応、みなが上り下りするので歩きやすいよう雪を固めて道を作ってあるが、上から降りてきた男の人がつるりと滑って尻もちをついたのを見たとき嫌な予感がした。
 「カナー、レナー、早くー」
 慌てて雪玉と戯れるのをやめて走ってきた子供たちだが、カナはともかくレナがどうしても登れない。
 上ろうとするがつるつると滑り上に進めない。
 上からカナと私が手を差し伸べたがそれでもなかなか登れない。
 何度も雪の坂にばったりと倒れてしまう。
 堪忍袋の緒を切らしたパパが「いい加減にしろ!」と大声を出したが、こちとら遊んでいるわけじゃないって。

 ようやく辿り着いた雲海の入口。
 中は暖かく、階段を上るとすぐに椅子を並べた簡易な休憩所と言うか、待合室のようなものがあり、日帰り温泉客が大勢くつろいでいた。
 男湯に行くパパとはここで別れ、私は子供たちを連れて女湯の暖簾を潜った。

 適当に子供たちを洗って次に自分を洗う。
 洗い終わって振り返ると、子供たちは内風呂に入っていた。
 「露天風呂行こ、露天」
 芝峠温泉は内湯と露天風呂で使っている源泉が違う。
 そんなに源泉自体の成分が違うとは思えないのだが、使い方が違うのか、明らかに露天風呂の方がお湯がいい。
 ドアを開けて吹きさらしの外に出るととても寒い。凍えそう。
 すぐドアの外に寝湯のようなものもあるが、お目当ては展望浴槽の方。
 足の裏も冷たいと思いながら急いで絶景露天風呂に入る。
 やっぱりこっちの方が断然いい。
 臭いも強い薬っぽさのある油の臭いで、重く感じるくらいの緑がかったお湯。
 露天風呂もそこそこ混んでいた。
 浴槽の半分ほどは頭上に屋根が張り出していて、外側は屋根なし。
 そして窓のない開けた側からは果てまでも連なる山々の景色と、見下ろすと小さく谷に沿って町並みも。
 雪ははらはらと降っていて、屋根のない辺りから見上げると白く冷たいものが次々眼の中に飛び込んでくる。肩や湯面に落ちたそれは一瞬だけ繊細で精巧な雪の結晶の姿を見せ、次の瞬間には跡形もなく融けてしまう。
 芝峠温泉のお湯は松之山に温泉にちょっと似ている。濃くて重くて油っぽくて塩辛い。
 硬いスキー靴の中で縮こまっていた足を延ばして一息。
 気がつくとざっくばらんに結いあげた髪に沢山の雪が絡まりついていた。

 お風呂上りにレジ前でレナはアイスクリームのケースを見つけた。
 無類の甘いもの好きの彼女は早速パパにおねだりする。
 それを見てカナが、自分は甘いものが好きじゃないくせにずるいとか言い出す。
 レジ前で売っていたのはコシヒカリアイス。コーンとカップがある。
 いかにも米どころらしい。
 レナはここでコーンのコシヒカリアイスを選んだが、カナはアイスは嫌だと言い張った。誰よりお米が好きなんだから食べてみりゃいいのに。
 仕方なくカナは粒入りの缶ジュースを買った。
 それらを飲食するのは車の中でと言って、パパはさっさと芝峠温泉を出た。
 駐車場に至る雪の坂道は帰りはもっと凍って滑るかと思ったら、私たちがお風呂に入っているわずかの間に施設の人が階段状に固めていてくれた。

 帰りがけにA-COOP松代店に寄った。
 食料品の買い足しとそれから洗濯洗剤がほしかった。
 実は貸し民家みらいには洗濯機が据え付けてある。それを期待して、4泊5日の旅行だが着替えは3日分程度しか持参していなかった。
 前に来たときは洗剤も置いてあった。
 それを知らずわざわざ洗剤を持ってきていたのだが、今回は洗剤はあると思って逆に持ってこなかった。
 昨夜見たら、洗剤を入れていたとおぼしきプラスチックケースはあったが、中は綺麗に洗って乾かしてあって空っぽだった。
 だから洗濯洗剤を買いに来たのだ。
 コープで大きなボトル入り液体洗剤を買う我が家。
 つくづく旅行者っぽくない。

 あっ、ちなみにコープには「かんじき」も普通に売られていた。流石は雪国だ。

 最後の難関と言えば昨日登りきれなかった2号館に至る坂道。
 しかし、2号館のある道は国道から入って上り坂になり、2号館のあたりでまた下って再び国道に合流している。
 昨夜、若井さんから反対側から来た方が楽だと教えてもらった。
 道のりも短いし、何より国道がこちらの方が上まで来ているので坂もそれほど急ではないのだ。
 「最近は経費節減か、除雪車もある程度積もるまで来ないんですよ」と若井さん。
 なるほどね。
 厳しい現実だ。



 みらい2号館に帰ってきてからはパパには大仕事がある。
 子どもたちとの約束。それは「かまくら作り」。
 カナの粒入り缶ジュースに蟹用スプーンを突っ込んでひとつ残らず粒を掘り出したあと、二人はまたもやスキーウェアになって外に飛び出した。
 雪はまだ降っている。
 辺りはもう薄暗い。

 パパと子供たちは雪を掘って運んで一か所に積み上げて踏んで固めて穴を開けた。
 出来上がったかまくらは、ようやく子供が一人潜れるか潜れないかというサイズ。
 中には雪の棚を作って火を灯したキャンドルを置いてみた。
 ・・・お正月だってのにキャンドルがサンタクロースを象ったクリスマス用だって?
 細かいことは気にしない気にしない。

 夜には再び若井さんがやってきて、納豆の出来栄えなどみてくれた。
 いくつか藁苞からはみ出しているものもあったけど、なかなかおいしそうに完成した。

 「一晩冷やすと固まって納豆らしくなるんですが、このできたてのあったかくて柔らかいのもまた旨いんですよ」と若井さん。
 ワカイ測量製の納豆は高級納豆として大阪方面にも出荷されているそうだ。
 今度は若井さんはワカイ測量製の味噌「杉樽仕込 生味噌」をくださった。
 ワカイ測量、既にどう見ても測量屋ではないような気がする。

四日目「松之山の一日」へ続く


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