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◇◆がんばれ新潟◆◇
雪国のお正月2007

4.カナとレナとスキー



四日目 2007年1月3日(水)



 友人一家が帰ってしまうと、広い冬の古民家はシンと静まり返ってしまって寂しいことこのうえない。
 昨夜の夕食も静かに食べたし今朝の朝食も静かに食べた。
 朝には曇りがちだった空模様も昼が近づくにつれて段々と明るくなってきたので、今日はまつだいファミリースキー場に行くことにした。
 このスキー場は貸民家みらい2号館から車で10分ほどの距離にあるこぢんまりとしたスキー場。
 去年も一昨年も遊びに行った。
 去年初めてカナをスキースクールに入れたのもここだ。
 キッズのスクールも半日2,000円と格安。
 初日に体調を崩した私ものんびり二日ほど過ごしてほぼいつもの状態に戻っていて、それほどハードに動き回らなければ大丈夫そうな感じだった。

 ところが、カナがぶつぶつ言い出した。
 どうしてもスクールに入りたくないと。
 去年まつだいファミリースキー場でスクールに入ってようやく一人で緩斜面を滑れるようになって、その後赤倉スキー場でもう一度スクールに入って、今は形はともかく中級者ゲレンデなら苦もなく降りてこられるようになった。
 だからスクールで拘束されたくない。自由に滑りたいということらしい。
 でもカナは性分が恐がりなので、とにかく怖くない滑りしかできない。
 すると必然的にボーゲンでひたすらスピードを殺した直滑降で降りてくることになる。これではいつまで経っても進歩しない。

 レナは去年のまつだいファミリースキー場ではまだスクールに入れなかった。幼稚園生では他のスクール生の足を引っ張るということで入れてもらえなかったのだ。
 赤倉はプライベートスクールだったのでここでようやく正式に習うことができた。先生一人がカナとレナの二人をつきっきりで指導してくれて、あっと言う間にすいすい滑れるようになった。。
 カナよりスクール経験は浅いが、センスがあるのと努力家であることと、さらに先生の教えをその後もきちっと守って滑っていることから、親は今ではレナの方がスキーが上手いと知っている。

 そのレナは一度はスクールに入ってもいいと言った。
 でもカナが強硬に「入らない」と首を横に振っているのを見て、「やっぱりレナも入らない」と言い出した。
 レナはとにかく何でも姉と同じでないと気が済まない。

 頑固なカナが無限ループに陥ってぐずぐず言い出すとキリがない。
 パパは仕方なくスクールに入らなくてもいいからと子どもたちを連れ出した。



 まつだいファミリースキー場は、昨日見たキューピットバレイと比較するとちっちゃいなーという印象だ。
 リフトも一応2本あるのだが、一本は雪不足のためか稼働していない。
 スキーセンターから上へ向かうペアリフトを降りると、黙って右か左の中級者コースを滑り降りるしかない。
 右へ行くとさらに奥に初心者用の迂回路がある。
 合計3本のコースは、結局途中で合流し、またスキーセンターに至るようになっている。
 去年と違って道具は全て持参したので、レンタルショップも素通り。中途半端な時間だったけど四人分の1日券を購入して早速リフトに乗った。
 ちょっとストックが長すぎるせいかレナは何も持たずに滑りたがるので、リフト乗り場に並ぶのに苦労する。ほんのちょっとした斜面が登れない。姉のカナがこうやるんだよとハの字歩きを示してみるが、上手く歩けずパパが引っ張り上げていた。
 リフトはパパがレナと。ママがカナと。
 カナはまだふてくされている。
 うちの娘たちはホント気分の切り替えが下手だ。

 相変わらずカナは一直線に降りていく。
 雪も柔らかいし斜度もそれほどきつくないのでこの滑り方で安心なのは判る。
 というか、むしろ溶けかけた雪が削られて変にぼこぼことしているので、ターンを繰り返すと雪に板を取られそうになる。
 それでもレナはきっちりとターンしている。
 パパがお手本を見せると、コピーするようにその後をなぞってついてくる。下半身の安定ぶりがすごい。
 先に一番下に着いたカナが「私が一番速いね」と言う。
 レナがむっとする。
 カナが速いのは当然だ。だって直滑降すればターンするより滑走距離が短い。でも本当に上手くなろうとしたらそれでは駄目。それしか滑れないと近いうちに行き詰まることになる。
 親のそんな気持ちを察するのか、一度ははしゃいだカナは再び反抗的な態度を取り始めた。
 もう滑りたくない。もう帰る。もうスキーつまらない・・・。

 リフトを降りて右の中級者コースと左の中級者コースは多少斜度が違うようだ。
 カナは怖いのか決して左側を降りようとはしない。
 右か、迂回路だ。
 レナはパパと左のコースも行き、ちょっと急だったねなんて笑いながら話している。
 カナはついにゲレンデの途中で立ち止まった。
 気にくわないことがあると牛歩戦術に出るのだ。
 レナがずんずん降りていってしまったのでカナはパパにまかせて私も後を追った。
 「カナはどうしたの?」
 レナは2才年上の姉を呼び捨てにする。親が子どもたちをそう呼ぶからだ。カナ自身も呼び名についてはお姉ちゃんと呼ばれるより名前で呼んでほしいと言っている。
 「どうしたんだろうね」
 「来ないならここで待っていよう」
 レナは足下の雪を小山に固めて板で切ろうとした。上手く切れない。
 私が板ですっぱり切ってあげると、レナは喜んでその雪の固まりを抱え上げた。
 「これ、レナのだから下に持って行くね」
 大事そうに両手で抱えてまた彼女は滑り始めた。
 おや・・・?
 レナの滑りが変わった。
 さっきまでのきっちりきっちりターンしながら降りる完璧な滑りではなく、ボーゲンでスピードを殺しながら滑る直滑降・・・はっきり言って、カナの滑りそっくりだ。
 レナを追って一番下まで降りた。
 「あのね、大事な雪の固まりを絶対に落とさないように気を付けて滑ってきたんだよ」とレナ。
 なるほど。
 守ろうとするものがあったり、怖かったりすると、みんなこの滑りになるんだ。
 カナはスピードが出るのが怖いので自分を守ろうとして自然とあの体勢になっちゃんだ。
 それは判るけど、だからこそスクールに入った方がいいと思うんだけどなぁ。

 スキー場に着いた当初はまだ曇っていたが、いつの間にか雲は切れて青空が広がっていた。
 午後からは晴れの天気予報だったけど、私たちがスキーをするのに合わせて晴れたみたいだ。
 カナはなんとか機嫌を直して、その後は大人しく滑っていた。滑り方は直らなかったが。

 「ママがスキーを初めて滑ったのは20才ぐらいの時だよ。だからもう大人になってから。お友達と一緒にバスでスキー場に行って、そのお友達が滑り方を教えてくれた。でも大人になってからだともうあまり上手くならないんだよね。ママも子供の頃からスキーに行かれれば良かったんだけど・・・。
 カナは何でママはスクールに入らないのに自分はスクールに入らなきゃいけないのって思ってるでしょ。ママはもう大人だからスクールに入ってもそんなに上手くならないんだよ。カナはまだこれからどんどん上手くなるチャンスがある。だから今スクールで教えてもらうとそれだけぐんぐん上手になるんだよ。だって最初は全然滑れなかったけど、ちょっとスクールで教わったらもうどんなところでも行かれるようになったでしょ」
 「・・・うん」
 それからカナは言った。
 「前にレナと一緒に習ったあそこの先生ならいい」
 赤倉スキー場のスクールか。確かにあそこは良かった。
 「じゃあまたあのスキー場に行こうか。そうしたらスクールに入る?」
 「うん」

 カナとリフトに乗るときは語りモードでそれはそれでいいのだが、レナとリフトに乗るのは怖い。
 まずレナはストックがないので並ばせるのに一苦労。場合によっては私のストックに捕まらせて引っ張り上げてやらなくてはならない。
 さらにリフトに座る瞬間も緊張。
 何しろ標準的な小学一年生よりずっと背の低い彼女はリフトの座席の高さに腰の位置が合わない。かといって私の力では自分の板をはいたまま彼女を抱き上げて座らせるのも無理だ。
 結局リフト係りのおじさんに少し手伝ってもらうことになる。
 そしてリフトがぐんぐん昇り始めてからも怖い。
 小さい彼女が椅子から滑り落ちやしないかと、乗っている間中冷や冷や。
 だってリフトの背もたれもレナの身長に全然あっていないんだもの。
 ちょっとバランスを崩したらするっと落ちそうだよ。
 そんなことを考えただけで背筋がぞわぞわしてきた。
 「しっかりリフトに捕まっていて」
 そうは言ったものの、レナが手を離す度に思わず声を上げてしまう。
 とても耐えられない。
 次回からレナはパパと一緒に乗って。
 「やだ、ママと乗りたい」
 「やだ、勘弁して」

 お昼はスキーセンターの中で。
 ごく小さなセンターだけどこのスキー場の規模なら座れないというほどではない。
 新潟のスキー場らしくメニューにおにぎりがある。
 でもナステビュウのおにぎりと違って具が入っている。
 梅干しと昆布。
 レナは梅干しがすっぱいと顔をしかめた。

 滑っては降りて滑っては降りて・・・子どもたちにつきあってひたすら一本しかないリフトで上がっては同じコースを滑り続けていると、やがて山の稜線に夕日が掛かった。
 ほとんど休み無しに滑ってきた。
 もう足ががたがた。
 午後はよく晴れた空も、また何となく薄曇りになってきた。
 ゲレンデから見る向かいの山や家々に夕日があたっている。
 そろそろあがることにしよう。
 時間は4時を回っていた。



 「芝峠温泉に行こう」とパパが言った。
 まつだい芝峠温泉は初日に私をのぞくメンバーで行ったはずだ。
 雲海という一軒宿があって手広く日帰り温泉も受け付けている。ここの露天風呂からの眺めは日本有数とうたっても言い過ぎではないほどの絶景だ。
 「えっ、何で芝峠?」
 「だって今回一人だけまだ行ってないだろ? それにまつだいファミリースキー場のリフト券があれば半額で入浴できる」
 そうなんだー。じゃ行くしかないね。
 「そうと決まれば」
 「日没前に」
 二人とも考えていることは同じ。
 急がなきゃ。
 スキー場の日は落ちても、峠の日はまだ落ちきっていないはず。

 ぐんぐんカーブを曲がって峠を目指して車は走る。
 だいぶ暗くなってきた。
 間に合うだろうか。
 雲海の駐車場に着いた。
 そこそこ混んでいる。
 街灯が灯っていて、窓の明かりも眩しい。
 急いで受付を済ませ、浴室へ向かう。
 洗う間も惜しいくらい。子どもたちの髪の毛をシャンプーしてゴムでまとめ上げた。
 内風呂に入ろうとするカナを止めて、先に露天風呂へ行こうといざなう。
 景色もだけど、お湯も内風呂はいまいちだった記憶がある。

 露天風呂に着いた。
 寒いのでまずはお湯の中へ。
 良かった。まだ真っ暗にはなっていない。
 雲が多いので夕焼け景色というわけにはいかないが、まだ薄ぼんやりと広がる山々がのぞめる。
 ここの露天風呂は転落防止のボードがあるけれど、それは透明な板を使っているのでお風呂の中からでも外が見えるようになっている。
 気温が低いせいかボードが湯気で曇ってしまっているのが残念だが。
 お湯もずっしりして油の臭いの強い松之山に似た感じ。
 ぴりぴりと濃厚。
 とてもよく温まる。
 何だかスキーの疲れが吹き飛んでいくようだ。

 カナが「泊まっているみらいはどの辺?」と聞いてきた。
 ・・・うーん、お風呂から見える方角とも限らないし・・・と思って下を覗き込むと、ちょうど真正面の谷筋に光の帯のように電車が見えた。
 あっ、あれはほくほく線か。そうすると正面がまつだい駅だ。
 えーと、そうしたらみらい2号館はどっちの方角になるのかなぁ。
 考え込んでいると、隣にいた奥さんが「あの山の上に見える光、あれがおふくろ館よ」と教えてくれた。
 「えっ」
 自分に話しかけられたとしばらく気づかなくて間抜けな返答を返してしまった。
 「あれが松之山のおふくろ館なの。それからもうちょっと右手の山の中腹に見える灯りが松代のお城ね」
 「松之山のおふくろ館、知ってますよ。ちょうど一年前にお蕎麦を食べに行ったんです。あそこのお蕎麦は美味しいですよね」
 「そう、手打ちだからね。おふくろ館の窓から見るとね、ちょうど真っ正面の山の上にこの雲海の灯りが見えるのよ。だから雲海からも真っ正面におふくろ館の灯りが見えるの」
 「へえー、もしかしておふくろ館の方ですか?」
 「違うわよー。地元だけどね。あなたはどちらから?」
 「東京です。毎年年末年始は松代で過ごしているんです」
 「実家がこちらなのかしら」
 「いやそういうわけでもなくて、松代の貸民家が気に入ってそこで年越ししているんです」
 いつの間にか辺りはとっぷりと暗くなっていて、ぽつりと正面に見えるおふくろ館の灯りは、まるで闇に浮かぶしるべの一等星のようだった。

最終日に続く


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