3.キューピットバレイへの遠い道のり
三日目 2007年1月2日(火) |
「雨が降っているよ」
えっ、うそっ。
真冬の新潟と言えばとにかく「雪」と思っていた私に、雨の知らせは寝耳に水だった。
いやいやそんな、いつまでも寝ているわけにはいかない。起きなくちゃ。
今年は暖冬だ暖冬だとは聞いていたが、まさか雨が降るとは思わなかった。
今日は2007年明けて二日目。
私たちはみらいにあと2泊する予定だけど、yuko_nekoさん一家はもう帰る日だ。
ちび姫ちゃんはうちの娘たちと遊べる貴重な時間を無駄にしたくないとばかり、朝から私たちの部屋に来てカナやレナとポケモンの人形を広げている。
それから階下に降りていき、子どもたちは今度はポケモンのボードゲームを始めた。
レナが少しぐずったので、自分も一緒に参加してみる。
しかしルールがめちゃめちゃ。子どもたちはゲームに付いてきた説明書通りに進めるのではなく、自分たちがやりたいように勝手にルールを改変しているので、後から加わった私など不利なことこのうえない。
ルーレットを回して出た数字のポケモンカードをゲットだよと言われてカードの山を探ったけれど、子どもたちがみんな先にゲットしちゃってレベルの低いのしか残っていなかったりする。
「ずるいよー、ルール違うじゃん」と適当に相手をしていて、昨日の夜のことを思い出した。
昨日も子どもたちは夕食前、炬燵の周りでこのゲームに興じていたのだ。
すると、隣の部屋から異様な臭いが漂ってきた。
異様というか・・・牛乳が腐って発酵したものを火にかけて焙ってその悪臭をわざわざ周辺一帯にまき散らしているような・・・。
げっ。
ちょっとパパ!!
くさやを焼いたでしょ〜!!
信じられない。
私はくさやが大嫌いだ。人一倍臭いに敏感な私は、あの腐りきった臭いが耐えられない。
臭いはすごいけど美味しいんだから食べてみなと言われて、昔一応口に入れてはみたが、口中から鼻に抜ける強烈な臭いに吐くかと思った。
流石に吐きはしなかったが。
二度と食べたくない。
でもパパはくさやが大好きだ。
しばらく前に手に入れて冷蔵庫にしまってあったのは知っていた。
酒と肴の好みを共通とするyuko_nekoさんなら絶対喜んで食べてくれるに違いないと、今回持ってきたのも知っていた。
でもでもっ。
前日体調を崩して気分の悪い私がいることを知っていてわざわざこの日に焼くか?普通。
「げー、なにこの臭い」
「くさーい」
子どもたちはてんでに鼻をつまんで二階へ逃げてしまった。
後に残された私は炬燵から起きあがる力も無く、そのまま炬燵布団で鼻を塞いでばったりと横になった。
「うう・・・く・・・くさい・・・・もうダメ・・・」
子どもたちが再びバタバタと足音を立てて戻ってきた。
下に置きっぱなしだった人形を取りに来たのだ。
「人形たちも早く脱出させよう」
「このままじゃこの臭いにおいにみんなやられちゃう」
そうだそうだ。・・・誰か私も助けてくれ。
人形たちを避難された後、カナがもう一度戻ってきた。
「ママ、一緒に二階へ逃げよう。暖房もつけてもらったからあったかいよ」
あ、ありがとうカナ・・・ママを見捨てないでいてくれて。
避難する私たちを唖然とした目で見ていたのはパパとyuko_nekoさん。
「こんなに美味しいのに・・・」
うう、悪いけど、くさやだけは人間の食べるものじゃないよ。あとドリアンもね。
ちなみにくさやを食べ終わった後、二人は一階の空気を全部入れ換えてくれた。
このとき部屋で寝ていたがっちゃんも後からくさやのことを聞いて、「俺もあの臭いは苦手ー」と言っていた。
良かった。
がっちゃん、同士だ。
そんなこともあった。
昨夜ね。
話を今日に戻そう。
朝食後に若井さんが訪ねてきた。
何しろ昨日も来てもらったのに私たちは松之山に行っていて留守だったから。
若井さんの本業はワカイ測量という測量屋さんのはずだが、最近は公共工事の予算枠も激減して商売あがったりだそうだ。
すっかり貸民家業が本業になりつつありますと頭をかいておっしゃったが、貸民家業の他にもどぶろく、納豆、マーマレード、最近では味噌も造っている。マーマレードを除けば発酵・醸造系の食品が多い。
「昨日頂いた納豆、美味しかったですよ」とyuko_nekoさん。「でも粘りが少な目でしたか・・・」
yuko_nekoさんが持ってきてくれた辛み納豆が昆布入りのせいかやたらと粘っていたので比較すると確かに粘りは少なかったかもしれない。
「実は焦がしちゃいましてね」と若井さん。
「いや、お渡しした分は無事だったんですが、鍋の底の方が少し焦げてしまってその煙が少し表面についたので粘りが少なかったかもしれません」
ほんの10分いつもより長く火にかけただけでそんなことも起こるらしい。
「じゃ、もう少し発酵を進めても粘りが出るっていうわけじゃないんですか」
「もうこうなると、それ以上は粘らないですね」
へえー。
若井さんのみらい納豆は、大豆は自家製、塩は和歌山の塩を使って作っているのだそうだ。
カナはこれを「おにぎり納豆」と呼ぶ。
パパはそれを聞いて、最初は納豆を具にしたおにぎりのことかと思ったようだが、包みが三角なのでおにぎり納豆と呼び始めたようだ。
今、市場で主流になっている小粒納豆を見慣れた私たちには、みらい納豆の大豆はすごく大粒に見える。
若井さんが帰っていった後、いよいよyuko_nekoさんたちが帰ることになった。
帰りに寄る温泉はどこがいいかなと、がっちゃんがガイドブックを捲っている。
yuko_nekoさんが、本当は機会があったら一緒に川口の和楽美の里に行きたかったねと残念そうに言う。
和楽美の里はyuko_nekoさんのお気に入り。プールもあって子どもたちも喜びそう。私も行きたいと思いつつ、まだその機会に恵まれていない。川口は松代への行きか帰りに寄るには方向が反対になるからだ。
「野沢もいいな・・・」とつぶやくがっちゃんに、思わず私は「野沢に行くなら百合居温泉は?」と提案していた。
「百合居はちょうどここから野沢温泉に抜ける途中にあるよ。仮設の小さな施設でアワアワなの」
仮設の一言にがっちゃんの目が輝く。
がっちゃんはこの手のレア温泉に目がないのだ。
「私が行ったときはボイラーの故障で入れなかったのよね。それに百合居に行く途中に田中温泉、宮野原温泉と、なかなか良さそうなところが点々とルート上に並んでいるのよ。本当は一緒に行きたかったけど、良かったら行ってみて」
百合居温泉に行く道は本当に判りづらい。
がっちゃんに行き方を書いたメモを渡した。
パパがふと思い出したように、「百合居温泉ってもしかしてホームセンターの裏にあったあそこ? そうしたらとてもトレーラーなんかじゃ行かれないよ。道が狭くて無理だって」と言い出した。
「そうかぁ・・・」
ちなみに百合居温泉みたいなマニアックな温泉をパパは苦手とする。
絶対いつか行きたいと思っているけど、パパと一緒に行くのは難しいかもと思っている。がっちゃんなら喜んで連れていってくれそうだけど。
「で、うちも今日はどこか温泉に入れるのかなぁ?」
期待薄と思いながらも私もつぶやいてみる。
「うん、温泉ぐらいなら行ってもいいよ」とパパ。
これから神奈川方面に帰っていくがっちゃんたちと違って、うちは行くとしても松之山止まり。もう昼過ぎだし、そんなに遠出はすまい。
もちろん松之山温泉は大好きだけど、日帰り系はほとんど行き尽くしたからな。正月2日目の夕方じゃ、まだ旅館系では良い顔をされないような気がするから
鷹の湯へ行くか、それともまだ行ったことがない湯田温泉渋海リバーサイドゆのしまでも行ってみるか・・・。
「ここはどうかな、
ゆきだるま温泉っていうのは?」とパパ。
えっ、ゆきだるま温泉!?
「地図のどの辺? ・・・あっ、ここならうちも一緒に寄ってもいいですよ」とがっちゃん。
「本当ー? 本当に? 本当にいいの?」と私。
このとき私の顔が千載一遇のチャンスと輝いたのにみんな気が付かなかったらしい。
「ゆきだるま温泉って言うとキューピットバレイでしょ? 本当に本当に本当にいいの?」
「いいよ」
「・・・遠いよ」と一応小声で。
「そんなに遠くないよ」と地図を見ながらパパもがっちゃんも肯く。
「
千手温泉より近いんじゃない? 30分もあれば行くんじゃないかしら」とyuko_nekoさんも言う。
いいのか? みんな。
本当にいいのか?
ゆきだるま温泉はかなり行きたいところだった。
でも5回のみらい滞在で一度も口にしなかったのは、直線距離では近く見えても、その実、とんでもなく遠いと思っていたからだ。
しかもキューピットバレイに至る道は地図で見てもくねくね。相当の悪路である可能性も否定できない。
おまけにこの辺りでは比較的大きなスキー場に隣接している。
スキー客で大混雑という可能性も大有りだ。
本当にみんな、いいのか?
といいつつも、下手なことを言うとせっかくのチャンスが泡と消えてしまうかもしれないので、反対は唱えなかった。
もちろん運転手たちは後でたっぷり後悔することになった。
ごめんね。
だから「本当にいいの?」って言ったじゃない。
みらい2号館のある松代の池尻地区から行くルートは何本かある。
今回はナビ任せだったので、行きはルートを確認しないまま出発した。
うちのカーナビはもう古いけど、がっちゃんの車には最新型が積んであるはずだ。
子どもたちはいつも3人一緒に乗りたがるので、今回はがっちゃんのデリカに揃って乗り込んだ。
がっちゃんたちはもうそのまま帰るので、まずはトレーラーをデリカの後ろに繋ぐ。
そしてがっちゃんが先頭。うちの車は後に続いた。
池尻地区の坂を下り、池尻交差点を西へ向かわないといけないのだが、まずは反対方面へ。松代駅前のコンビニと松代の道の駅に寄る。
何故かコンビニにも駅前にも制服姿の自衛隊員が何人もうろうろしていた。コンビニ袋を手に提げて敬礼なんてしている様子、何だかシュールだ。
それから今度こそ真っ直ぐゆきだるま温泉に向かうのかと思えば、「ごめんごめんもう一軒寄らせて」と、がっちゃん車は今度は三笠屋酒店に停まった。
松代駅前のこの酒屋はなかなか良いお酒があるので毎年1〜2回は必ず寄っている。
パパはもうお目当ての八海山一升瓶は買った後なので車から降りなかったが、がっちゃんとyuko_nekoさんは八海山の生酒を買った。
今度こそ本当にゆきだるま温泉目指して走り出した。
先ほどの池尻交差点を松之山街道側へ曲がる。この道は松之山温泉ではなく蛇行しながら西へ向かっている。
弱い雨が降っているのだが、雲がまるで山の低い位置に溜まっていて雲海のようだ。
とりあえず前半の道のりは峠越えはするもののそれほど困難な道のりではなかった。保倉川に沿って北から伸びた県道13号線とクロスする辺りはAコープなどもあるちょっとした集落になっている。
ここを走っているときに、yuko_nekoさんから携帯に連絡が入った。
「ねえ、道はこれで合っているかな?」
「判らないけど・・・うちのナビのルートからは外れたみたいだよ」
ちょうど話の途中で電波が切れた。電波状況が悪いみたいだ。
どうもうちのナビの示したコースとは違う道に入ったようだ。でもどうせうちのナビは古いから、黙ってがっちゃんの後をついていった方がいいだろう。
後から地図を確認して判ったが、今まで走ってきた道は国道403号線(松之山街道)、そしてうちのナビはその国道を直進するよう示していたようだが、がっちゃん車が走り出したのはちょうどその国道をショートカットした、西へと向かう県道13号線だった。
道は蛇行しながらぐんぐん高度を上げていく。
景色は日本の昔話の中に迷い込んだような厳しい雪山だ。杉や葉の落ちた木々が黒々とそそり立っている。
人家は無い。
細い道は嫌になるほど右に左にくねっていて、正直、もし山だけでなく道にも雪が積もっていたら、トレーラーを引っ張っているがっちゃん車も、馬力の無いうちの車もまったく進むことができないだろうと思った。
路上の雪が全て溶けていても、こんなに難儀するのだ。
「がっちゃん・・・大丈夫かなぁ」
「いや、大丈夫じゃないだろう」
だよねぇ。
トレーラーは左右に振られるだろうし、道は急で狭いし、助けてくれそうな家も人も見あたらないし、さぞや運転していて怖いだろうな。
「対向車が来ないことを祈るね」
ついに峠まで来た。
モノトーンの景色は胸を打つような険しさに溢れていた。
でもこの道、いったいいつまで続くんだろう。
ふいに右手に雪をかぶった棚田が見えた。
すごい。こんな人里離れたところにも水田があるんだ。流石は新潟。
幸い最後まで対向車は来なかった。
というか、それほど辺鄙な道を選んだということか。
山を下ってもう一度国道403号線と再開したところで、ようやく一息ついた。
国道に入って直ぐに道の駅が見えた。
道の駅 雪のふるさとやすづか。
入り口に大きなゆきだるまの人形が立っている。
三角屋根の物産館と、別棟の蕎麦屋が建っている。
ここがゆきだるま温泉かと思ったら、温泉はまだ先なんだって。
yuko_nekoさんたちが物産館の中に入って甘酒をもらってきてくれた。
辺りにゆきだるまの絵のついたスキー場の看板がやたらと目に付くようになってきた。
スキー場の正式名称は「ゆきだるま高原キューピットバレイスキー場」。
「ゆきだるまとキューピットって何か相容れないような気がするんだけど・・・コンセプトがよく判らん」
そして見えてきたキューピットバレイの駐車場は、まつだいファミリースキー場などのこじんまりとした地元御用達スキー場など見慣れた私には広大に見えた。
駐車場の奥に変形楕円形の目立つ建物が建っている。
あれがゆきだるま温泉雪の湯らしい。
駐車場の奥なんだから、思いっきりスキー場専用日帰り温泉という感じだ。
既に時間も午後2時、気の早い人ならそろそろスキーを切り上げて温泉に入ろうと思ってもおかしくない。混雑している可能性はありありだ。
そう、時間はもう2時。みらいを出発したのが12時半。
途中立ち寄った松代駅前を離れたのだって1時過ぎなのだから、キューピットバレイまでまるまる1時間近くかかったことになる。
地図で見る直線距離はたかだか10キロそこそこなんだが。
本当ならパパなど、休日のこんな時間にスキー場に隣接した温泉になど入りたがらない。
こういう立地条件なら、温泉だけ利用するなら午前中に来るのが賢い。
でもはるばる1時間かけてやってきたのだから、入らずして帰るわけにもいくまい。
駐車場に空いているスペースを探して、車を停めた。
寒い寒いという子どもたちを急いで建物の中に連れていった。
館内に入ったとたん、上半身は明らかに下着姿の幼児が目に入った。
・・・どうやら湯上がりは服が着られないほど温まる温泉らしい。
内風呂は細長い感じ。
妙な形だなと思ったら、男湯と女湯と二つのピースを合わせると雪だるまの形になるらしい。
といっても壁を透視できるわけじゃないから(当たり前だ)、縦に半分に切られた形だけ見ていても何のことやらさっぱりだ。
100人入浴できる広いお風呂だというけれど、それほどのサイズには見えない。
お湯の色は濁りのない緑色。
入ると熱めで冷えた体にはじんじんと染み通ってきた。
露天風呂もある。
隅にちょうど良いサイズの岩があったのでそこに腰を下ろした。
ゆきだるま温泉のお湯は
松之山の共同浴場鷹の湯にとてもよく似ていた。
臭いがガソリンスタンドの油の臭いにタイヤの臭いが混じったような感じ。ロウソクの燃え尽きた後のような臭いも混じっている。
内湯よりも露天風呂の方がよく臭う。
お湯の持つ重みも露天風呂の方が重いようだ。
ずっしりとして濃厚だ。
それにものすごく温まる。
yuko_nekoさんと、はるばる来た甲斐があったねとうなづきあった。
「今度来るときはスキーをしに来てもいいね」
うん、とは言ったものの、松代からキューピットバレイに来るのは大変だぁ。
露天風呂から見える景色は、ゲレンデではなく雪の斜面にぽつぽつとロッジが並ぶものだった。
あんまりゆっくり入りすぎて、上がるときくらくらしてしまった。
本当にここの温泉はよく温まる。
子どもたちは長袖を着たくないと言うので、下に着せていたタンクトップ一枚にした。
「寒くなる前にちゃんと長袖を着るんだよ」
「うん、判った」
さっき入り口でうろうろしていた子供も下着姿だったことを思い出した。
休憩室に移動すると、既にパパはラーメンを食べているところだった。
そういえばお腹が空いた。私も何か食べようかな。
「石焼きビビンバ食べようっと」
こんなにヘビーなものを食べ切れるだろうかという気はしたが、何となくメニューの写真が美味しそうだったので思い切って頼んだ。
yuko_nekoさんちもラーメンやビビンバを注文している。
小食なうちの子どもたちはアイスクリームとドリンクヨーグルトで十分だと、食事は食べようとしなかった。
ビビンバは正解だった。自分にとってはちょっと量が多く食べきるには難儀したが味は美味しい。
yuko_nekoさん曰く、ラーメンはいまいちだったとのこと。
食後に雪の湯のゲームコーナーで、がっちゃんがお菓子を落とすゲームをしてキャッチしたお菓子をうちの娘たちにも分けてくれた。
雪だるま温泉の建物から出ると、雪の斜面にいくつも雪だるまが並んでいるのが見える。
本物ではなく作り物だけど。
他にも街灯も雪だるまの形。
お別れの時間が近づいてきた。
一人っ子のちび姫ちゃんはカナやレナと別れるときいつも寂しそうだ。
「また遊ぼうね」
車に乗り込んでからちび姫ちゃんはカナに何かをにぎらせた。
「それ、錬り消しだから」
緑色の錬り消しゴムひとつ。
「・・・ありがとう」
手を振った。
また会おうね。
トレーラーを引いたデリカは視界から消えていった。
「で、どうやって帰る?」
さっきの道はもうこりごり。
まあ、私はいいけど運転手は辛いだろうし、子どもたちも行きは車に酔って吐きそうだったと言う。
別の道を選ばなくては。
パパは車のエンジンをかけ、ナビの地図を表示した。
「いいか、これが行きに通った道だろ。ほら、少し遠回りになるけどもう一本隣に国道403号線が走っている。こっちを通ってみよう」
地図で見る国道403号線は、正直なところ行きに通った県道13号線と蛇行具合はそう変わらない。でも道沿いに点々と字名が付いているから生活道路としてそれなりに使われているはずだ。
「じゃあそれで行ってみよう」
他にも松之山方面に抜ける405号線を使い、途中で川沿いに北上する案なども考えたが、結局403号線を行くことになった。
行きに立ち寄った道の駅を過ぎて、まだまだ北上、安塚の交差点で東へ曲がった。
初めのうちはそこそこ綺麗な道だったが、やがてまたどんどんと道幅が狭くなりはじめた。
細野というところで細野こども王国といった看板を見つける。
雪の中、ロッジのようなものをいくつも建てているようだ。そのうちに高柳にあった新潟県立こども自然王国みたいなものができるんだろうか。こんなに辺鄙なところに子供の遊び場を作っても需要があるのか少々謎だが。
ちょうどこの辺り、ナビで見るとすぐ北側に霧ヶ岳という山があるようだ。
霧ヶ岳と言うと・・・確か霧ヶ岳温泉ゆあみという施設があったはず。
この近辺では唯一冬季でも動脈として機能している幹線道路がゆあみの側を通っていたはずだ。
とてもこの道がそうとは思えないから、ちょうど霧ヶ岳の反対側にそれが通っているということか・・・。
ということは、やはりこの道はハズレで、さらにもう一本北の回り道が正解だったかもしれない。
細野を過ぎて一方通行といってもおかしくない山道は、やはり行きと同様険しい峠を越えて、九十九折りの下りに差し掛かった。
「なんだか行きに通った道と景色がうり二つ〜」
「あの山をひとつ越えた向こうがその道だから景色も似たようなものなんだよ」
「がっちゃんたち、どこを走っているかなぁ。この道だったらやっぱり泣きそうだよね」
ふと腰にぶら下げた携帯を見たら、電波は圏外になっていた。
「こんなところで雪崩とかあったら嫌だよね。人家もないし対向車もいないし、まあ対向車がいたらいたで事故を起こしそうで怖いけど」
そう口に出したとたん、すぐ前の谷筋に小さな雪崩跡が見えた。道路上に少し雪が落ちている。
「ひや〜、怖いよー」
峠の前後は厳しかったが、道路状況の酷いところは行きの県道よりはかなり短く、何とか山を下って保倉川の川筋に出た。
この先の道路は楽勝である。
ようやく胸をなで下ろしながら松之山街道を走った。
後でちゃんとした地図を確かめたら、行きに通った県道13号線も、帰りに通った国道403号線も、峠の周辺は冬季通行止めの×印がついていた。
ということは例年なら年明けのこの季節にあの道を通ること自体、できない可能性が高いのだ。
たまたま今年は暖冬で、年末に全然雪が降らなかったこともあり、通行できてしまったということらしい。
どうりで対向車の影も無いはずだ。
だから冬に松代からキューピットバレイに行こうとしたら、儀明峠トンネルを通ってあの霧ヶ岳の北側の国道253号線を行くしかない。かなりの大回りに思えるが、ずっと川沿いで峠を越える必要のないこのルートは道もほぼ直進で走りやすいはずだ。
そんなことが判ったのは全て後になってからだ。
そしてそのことを実践してくれたのは実はがっちゃんたちだった。
ようやく見慣れた池尻の交差点まで戻ってきた。
ここを直進すれば松代駅前。
右折すれば松之山温泉方面。
そして左折すればみらい2号館のある方向でもあり、その霧ヶ岳の北の道や高柳方面に通じる道でもある。
信号が赤で停まった。
すると左手から見慣れた車が走ってきてそのまま私たちの目前を通過し松之山方面へ走り去ろうとした。
パパがクラクションを鳴らした。
えっ、あれって!!
トレーラーをぶら下げたデリカの運転席でがっちゃんが振り向いて手を振ってくれたのが見えた。
なんたる偶然。
私たちが峠を越えてひいひい言いながら二番目に遠回りの道を抜けてこの交差点についたまったく同時刻に、三番目の回り道をして霧ヶ岳の北を回り儀明トンネルを抜けて走ってきたがっちゃんの車が通過するなんて。
1分でもずれていたら会えなかった。
がっちゃんとyuko_nekoさんとちび姫ちゃんを乗せた車は、そのまま雪の松之山方面へ走り去っていった。