1.よもやこんなことが!?
まさかこんなことになろうとは・・・。
もう50件以上の旅行記を自分のサイトに載せているが、よもやスタートした後に旅行を中断、全部まるまる削除して、無かったことにするべきか悩む旅があるとは思わなかった。
初日 2006年12月31日(日) |
トンネルを抜けたら銀世界だった。
今年はクリスマスを過ぎるまで、雪が少ない雪が少ないと何度も湯沢のスキー場が嘆いている姿がニュースに映されていたが、年末に掛けて一気に大雪。それでも記録的豪雪だった去年と比較すれば大したことはないか。
新潟県の旧松代町、現十日町市にあるレンタル古民家みらいで年末年始を過ごすのは、今回でもう三度目になる。
年末年始以外の時期も含めれば、みらいにお世話になるのは五回目だ。
みらいには1号館、2号館、3号館、5号館と、4号館を除く四軒があり、家の作りや立地条件などから冬季は2号館が過ごしやすいと思っている。
だから今年も2号館を予約した。
一緒に過ごす予定の友人yuko_nekoさん一家は既に昨日出発して、昨夜は定番の栃尾又温泉宝厳堂に泊まったはずだ。
グレーの雪景色を覚悟していたが、長いトンネルを抜けて湯沢に出て、それから石打方面に向けて走っているうちに前方の雲は切れて朝日が山を照らした。
8時ちょうど。
まるでオープン時間に合わせたかのように塩沢の日本海鮮魚センター魚野の里に到着。
店内は冷蔵庫の中より冷えていた。
もちろんまだ誰もお客さんがいない。
ここは同じ日本海鮮魚センター系でも、
日本海フィッシャーマンズケープはおろか
道の駅あらいと比較しても品揃えが薄い。
特に生ものが少ない。加工品はそこそこあるけれど。
増して朝一番だとその日の魚も着いていないことが多いが仕方がない。
ゆでたてのたらば蟹を一杯、それから加工品の鮭の切り身やこまい、乾物などを買う。
隣接して米と酒と土産物を売っている棟があるのでそこで魚沼産コシヒカリ3キロ。
レジのところに早いもの勝ちと書かれた新撰 天領盃という佐渡の酒が一升瓶で並んでいた。
「早いもの勝ちとか書かれるとつい買いたくなるんだよな」とパパ。
「普通はこの値段で売る酒じゃないんですよ」と店の人。
なんでも越の寒梅や八海山といったネームバリューのある酒を仕入れるために抱き合わせで仕入れざるを得ない酒なので特売するのだそうだ。
「うちは酒屋だけど、酒屋が酒屋から買っているものでね」
うーん、酒屋業界も大変そうだ。
うちの周りでも個人商店の酒屋が次々と店を閉めている。コンビニかスーパーで酒を買うしかなくなって、何だかつまらない。
途中で朝食を取ったりスーパーの買い出しを済ませたりして10時頃にはもう六日町から十日町を目指して253号線を走っていた。
六日町ではまだ降って間もない雪がほっこりと屋根や木々に乗っている感じだったが、十日町ではもう溶けはじめていて、明らかに記録的大雪だった去年とは違う景色を見せていた。
トンネルを抜けて松代地区に入る。
ここは2年前まで新潟県東頸城郡松代町だったが、今は市町村合併で十日町市の一部になっている。
北越急行ほくほく線の駅名に、今も「まつだい」の名が残る。
そのまつだい駅の駅舎には道の駅まつだいふるさと会館が併設されていて、ここの1階で扱っている藻塩が我が家のお気に入り。
藻塩を買ったついでに駐車場からワカイ測量に電話を入れてみた。
ワカイ測量の若井さんがこれから行く貸民家みらいの家主さんだ。
古民家を再生してレンタルしているだけでなく、全国第1号のどぶろく特区酒造免許を取得してどぶろくを製造したり、納豆やママレードを作って売ってみたり、いろいろなことを試している。
みらいを訪ねる度に、今度の新製品は何だろうと楽しみになるくらいだ。
電話に出たのは若井さん本人ではなく奥様だった。
奥様は貸民家業にはノータッチだと伺っていたので、かつて知ったる2号館、パパは直接行かせていただきますと伝えて電話を切った。
みらい2号館は松代の池尻という地区にある。
松之山温泉に出やすい場所だ。
集落への曲がり角には郷土資料館と書かれたお城の形の表示が立っている。
お城には金の鯱がついているのだが、何故か片方だけ。
後で裏へ回ってみたら、反対側の鯱は裏に折れ曲がっていた。
去年は道も雪で真っ白だったが、今年はアスファルトが剥き出しだ。
左手に一軒、無人の古民家があって、その先。
あったあった、みらい2号館だ。
もしかして留守だった若井さんが既に先回りしているんじゃないかとちらっと思ったが、玄関前の雪には足跡一つ付いていなかった。
そして私たちが車から降りてさあ玄関に向かおうとしたまさにそのとき、赤い小型除雪機を載せた軽トラックが目の前に停まって、「しまったー。間に合わなかった」と呟きながら若井さんが登場した。
挨拶を終えた後、我が家の顔ぶれを見ると、ああお正月だーと思いますよと、若井さんは言った。
それもそのはず。
みらいで年末年始を過ごすのはこれで三年目だ。
すっかりお正月の顔として定着してしまったらしい。
若井さんは手際よく玄関までのアプローチを除雪して、私たちを中へ招き入れた。
スリッパを履いて中に入ると、去年と同じ囲炉裏の間、景色の良い浴室、中央の部屋の天井近くに並ぶ神棚、昭和の香り漂う台所など何も変わっていない。
部屋から部屋へ移動しながら石油ストーブや炬燵のスイッチを入れて回る。
どうせ暖まるまで少し時間がかかるのだ。
2階に昇る階段の入り口は頭をぶつけそうになるくらい低くなっている。
階段は途中で二手に分かれ、左右それぞれの部屋に繋がっている。
広い方の部屋を四人家族の私たちが使わせてもらい、二間続きで窓の大きい方の部屋を去年同様yuko_nekoさんたちに使ってもらおう。
若井さんが帰ってしまう前に湯たんぽも確認。この古い民家ではこれが必需品なのだ。
「そういえば前によしかさんのホームページを見てみらいに泊まってくれた人がいるって話をしたでしょう」と若井さん。
そうそう。あのとき偶然にも私たちが2号館に泊まっている同じ日に5号館に泊まっていらした人がいたと聞いた。
「その方がね、偶然今回も泊まりに来てらっしゃるんですよ」
へぇー、不思議な縁というものはあるんだ。
いったいどんな方たちなんだろう。
それから若井さんは外に出て、除雪したばかりの雪の上に何やら蛍光ピンクのリボンを結んだ長い棒を突き刺した。
「それは何ですか?」
「除雪車が通るときに飛ばす雪で玄関までの道が埋もれないようにする印ですよ。これを立てておけば除雪車の方で判るのでね」
なるほど・・・と思ったが、結果的には去年と違い、ついに私たちが帰る日まで除雪が必要な天気にはならなかった。
松代地区では何故か大晦日の正午から既にお正月になる。
だから仕事は休みで店も軒並みシャッターを降ろす。駅ビルや蕎麦屋すら開いていない。最初は大晦日に店じまいしている蕎麦屋があるとは何事だと吃驚したくらいだ。
若井さんも今日の仕事は午前中で終わりと帰っていった。
炭をおこしてお昼ご飯がわりにお餅を焼いていると、まもなく到着するはずのyuko_nekoさんから電話が入った。
十日町のスーパーにいるらしい。
用件はがっちゃんが村上牛のいい肉を見つけたからすき焼き用に買っていきたいという提案だった。
パパが電話に出て、「村上牛なら5千円のカルビ焼き用が半額になっていたからもう買ったよ」と話している。
お正月休みに入る前の叩き売りらしい。
十日町ならあと少しで到着するだろう。
お餅を食べ終わったら無性に眠くなってきた。
「・・・眠い」
「寝たら?」とパパ。
じゃあ遠慮なく・・・と、炬燵で横になったと思ったら、家の外に車の停まる気配がした。
結局横になったのはほんの30秒。
ちょうどyuko_nekoさん一家が到着したようだ。
がっちゃんはトレーラーを引いてきた。
トレーラーのタイヤもスタッドレス。
流石に2号館のある坂はトレーラー付きで上れまいと思っていたが、今年の松代は雪が少なく問題はなかった。
カナよりひとつ年上のちび姫ちゃんは、挨拶もそこそこ真っ直ぐ家の中に入り、すぐにカナやレナと遊び始めた。
カナはちび姫ちゃんと遊ぶのを楽しみにしているので彼女が来ることを話してあったが、レナはいつも姉を取られまいとライバル意識を剥き出しにするので実は内緒にしていたりする。
三人は少し部屋の中で遊んで、それから外に出て雪合戦をしていた。
レナは一度だけべそを掻いて戻ってきたが、すぐに立ち直って遊びに加わっていた。
我が家の四人プラスyuko_nekoさん一家の三人。
去年と同じ顔が揃っている。
少し囲炉裏端でおしゃべりして、それから夕方になったら芝峠温泉に行くことにした。
芝峠温泉雲海はみらいからも近い高台に立つ宿で、休憩室を備えた日帰り温泉でもある。
露天風呂からの眺めが最高なので、今日は午前中からここに行こうとパパと話していた。
どうせ行くなら晴れている日がよい。
雪国のこの辺り、冬の晴天率は悪いから今日みたいに青空が出ている日は貴重だ。
こんな日にこそ芝峠温泉。
ところが・・・
さあそろそろ行こうかとみんなで腰を上げたそのとき、
「・・・」
「ごめん、行かれそうにない。私を置いてみんなで行ってきて」
突然調子の悪くなった私は、そのまま2号館2階の布団に潜り込み、爆睡してしまった。
あれほど楽しみにしていた絶景の芝峠温泉も、今朝魚野の里で買ってきた茹でたてのカニも、美味しい鍋も、紅白を見ながら飲み明かすはずの約束も、新年明ける瞬間も、夜中の初詣も、何もかも諦めて−−−
気がついたら朝が来ていた。