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がんばれ新潟■雪国のお正月*2006■


四日目 2006年1月2日(月)

 この日は雨模様だった。
 この辺りでは降れば雪だろうと思っていたので、窓の外にしとしとと雨が降っているのを見たときは驚いた。
 今日はyuko_nekoさん一家が一足先に帰る日だ。
 昨日パパが二階の部屋にテレビデオを運び込んだので、子供たちは部屋から出てこない。
 三人で籠もって映画やアニメを見ているのだ。
 朝食の卓には、何故か昨夜塩胡椒して焼かなかったステーキ。
 あと目玉焼きと納豆。yuko_nekoさんがちゃっちゃと作ってくれた水菜と削り節の一品。
 雨の降り出す少し前、子供たちはまたまた外で雪遊び、男連中は炬燵でテレビ。
 なんとなく時間が過ぎていく。
 お正月がこんな風に過ごせるということはかなり贅沢なことだ。

 合間合間にがっちゃんとyuko_nekoさんは荷物を纏めてチェックアウトの準備をしていた。
 長かったような、短かったような。
 ちなみに我が家は2号館にもう一泊していく。
 パパがまた朝から飲もうとしていたのでストップをかける。
 「今日は鷹の湯まで運転してもらうんだから飲んだら駄目」
 「?」
 昨日まではお出かけの時、いつもがっちゃんに運転してもらったからパパは好きなだけ飲めた。
 でも今日はがっちゃんたちの帰る日だ。
 みんなで松之山温泉に行って鷹の湯に入って、がっちゃんたちはそれから帰途につくけど、パパが飲んじゃったら私たちは松之山からここに帰って来られないじゃないか。
 「いつ松之山温泉に行くなんて決まったんだよ」
 「いつでもいいじゃん」
 昨日、ナステビュウと鷹の湯をはしごしようとして諦めて、その後yuko_nekoさんが「鷹の湯は絶対明日行こう」と言っていたので私はすっかりその気だった。
 でも実はyuko_nekoさんたちももう一緒に鷹の湯に行くことは諦めていたらしい。
 帰りがけに寄ろうと、清津峡方面353号線沿いのゆくら妻有の場所を聞いてきた。
 「鷹の湯に行った後、帰りがけにはしごするの?」
 「えっ、鷹の湯に行くの?」
 話が錯綜している。
 でもなんだかんだで結局みんなで鷹の湯に行くことは決まった。
 ゆくら妻有もいい温泉でお勧めなんだけど、でもみんなで一緒に入れる温泉の方がきっと楽しい。

 それからyuko_nekoさんたちの精算をしてもらおうと、ワカイ測量に電話を掛けたのだが、あいにく若井さんは留守のようだった。
 電話を受けた奥様は、連絡しておきますと仰ったが、それから30分、1時間と待っても音沙汰がない。
 仕方なくもう一度ダイヤルしてみたが、やはり奥様が電話口で困っていらっしゃるばかりだ。携帯電話の方も繋がらない。
 もしかして1号館に行っているのかな。
 あそこはここと違って、携帯の電波もよく届かない。
 がっちゃんが2時には出ないと間に合わないと言うので、2時になったところで2号館を出ることにした。
 yuko_nekoさんちの宿泊料は我が家がいったん預かることにした。
 留守中にきっと若井さんがあらわれると思うので、玄関の戸に事情を記した張り紙をした。



 じょうもんの湯や翠の湯の看板のある松之山の中心地を抜けて、昨日行ったナステビュウ湯の山の横を過ぎると、やがて道が二股に分かれた。
 直進すれば去年の冬に訪れた木造の宿 凌雲閣、右手へ進めばどん詰まりの松之山温泉街中心地だ。
 共同浴場鷹の湯は、温泉街のほぼ中央に位置し、いつだったか松之山で昼食を取った食事処寿々木の二軒隣だ。

 こぢんまりとした温泉街は狭い通りの両側に雪を被った旅館が並んでいる。
 鷹の湯の場所はすぐに判ったが、心配していたとおり数台しか停まれないような駐車場は満杯だった。
 仕方なく、温泉街の入り口にある駐車場に車を停めて、後は歩くことにした。
 空からは冷たい雨が降ってくる。
 傘もないので子供たちにコートのフードを被せたが、邪魔なのかすぐに払われてしまった。
 足下はぬかるんでいる。積もった雪の上に雨が降っているからだ。
 早足で歩いて、鷹の湯の入り口に駆け込んだ。
 温泉街を歩いているときに既に松之山らしい油臭が辺りに漂っていた。

 道から少し入ったところに二階建ての建物が建っている。松之山温泉センター鷹の湯の看板とお正月飾り。入り口もちらほらとお客さんがいる。
 入るとすぐ左手が受け付け。正面に待ち合わせに使える程度の小さな休憩室。そして受付の奥が浴室になっていた。

 受付で入浴剤を売っていた。
 松之山の湯の花?
 何でも草津の湯の花などと違って、温泉から採取するのではなく、温泉の成分を研究して同じものを混ぜたと言う。作っているのは松之山温泉の業者のようだ。
 でもそれって、単なる入浴剤なんじゃなかろうか。
 パパが「これはいいですよ」と勧めてきた受付の人に「松之山温泉と同じ臭いがするの?」と聞いたら、ちょっと困った顔をされて、帰ってきた返事は「私は使ったことがないんですよ」だった。
 じゃ、何がいいんだか。
 「家に風呂がないので使えないんです」
 えっ?
 「仕事が終わったらここのお風呂に入って帰るので」
 ・・・そ、それは羨ましいかも。

 予想していたが、中は結構混んでいた。
 脱衣所のロッカーは元々コイン式だったところ、コインを入れる口をテープで塞いで無料で使えるようにしてあった。
 長椅子などはいくつか置いてあるがベビーベッドなどは無い。
 ドアを押して開けると、浴室は湯気でもうもうだった。
 カナとレナは先に入って、シャワーで体を洗っている。
 yuko_nekoさんとちび姫ちゃんは既にお風呂の中にいた。

 お湯は何となく緑がかって見える。
 鷹の湯は鷹の湯源泉。
 松之山温泉郷には8つの源泉があるが、この中心地の松之山温泉街にある旅館などが引いているのがこの町営鷹の湯と同じ鷹の湯源泉だ。
 思ったよりかなり熱かった。浴槽の奥の方から80度以上の源泉が注がれているからだろう。
 でも思ったほど油っぽい臭いはしない。
 むしろ薬品臭のような・・・というか、これは塩素消毒のカルキ臭じゃないか?
 まさか?
 あまりに熱いのでそのままでは子供たちは入れず、やむなく隅の方に少しホースで水を足させてもらってそこに入れた。
 鷹の湯には露天風呂もある。
 雪景色が見えるかなと思って出てみることにした。
 露天風呂は階段を降りていく。
 たぶん雪対策だろう、簡易な屋根が掛けてあった。
 数人の入浴客がいる。
 でもみんなお風呂の中ではなく縁の岩に腰をかけている。
 幸い手前のお湯はそれほど熱くなかった。
 奥の方に熱湯の出ている湯口があり、その側はかなり熱くなっているようだ。
 でも露天風呂の方が内湯より濃い。それに臭いもいい。
 こちらはカルキ臭はしない。まるでガソリンスタンドに来たような強い石油の臭いに、タイヤのゴムのような臭い、さらに蝋燭が燃えた後のような臭い。
 とにかく松之山らしく、濃厚でどっかりと来るお湯だ。
 温度が高いこともあって、すぐに温まる。
 露天風呂から見える景色は、雪一色の斜面と、雪崩防止の雪止め。
 そしてふんわりした雪の表面には、転々と何か動物たちの足跡。
 寄せてきてはじわじわと染み通るような松之山の湯。
 塩っぽく苦く薬っぽい。きしきしとして肌が乾くとぴりぴりと痛みを感じるほど。
 はあーっ。
 いい湯だぁ。

 レナがふと、怖いところがあるんだよと教えてくれた。
 「どこどこ?」
 「そこの黒い穴」
 「?」
 湯船の底の穴に足を当てたら、思いっきり吸引されてしまった。
 知らなかった。鷹の湯って循環だったんだ。てっきり掛け流しだと思っていた。ということはやっぱり内湯のあの臭いはカルキか。ちょっと残念。

 この時点で午後3時と誠に半端な時間ではあったが、朝ご飯しか食べていない我々は空腹を抱えていた。
 昼食を食べてからバイバイしよう。
 でも、どこで?
 前に松之山温泉街の寿々木で食べたときも中途半端な時間で店を出る頃には準備中の札が下がっていなかったっけ。
 今日はもうその寿々木もやっていない。
 「ラーメン屋ぐらいしか開いていないって」とパパ。
 既に鷹の湯で情報を仕入れたらしく、迷わず左手に歩き始めた。

 黙ってついていくと、すぐにこぢんまりしたラーメン屋があった。
 手打ちラーメン柳屋と暖簾が下がっている。
 三世帯家族らしい一組の先客がいて、さらに私たちが席に着くともういっぱいのキャパだ。
 パパはタンメンを頼んだ。私はバターラーメン。大人二人分から子供二人に取り分けてちょうど良いくらいだろう。
 パパはがっちゃんがラーメンと丼もののふたつをいっぺんに注文するのを見て目を丸くしていた。
 「・・・誰が胃潰瘍だったって?」

 バターラーメンも美味しかったが野菜の沢山入ったタンメンはもっと美味しかった。
 途中で丼を交換して両方味見してみた結果だ。
 ラーメンというとつい、夏に宝川温泉近くで入ったラーメン武尊のことが話題に上る。
 あそこも味は美味しかったし店の人の対応も良かったのだが・・・
 「ほとんど喧嘩を売っているような量だったよね」とyuko_nekoさん。
 「そうそう」
 食べきれない量だった。
 私たちは旅先でラーメン屋に入ると、だいたい「当たり」だ。
 今思い返しても、美味しくなかったところは記憶に無い。
 しかしyuko_nekoさんに言わせると、ラーメン屋は外す可能性が高いとのこと。
 特に群馬では酷いところにあたる可能性が高かったりして、ほとんどお湯に麺を突っ込んだだけみたいな店もあるんだよと聞いてびっくりだ。

 店の壁に、「松之山温泉 むこ投げ すみ塗りのお婿さん及び担ぎ手募集」の張り紙があった。
 雪深い越後松之山温泉の小正月には、婿投げ、墨塗りという奇習がある。
 婿投げというのは新婚のお婿さんを薬師堂前の崖の上から放り投げるという珍妙な行事で、その昔の略奪結婚の名残だという。余所者に村の娘を略奪された腹いせに若い衆が婿を5メートルの高さから投げおろすという強烈なものだ。
 墨塗りは塞の神行事で焼かれたお正月飾りなどの灰と雪を混ぜて作った墨を互いの顔に塗りつけあいながら「おめでとう」と言い合うという、これまた奇妙奇天烈な風習で、600年も前から伝わっているという。
 流石に小さな松之山の町だけではそうそう新婚さんもいない・・・というわけで、広く募集をかけているようだ。
 応募するお婿さんは自分を担ぐ担ぎ手4名も手配しなければいけないようだが、そのかわり無料で温泉に泊めてもらえる。

 食べ終わって店の外に出てみると、雨は雪に変わっていた。
 まだみぞれ混じりの湿っぽい雪だが、暗くなるにつれ、気温が下がりもっと積もりそうな雪になるんじゃなかろうか。
 ちび姫ちゃんは、次、いつ会える?と聞いてくる。
 いつだろうね・・・。
 夏からほぼ月に一度の割合で一緒に旅行に行っていたものね。
 春になるころは会えるだろうか。
 今日は彼女は泣かなかった。
 車に乗り込んでしまうと顔が見えなくなった。
 うつむいてしまったんだろうか。
 yuko_nekoさんが手を振っていた。
 雪道に強いがっちゃん車は、途中まで私たちの車の前を走っていたが、ナステビュウのところで止まったので追い抜いてしまった。
 さよなら、yuko_nekoさん、がっちゃん、ちび姫ちゃん。
 楽しいお正月をありがとう。



 ひっそりした2号館に戻ってみると、入り口の張り紙は剥がされていた。
 留守中に若井さんが来たのだ。
 今日は昼過ぎまでのんびりしていたので、出かけた先と言えば松之山の鷹の湯ぐらいだったが、もう夕方だった。
 yuko_nekoさんがレバーペーストや数の子を置いていってくれたので、今日の夕食は冷蔵庫にあるものを食べることにしよう。
 ご飯だけ炊いて、後は何もしなくて済みそうだ。
 やがて若井さんが戻ってきた。
 「松之山温泉に行ってきたんですか?」
 外ではまだ湿った雪が降り続いていて、青い作業着の若井さんは寒そうだった。
 私たちは二家族分の精算を済ませ、さらに来シーズンの予約も入れてしまった。
 年末年始はまたこのみらい2号館で。
 この旅行記を読んで来年のお正月は2号館で過ごそうと思ったあなた、すいませんです。

 何だかyuko_nekoさんやがっちゃんのいなくなった2号館はがらんとしてしまって寂しかった。
 夜更かしの日が続いたので今夜は早く寝ることにしよう。
 窓の外の雪は本降りになっていて、一度は溶けた木々の枝もみんな真っ白になっていた。

五日目へ続く・・・

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