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がんばれ新潟■雪国のお正月*2006■


二日目 2005年12月31日(土)

 朝には雪はやんでいた。
 どさどさどさーっと重いものの落ちる音がする。
 朝早くから、若井さんともう一人、雪下ろしに来た男性が、2号館の屋根に登って雪下ろしをしているのだ。
 うるさくしてすいませんと若井さんは言うけれど、別に全然気にならない。むしろ雪下ろししてくれてありがとうと言うところだ。
 朝から始めても作業は夕方遅くまで続くという。この屋根の雪下ろし、本当に重労働だ。

 朝食はパンとベーコンと目玉焼き。
 この食パンは昨日ジャスコで大安売りの50円。
 それから子供たちはスキーウェアに着替えて、古民家の周りで雪遊び。
 今日もスキー場に行くかと聞いたら、行かない、ここで雪遊びしているのが楽しいと言う。

 しばらくして、雪下ろしをしていたお二人が休憩に入った。
 囲炉裏の間でコーヒーをお出しする。
 今年の雪は凄いんですねと聞くと、若井さんがもう一人に「年末にこんなに雪が降ったこと、あったっけ?」と聞き返した。
 「72年の観測以来だろ」
 この方は普段は学校の用務員をしていらっしゃるそうだ。
 松代あたりでは、元旦ではなく大晦日の午後から「年越し」と呼んで仕事などは休む風習がある。
 昼には風呂に入り、午後からは飲み始める。
 半日早くお正月が来る感じだ。
 それが今年は大晦日の最後の最後まで雪下ろしをするようだ。
 「この雪を屋根に乗せたまま、お正月を迎えたくないからねぇ」と若井さん。
 「ところで松代駅前に蕎麦屋がありましたけど、あそこって美味しいですか?」とパパ。
 そうそう、私も気になっていた。
 松代は蕎麦が美味しいことでも知られるのだが、まだ松代で本格的な蕎麦を食べたことがない。
 駅前にいい感じの蕎麦屋が一軒あっていつも気になるのだ。
 今日は年越し蕎麦を食べる大晦日だし。
 「うーん、美味しい・・・と思うけど」と自信なさげに若井さん。「一度しか入ったこと無いから判らない」
 判る。意外と近所の店は行かないものだ。
 「じゃ、お昼はそこに行ってみよう」

 若井さんたちが再び雪下ろし作業に入ると、我が家は昼食を取りに松代駅前に移動した。
 しかし・・・
 「あれ? 閉まってるみたい・・・」
 松代駅の側の蕎麦屋、善屋の戸は閉ざされていた。
 入り口に張り紙がしてあって、今日は予約の出前のみ。明日からは正月休みと書かれている。
 大晦日に蕎麦屋が閉まってるなんて聞いたこと無いぞ。
 流石は31日の午後から年越しに入ってしまう松代だ。

 仕方ないのですぐ先に見えていた、はらた家という食事処に行ってみた。
 ところがどっこい、ここも休業の札が下がっている。
 予想もしていなかったが、大晦日の松代で、昼食難民になってしまった。

 とりあえずいつもの三笠屋酒店に寄った。
 パパは松代に来ると必ずここの八海山一升瓶を購入する。
 これが囲炉裏端の友なのだ。
 三笠屋ではいつものご主人ではなく奥さんが店番していた。
 「この辺りの食事処はみんな今日から閉まってるんですね」
 「あらそう。うちは暮れも正月も無いから・・・元旦も開けてますよ」

 あと思いつくのは松代駅の二階にある食事処だが、そこは前に食べたことがある。
 なんとなく違うところへ行ってみたい気分だった。
 パパはこの後どこか温泉に行ってもいいって言っていた。
 「松之山のはずれに、じょうもんの湯おふくろ館というセンター系があって、そこで蕎麦が食べられるはずだよ」
 「じゃあ松之山に行ってみよう」

 ナビはさっぱり松之山周辺の細い道を認識しなかったが、既に兎口源泉の植木屋旅館町営露天風呂翠の湯へ行ったときに、何度もじょうもんの湯の看板を見ていたので道に迷うことは無かった。
 しかし、じょうもんの湯のある黒倉地区へ行く道は、もう右も左も白一色、雪の壁が高くどこがどこやらさっぱり判らなかった。

 ようやく建物の影が見えてきた。
 右手の三角屋根の建物がおふくろ館だ。
 さっきまでまつだい駅前で二軒続けて一足早い正月休業に入ってしまっているのを見て、もしかしてここも休みかなと心配になってしまった。
 駐車場に車が二台ほど停まっているが、ワイパーが立ててあるのを見ても従業員の車のようだ。

 車をバックで停めると、ずごっと雪の壁にぶつかった音がした。
 駐車場の周りにもずっしりと重そうな雪が積もっている。
 館内から従業員の女性が出てきた。
 この施設は近隣のおふくろさんたちが運営の全てを取り仕切っているということなので、この人もたぶんそのお一人なのだろう。
 「お泊まりの方ですか?」
 「いえ、食事はできますか?」
 「はい、大丈夫ですよ。蕎麦ぐらいですが」
 日帰り温泉だとばかり思っていたので、宿泊もできるとは知らなかった。
 「センター系・・・とはちょっと違うような」とパパ。
 た、確かに。ナステビュウみたいな施設を想像していたので全然違った。

 雪がどかどかと降っている。
 おふくろ館の中に入ると、最初は目が慣れなくて真っ暗に見えた。
 椅子とテーブルの並んでいるロビーはがらんとしていた。外の駐車場から察したように、今は誰もお客さんがいないらしい。
 「お風呂に先に入りたいのですが」
 「浴室は左手です。どうぞごゆっくり」

 当然お風呂も貸切状態だった。
 思っていたより狭い作りで、タイル張りの浴室に長方形の浴槽がひとつ。
 窓は広いが湯気が籠もって曇ってしまっていて閉塞感がある。
 お湯は相当熱かった。
 ホースで水を引き込まないととても子供は入れなかった。
 一応じょうもんの湯は松之山温泉郷の8つの源泉のうちひとつなのだが、いわゆる松之山らしい油臭や濃厚な塩分のようなものとは無縁だ。
 肌触り以外、ほとんどこれといって特徴がない。
 自然湧出しているとはいえ、13度の冷鉱泉。加熱循環して塩素投入もやむなしというところ。
 ただ景色は良かった。
 窓を開け放つと、冷たい風とともに粉雪が舞い込んできて、その向こうは杉林と雪原だった。

 食事をするところは先ほどのロビーの所かと思ったら、奥にちゃんとした広間があった。
 18畳ほどの畳敷きのスペースの真ん中に、ぽつんとテーブルと四つの座布団。パパがそこで待っていた。
 このテーブルも私たちが来たので出してくれたらしい。広間は貸切だ。
 一面広く取られた窓からは、本当なら黒姫山、米山、尾神岳が臨めるのだが、残念ながら今日は雪しか見えない。

 おふくろ膳、ざる蕎麦、玄米うどんを注文した。
 蕎麦は単品で頼んだつもりが定食で出てきてしまったので全体としての量は多すぎたが、味はとても美味しかった。
 蕎麦はこのおふくろ館で手打ちしている。太めでぐにぐにとした歯ごたえがあり、つるつるとした食感。高級な蒟蒻のような不思議な味わいだ。
 玄米うどんは温かいのを頼んだ。
 昨今の健康食ブームを取り入れて、今年から始めた新しいメニューなのだそうだ。
 こちらはうどんというより蕎麦に近い味がする。
 天ぷらもさくさくで、汁物も具沢山。
 食べきれず、少し持ち帰らせてもらうことにした。
 デザートには餡の入った「あんぼ」。
 食べ終わったら何故か子供たちはパパの髪をゴムで縛って遊び始めた。
 ・・・アドゴニーみたい。

 このおふくろ館、温泉としては今ひとつだけど、食事は美味しいし切り盛りしているおふくろさんたちがとても温かい。
 また機会があったら寄りたい施設の一つ。

 さて、定食に付いてきたあんぼをいたく気に入った子供たち。
 帰りにどこかで買って帰ろうと松之山の和菓子屋に入ってみた。
 前にチョコレート饅頭を買った田津屋ではなく、もう一軒の小島屋製菓店だ。
 ぬかるむ雪の中、車を降りて店内に入ると、もう年内の分は売り切ってしまったのか、温泉饅頭などは残っていなかった。
 「あとは、焼き菓子ですかね。雪間とふるさとというのがありますが」と、しゃきしゃきした奥さん。
 「この二つ、どう違うんですか?」との私の問いに、困った顔を見せる。
 こちらとしては、ひとつが黄身餡だとか、チョコレート味だとか、二種類あるからには何か一発で判る違いというものがあるんじゃないかと思って軽い気持ちで尋ねたのだが、悩んだ奥さんはやおら二つの包みを開いて、「これとこれなんですよ」と中身を見せてくれた。
 み、見ても味が判るというものでもない。
 ただどちらもとっても美味しそうだ。
 「両方四つずつ、計八つ下さい」
 奥さんは包みながら、せっかく開いちゃったから食べてってと残りの二つもくれた。

 再びそそり立つ雪の壁を見ながら松代へ戻った。
 2号館は松之山に近い。
 さっきは松代駅前を経由したが、真っ直ぐ戻るとすぐだった。
 屋根の雪下ろしは半分以上終わっているように見えた。
 少なくとも玄関側から見上げると、もう昨日までの分厚い雪の層は見えない。
 また玄関が少し雪に埋もれていたが、昨日のように入れないほどではない。
 子供たちは家の中に入っていった。
 パパは屋根に掛けられた梯子を見上げている。
 どうするのかと思いきや・・・梯子に取り付いて登っていってしまった。
 「お仕事の邪魔しちゃ駄目だよ」
 「判ってるって」
 梯子は途中が一段抜けている。
 後から若井さんに聞くと、用務員さんが以前踏み抜いたそうだ。
 よくニュースで屋根の雪下ろし中に転落事故とか聞くけれど、怖いんだろうな。
 見ているだけでゾッとしてしまう。
 高いだけでなく雪で滑りそう。
 パパは屋根の上からの写真を撮ってきた。
 ちょうど雪がやみ、薄日が射したところだった。

 午後4時過ぎ。
 お正月を一緒に過ごすyuko_nekoさん一家が到着した。
 yuko_nekoさんとがっちゃんと、小学三年生のちび姫ちゃんだ。
 がっちゃんはつい先日、台湾に出張に行って、出張先で胃潰瘍になったばかりだ。
 日本語も英語もろくに通じないようなところで、痛くて医者にかかり入院するなんて、本当に辛くて心細かったんじゃないかしら。
 この年末年始の休暇が少しでもストレス軽減になればいいけど。
 三人はみらい2号館の意外な暖かさに驚いたようだった。
 去年一緒に過ごした1号館は笑っちゃうほど寒かったから。
 1号館はとにかくどの部屋も寒い。暖房を片っ端からつけても寒い。おまけに私は忘れていたが、yuko_nekoさんは台所にお湯が出なかったと言った。
 そう言えばそうだったかも。洗い物とか少しすると指がちぎれそうに冷たかった。
 5号館で暖かかったのは狭い炬燵の部屋だけだった。
 あれは広い囲炉裏の間は、立派な梁を活かそうと天井を張っていなかったから熱がみんな上へ逃げてしまったからだ。
 確かにあの梁は格好いい。でも、あまりの寒さに若井さんもあの後ついに天井に板を張ったと言う。本当は夏は天井無し、冬は天井有りが一番都合が良いのだが、シートを貼って取り外すなどいろいろ考慮した末、やっぱり普通に天井を作ることにしたらしい。
 おかげで今は5号館も暖かくなったと評判ですと若井さん。
 でもそれでも5号館は台所が寒い。
 5号館の台所は土間にあるので、天井は無いし外の気温そのままだし、おまけに調理や洗い物の度に靴かサンダルを履かないと行かれないのがなかなか難儀なのだ。
 「冬は2号館だね」
 「2号館ならまた来てもいいや」
 「1号館は夏向きでしょう。露天風呂もあるしね」
 「来年のお正月も2号館かな」
 もちろん2号館にも欠点はある。
 暖かいと言うことは密閉度が高いと言うことで、囲炉裏の煙が逃げていかない。
 目が痛くなるほど部屋は燻されていた。

 今夜の夕食は昨日、日本海鮮魚センター魚野の里で買ってきたズワイガニ、つぶ貝、定番鶏団子鍋、他。
 カニは朝から常温で解凍している。
 つぶ貝は・・・殻から無理矢理出そうとしたら固まって引っ込んだ。
 「美味しいものの調理法はyuko姉さんを呼ぶんだ」とパパが言うので、まだ荷物の整理も終わっていないyuko_nekoさんを二階に迎えに行った。
 「お願いします〜」
 降りてきたyuko_nekoさんはガンガンと殻を叩き壊して中身を出してくれた。
 パパは以前結婚式の二次会ビンゴで当てたビールサーバーを持ってきた。
 私はビールが飲めないので判らないが、やっぱりこれで作ると美味しいのだろうか。
 わざわざyuko_nekoさんたちにサーバー用のビールを途中で買ってきてもらっていた。

 夕方遅く、雪下ろしを終えて一度家に戻っていた若井さんがもう一度訪ねてきた。
 今日の手土産はどぶろくとマーマレードだった。
 どぶろくはワカイ測量が日本で第一号のどぶろく特区酒造免許を取得した製品。一部、松代駅前の三笠屋酒店などにも卸していると言うが、ほとんどは予約販売で売り切れてしまう。今まで三度貸し民家に泊まっていながら、実物を目にしたのはこれが初めてだった。
 マーマレードは何故か松代ではなく東京の世田谷産の原材料を使っている。こちらも松代駅の土産物屋でも手に入るが、みらいの特産品だ。マーマレードは前回も頂いて味を知っている。皮の苦みが大好物の私には堪えられない美味しさだ。
 ちょうど年末年始はみらい全館に予約が入っているという。
 しかもみんなリピーター。
 私たちは子供を遊ばせようとあえて町から離れた館を予約しているが、町中の3号館はそれはそれでスキーヤーには場所が便利と好評なのだそうだ。

 yuko_nekoさんたちの湯たんぽを置いて若井さんが帰られた後、残ったメンバーはひたすら飲んで食べた。
 どぶろくは強烈だった。
 甘酒を甘くなくして酸味を加え濃縮したような味だった。
 若井さんが仰るには酵母が生きているので、日に日に味が変わっていくのだそうだ。
 お米のつぶつぶが表面に浮いている。
 濁り具合は濃いカルピスみたいな感じだ。
 この後でyuko_nekoさんたちが持参してくれた韓国のマッコリを飲んでみたが、味の傾向は同じながらマッコリの方がマイルドで酸味も少なく飲みやすかった。

 子供たちは食事を終えたらお風呂に入った。
 前に1号館の露天風呂でお風呂に入りながら雪遊びをしたことが忘れられなかったらしく、こっちのお風呂は嫌だなんて言っていたが、浴室の窓を開けて雪が取れるようにしたらもう夢中だった。
 風邪を引かない程度に好きなように遊ばせた。
 子供がどんなにはしゃいで大きな声を出しても、誰も文句を言わないのが貸民家みらいの良いところだ。
 お風呂に入って少し遊んだら、もう子供たちは寝る時間。

 テレビでは紅白歌合戦。
 yuko_nekoさんが「みのもんたが司会なんて世も末だ」と感想一言。
 苺を発酵させたスパークリングワインなんかも開けて、もうすっかりいい気分。
 あれ? がっちゃんは寝ちゃった?

 実はさっき若井さんが帰る前に、初詣の場所を確認しておいた。
 去年1号館に泊まったとき、1号館のある蓬平地区の氏神さまである松芋神社にお参りしたが、そのとき若井さんに「新年開ける夜中の12時に、集落の人たちが次々通りに出てお参りするから、その後についていけばお宮の場所は判る」と教えてもらった。
 「2号館のあるここらの集落は人が少なく10軒程度しか家が無いから、12時を過ぎるともう人がいなくなってしまうかもしれない。なるべく早く出た方がいい。
 場所は2号館を出て右手にある家の裏手を登っていったところ。
 今日これから村の人がお宮までの道を踏み固めて通れるようにしてくれるはずだ。この雪だと踏み固めるのも大変だろう。
 去年2号館に泊まったお客さんもそこにお参りして、村の人たちに喜ばれたって言ってましたよ」
 「じゃ、暗くなる前に道を確認しておこうか」という男連中に、「いや、まだ道はできていないと思う」と若井さんが言って、そのときはそれで終わってしまった。
 テレビはもう紅白歌合戦が終わり、ゆく年くる年に入っている。
 そろそろ二階で寝ているがっちゃんを起こさないと間に合わないんじゃ無かろうか。

 「パパ、がっちゃんを起こしてきて」
 「やだよ。寝ぼけてぶん殴られたら怖いもん」
 「あのね」
 何しろみんな酔っぱらっている。
 そうこうしているうちにNHKの画面も寺から神社に移り、ついに新年が明けてしまった。
 「どうするよ、もう村の人たち、きっとお参り終えちゃったよ。真っ暗闇でお宮への道が判らないよ」

 結局すったもんだでがっちゃんを起こし、大人四人がふらふらと雪道へ出たのは新年開けて10分ほど過ぎてしまったところだった。
 果たして間に合うんだろうか・・・


三日目へ続く・・・

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