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◆がんばれ新潟◆雪国に春は来たのか


初日 2005年3月19日(土)

「明日は朝4時半に起きるぞ」
「ええ〜、またですか」

 でもそれが正解。
 朝7時、関越道赤城から始まったチェーン規制の渋滞は、ちらほら降り始めた雪の中、嫌になるほどののろのろ運転を強いてくれた。

 春は3月。
 幼稚園はそろそろ春休み、学校はまだ。
 スキーシーズン終盤の三連休は、雪に名残を惜しむ人たちで関越道に長い行列。
 年末年始を過ごした新潟県松代町のレンタル古民家に、このたび新しく5号館がオープンしたというので、早速予約を入れてみた。
 古民家なのに新しいとはこれ如何に。
 5時に東京を出て、埼玉を抜ける頃には道が混みだした。
 上空は快晴。
 けれど正面にくっきりと雪雲の境界線。
 あの輪郭は荒船山・・・と気づくと見慣れた群馬の山々が見えてきた。
 しかし妙義、榛名は見えているのに赤城山がぽっかりと抜けている。
 ちょうど榛名山と赤城山の境が晴れと雪の境なのだった。

 赤城高原SAでチェーン規制をしている。
 ノーマルタイヤは強制的にSAの方へ誘導される。
 うちはスタッドレスだからそのまま行かれる。
 SA手前のトンネルを抜けるとき、カナが「真っ白で見えない」と吃驚した声を上げた。
 トンネルを抜けるとそこは一面銀世界。
 大雪で視界が真っ白だった。



 このところいつもいつも同じことを書いている気がするので自分でもうんざりしているが、今回も旅行前に「病気で行かれないかも」状態になった。
 インフルエンザじゃない。
 今回はなんとおふたく風邪。
 一週間と少し前、レナが幼稚園から丁重に頂いてきた。
 ムンプスウィルスを。
 木曜日から痛みを訴え始め、かかりつけの小児科が休診日だったので翌日に受診した。
 おたふく風邪は一度かかると生涯免疫がつくことで知られるが、特効薬はおろか、何も薬がないことに驚いた。
 医者で処方された薬は、熱が上がったときのとんぷく薬だけ。
 あとはひたすら自宅で痛みに耐えるしかないらしい。
 まあ本人重くはないようで、食べるとき以外痛がることは無かった。熱も出なかったし。
 顔が大きく見えるほど頬が腫れ上がるかと思ったが、彼女は元々丸顔なのでちょっと二重顎になったぐらいだった。
 問題は人にうつすことだけだ。だから外出禁止軟禁状態。
 ぴんぴんしているのに閉じこめられているのでストレスも溜まる。
 完治まで平均一週間、場合によっては二週間かかることもあるということで心配したが、なんとか一昨日、幼稚園に行っても良いという治癒証明書を医者に出してもらえた。



 貸民家のある松代町に行くには、六日町ICで降りるのが最短だが、今日はひとつ手前の塩沢石打ICで降りる。
 今夜の食材調達に、日本海直送鮮魚センターの魚野の里に寄っていくつもりだ。

 鮮魚センターに到着したのは8時40分。
 先日松代に行く前に、野沢温泉経由で寄った新井の鮮魚センターに比べるとずっと小さい。生ものも少ないようだ。
 牡蠣がほしかったが売っていない。まあパパは牡蠣にあたったばかりだから食べる気はないようだが、私は牡蠣好きなのだ。残念だ。
 活ズワイガニ大型サイズ上物1パイ、1,650円とあるのを2ハイ買った。他に甘海老や烏賊も。
 隣に物産館があり、魚沼産コシヒカリ直売所もあったのでこれも買った。
 地酒は・・・と言ったらパパが「三笠屋」と一言。
 そうだった。松代駅前の三笠屋酒店で買えばいいか。

 次は一風呂。
 パパがどこか10時頃からやっているところは無いかと聞いた。
 私は田中温泉を押してみた。117号線沿い、長野との県境に近い方だ。
 「ゆっくり時間をつぶしたいから、旅館よりもセンター系日帰り温泉の方がいいんだけど」
 ・・・それじゃあ、竜ヶ窪温泉龍神の館
 最初は十日町で買い出しをすることを考えていて、川西町の千手温泉千年の湯も候補に挙げたが、年始に私だけyuko_nekoさんたちと行ったし、お湯はいいけど町中の温泉じゃ、ロケーション的には東京・埼玉の温泉と変わらないものね。



 鮮魚センターでちらりとのぞいた青空は、出し惜しみするかのようにすぐに引っ込んでしまった。
 小雪のちらつく中を清津峡・瀬戸口方面に至る353号線を行く。
 117号線にぶつかり、左折。空はどんより灰色だ。

 津南町の龍神の館に到着したのは9時55分。
 まだオープンまで5分ほどあるので駐車場でちょっと雪遊び。
 カナもレナもお風呂に入らないで雪遊びがしたいと言う。
 でもねぇ、これから行くところはもういくらでも雪があるんだよ。嫌になるほどあるはず。
 なだめすかしてオープンと同時に入館。
 雪はかなり激しくなっていた。

 龍神の館はドイツか北欧風のカラフルなログハウスで、館内はまだ空いている。
 休憩室の場所だけ確認して浴室へ向かうことにした。
 脱衣所で子供たちが自分たちで脱いでいると、地元のおばあちゃんが「めんこいめんこい」と言ってくれた。
 「このあたりのもんでねぇなぁ、どっから来た?」
 「東京からです」
 「泊まりか?」
 「ええ、松代の方に」
 思ったより浴室は広くなかった。
 龍神の館の名前通り、女湯の湯口は竜の首。男湯もそうかと思ったらそちらは国宝火焔土器の形をしていたという。
 後から知ったが竜の口から湯が出る浴室は龍神の湯、土器から湯が溢れる浴室は縄文の湯と名付けられていて、日によって男女交代になるらしい。
 臭いはうん、松之山によく似ている。強い灯油の臭いに少しゴムのような焦げた臭いがする。味もしょっぱさの中に苦みがある。でもどちらも松之山に比べればマイルドだ。
 カナが外のお風呂に行きたいと言ったので露天風呂に出てみることにした。
 隣にいたおばさんが「外は寒いよう」と笑っていた。

 ガラスのドアを押して外に出てみると、雪に囲まれた露天風呂があった。
 こちらも思ったより小さい。それに津南町のリーフレットで見たときには眺めの良い露天風呂だと思ったけれど、とにかく四方雪の壁になっちゃって何も見えやしない。
 緑色がかったお湯は本当に松之山に似ている。だけど例えば松之山のナステビュウ湯の山などと比べると、ぬるめで浅いので小さい子連れにはこちらの方が向いているかもしれない。
 お風呂の中を歩いて端まで来ると、ちょうどぼこぼことジャグジーになっている先が行き止まりだった。何やら木の枠がはめてある。覗き込むと、どう見ても浴槽はその先までずっと続いているのだが、雪に埋もれて今は使えない。
 たぶん露天風呂は今見えているより3倍ぐらい大きいのだ。だけど豪雪地帯なので、冬季は一部分だけにしているのだろう。ちょっと損した気もする。

 しばらく貸切でのんびり入っていると、やがて一組の親子連れが露天風呂に出てきた。
 それも私たちが出てきたドアからではない。内湯と繋がったお風呂の端に小さなガラス戸があり、そこを開けると内湯のお湯の中を歩いて出てこられるようになっていたのだ。よく見たらお風呂自体が内湯と露天風呂と繋がっていた。

 塩分のたっぷり入ったお湯はよく温まった。
 のぼせてきたのでジャグジーの奥に移動して浴槽の縁で涼んだ。目線が上がるとちょうど雪の壁の向こうに雪を被った山が見えた。何だかこれだけで満足。
 町の温泉もいいんだけど、やっぱり山の見える温泉が好きだ。

 ところでこの露天風呂の隣には石造りの小さな建物が一棟建っている。
 何も書いていないがたぶんサウナだろうと思ってドアを開けると・・・もやぁ〜とんでもなく濃い湯気で何も見えない。これじゃ中に何があるんだかまったく見えないじゃない。
 一歩足を踏み入れると温泉のアブラ臭とは違った生乾きの洗濯物のような臭いがする。あんまりいい臭いじゃないな。
 右手にスイッチらしいものが見えて、灯りをつければ少しは中の様子も見えるかと手を伸ばしたら、その上に「気分が悪くなったら押して下さい」の文字。
 危ない危ない。
 電灯のスイッチだと思って押したら看護婦さんが担架もって飛んで来ちゃうかも。
 いやいや待てよ。
 湯気を少し逃がしてみるとスイッチの隣にもう一つ別のスイッチが。
 ・・・おいおい、どっちがどのスイッチだよ〜。これじゃほとんど罠みたいなものじゃないか。うっかり押せやしない。
 子供たちも呼んでみたが、二人とものぞいただけで嫌な臭いがするとか何も見えないと言って奥までは入ろうとしなかった。



 龍神の館の休憩室からは広々とした雪の平原が見えた。
 お腹が空いたのでここで昼食にしよう。
 苗場山 生 龍神の涙 蔵外不出 原酒 なるお酒が美味しそうだったので頼んでみる。
 新潟の日本酒は美味しい。
 あとここのカツ丼もカツがさくさくで美味しい。
 ここで今夜一緒に泊まる予定のぽこさん一家から連絡が入った。
 六日町のICを降りたところなので、これから昼食をとって松代へ向かうとのこと。

 前回は松之山温泉に近づいたら雪空になってしまったが、今回は松之山あたりで青空が広がってきた。どうも新潟では青空の下で露天風呂に入るという縁がない。
 松之山温泉街を抜ける前に、前に気になって仕方なかった田津屋菓子店のチョコレート饅頭を買う。
 えーと、うちが4人で、ぽこさんちが3人だからバラで7個。いや、カナがチョコレート嫌いだから普通のお饅頭も2個買っておこう。
 「年末にもこの辺りに来て、チョコレート饅頭の幟が気になっていたので、買いに来たんです」
 「そりゃあありがとうございます」

 それからぽこさんとの待ち合わせ場所、ほくほく線松代駅に行く前に、松代の酒屋、三笠屋に寄る。
 前回もここには二度も買いに行ってしまった。いいお酒が揃っているから。
 パパはお気に入りの二級酒一升瓶の八海山と、店主お勧めのいも焼酎、小芋原酒の濾過していないものを買い求めた。他に麦焼酎の李太白なんかも試飲させてもらっていた。



 松代駅前に着くと、お祭りをやっていた。
 空気で膨らませた巨大なスーパーマリオがそびえていて、その回りにいろいろ出店が出ている。
 これは今日と明日の二日間行われる、まつだい駅まつりで、押し花やわら細工の体験などができる。
 駅に着く直前にレナが寝てしまったので、カナだけ降りてスーパーマリオのトランポリンで遊ばせてもらった。
 ぽこさんちはまだかな?と思ったら、見慣れた色の車が目に付いた。
 あれ、あそこに停まっているのは・・・。
 ぽこさんは先に到着して、松代駅前で買い出しをしているところだった。ぽこさんと、マコちゃんのお兄さんのタク君が荷物を持って現れた。小学校六年生、あと数日で卒業式を迎えて中学になるというタク君とは初対面だ。マコちゃんはレナと同じで今、車の中で寝ているそうだ。
 そーっとのぞきに行くと、ちょうどマコちゃんが目を覚ましたところだった。
 降りてきてタク君やカナと一緒にお祭りで配られているポップコーンとヘリウム風船をもらってきた。カナは風船が苦手なので、代わりに寝ているレナの風船を膨らませてもらった。

 さて、みんな揃ったので今夜泊まる貸民家へ行くことにしよう。
 貸民家の主、若井さんは、今日はご子息の結婚式だということなので、連絡すると代理の方がすぐに迎えに来てくれた。
 前回泊まった貸民家みらい1号館は、蓬平の高台にあり、若井さんの生家だということで生活感のある古民家だったが、今回泊まる予定の5号館は、しばらく人の住んでいない古い空き家を新潟大学建築学部の学生さんたちが綺麗に修繕して、先月オープンさせたばかりの建物だ。
 蓬平・芝峠方面への曲がり角を曲がらず直進し、日本海へ抜ける柏崎に至る道が通行止めになっているところで左へ入る。
 そう、雪崩のために柏崎方面への道は今は通じていないのだ。

 ゆるいカーブの左手に貸民家みらい5号館は建っていた。
 なんと茅葺き屋根だ。しかし雪対策か、茅葺きの上にトタン板が敷かれている。
 外側の板壁はいかにも年季が入っているが中はリニューアルしたてなので綺麗だ。
 ただ思ったより狭かった。
 1号館が二階建てで何部屋もあったので、5号館も同じぐらいかと思いこんでいたが、囲炉裏のある16畳ぐらいの広い板張りの部屋と、その奥に9畳の畳の部屋。あと広い浴室。これだけ。
 後から土間を挟んで小さな二階の布団部屋を見つけたが、それで全部だ。
 もっと広いと思ってぽこさん一家を呼んだのだが、ちょっと二家族には狭かったかもしれない。
 でも部屋は凄い。囲炉裏の部屋から高い天井を見上げれば、太い黒々とした梁が交差したその上に、萱でふいた部分が見えている。
 下がっている電灯は、大きな丸い形で白い和紙を張ってある。ぼんぼりが下がっているようで可愛らしい。洒落た民芸料理屋にあるようなやつだ。
 茅葺きの家に泊まるのなんて初めてだよ。
 で、でも・・・もしかして茅葺きって寒い?
 石油ストーブが四つあったので全部つけて回った。奥の部屋にはコタツとホットカーペットがあったのでそれもつけた。
 奥の部屋は梁の上にむしろのような簡易な天井が張ってある。そのせいで割に暖かい(そうは言っても、現代の家の普通の部屋より何倍も寒い)。
 囲炉裏の部屋は広い上に天井が高く、加えて天井が土間と繋がっているのでとてつもなく寒い。どのくらい寒いかというと、部屋の中でストーブを二つがんがんたいて、それでもダウンのコートを着ているくらい寒い。

 カナとレナとマコちゃんは、早速奥の部屋を子供部屋だと言って、コタツのテーブルに玩具を広げだした。
 タク君はお父さんのぽこさんの命で庭に出てかまくらを掘る。
 家の周りには2メートルを越す雪の壁ができていて、雪を積み上げなくてもただ掘り進むだけでかまくらができそうだ。

 やがて女の子たちもスキーウェアに身を包んで庭に出てきた。
 タク君とぽこさんが掘っている横に雪の滑り台を作ってソリで滑ったりしている。
 そのうちにマコちゃんがかまくらと滑り台などのあるその辺りを、「スノーランド」と命名した。そしてカナと二人で山ほどチケットを作り、残るみんなに配って歩いた。
 チケットには「スノーランド あさ9じはんからよる6じはんまで」「すべりだい わりびきけん」「かまくら きゅうけい」などと書かれていて思わず苦笑してしまった。
 マコちゃんはもう、雪遊びに夢中で、お父さんのぽこさんが「温泉に行こう」と誘っても首を横に振るだけだった。
 なので、温泉にはぽこさんとタクくんの二人で行くことにしたようだ。行き先は松之山温泉ナステビュウ湯の山だった。



 夕食は活カニを1パイ、茹でることにした。
 褐色だったカニは、お湯の中に入れると一気に赤くなった。
 パパはせっかく買った八海山を熱燗にしたいのだが、あいにく5号館には徳利らしいものが無い。無ければ自分で作るまで・・・と、飲み終えたビール缶の上部を缶切りで切り落とし、縁を内側に折り込んで、自前の熱燗セットを作ってしまった。アルミは熱伝導が良いというのが彼の自慢。ちなみにこれの弱点は、中に入れた日本酒が減ってきたとき、アルミが軽くて湯煎の中で浮いてしまうこと。
 部屋の隅には大きな長持ちもあった。
 どんなお宝が入っているのかなとのぞくと、小さな掃除機がしまってあるばかり。
 面白がって子供たちが中に入った。蓋をしても全然怖がらない。暗くないのかと思ったら、長持ちの蓋にヒビが入っていて灯りがもれるのだった。

 暖かい9畳の和室には、布団が5枚しか敷けなかった。
 最初はこちらを子供部屋にするとか女部屋にするとか話していたが、実際に寝る段になると、とても囲炉裏の部屋では寒くて寝られないと言うことになった。暖気が全部天井から逃げてしまうので。
 仕方がないので7人全員で狭い和室で寝た。
 何故か1号館で世話になった秘密兵器湯たんぽが、5号館には常備されていなかったため、ストーブを二つつけたままでいても夜は寒くて仕方なかった。
 足が冷えると無意識で足を縮めてしまう。日頃足を延ばして寝るのに馴れてしまっているので、寝ているうちに膝や足の付け根が痛くなってきた。なんとも人間贅沢になっているものだ。
 深く眠れないので、夜中に何度も目が覚めた。
 加えて最新式のストーブは、ご丁寧にも3時間ごとに時間が来たとメロディーで知らせてくれ、それでも誰も延長ボタンを押さないと自然に消火してくれるので、誰かが起きてボタンを押さない限り益々部屋の温度は下がるのだった。
 極めつけはそれすらも、朝には石油切れでついに沈黙してしまったことだった。

 そんな環境だったからか、夜中にマコちゃんが激しくせき込むのが聞こえた。
 心配。

二日目へ続く

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