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◇◆長野と群馬◆◇
濁り湯露天風呂の旅

24.日進館を取り壊す!?






 長寿の湯は昼間と同様混雑している。
 たぶん夜中でも無い限り、何時行っても混雑しているのだろう。
 洗い終わった後、適当にいくつかの浴槽に入ってみた。
 子どもたちは透明に近い真湯が気に入ったようだ。

 露天風呂が少し空いてきたのでそちらへ移動した。子どもたちもぞろぞろと三人で付いてくる。
 夜風が気持ちいい。やっぱりお湯の色は真っ白だ。
 同じ万座でも豊国館が複雑な変化球だとしたら、万座温泉ホテルの長寿の湯は速さで勝負の速球ストレートだ。重みは薄いが他に強い物がある。

 「ぬるすぎるかしら」
 かなりのベテランと見えるホテルのスタッフがお湯の温度を見に来た。
 「あのう、ここの源泉は何本どんな風に使っているんですか?」私は聞いた。
 スタッフはえっと言うように私の顔を見た。
 それから非常に詳しく説明してくれたのだが、あいにく私は片耳が悪くそのときの状況(角度や周りの音響など)が悪かったため部分的にしか聞き取れなかった。
 だから以下の説明は一緒に聞いたyuko_nekoさんが後でかいつまんで私に説明してくれたものだ。
 「じゃ、じゃあ、万座温泉ホテルに他の源泉は無いんですか? まったく別の源泉を使ったお風呂とかは・・・」
 「日進館の鉄湯とラジウム湯はそれぞれまったく別の源泉だよ。でも日進館は取り壊すんだけどね」
 私とyuko_nekoさんは耳を疑った。
 「ええっ!! に、日進館を取り壊す!?」
 たった今、貴重な独自源泉を単独で入れると教えてもらったばかりの日進館が無くなる?
 「い、いつ・・・」
 「だから年内までだよ、日進館に入れるのは」
 どうやら万座温泉ホテルでは今、日進館湯房という新館を建設中で、この完成に伴い旧日進館を取り壊すことにしているらしい。
 「な・・・何故?」
 ベテランスタッフは少し残念そうに言った。
 「あそこは国有地になることが決まっているんだよ。更地にして渡さないとね」
 どうやら新館建設地と引換になっているらしい。
 「お湯は・・・? 鉄湯とラジウム湯はどうなるんですか? どこかに引いて使うんですか?」
 「そのまま新館に引いて使うってわけにはいかないんだよ」
 今ある源泉とミックスして使うと言うことも無いようだった。
 「じゃ、万座温泉ホテルはどうするんですか? ラジウム湯を目当てに来る湯治のお客さんもいらっしゃるでしょうに」
 「どうって」スタッフは後ろを振り返って白濁した苦湯を指さした。「これ一本でいくんだよ」





 その後スタッフは私にどこか悪いところは無いか聞いた。
 私が去年入院して煩った内蔵を答えると、彼女は私の首の真後ろを指して、「ここまでお湯に浸かるようにして・・・口のぎりぎりぐらいまで入って良いから、そうしたまま3分間入っているんだよ」と教えてくれた。「3分が終われば半身浴でも良いから。とにかく最初に3分。これで体の循環が良くなるからね」
 そして、「悪いところがあるんなら、こんなところ(姥苦湯)に入っている暇は無いよ。あっち(お勧めの苦湯)に入りなさい、あっちに」と後ろを指さした。
 「3分といえば草津の時間湯を思い出すね」とyuko_nekoさん。
 本当に。
 きっと3分というのはきちんと意味があるのだ。

 私たちはその方のアドバイス通り、半露天風呂の姥苦湯から内湯の苦湯へと場所を移した。
 苦湯も真っ白に濁っている。
 そして長寿の湯の他のお風呂よりも粉のような濁りが強い。パワーがあるのにさらりと軽やかだ。
 3分頑張ってみた。
 時計が見えなかったのでどうしようかと思ったが、yuko_nekoさんが数えればいいじゃないと言ったので、なるほどと心の中でカウントした。
 すぐに汗が噴き出してくるような気がする。
 決して熱すぎないのに体の中から温まりすぎて、いてもたってもいられなくなる。
 こらえて入っていたら、またそのスタッフの人が来た。内風呂の温度調節もしているようだ。
 「そうそう、それからね、こういうところにあるものを・・・」彼女はいきなり湯口の下の浴槽の隙間に手を入れ、硫黄の粘土みたいな湯の花を掻き出した。「これを体の悪い部分につけるのよ」
 次に湯口にタオルを突っ込み、湯口にこびりついていた湯の花も掻き出した。
 それを見て、私たちの隣で入浴していた若いお姉さんが真似をし始めた。
 「後は飲むの。便秘にはよく効くわよ。それだけじゃなくて強い解毒作用があるから悪いものがみんな出ていく。毎日飲んでいる私たちのお腹の中は綺麗なんだから。でも普通の人は一杯だけ。一杯だけ手ですくってそうっと飲む。大丈夫ならだんだん増やしていくこともできるんだけど、勝手にやっては駄目。私が教えたとおりにしたらお腹を壊したって言われても困るから、一杯だけよ」
 何時のまにか苦湯に入っていた他のお客さんも固唾を呑んで聞いている。そして彼女の講釈が終わると、吾も吾もと湯口から源泉をすくって飲み始めた。





 苦湯の源泉は苦みと酸味のバランスが良く案外すんなりと喉を通った。
 ベテランスタッフは美味しくないでしょと言ったが、そうでもなかった。豊国館同様yuko_nekoさんははっきりと美味しくないと言った。もしかして私の体に悪いところがあるから美味しく感じるだけなのかもしれない。

 スタッフが立ち去った後も、みんな湯の花をこそげ取ったり首までお湯に浸かったりしていた。
 リゾートの浴場が一転して湯治場に変わったような雰囲気だった。
 私とyuko_nekoさんはまだショックを受けていた。
 そう、あの日進館が取り壊されて、鉄湯とラジウム湯が失われてしまうということに・・・。



3-1日進館が無くなってしまう前にへ続く


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