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◇◆長野と群馬◆◇
濁り湯露天風呂の旅

21.ひたすら登れ











 私たちが上がると、ちょうど廊下のベンチのところでさっきいろいろ教えてくれた年輩の常連さんが涼んでいた。
 「おかげさまで入ることができました」
 「どうー? 良かったでしょ。年寄りの言うことは聞くもんだよ」
 常連さんは足を悪くしてから豊国館に湯治に来始めたそうだ。
 「全然歩けなかったのよ、嘘みたいでしょ」
 嘘みたいです。
 「歩けないと考えることもどんどんネガティブになってしまってね、やっぱり自分で動いて自分で何でもできるのが一番だよ」
 ですよね。
 この豊国館は共同の炊事場があって自炊湯治が可能だ。
 冬季はスキー客が多いので二食付きのみ受けているが、雪のないシーズンは食事抜きで泊まれる。
 泊まりで来るのもなかなか良さそうだなぁ。

 帰りに帳場にいたのはさっきの男性ではなく女性だった。
 「あのー、この辺でタクシーを拾うことはできますか?」とyuko_nekoさんが聞いてみたが、この辺には流しのタクシーはないし麓から呼ぶから30分以上の時間と1万円ぐらいの料金が掛かるとのこと。そ、そんな~。
 「すぐ下に万座のバスターミナルがありますよね。そこにタクシーがいるってことは?」
 「無理かしらねー。麓まで降りたいの?」
 「いえ、万座温泉ホテルまで登りたいんです」
 「・・・歩いて登るしかないかしらねぇ」
 ・・・やっぱり。


豊国館の自炊設備。湯治をしながら長期滞在できるようになっている。万座温泉で自炊できる宿はもう貴重かもしれない。



 私たちは湯上がりの体にむち打って坂道を歩き始めた。
 私はそんなに歩くことは苦にならないが、yuko_nekoさんは見るからに辛そうで心から嫌がっていた。
 それに万座温泉は山だから、各施設が一軒ごと離れて建っているし、とにかく坂が急なのだ。おまけに帰りはずっと登りだ。万座温泉ホテル、万座プリンスホテル、観光案内所、豊国館とずいぶん下って来ちゃったしなぁ。
 「タクシーが通りかからないんなら、ヒッチハイクでもするかぁ」
 「変な人に山の中とか連れて行かれて強盗されたらどうするよ」
 しかしヒッチハイクをしようにも、そもそも登りの車が通りかからないのであった。もう万座温泉に泊まる人は、時間的にみんな宿に着いちゃったみたいだ。時々すれ違う車は日帰りで遊びに来てもう帰るところらしい。
 「ああっ、バス停がある。今日、お風呂場で会った人は、電車と路線バスで万座に来るんだけど、プリンス前でバスを降りると万座温泉ホテルの送迎バスが迎えに来てくれるって言っていたよ。これのことじゃない?」
 でもバスの時刻表を見ると、1時間に1本程度でもうしばらく来ない。ホテルの送迎バスは路線バスの発着時間に合わせて来るのだろうから、やっぱりここにいても仕方ない。
 「歩け~」
 「もう駄目だ~」
 私たちは互いに励まし合い、泣き言を繰り合いながら坂を上った。
 山の上ホテルASANOとの分かれ道を過ぎたところで後ろから大型観光バスが追い越していった。この道の先は万座温泉ホテルしかないのだから、万座温泉ホテル行きのバスだ。
 「乗せてくれ~」とyuko_nekoさん。
 「今から乗ってもしょうがないじゃーん。もう万座温泉ホテル、見えてるよ」
 ちなみに翌日、yuko_nekoさんは足が痛くなったそうである。




帰りの景色




2-22黄昏時の極楽湯へ続く


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