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◇◆長野と群馬◆◇
濁り湯露天風呂の旅

15.日進館のラジウム湯








これは翌日の撮影なのでラジウム湯に男湯の暖簾が下がっているが、この日は本当は女湯



 日進館の前まで来ると、女湯から「熱すぎますー」という声が聞こえた。
 建物の外に万座温泉ホテルの法被を着た女性が立っていて、「今から調節しますね」と答えている。
 あららこれは急がないとぬるめられてしまう。
 私は慌てて脱衣所に飛び込んだ。
 今日は女湯が右のラジウム湯、男湯が左の鉄湯だ。

 外観は古びていたが、浴室内の壁などは割に新しい。
 三人の先客と、私と同時に入ってきたもう一人の女性と合わせて五人になった。
 お湯は青みがかった薄濁りで、思ったより透明に近い。さっき入ってきたばかりの長寿の湯のお風呂とはずいぶん違って見える。
 臭いも昨日から沢山入っている白濁硫黄泉のどれよりも硫黄の臭いは薄く、むしろ酸っぱそうな臭いの方が強く感じる。
 肌触りは強いきしつき。
 染み通りながらも肩に重いものが乗るような酸性泉独特の入浴感がある。

 ところで私が入るとほぼ同時にホースからも冷水が出てきたようだ。
 あえて私はホースと離れたところに入ったが、一緒に浴室に来たお姉さんはホースのすぐ近くに入った。
 「熱いでしょう、熱すぎない?」と先に入っていた方が声を掛けてくる。
 私は熱めだとは思ったが、熱すぎるとは思わなかったので「大丈夫です」と返したが、もう一人のお姉さんはホースのすぐ近くでも「すごく熱いです」と言って、すぐに上がってしまった。
 先客の方たちは、「温度調節をする人も、熱くしたら熱すぎる、ぬるくしたらぬるすぎると言われて大変らしいわ」と話していた。
 人によって好みの温度は違うから、万人向けの温泉は存在しない。


日進館のラジウム湯



 先客たちの話に耳を傾けていると、いつの間にか話はその昔ここにあった苦湯の話になっていた。
 「何年前だったかねぇ、鉄砲水で流されて・・・」
 「その後苦湯は本館の長寿の湯の中に移されたらしいけど、前の苦湯と全然違って効き目が薄くなったみたい」
 この話は4年前の2003年に私が初めて日進館に来たときにも聞いた。内容もシチュエーションもほぼ同じで、デジャヴューかと思うくらいだ。
 それほど万座温泉ホテル常連客にとって日進館の苦湯が無くなってしまったことは痛手だったのだろう。きっとここに来ると必ずその話になってしまうくらいに。

 日進館のお風呂の窓は広く取られていて、窓からは背後に広がる硫黄色の斜面と青灰色の池のような湯畑が見えている。
 斜面には遊歩道があるようで、ちらほらと歩いている人の姿がある。
 こちらからはっきり見えると言うことは、向こうからも見えるんだろうな。
 明らかにこちらばかり見ている男性もいて、感じが悪い。

 一人あがり、二人あがり・・・いつの間にか年輩の女性と二人きりになっていた。
 そこでその方にお願いして、ちょっと浴室の写真を撮らせてもらった。
 女性は私のカメラを見て言う。
 「あのね、私は最近カメラ付きの携帯電話を買ったんだけど、カメラの使い方がよく判らないのよ」
 最近の携帯電話は機能が沢山ありすぎて、私も使いこなせていない。説明書なんて分厚いばかりで読む気にもなれない。
 「あと、留守番電話の登録をしておいたんだけど、ちゃんと入っているか心配で」
 聞くと、万座温泉ホテルの常連さんで、毎年1ヶ月単位で湯治に来ているそうだ。
 その方の携帯はドコモで、万座温泉ホテルの館内ではなかなかアンテナが立たないのだそうだ。
 私もそこでようやく、さっきyuko_nekoさんのドコモに電話をしたときに接続の様子が変だった理由が判った。
 「いついらしたの?」
 「ついさっきチェックインしたばかりなんですよ」
 「そう、ラジウム湯にゆっくり入れて良かったわね。苦湯が無くなってから、ラジウム湯が一番良いもの。ここに来ると医者いらずなのよ。病院代を払うより、宿泊費を払ってラジウム湯に入る方がいいと思うわ。私たちはそうしているもの」
 「明日は男女交替になってしまうんですよね。じゃ、夜にもう一度来ようかな」
 「あら無理よ。ここは夕方6時までなの」
 へー、知らなかった。
 日進館の周囲はあちこちロープが張り巡らされていて、「硫化水素ガス危険地帯 立入禁止」の札がいくつも立てられていた。
 そういえば私が日進館に向かって歩いているときにすれ違った若い女の子たちはそれを見ながら「硫化水素ガス、こわーい」「でも死ぬことはないんだよ」なんて言っていた。
 硫化水素ガスで死ぬこともあるんだよと思ったけど、いきなり呼び止めてそんなことを言うのも変かと思って言わなかった。とにかく立入禁止の意味が分かっているならそれでいいかと思って。
 硫化水素ガスの事故と言えば2年前に秋田の泥湯温泉で起きた事故が今も記憶に新しい。
 あの事故では痛ましくも子供を含む一家四人が急性硫化物中毒で亡くなっている。
 日進館に行くにはどうしても屋外を通らなくてはならず、夜間はロープを越えて硫化水素ガスの溜まるエリアに足を踏み込まないとも限らない。そうした理由から私は夜間の入浴が禁止されているのかもしれないと思った。



2-16近道は外へ続く


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