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◇◆長野と群馬◆◇
濁り湯露天風呂の旅

10.牧泉館の廃業











 私たちは真っ直ぐキャンプ場に帰らずに、途中の分かれ道で七味温泉方面に車を進めた。
 後でどうせ子どもたちを連れて旅館宿泊チームが七味温泉に来るわけだが、下見も兼ねて。それにもしトレーラーを停められそうな場所があったらがっちゃんも七味温泉でP泊できるかもしれない。
 まだこの時点ではパパとyuko_nekoさんのどちらが旅館宿泊チームになるか決まってはいない。
 山田温泉松川渓谷温泉五色温泉と山を登ってきた道は、七味温泉方面に曲がってからは谷に向かってどんどん下っている。

 やがて建物が見えてきた。
 七味温泉は行き止まりだ。
 正確にはここから万座峠を越えて万座温泉に至る林道があるのだが、これは恐らく未舗装の悪路で、季節に関わらず今は一般車両通行止めだ。

 道は右へ曲がっている。
 直進する方角に土の色をした道が見えているがあれが万座峠に向かう未舗装路だろう。
 右へ曲がって橋を渡る。
 随分と細い橋だ。
 橋を渡って直ぐに右手に紅葉館が見えた。如何にも山の中の宿といった風情だ。適当に古びている。あまり高級感は無い。
 さらに進むと左手に少し大きな旅館が見えた。七味温泉で一番収容人数が多くお値段も高い渓山亭だ。そして道の突き当たりに山王荘が建っていた。
 今、七味温泉で宿泊を受け付けているのはこの三軒だけだ。

 以前は七味温泉には四軒の宿があった。
 でもそのうち一軒、湯元牧泉館は旅館営業をやめて日帰りのみを受け付けているはずだ。
 橋の近くに牧泉館の看板があった。
 七本の源泉の湯元と書かれている。紅葉館からあまり離れていなければ、チェックイン後に歩いて入りに行かれるかもしれない。

 パパたちも牧泉館に興味が湧いたようだ。
 看板の示す道を川に沿って降りてみた。
 ほんの数百メートルほど進むと、草ぼうぼうだが駐車場のようなスペースがあった。
 「ここならトレーラーを持ってこれるんじゃない?」なんてパパが言う。
 駐車場のような場所を過ぎると橋が一本架かっていて、川の対岸に赤い屋根の旅館のような建物が建っていた。


七味温泉は川沿いだ



 でも様子がおかしい。
 橋は青いトタンのようなもので封鎖されている。
 トタンの一ヶ所に倉庫の入り口のようなドアが付いていて、そこを開けないと通れないようになっている。トタンの両側は、無理矢理に橋の端から身を乗り出して渡ろうとする不届きものが出ないよう、少し長く作ってある。
 誰も橋を渡れないようにドアには鍵が掛かっている。
 そしてドアには半分流れた字で「冬季休業 四月末迄」と書かれていた。

 今が冬なら判るけど、紅葉もまだの9月後半。
 今の時期、休業していると言うことは、冬季のみならず年間休業中ということ。すなわち廃業か。
 夏までは営業していたのか。それとも去年の秋までだったのか。
 川をまたいで遠目に見たところ、牧泉館の建物は傷んでいなかった。
 玄関のガラスの中は何かものが積み上げてあるように見えるが、他の窓は障子もカーテンも綺麗なままだ。そんなに長いこと放置されているとは思えない。誰かがかなり頻繁に手入れをしているようにも見える。
 建物の奥に源泉の櫓や板塀に囲まれた露天風呂らしきものが見えていた。
 「まだお湯が出ていそうだよね」
 「うーんもったいない」

 これは翌日、紅葉館の女将さんから聞いたことだ。
 牧泉館は老夫婦が経営していたが、年なので旅館をやめてしばらくは新緑から紅葉終了までの季節日帰り温泉に徹し、さらにそれも去年の晩秋までのことで今年はもう、閉めたままにしてしまったそうだ。
 でも体が悪いとかそういった事情ではなく、二人ともお元気で、リタイヤ後の人生を楽しんでおられるそうだ。
 結局跡継ぎがいなかったということだろうか。

 「で、さっきの駐車場みたいな場所でトレーラー泊する?」と私。
 「誰もいなくて怖いからヤダ!」とがっちゃん。





青いトタンに冬季休業のドアで橋は分断され、川の対岸には今も湯煙を上げる牧泉館




1-11ホテルセルバンと煙草へ続く


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