13.懐石カフェ蛙吉(あきち)
伏見稲荷駅は小ぢんまりとしたローカルな駅で、しかし柱や手すりなど伏見稲荷神社を意識してか全て朱色に塗られているのが印象的だった。
地図を見せたが運転手は蛙吉の場所はよく判らないと言うので駅前で下してもらった。
どうせ駅から徒歩30秒と書かれているのでタクシー料金を掛けて探してもらうよりも、地図を見ながら自分で歩いたほうが早いだろう。
懐石カフェ蛙吉の場所はすぐ判った。
本当に駅から近いし、ちゃんと看板も出ていたから。
しかし外観は懐石料理屋はもちろんカフェにも見えず、どう見ても単なる民家、店の名や評判を知らなければ絶対に気づかないような佇まいだった。
遠目にはシンプルだが近づいてみるとちょっと剥げかけた塗りや飾りの丸窓が凝っているドアには「close」と書かれた楕円の札と「本日はご予約で満席です」と小さめの字でプリントされた紙の入った額縁が下げてある。
雰囲気はなんとなく、アタゴオル物語とかに出てきそうな。
ドアを開けたらその向こうには別世界が待っていそうな。
ドキドキしながらドアを開けてみた。
店内は少し暗く思っていたより狭く思えた。
カウンターのような席があり、そのいくつかが埋まっていた。
すぐに店員がこちらへと私たちを案内してくれたのは入り口を入ってすぐ右手の窪みのような独立した席で、窓の外が見えた。