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草津温泉・時間湯体験旅


 今回の旅行記はいつもとちょっと違うかもしれない。

 というのは、旅行前から煩っていた病気のため旅行後に入院することになり、結局いつものリアルタイム又は旅行直後の記録ではなくて、既に2週間近く前の記録をまとめることになってしまったからだ。
 出だしの部分は旅行中に書いたものだが、草津に着いてからの記述は記憶を辿りながら書いている。
 いつもと様子が違うかもしれないけど、それはそれということで・・・






 「もしもしー、よしかさん? 時間湯体験どうされます? えっ、やる? うん判った。じゃあ申し込んでおきますね」
 電話を掛けてきたのは友人の晶ちゃん。
 週末に一緒に草津に行く。
 彼女は大人になってから発症したアトピーに悩んでいたが、この二ヶ月草津に週末湯治に通い、驚くほど肌が綺麗になったと聞いている。
 時間湯について今まで持っていた知識はまことに浅いもので、インストラクターである湯長さんが軍隊よろしく号令すると、みんないっせいに激熱の湯につかり、短時間であがるというのを繰り返すという程度しか知らなかった。
 その知られざる時間湯を体験させてもらえるという。
 どきどきわくわく、ちょっと怖い。
 そんなに熱い湯に入れるんだろうかとか。
 不真面目だと湯長さんに怒られないだろうかとか。
 でもタイミングとしてはばっちりだった。
 なぜなら私たち夫婦は今ぼろぼろだったから。

 いや、結婚生活の危機とかそういうのではなくって。
 パパはまさに一週間前、初めてのぎっくり腰体験をしてしまったばかりだった。
 今年はじめから腰に違和感を感じて時々湿布薬など張っていたが、一週間前の日曜日の朝、小学一年生のレナを抱きかかえようとして、そのままグキッといってしまった。
 抱きかかえたわけではなくて抱きかかえようとしただけだから、まだ体重はかかっていない。
 体勢が悪かったのか、今まで負荷のかかっていた腰の何処かがその瞬間ピキッといっちゃったわけだ。
 そのまま三日間寝たきりで動けず。
 ようやく水曜日から会社に行った。
 朝はいつもより早起き。
 ラッシュが怖い・・・のだそうだ。さもありなん。

 かくいう私も酷かった。
 本当はゴールデンウィークに友人のyuko_nekoさん一家と新潟の長岡に旅行に行くはずだったが、出発前夜猛烈な腹痛に襲われて、夜間診療病院のお世話になった。
 とりあえず痛み止めや胃腸薬を出され帰宅し、旅行は中止。
 しかしその後もすっきりとは治らず、今回の旅行が近づいてくるに従って再び悪化、昨日病院に行き、ついに旅行の翌週には胃カメラを飲むことに決まってしまった。
 今は医者に出された胃腸薬を飲むととりあえず症状は止まるようなので、それでなんとか凌いでいる。

 恋の病以外何でも効くはずの草津の湯。
 さて私たちの疾患には効き目があるのだろうか。



初日 2006年6月10日(土)

 梅雨入り宣言は昨日だった。
 そうでなくとも今年は春から長雨続き、毎日毎日鬱陶しい天気が続く。
 梅雨入りしようがしまいが、もう何も変わらないんじゃないの? という始末。
 6月の旅行なんだから雨が降っても仕方ない。
 前回の草津旅行だって雨に祟られた(あれは梅雨時では無かったが)。
 もう雨でも諦めよう。
 一週間前の予報ではこの週末は見事に雨マークだったはずが、やっぱり晴れ娘たちの底力。
 関越道を走る今、空は奇跡の青空なのだった。
 (そういえば先日の全校遠足だって、当日朝まで雨の予報だったのに晴れた)

 今回の旅行もだださんと晶ちゃんプロデュースで、義満さんや紺碧七さんもやってくる。
 集合場所は草津の大滝乃湯駐車場で、集合時間はお昼の十二時。
 「どこで遊んでいく? 晴れなら屋外がいい・・・」とパパ。
 「赤城の苺狩りは季節が終わったばかりだし、ブルーベリー狩りは今月下旬から。榛東の葡萄は秋だし」
 「温泉なら朝早くからやっていて露天風呂のあるところ」
 前橋で降りるから天神の湯・・・今回はその気にならず
 浅間隠の茅葺きの郷 薬師の湯・・・高いし11時から
 倉淵温泉長寿の湯・・・10時から
 尻焼温泉・・・腰が痛いので野湯は嫌
 川原湯温泉聖天様露天風呂・・・腰が痛いので坂を上るのは嫌
 なかなかこれというのがない。
 貴重な晴れだから露天風呂にしたいし、朝早くからやっているところも限られている。
 「草津に直行して西の河原露天風呂に行こう」とパパの最終結論。

 途中、道の駅おのこでトイレ休憩して、緑の吾妻川を見ながら昔足繁く通った145号線を行くと、やおらレナが気持ちが悪いと言い出した。
 彼女は幼稚園の頃から車酔いする質だ。
 綺麗な景色を見る余裕もない。
 いったん車を停めて落ち着かせたが収まらない。
 窓を開けて新鮮な空気を入れながらだましだまし走らせることにした。

 草津の入り口に当たる道の駅草津運動茶屋公園に到着したのが8時40分。
 軽くトイレ休憩だけ済ませて先へ急ぐことにした。
 晴れていればそろそろ東京は暑くなる季節だが、さすが草津、朝早いことをさっ引いてもかなり涼しい。
 子どもたちには半袖の上にウィンドブレーカーを着せた。暑がりパパもTシャツの上にトレーナーを着込んだ。

 西の河原露天風呂に行くつもりではあったが、道の駅で見つけたリーフレットでまたまた気を変えた。
 草津ガラス「蔵」の四つ折りになったリーフレットだ。
 「蔵」がどこにあるかは知っている。
 前に草津ナウリゾートホテルの敷地にあるレンタルマンションに泊まったとき、草津ホテルのある坂を下りきったところを湯畑方面へ向けて曲がる角の辺りに建っていたのを見た。
 綺麗なガラス製品が並んでいて、子連れでは怖くて入れないなと思った記憶がある。うっかりぶつかって割ったりしたら大変だから。
 草津ガラス蔵では、ガラス器、とんぼ玉(ガラス玉)アクセサリー等の展示・販売の他、ガラス細工体験なども行っている。
 ガラス細工の創作体験は大人向けなのだろうとばかり思っていたが、リーフレットには「お子さま創作体験コース」というのが載っていた。
 ガラスの土台に色パーツを乗せて固めるフュージング、ガラスに絵付けをするペーパーウェイト作り、ガラス器にシールを貼ってシール以外の表面を機械で削るサンドブラストなどが子ども向け。リーフレットの写真でも、幼稚園児ぐらいの女の子が体験している様子が写っている。なるほどこれならうちの子どもたちにもできそうだ。

 草津ガラス蔵には駐車場もある。
 建物の裏手で山口荘の近くだ。
 オープンは9時からだったので、ちょうど9時になったところで中に入ってみた。

 蔵はガラス器展示販売の1号館、とんぼ玉専門の2号館、ガラスアクセサリーの3号館と、三軒並んで建っている。
 ガラス細工体験を受け付けているのは真ん中の2号館だ。
 早速中に入ってみると、奥にそれらしいコーナーがある。
 オープンしたばかりとは思えず、既に体験を始めているお客さんもいるようだ。
 責任者らしい男性と、他にスタッフと見える女性が複数バーナーやパーツの準備をしている。
 「あのう・・・このリーフレットを見て来たのですが、子どもでもできるガラス細工体験はありますか?」
 男性はちらりとうちの子どもたちを見て、渋面になった。
 もちろんできますよ、という返事が返ってくるものとばかり思っていたが。
 あれ?
 できないのかな?
 レナは小柄だから幼稚園児に見られたかな。小学生以上ならOKだろうか?
 「とんぼ玉を作るのはあのバーナーを使うんですけどね」と、彼は後ろの女性スタッフを振り返った。
 「そちらにいらっしゃる上のお子さんならぎりぎり大丈夫だと思うんだけど、下のお子さんの大きさだと、腕をこうした場合、バーナーが顔の上に来ちゃうでしょ、そうすると危ないので無理なんですよ」
 彼はわざわざ火のついていないバーナーで実演して見せてくれた。
 「ではこのリーフレットにある、お子さま創作体験コースというのは?」
 「今はオフシーズンなのでやってないんですよ。サンドブラストとかなら小さいお子さんでもできるんだけどね、ごめんなさい」
 ・・・なるほど、土日とはいえ6月だからか。これが夏休みとかならやっているのかもしれない。
 「上のお子さん一人なら受け付けるけど、お姉ちゃんがやったら絶対下のお子さんもやりたがるでしょ」
 よくお分かりで。
 だめ押しされて諦めることにした。
 やっぱり振り出しに戻ってしまった。



 またもや行くあてが無くなってしまい、途方に暮れた。
 仕方ない、当初の予定通り西の河原露天風呂に行くか。
 何となく気乗りがしないのは、単純に西の河原露天風呂が万代鉱源泉だからだったりする。
 前回の草津旅行でいろいろな源泉に入ってみたが、やっぱり万代鉱が一番ぴりぴり来た。
 正直言って少し苦手だ。
 それに今夜の宿だって万代鉱を引いているはず。
 帰宅して背中の皮がむけて痛い思いをしたのは忘れられない。
 西の河原露天風呂は広くてぬるめだし、ついついのんびり入っちゃいそうで、そうすると絶対後が怖い。
 草津の強酸性泉は甘く見てはいけないのだ。

 草津ガラス蔵でのガラス細工体験を諦めた時点で、車をどこに置くかという問題が新たに持ち上がった。
 蔵の駐車場に入れて置くわけにはいかない。
 個人的にはガラス細工をのんびり見ていきたいところだったが、もちろん子連れではそれは無理。
 仕方なく、まずは車を西の河原公園駐車場に移動させることになった。

 草津温泉街は、まあ昔からある大きな温泉街はどこも同じだが、道が狭くて入り組んでいて、駐車場があまり無い。
 一応湯畑近くに一ヶ所、バスターミナル近くにもう一ヶ所、有料駐車場があるが、それほど大きいものではない。
 後は少し離れたところで西の河原公園駐車場がある。
 他と同じで有料だがここは空いている。
 しかし、西の河原公園の近くにあるわけではなく、草津ホテルの横のしゃくなげ通りという急な坂を上らなくてはならない。

 駐車場には朝から既に何台も車が入っていた。
 車を降りてしゃくなげ通りを下る。
 行きは下りだからいいんだけど、お風呂に入った後とかこの坂道を登るのは辛いのよね。
 歩き始めてお腹が空いていることに気づいた。
 パパや子どもたちも同じらしい。
 思わず坂を下りきったところで西の河原公園のある右手の道に曲がらず、左の西の河原公園通りに向かってしまった。ちょうど先ほど寄った草津ガラス蔵のある方だ。

 この通りを行くと二軒のまんじゅう屋があり、通行人は温泉まんじゅう試食攻撃に会うことになる。
 いくらお腹が空いていてもまんじゅうは朝ご飯じゃないよなぁと思いながらスルー。
 途中、細い道の奥に共同浴場の凪の湯が見える。
 極楽館を過ぎると道は二手に分かれた。
 左右両方に「湯畑→」と書かれているので混乱するが、要はどちらへ行っても湯畑に着くということだ。
 何も考えず右手の道を行った。ああっと関の湯はもう一本の道だったか。いやいや今は共同浴場巡りをしているわけじゃないからどっちでもいいんだった。
 通りがかりに見つけた薬屋で子供用の酔い止めを購入した。
 これがあればレナも帰路は車酔いせずに済むだろう。

 道々、どこか朝食を食べられそうな場所を探してみたが、どこも準備中。
 お昼時にならないと営業を始めないようだ。
 ・・・そうだ。
 私たちを草津に誘ってくれた晶ちゃんに聞けばどこか良い店を教えてくれるに違いない。
 彼女は毎週末、草津に通っているから草津のお食事処には詳しいはずだ。
 それに今週は既に金曜日の夜から草津入りしているはずだ。
 巧くしたらどこかで落ち合えるかもしれない。

 トゥルルルル・・・。
 何度か呼び出し音。
 出ないみたい。
 携帯の電源は入っていて電波も通じる場所にいるようだけど、出られないみたい。
 もしかしたら時間湯中なのかもしれない。

 諦めて再びあてもなく西の河原公園方面に戻ることにした。
 パパが公園なら何か軽食があるかもしれないと言う。
 うーん、どうだったかなぁ・・・以前行ったときの記憶を紐解いてみたが、どうも期待薄だ。
 公園手前の店では漬け物や湯の花を売っていて、ここでも試食用の漬け物を勧められる。
 いや、食べたいのはちゃんとした朝食で試食ではないのだが。
 公園入り口で決心した。
 「パパは子どもたちと中に入っていて。さっきの饅頭屋に行って一箱買ってくる。もし公園内に朝食を食べられそうな所があれば饅頭は土産に持ち帰ればいいし、見つからなければ公園内で饅頭を朝食代わりに食べればいいや」
 何だか何度も草津ガラス蔵の前を行ったり来たりしているみたい。
 小走りで饅頭屋へ。
 とりあえず丸井堂というところで試食用をひとつもらって食べてみてから店の中に入った。
 本当はこういう強引な試食は好きじゃないんだけど仕方ない。
 一番小さい一箱を買ってさっさと店を後にした。
 西の河原公園の入り口まで戻ってきたところで、腰にぶらさげた携帯電話が鳴っていることに気づいた。
 「あっ、晶ちゃん」
 「さっき電話くれたでしょ」
 「うん、実はもう草津に着いているんだけど、どこか朝食を食べられるお店を教えてもらえないかと思って」
 「あっ、ちょうど私、今朝食を食べ終えた所なんですよ。五郎次というペンションがあって500円で朝食が食べられるんです。後は・・・私が今からお茶を飲みに行こうと思ってるんだけど、湯畑のイタリアン・トマトも朝からオープンしてますよ」
 そりゃあいい。

 というわけでまたまた湯畑前方面へ移動することになった。
 もう何回、饅頭屋攻撃のこの道を通れば良いのやら。
 何時の間にか青空は消えて灰色の空。
 草津のシンボル湯畑前は、朝から観光客で賑やかだ。

 晶ちゃんに教えてもらったとおり、湯畑の川下へ向かうと白っぽいビルが建っていた。シゲハラと書かれている。ここの二階にイタリアントマトはある。
 青緑の湯畑はいかにも草津温泉という感じで、今やもう見慣れて違和感も無いが、山本館のある一角や、千代の湯や大阪屋のある通りを除いて、どうにも様にならない部分がある。
 このシゲハラというビルもそうだが、江戸情緒を残す建物と、昭和に入ってから効率のみを重視して建てられたコンクリの無粋な建物がどうやっても相容れないのだ。
 せっかく湯畑が温泉情緒を醸し出しても、背景にビルが入るだけでがっかりしてしまう。仕方のないことだが。

 イタリアントマトの窓から、晶ちゃんが手を振っているのが見えた。
 「カナ、レナ、あそこのお店だよ、キャンプファイヤーの歌のお姉さんが手を振っているのが見える?」
 以前、一緒にキャンプをしたとき、晶ちゃんがキャンプファイヤーの余興をいろいろ考えてくれて音頭もとってくれたことがあり、それ以来、子どもたちにとっては彼女は「キャンプファイヤーの歌のお姉さん」になった。
 ちなみに、だださんは「キティの神様」と呼ばれている。
 彼はキャンプファイヤーで「火の神」の大役を担ったのだが、そのときハローキティのブランケットをマントがわりに纏っていたので、子どもたちにとっては「キティの神様」ということになってしまった。



 注文を済ませて席について、やっと一息。
 運ばれてきたスパゲッティを食べながら、朝からさんざん走り回って、結局草津でまだ何もしていないことに思い当たりがっくりしてしまった。
 こんなことなら何も考えず、さっさと西の河原露天風呂でも入っちゃえば良かったよ。
 晶ちゃんは既に朝の時間湯を終えてきたところだった。
 時間湯湯治は一日四回が基本。
 もちろん体調に合わせて3回にしたり2回にしたりすることもできる。
 彼女は次の時間湯までの空いた時間をこのイタリアントマトでお茶を飲んで過ごそうと思っていたようだ。

 晶ちゃんとは数カ月おきにキャンプや温泉に一緒に行っていた。
 会う度にじりじりとアトピーが悪い方へ進んでいるんじゃないかと心配になるような痛々しい腕をしていたが、今日会ったとき、はっきりとアトピーの進行が止まってゆっくりとながら改善されているという印象を受けた。
 きっと草津の時間湯が彼女に合っているのだ。
 毎週毎週草津に通って、一日何回も熱い湯に入るのだから決して辛くないことはないはず。
 でも彼女は明るく笑って、じゃまず地蔵の湯に行ってみましょうかと誘ってくれた。



 共同浴場の地蔵の湯は、前回の草津旅行でも訪ねている。
 暗くなりかけた夕方の訪問で、先客の方たちがみなにこやかに挨拶してくれたことが印象に残っている。
 あのときの建物は取り壊され、今年になってから建て替えられた。
 ぷくぷくと湧いている地蔵源泉の向かいに、木の香りも芳しい湯小屋が新しく建っていた。

 今日2度目の時間湯へ行く晶ちゃんとはここで別れ、共同浴場の中に入ってみた。
 入り口に靴はひとそろいしか無かったが、中の脱衣棚に持って入る人もいるようで、先客は数人いた。
 さらに私たちのすぐ後に、子どもを三人連れたお母さんもやってきた。

 脱衣所は独立しておらず、白旗の湯のように浴槽の周りに脱衣棚があるだけだ。
 一番先に目に付いたのはお湯の白さだ。
 まるで万座か白骨・・・いや、牛乳みたいに真っ白だ。
 地蔵の湯がこんなに白濁しているなんて、いったいどうしちゃったんだろう。
 「失礼しまーす」
 軽く頭を下げて入らせてもらう。
 洗面器でざぶざぶと掛け湯をすると、吃驚するほどぬるい。
 全然草津らしからぬ感じだけど、子どもたちと入るにはちょうどいいや。

 以前の湯と膚がぴりぴりと反応して泡立つような感じは無い。
 むしろマイルドすぎるくらい。
 でも肌触りはとてもいい。
 何だか違う温泉に入っているみたいだけど、これはこれでいいか。
 私たちの後から来たお母さんも、ずいぶんぬるいんですねと驚いた顔をしていた。
 「源泉が止まっているのかしら?」という彼女に、常連さんらしいおばさんが底の方を探って、
 「あら、さっきまでは出ていたのに今は止まっているみたい。建て替えてから不調なのよ」と教えてくれた。

 もうとっくにパパは上がっているだろうと外に出ると、意外にもまだだった。
 子どもたちときょろきょろと源泉の周りを探していると、やっと出てきた。
 「お湯、少なくなかった?」
 「別に・・・すごくぬるかったけど」
 「男湯はぬるい上にお湯が半分しか入っていなかったんだよ」
 そりゃまた残念だね。
 パパは特に熱い湯が好きなのに。


 この時点で半端にも11時過ぎ。
 みんなで待ち合わせているのは12時に大滝乃湯の駐車場。
 ぶらぶらと湯畑を散策しながら西の河原公園駐車場に戻った。
 今日も朝から白旗の湯は人の出入りが激しい。
 湯畑横にある足湯にも観光客がいっぱい。
 ちなみにこの足湯は元々松の湯という共同浴場のあったところだ。松の湯が独自源泉だというのは先日シバクさんに教えていただいた。
 白旗の湯の近くには湯もみのデモンストレーションを行う「踊りと湯もみショー」の会場がある。こちらも実は熱の湯という独自源泉だ。
 万代鉱や湯畑源泉もいいけどこうした貴重な独自源泉を足湯やショーのみに使用して捨ててしまうのはあまりにも惜しいと思うのは私だけだろうか?
 今回の草津の旅で、私は療養泉としての草津の役割を知り、新たな疑問もいろいろと湧いてきた。

 駐車場は区切りの時間を少々オーバーしていたが、係りの人はサービスしてくれた。
 しゃくなげ通り、ベルツ通りを通り、草津の外周をぐるっと一回りして、大滝乃湯の駐車場に着いたのが11時半頃。

 「こんにちはー」
 既に義満さんが待っていた。
 しばらくして、ターさんの運転する車でだださんもあらわれた。後部座席にはターさんのお嬢さん、Mちゃんが乗っている。Mちゃんはカナと同い年の小学三年生。去年の秋、四万たむらに泊まったとき一緒に遊んだ。
 「あのね、私背の順で前から三番目なんだよ」とMちゃん。
 うっそーと思う。
 カナと並ぶとMちゃんはカナよりずっと背が高い。カナもクラスで前から三番目だ。
 「よっぽどMちゃんのクラスは背の高い子ばかりなんだね」
 「そうでもないよー」
 以前はかなり構えていたところのある彼女だが、今日はずいぶん打ち解けている。カナやレナと遊ぶのを楽しみに待っていてくれたらしい。
 実はだださんとターさんたちも私たちと入れ違いに地蔵の湯に入ってきたところだった。
 このところ晶ちゃんに付き合って草津に来てはあちこち共同浴場を廻っているだださんが、
 「地蔵があんなに白くて温いなんて許せない」と言っていた。
 やっぱり今日の色と温度は特別だったらしい。

 もう一人のメンバー紺碧七さんは遅くなるというので、時間湯を終えた晶ちゃんが戻ってきたところでランチの予約を入れた店に向かうことにした。



 ランチはカフェ樹音という店だった。
 共同浴場の喜美乃湯の近くだ。
 店内は小洒落た可愛らしい雰囲気で、女性受けしそうだ。
 人数が多かったのでテーブルが二つに分かれた。
 中央の大きなテーブルと、窓際の小さなテーブル。
 小さい方はお子さまテーブルということで、カナとレナ、Mちゃんの三人と、保護者として私が座ることになった。
 大人の話には加われないけど仕方ない。

 カナもレナもさっきイタリアントマトで食べたばかりであまりお腹が空いていないよう。
 食べたくないと言うので大人の分を取り分けることにした。
 私は晶ちゃんお勧めのオムライス。パパは納豆の定食。
 Mちゃんもオムライスを頼んだ。

 料理が来るまでの間、Mちゃんがポケモンクイズを出してくれた。
 カナはだいたい記憶力の良い方ではないが、ポケモンのことなら何でも覚えているはずのレナでも、急に問題を出されると判らなくなるらしい。
 たいしてポケモンのことなんて知らないはずの私が何故か一番正解率が高い。
 でもMちゃん、身長と体重だけで該当するポケモンを当てろっていうのは難しすぎ。



 さて、今日泊まる予定なのは、あさひ荘という旅館だ。
 場所は大滝乃湯の一本上の通り沿いで、素泊まり又は朝食付きのどちらかを選ぶことになる。
 自炊はできないが、持ち込みは自由だ。
 宿泊料は一人3千円台と大変リーズナブル。

 ぱっと見は、普通の民家のようだ。
 もし入り口に「お宿 あさひ荘」という木の看板が無かったら、とても旅館には見えない。
 駐車場は裏手で、ピーターという名の大型犬がいる。
 ご主人は温厚な印象の方で、お部屋は質素だが広さも清潔さも十分だった。
 早速子どもたちは一室に集って玩具を広げ始めた。
 「大人は入って来ちゃ駄目」
 「はいはい」

 一休みしたところで、話題はもう次の温泉。
 義満さんがだださんに平治温泉の場所を聞く。帰りに寄ることを考えているのだそうだ。ちなみに今朝は八ツ場四兄弟に入ってきたらしい。
 平治なら私も行きたいな。でも公共センター系みたいなのが好きなパパは反対するかなぁ。あそこも決してガイドブックには載らない系の温泉だから。
 「ところでいろいろな種類の源泉に入るには、草津だったらどの共同浴場を廻るのがいいかな」と義満さん。
 「ここから一番近い共同浴場が長寿の湯で湯畑源泉だし、この宿の風呂が万代鉱源泉だからそれ以外として・・・」とだださん。
 結局だださんと私とで、後は白旗源泉の白旗の湯と地蔵源泉の地蔵の湯と煮川源泉の煮川の湯と西の河原琥珀の池源泉の凪の湯を廻ればいいんじゃないのかしら?と提案してみた。
 煮川の湯もあさひ荘から近い。
 でも人気があるので旅館の夕食時間か朝に訪問するのが良いそうだ。

 「次の時間湯までの間、ちょっと休んでくるね」と晶ちゃんが部屋に引っ込んだ後、だださんと義満さんと私とで、最寄りの長寿の湯を訪ねてみることにした。
 このところ週末ごとに草津に来て、いろいろ共同浴場を廻っているだださんはもう何度も入っているが、私と義満さんは長寿の湯は初めてだ。
 子どもたちはパパとターさんが見ていてくれることになった。

 あさひ荘から住宅街の中の道を行くと、長寿の湯はすぐだった。
 木の板に墨で長寿乃湯と書かれた看板以外、飾り気がない。
 どちらかというと古い民家のようだ。
 それもそのはず、草津に18ある無料開放されている外湯の中では、一番古い建物になる。昭和51年建設だ。
 外観は素っ気なかったが、中は木組みに年季が入っていてなかなか良い雰囲気。
 場所柄、観光客の利用はほとんどなく、地元の方が大半のようだ。それも年輩の方が多い。
 お湯は熱めだが熱すぎるほどではない。緑色っぽく見える透明のお湯だ。
 これから時間湯をするのだしと思って、あまり長湯はせずに上がることにした。

 脱衣所で服を着ていると、「共同浴場巡りをしているの?」と地元に方に話しかけられた。
 たぶん観光協会の地図に載っている白旗の湯、千代の湯、地蔵の湯などと違って、入り組んだ所にある長寿の湯を訪ねてくる観光客はほとんどいないに違いない。
 「あっ、はい・・・」
 「どことどこを廻ったの?」
 「えーと・・・」
 答えを待たずにどんどん話が進んでいく。
 「ここはいいでしょ。他の共同浴場より雰囲気がいいと思うわ。他ではやれどっから来たの?だの、どこに泊まってるの?だのいろいろ聞かれて煩いでしょ」
 「それはあなたでしょ」と他の人が混ぜっ返す。
 何だか漫才みたいだ。
 「でもね、この長寿の湯ももうじき建て替えなのよ。夏に草津のお祭りがあるんだけど、それが終わったら新しい建物に変わっちゃうのね」
 するとこの良い色に染まった浴室の木の床などもあと何ヶ月かで見納めなのか。
 「またおいでなさいね」
 何となくこういう交流が嬉しくて、地元の方が多い共同浴場など廻ってしまうのかもしれない。
 外に出ると、すぐにだださんと義満さんも上がってきた。
 だださんは長寿の湯から道の先を指して、近くに「どんぐり」という有名なレストランや、まこと商店という良い総菜屋があるんだと教えてくれた。

 宿に戻って一息つくと、予定していた時間湯に行く時間が来た。
 子どもたちはターさんが見ていてくれるというのでお言葉に甘えさせてもらって、晶ちゃんの案内の元、私とパパ、だださんと義満さんで行くことにした。
 何度も草津に来ているだださんも、時間湯体験は初めてだ。






 ***** 時間湯については草津温泉時間湯体験についてをお読み下さい *****





 「子どもたち、お腹を空かせているだろうから、バナナでも買っていけば」
 パパの一言で果物屋に寄ることにした。
 時間湯体験を行っている千代の湯からの帰り道のことだ。
 店のおばさんは、絶対美味しいから、と高原バナナを勧めてくれた。

 私たちが留守の間、Mちゃんのパパ ターさんは子どもたちを公園で遊ばせてくれた。
 「靴がどろどろになっちゃったんですけどね」
 「いいんです、いいんです」
 もう子どもたちの面倒を見てもらっただけで何よりありがたい。
 あさひ荘の隣の隣にちょっとした滑り台のある小さな公園があって、子どもたちはずっとそこで遊んでいたという。
 梅雨時で地面がぬかるんでいる上に、子どもたちは公園の水道で水を汲んでは土で遊んでいたというので、確かに運動靴はすごいことになっていた。



 あさひ荘では自炊はできないので、夕食は、まこと商店でお弁当や総菜を買ってくることにした。
 だださんの買い出しに同行したパパは、住宅街の中に建つまこと商店を見て、誰かに教えてもらわなかったらとても見つからないような店だと感想をもらした。
 レンジで温める市販のお弁当類の他、手作りの総菜がいろいろ揃っている。特に今日のお勧めと言われて買ってきたというモツ煮は大好評だった。

 空が夕焼けに染まる頃、いつものように紺碧さんが持参してくれた大量のプレミア焼酎がテーブルに並び、めいめい適当に飲み始めた。
 今回のラインナップは、財富温泉の温泉水で割ったという本格焼酎財宝、どんぶり仕込み燃島、博多の華・初垂れ、本格焼酎霧島、かめ壺仕込み復刻八千代伝、本格芋焼酎宝山、大和純米辛口無濾過(これが正式名称なのか?)、VISAGE(ブルーベリーのスパークリングワイン)、ついでに紺碧七さん自作のブルーベリー酒。
 この他、義満さん持参の純米吟醸水芭蕉の一升瓶と、私の持ってきたピンク色の日本酒 鮎のさくら色酒があった。

 この鮎のさくら色酒、鮎正宗酒造というところが作っているのだが、近所の商店街でキャンペーンをしていて試飲したところとっても美味しかったので買ってきたものだ。
 鮎正宗というのは新潟の妙高にある酒造会社で、目に付いたこのときはたまたま妙高に旅行に行った直後だったので、その贔屓目もあってどれか一本買うつもりでいたのだが、これを一口飲んでみて吃驚。色が綺麗なピンク色をしているだけじゃなく、味が日本酒離れしている。
 甘いのだが嫌な甘さではなく僅かな酸味もあってすっきりさわやか。
 お酒にはちょっと煩い紺碧七さんをして、「すごーく美味しい、日本酒と言うよりマッコリに近い」と言わしめたほど。
 季節限定なのでなかなか手に入らないようだが、その近所の店にはまだ残っていたので帰宅したらもう一本買っておこう。

 さてみんなそろそろ酔いが回ってきたところ。
 紺碧七さんがやおら人の肩をもみ始めた。
 すると、肩をもむのは自分がもんでほしいからだろうと誰かが言いだし、気が付くとみんなてんでに隣の人の肩をもみはじめ、いつの間にか紺碧さんの肩をだださんがもんで、そのだださんの肩をターさんがもんで、男三人数珠繋ぎになって肩をもみ合うという珍妙な事態となってしまった。
 やっぱりみんな酔っていたのかも。

 合間を見て、子どもたちを宿のお風呂に連れていった。
 あさひ荘の浴室は、広くはないものの落ち着く感じで、備え付けのシャンプーは無かったので体だけ石鹸で洗わせて終わりにした。
 浴槽のお湯もそれほど熱くなかったようだ。
 結局最後まで宿のお風呂に入らずじまいだった私は、子どもたちからそう聞いただけなのだが。

二日目へ続く・・・

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