子連れ旅行温泉日記

◆◇草津温泉 雨の共同浴場巡り◇◆


二日目 2004年10月4日(月)

 朝起きたらやっぱり空は雨模様だった。
 晴れ一家の我が家としてはこのシチュエーションは非常に珍しい。
 しかし雨だからこそ昨日あんなに共同浴場巡りができたのだと思えば、今回は雨さまさまなのだ。晴れていたら絶対あんなに温泉にばかり入っていられなかっただろう。

 カナがトイレに行くというのでたたき起こされた。
 一度起きてしまったからには、二度寝するより朝風呂を選ぶ。
 パパが布団の中からカナに「ママがお風呂に行っちゃうぞ、カナも行って来れば」と言ったが、カナは朝風呂の気分ではないんだって。
 じゃあ遠慮なく一人で行ってくるもん。

 やっぱり温泉に泊まったら、朝風呂朝風呂、これが楽しみ。
 朝風呂の後は、幼稚園に電話しなきゃ。
 またまた休みますって。
 先々週もキャンプ場から同じような電話をしたな。もう先生方もすっかり呆れ返っているに違いない。

 朝御飯の後は今度はパパが朝風呂に向かった。
 もうちょっとここが草津の中心部に近ければ、朝風呂に共同浴場なんて真似もできるんだが。

 一泊だと忙しない。
 荷物をまとめてチェックアウト。
 午前10時半、これからどうしようか。

 一応紅葉を見に来た旅なのだから、それらしいところへ行ってみよう。
 季節的にはちょうど、白根山山頂から草津へ向けて紅葉の波が押し寄せてきているはずだ。
 後部座席でドライブは嫌いな子供たちが「つまんないつまんない」と騒ぎ出す前にさっさと行ってしまおう。
 草津から万座、志賀高原方面へ伸びる志賀草津高原ルートは冬季閉鎖、雪が降ったら行き納めだ。
 ひとつ、ふたつとカーブを数えながら高度を上げると、なるほど道の両側の木々も少し赤く色づいている。

 ロープウェイの山麓駅が右手に見えたら、すぐに白い地獄さながらの殺生河原。
 ところどころ硫黄で黄ばんだ白い岩場には、生き物の影はまるでない。
 さらに高度を上げるとあっという間に森林限界を越えてしまった。木がまばらになり、黄色く色づいた草ばかりだ。
 草津自体の標高が既に千メートルを越えている。涼しいわけだ。
 それにしてもこの雨・・・。
 車外に出るどころか、窓を開ける気にすらなりゃしない。
 せっかくの紅葉もこれじゃあね・・・。

 ろくな写真も撮れず、早々に引き返すことにした。
 せっかく旅行記には「草津温泉 紅葉の旅」と銘打ったけど、やめだ、やめ。「草津温泉 雨の共同浴場巡り」に改名だ(真面目に後日修正する)。



 湯畑前にやってきた。
 昨日は一人で来たが、今日はみんなで。
 車は光泉寺前の町営駐車場に入れた。
 今日も白旗の湯の入り口は出入りが激しい。
 土産物屋に入ると、草津のオリジナルキャラクターゆもみちゃんグッズやら、湯もみスタイルのりかちゃん人形など売っていた。

 まずは腹ごしらえ。
 湯畑の足湯を冷やかして、大東館の建物にある平野屋という蕎麦屋に入った。
 最初パパは「全席禁煙」の字におそれをなして、別の店に行こうとしたが、12時前だったので他の店は開いていなかった。

 うどんと蕎麦と、利き酒セットを頼む。
 利き酒セットは好きなお酒三種類を組み合わせて注文することができる。
 選んだのは「旬(しぼりたて生原酒)」と「初ばしり(上撰生酒)」と「牧水の詩(純米酒)」。私は旬が美味しかった。
 あとね、蕎麦に付いてきたマイタケの天ぷらが美味しい。しっかりと味と香りと歯ごたえがある。

 熱の湯の等身大ゆもみちゃんと記念撮影をしたあと、向かうは今日の本命、山本館
 自遊人という雑誌についてきた付録のパスポートを使えば大人一人千円のところ、無料で入らせてもらえる。無料パスポートに惹かれて、雑誌は二冊購入していた。パパと自分の分。だから払うのは子供たちの料金だけで済む。

 山本館は外観からして「由緒あります、老舗です」という感じだ。
 お湯のありあまる草津でも、新参者は万代鉱源泉しか引くことができないというから、山本館のように白旗源泉を引いているお宿は、もうそれだけでステイタス。
 がらがらと引き戸を開いて、恐る恐る入ってみれば、玄関もまた外観と同様渋く品格のある作りだった。
 貧乏性なので一万円を超える宿にはとんと縁がないが、本当はこういう宿はぞくぞくするくらい好きだ。

 ちょっとそっけないご主人?が出てきて、「子供料金は一人500円、パスポート使用は30分でお願いします」と杓子定規に伝えてきた。
 あれ、パスポートには入浴制限一時間とあったが・・・と思ったが、もとよりタダで入らせてもらおうというのだ、文句などひとつもありはしない。

 早速階段を下りて浴室へ。
 こちらのお風呂は若乃湯と言う(若鹿の湯と書くこともある)。
 脱衣所は改築したばかりとみえてぴっかぴかだ。木の香り芳しいという感じだ。
 私はセンター系より断然旅館のお風呂の方が好きだが、子供たちはそうではない。今日は朝からドライブとか好きじゃないことをさせられて、きっと入らないとか言うだろうなと思っていた。
 「カナ、どうする?」
 「入りたくない」
 やっぱり。
 「じゃ脱衣所で待っててもいいよ、ママは入ってくるから」
 「何で一人で待っていなきゃいけないの?」
 レナはママについてくると言うのだから、まあカナは一人になるだろう。この言い方は、その後ぐずぐずああでもないこうでもないと言い出す前兆だ。
 しばらく押し問答。
 パパが男湯から気配を察して「カナ、ここの椅子は石だぞ」と声を掛けてくれた。
 子供たちは興味を示して見に行く。
 なるほど、洗い場の椅子がよくあるプラスチックや木ではなく、なんと一抱えもある石でできている。乗っかっている桶をずらしてみると、真ん中に排水用の穴が開いている。もちろん重くて持ち上がらない。
 カナがちょっと機嫌を直したと思ったら、今度はレナが「トイレ」
 うー、さっきトイレはいいのかと聞いたばかりじゃないか。古めかしい旅館では往々にしてあることだが、ここも脱衣所にトイレはついていない。特に自遊人パスポートなど使うと無料なので宿にトイレの場所を伺うのも憚られる。
 「がまんできないよ」
 仕方ない。一度脱いだ服をもう一度身につけた。玄関へ戻る途中のどこかにトイレはあるかもしれない。良かった。階段を上ったところにあった。これを借りよう。
 やっと、何もかもすませて、ようやく浴槽に辿り着いた。
 制限時間30分が入る前に終わっちゃいそうだ。

 山本館の浴室を見ると、思わず感嘆のため息が漏れる。
 脱衣所は真新しかったが、浴室は昔のままらしい。
 浴槽は桧、壁も床も全て桧。高いところに法師温泉を思い出すような鹿鳴館調の窓がある。これはまた、なんと絵になる佇まいなのだろう。
 温泉と言えばとにかくお湯に尽きるという意見もあるが、山本館の浴室を見る限り、ハコもまた大切なのだと思い知らされる。
 つまり最高の料理はぜひ最高の皿に盛って欲しい、そういうことだ。

 お湯は二ヶ所から静かに注がれている。
 長方形の二辺のうち、長い方からは筒状の湯口が出ていて、短い方には温度を下げるためか平たい湯口がある。
 昨日の白旗の湯と同じ源泉なのだが、こちらはうっすらと青白く白濁しているだけだ。後で写真を見たら、男湯の方が強く白濁していた。ちょっとした引き湯のコンディションや投入量で濁り具合というのは簡単に変わってしまう。
 臭いは薄い硫黄臭と金属臭。
 気持ち熱いくらいの温度。入るのにためらうほどは熱くない。
 こういう時間の流れを感じるようなお風呂は、独占できると極楽だなぁ。
 ふー。



 湯上がりは隣の土産物屋で雪見大福を子供たちに食べさせた。
 「これで草津は満足した?」とパパ。
 あははは。
 「今まで散々なことを言われてきたからな」
 だって、いつも榛名湖の宿から草津にスキーや観光に来ては、草津温泉に入れずに帰っていたんだもの。今回やっと、心ゆくまで堪能できたよ。
 白旗源泉2湯、湯畑源泉2湯、西の河原源泉1湯、煮川源泉1湯、地蔵源泉1湯、万代鉱源泉1湯の計8湯だ。一泊旅行でよく入ったなぁ。

 今日もまた一日雨。
 湯畑付近をふらふらしたときは一時的にやんでいたが、車を走らせたらまた降り始めた。
 吾妻川に沿って、何度も通った道を戻る。
 パパは「この道を帰ると、つい榛名山を登ってしまいそうだ」と言った。
 そうだよね。
 何度も何度も通った榛名湖。
 草津は榛名湖に泊まって日帰りでいく場所と思っていたよ。
 草津から帰ると言ったら、東京にじゃなくて、榛名湖に、だったよね。
 今日は岩櫃山の麓、郷原で曲がることなく353号線を直進。
 寂しい気持ち。

 「時間が半端だし、山本館では入浴するだけだったから、もう一ヶ所温泉に寄っていこう」とパパ。
 「ナマズが食べられるあそこはどこだっけ」
 奥平温泉遊神館のこと?
 「遊神館に行くならスカイテルメか猿ヶ京はどうかな」と私。
 「いつも遊神館は却下されるな。この前も行こうとしたら反対された」
 うーん・・・確かに。
 嫌いっていうわけじゃないんだけど、遊神館に行くならどこかまだ入ったことがないところに行きたい。パパは遊神館がとても気に入っているんだけど、私はどうもいまいち、あそこはぴんとこない温泉だ。
 「逆に私がスカイテルメに行きたいっていうと、いつも却下されるよ」
 どうもパパはスカイテルメにはあまり興味がないらしい。
 「猿ヶ京は?」
 「寄るのは秘湯系じゃなくて、子供たちの髪の毛とか洗えて休憩室でのんびりできるような温泉だぞ」
 「猿ヶ京は旅館のお風呂じゃなくて、まんてん星の湯を考えているんだけど。奥平温泉まで行くなら猿ヶ京は近いんじゃない?」
 まんてん星の湯も行きそびれてまだ行ったことがない。
 「それでも奥平より戻ることになるだろう? もっと渋川伊香保ICから近いところがいい」
 「じゃ、やっぱりスカイテルメ。休憩室もあるし、何よりプールがあるよ。今日は子供の遊ぶところにまったく寄ってないから、カナもレナも喜ぶんじゃない?」
 「・・・昨日もさんざんプールで遊んだから、二日続けては疲れすぎると思う」
 「渋川伊香保ICの目と鼻の先だし、ここのプール、追加料金無しで利用できるんだけどな。あっ、それにさっきの山本館で手に入れた無料冊子「ぐんま観光イベント特集保存版 04.9.1〜05.8.31」の一人100円引きクーポン券も使えるよ。今回は私がプールに行って子供たちの面倒をみるから、パパはその間ずっと休憩室でごろごろしていていいよ」
 「よし、スカイテルメにしよう」
 ・・・なんだい、疲れて二日続けてプールに入れないのは子供たちじゃなくてパパかい(笑)。

 

 スカイテルメもいつでも行かれると思っていてまだ行ったことがなかった。
 この近くには公営民営あわせて相当数のセンター系温泉施設がひしめいている。ちょっと思いつくまま挙げてみるだけで、リバートピア吉岡ばんどうの湯群馬温泉やすらぎの湯・・・。どこも個性的なアブラ臭温泉ぞろいだ。
 個人的には臭いはリバートピアが一番、景観はばんどうの湯が一番、お湯使いはやすらぎの湯が一番かなと思っている。
 スカイテルメは宇宙船のような特異な外観で有名だ。渋川町の町営温泉で、地上15メートルの展望が売り。
 国道17号線を走りながら、曲がるのはこの辺かなと右手を見れば、おお、あったあった。目を引く建物だからすぐ判る。灰色の空にそびえるように建っている。

 駐車場はぎっしりで、平日なのにこんなに混んでいるのかと吃驚したが、入り口を入ると傘立ての傘はそんなに無い。館内もまあまあ普通の混み具合。あの駐車場の車の数はどうにも計算が合わない。
 待ち合わせのために休憩室の場所を確認して、早速子供たちを連れてバーデプールに行くことにした。ここは温泉は展望の良い上の階に、プールは地上階にある。
 さて、利根川沿いの市町村、渋川市、吉岡町、赤城村はそれぞれ公営の温泉施設を持っていて、三つ子のような名前を付けている。渋川市がスカイテルメ渋川、吉岡町がリバートピア吉岡、赤城村がユートピア赤城。全部室内プール付きの子連れ向き温泉だが、その中でもユートピア赤城が子供の遊ぶプール設備としては一番いいんじゃないかと思われる。幼児用プールも広いし採光が良くて明るい。本格的スライダーも付いて中学生ぐらいでも楽しめる。
 それと比較するとスカイテルメのプールにはバーデプールと「バーデ」の字がついている。これがくせものだ。子供が喜ぶようなプールだろうか。

 水泳帽着用が義務づけられているが、帽子を持っていない人には無料で貸してくれるようだ。
 ロッカー室を出てプールの様子をのぞきに行けば、係員がとんできてシャワーを浴びないとここから先は入れませんと言う。なかなか厳しい。
 手前に広いプールがあり、年輩者ばかりぐるぐると歩いている。
 奥が幼児用プールになっていて滑り台もあるが小さい。
 張り紙がべたべたあって、ちょっとうるさい印象。
 なんとなく子供たちが大きな声ではしゃいだりするのが憚られるようなプールだった。

 まあそれでも遊んだこと遊んだこと。1時間半以上いた。
 カナは小学校のプールで夏が終わる前に5級をもらった。自由なスタイルで25メートル泳げるというものだ。なんでも今年の一年生は強者揃いでほとんどの子供たちがひと夏の間に15メートル以上泳げるようになってしまったという。
 レナは幼稚園のスイミングで夏休み明けにクラス分けをしたところ、三つのクラスのうち一番レベルが高いところに入ったようだ。
 運動音痴の母に似ず、二人とも泳ぐのが上手だ。

 いいかげん子供たちに付き合っていると寒くなってきたので、まだ遊びたいというカナとレナの意見は却下し、あがることにした。
 休憩室に行くとパパがネギトロをつまんでいた。
 「お風呂も入ってきたの?」と聞かれて、プールだけだよと答える。だから寒くてしょうがない。体を少しでも温めようとモツ煮を注文した。子供たちにはポテトフライ、ケチャップ増量でお願い。スカイテルメは休憩室でも食事が注文できる。

 食べても寒気は止まらなかったので、すぐにお風呂に入ることにした。
 パパはここのお風呂は塩泉らしくよく温まるよと言ったので期待している。
 またまた初日の小野上村温泉センターの時と同じでカナはパパと行ってしまった。パパももう一度入ると言ったので。
 まあ、パパと一緒に入れるのはあとわずかだ。仲良くしてもらいましょう。
 残されたレナの手を引いて女湯に向かった。
 意外にここは脱衣所にベビーベッドの備え付けが無かった。今日の昼間に入った山本館には不釣り合いな最新おむつ替えシートが付いていたのにもびっくりしたが。
 思ったより脱衣所も浴室も広くない。リバートピアぐらい広いところを想像していたからこれもまた意外だった。

 ここの温泉は臭いに特徴がある。
 建物に入ったとたん石油っぽい臭いを感じたが、お風呂に入るともうぷんぷん。石油というよりもっと刺激のある・・・そう、シンナーの臭い。
 シンナー臭い温泉というのも凄いな。入浴してらりっちゃう人とかいないだろうか。
 アブラ臭のする温泉はぬれたまま腕をこするとぬるぬる感があることが多いが、ここはあまりそういうことはない。油分というのは臭いの強さだけでは計れないものなのか。
 黄色みのあるお湯で、塩分の濃さを感じる。
 レジオネラ菌対策で、ジャグジーなどは全て停止させていると張り紙があった。なるほど内湯はいくつかの浴槽に分かれているが、全部ただのお風呂。最初はきっと違ったのだろう。そして浴槽には循環設備が備わっているが今はストップさせて掛け流しにしている、そんな感じだった。
 佇まいはどうにも癒されない雰囲気なのだが、お湯は確かに良い。
 露天風呂は雨が降っていたのでみんな屋根の下にいた。
 せっかく地上15メートルを売りにしているのに、どういうわけか浴室からの展望はまるでなかった。露天風呂も内湯の窓も全部ガラスの下半分に目隠ししてあって、何も見えないのだ。リバートピアやユートピアでもそれは感じたが、なんてもったいない。何のために高い場所に浴室を備え付けているんだろう。何か手を打って外が見えるようにしてほしい。せっかく夜景を楽しみにしていたのにこれじゃあんまりだ。



 お風呂から上がった後、パパがカナに「ラーメン食べる?」と聞いた。
 カナもレナも最初はおなかが空いていないと言ったけど、ここで食べないともう夕食を食べる機会は無いよと言われてその気になった。
 塩ラーメンを注文すると、白髪ネギのどっさり乗った美味しそうなラーメンが運ばれてきた。
 隣のテーブルにいたおばさま方がそれを見てそそられたらしい。
 「あの、それは何ラーメンですか?」と、おそるおそる聞きに来る。
 「塩ラーメンですよ」
 「美味しそうだから注文してみようと思って」
 そうそう、他の人が食べていると不思議とすごく美味しそうに見えるんですよね。
 「そちらのマイタケの天ぷらもすごく美味しそうですよ」
 まあ、とおばさまたちは笑った。
 ラーメンは本当に美味しかったので、お腹一杯とか言っていた子供たちがあっという間に完食。

 夜の関越道に乗って、東京まではあとわずか。
 雨の草津。
 再訪を願って・・・。


おしまい
 

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