子連れ旅行温泉日記

紅葉の温泉を探せ 4-4


4.トトロの木を訪ねる


 さて、湯の町鳴子を後にして、まだすきっ腹を抱えたまま車は陸羽東線に沿った国道47号線を走る。窓の外に流れる川は、五月雨をあつめて早し最上川か…。
 「たいして流れが速くないな」とパパ。
 「五月雨の季節じゃないもーん」と私。
 いつの間にか空が明るくなってきた。おお、青空だ。青空が目に沁みる。

 新庄まで来ると久しぶりに街中へ来たなという感じがした。正面に少し雪を残した月山が見える。
 ここまでほとんど飲食店もなかったのだ。
 とんかつ屋を見つけて入る。朝食にとんかつ? というか、もう11時半だ。特に朝が早かったパパは空腹で死にかけている。
 …やっとまともなものが食べられた。やっぱり空腹の湯巡りは辛いよ。

 ところで今夜の宿は山形の羽黒なのだが、吹上のキャンプ場で3泊、その後どこか宿で2泊という予定を立てたとき、私は最初鳴子で宿を探そうと思っていた。鳴子は奥が深すぎて、とてもキャンプ場泊でのんびり入れるとは思えなかったので、後半は宿に泊まりじっくり回ろうかなと考えたのだ。
 しかしパパはあのエリアで3泊すれば十分だろうと考えていた。それに栗駒山麓では子供が喜びそうな場所が少ないと言うのだ。それを言われると辛い。そうそうカナとレナを温泉にばかり入れるわけにはいかない。確かに山形に出れば果物狩りができる。日本海が近いから食べ物も海産物がいろいろあるだろう。まあ…山形でもいいか…と実はそれほど乗り気ではなかった私が最後にその気になったのは、やっぱり温泉が理由だったりする。地図を見ていて気がついたのだ。鬼首から羽黒に行く道すがら、ちょうど前々から気になっていつか行ってみたいと思っていた温泉があるじゃない。

 でも、今日鳴子で既に2湯入ってしまったから、もう持ち札は無い。一応我が家の約束事として立ち寄り入浴は一日2つまでなのだ。基本的にはひとつが望ましい。まあ確かに自分も入って幸せなのはそのくらいだと思う。温泉宿から別の温泉宿に行く途中で二回立ち寄り湯して、宿の朝風呂と夜のお風呂を入れて全部で4つというのが最多記録であるくらいだ。
 だからもう寄れないだろうとあきらめていた。

 「どこにあるの、それ」とパパは言う。
 「だいたい道すがらかな」
 「そう」
 「ちょっと外れるけど」
 「ちょっと…?(怪しんでいる)」
 「ま、地図を見てよ」
 「…確かにそんなに外れてないな。で、ぬるいお湯で露天風呂があるの?」
 「…いや、そんな感じとは全然ちがうと思う」
 「なぁにぃ(その気がなくなりそう)」
 うん、ここはたぶんパパやカナやレナの好みじゃないと思ってる…。
 でもパパは一応ナビに入力してくれた。ほとんどルートを外れていなかったので、寄るだけでも寄ってくれるらしい。

 手前にちょっとした子供向けの見所があったのも幸いした。
 「カナ、レナ、トトロの木を見ていく?」
 近くの鮎川村小杉に「となりのトトロ」に似ているという杉の木があるのだ。今や村一番の観光名所になっているらしい。
 道沿いに手書きのトトロの絵が描かれた表示が出ていた。細い農道に入る。ゆるやかにカーブを描いて田舎道は続く。
 うん、まあ、トトロの木と言っても、オーストラリアのラピュタの木ほどの期待をしては駄目よ。

 仮設トイレをひとつ備えた綺麗な駐車場が整備されていた。車が一台停まっている。先客がいるらしい。
 駐車場で車を降りるといつの間にか強い日差し。空は白い雲が浮かぶ青空で、杉林の低い山に囲まれた水田には金色の稲が重そうに実を垂れ、パパが「里山の風景だな」と言った。子供たちは競って坂道を転げるように駆け下りていき、時々振り返っては蝶やとんぼを見つけたことを 教えてくれた。
 坂の下に立派な大杉が立っていた。杉の下には祠があり、信仰の対象であることがわかる。木の周りにぐるりと木道がめぐらされていて、来た道と反対側から見上げると、まあ、トトロに見えないことは無い。この木がトトロというより、ここの風景がトトロの出てきそうなそんな日本の原風景かもしれない。

となりのトトロの木を目指して駆けていくカナとレナ黄金色の稲
となりのトトロの木
転げるように坂を駆け下りていく子供たち

重そうに頭を垂れる黄金の実り

となりのトトロに見えないこともないけど、老いた巨杉は、時代の移り変わりを根を生やして見届けてきたのだろうか

小杉村の大杉
ここには日本の原風景がある



4-5.鄙び系美人湯 羽根沢温泉へ続く


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