◇◆秋の北志賀小旅行◆◇
昼食を取る場所はもう決めていた。
先ほど行ったばかりの馬曲温泉の手前に美味しそうな蕎麦屋があったから。
そもそもパパは信州に来たら蕎麦だろうと思っていたようだ。
馬曲温泉に行く途中でこの店を目にし、もうその時点からここと決めていた。
店の名は、健生庵 山愚。東京の銘酒居酒屋を経営する主がこだわりの蕎麦を打つという店らしい。
外観は至ってシンプル。
白い暖簾には小さく店名があるのみ。
中はお客さんがちらほら。
窓が大きく明るい日差しが差し込んでいる。
この店の障子やメニューの表紙など、さっき体験してきたばかりの内山和紙製とおぼしい。
ちなみに内山和紙というのは、元々障子紙として名を馳せた工芸品だ。
注文したのは十割そば2枚と、更科そば1枚。
突き出しに煮昆布と蕎麦の実を味噌であえたものが出されたが、この味噌和え、甘くないチョコレートみたいな味がした。
しばらくして運ばれてきた十割蕎麦はうっすらと緑茶のような色合いで、食べてみるとふわりと蕎麦の香りが広がる。細い麺はほどよい硬さ。
更科蕎麦は透明感のある白。
こちらは十割蕎麦より品良くクールな味がする。
パパは十割蕎麦が気に入ったみたいだが、私は更科蕎麦の方が好きかも。
カナはあまり食が進まなかったようだが、レナはほぼ一人前平らげた。
さっきの和紙工房のすき舟さながら、とろりと白濁した蕎麦湯が運ばれてくると、旨い蕎麦屋は言わなくても蕎麦湯が出てくるが持論のパパは思わずにんまり。
「確かに旨かった」とパパ。
ちょっと修善寺で食べた蕎麦と味が似ていた。
あそこの蕎麦は美味しいけど随分と待たされたので、パパはおかんむりだったのだ。